私たちの身の回りにはたくさんの木製品があります。
日常で使う小物から家具、そして家の材料にいたるまで多くの木が使われていることはみなさんご存知ですよね。
それでは、そんな木がどうやって生産されているかは知っているでしょうか?
私たちがうかがったのは深川市の中心部から車で15分ほど山に向かった先にある土場(どば)と呼ばれる林業の現場です。
切り開かれた森の麓に広がる現場には切り倒された木がたくさん並び、そしてチェーンソーの音が響き渡っています。
今回取材をさせていただいたのはまさにその現場で作業真っただ中の有限会社スリ―スターズ興業。
苗木を植えて森林を育て、木を丸太にして出荷することを主とした林業の会社です。
そこには森と人を大切にする気持ちを持った、あたたかい人たちがいました。
高校を卒業してすぐ林業の世界へ!19歳のフレッシュマン
まず私たちがお話をうかがったのは最若手の社員さん、塚田翔太さんです。
塚田さんは高校を卒業後この有限会社スリ―スターズ興業に就職をした19歳です。
取材にお伺いしたとき塚田さんは倒した木の間で作業の真最中でした。
大きな音を立てるチェーンソーを左右に動かし、丁寧に木から枝を落とす作業をしています。
すっかり不安もなく作業をしているように見える塚田さん。
でも高校生の頃には自分が林業に就職するなんて思ってもいなかったのだとか。
「僕が卒業した高校は、特に林業に関する高校ではなく普通高校だったので、就職活動をするまで林業については本当に全然知らなかったんです」
そう、つい最近まで塚田さんは普通の男子高校生。そんな塚田さんがどうして林業の道に入ったのでしょうか。
「この会社で働きたいと思ったきっかけは、会社の見学会でした。僕はもともと高校を卒業したらすぐ働いて、親に迷惑をかけないように自立したいと思っていたんです。それで就職活動をしている時にインターネットで検索しこの会社に出会って、採用してもらいました」
そうは言っても林業の仕事は一般的には知られていない業界。ご家族は心配とかされませんでしたか?という質問に塚田さんはこう答えてくれました。
「実際は心配をしているのかもしれませんが、林業に就くと伝えるとありがたいことに家族は『すごいね~!頑張ってね!』と背中を押してくれました。まだ実家からの自立はできていませんが、家族に支えてもらって今は仕事をしています」
林業の教わり方と作業は難しい?
有限会社スリ―スターズ興業に就職をした塚田さんですが、初めての作業に戸惑いはなかったのでしょうか。
「もちろん最初は全く何をするのかも分かりませんでした。でも最初にちゃんとした研修があったんです。まずは現場となる山を歩いてみて、次はチェーンソーを使ってみて...というように少しずつ仕事内容を教えてもらいました」
もちろん今も少しずつ仕事を教えてもらいながら働いている塚田さんですが、その他にも林業で働く人を対象とした研修会などもあり、「緑の雇用」という国の事業では林業に携わる人に向けたキャリアサポートも行っています。
座学と実習を繰り返すことによってフォレストワーカー、フォレストリーダー、フォレストマネージャーとランクアップしていくことができるのです。
そんな研修を経て出た現場は実際どうだったのでしょうか?
「大変な作業と言えば、木を植える作業をする日がとっても暑くてそれは大変でしたね。どちらかと言うと雨とか曇りとか涼しい日の方が仕事がしやすいです。
仕事は現場ごとに3~4人のチームになって作業をするので、作業内容によっては全然顔を合わせない先輩もいるのですが、みんな本当に優しく丁寧に教えてくれます。『ゆっくりでも安全に作業するのが一番だ』と教えてもらっているので、自分さえしっかりとした仕事をしていれば危ないとか怖いということはないと思います」
雨の日でもお仕事されるとは!
大変なイメージがありますが、それに関しては塚田さんは全然気になっていないようです。
「僕は高校の頃バドミントンをやっていて、じっと座っていることよりも体を動かすことが好きなんです。こうやって自然の中で体を動かす仕事ができるのは自分に向いていると思いますし、すごく気持ちがいいですね。
うちの会社は日曜日が休みなのですが、休みの日には道具を買いに行ったりもしますが時々バドミントンもしていますよ。平日も週に2回は行ってます」
体を動かす仕事をしながら、平日にも趣味のバドミントンを続けられるなんてさすがは運動部出身です。また計画的に業務をこなす林業の世界では残業がすることが少ないことも、プライベートを充実させることができる秘訣なのでしょう。
最後に塚田さんは今後の目標を教えてくれました。
「まずは一人前になって、先輩についてもらわなくても一人で作業ができるようになることが目標ですね。会社から必要とされる人材になれるように技術を磨いていきたいと思っています」
今年から働き始めた林業女子
そんなフレッシュな塚田さんの横には笑顔がまぶしい女性が。
これは今や少しずつ増えてきているという林業女子?!
「塚田くんよりも2カ月だけ早く働き始めました」と話してくれるのは2019年2月から勤務を開始した長井夕貴(ゆうき)さん。
札幌市出身で酪農学園大学を卒業。大学を卒業後はアルバイトやボランティア活動などを行っていたと話します。
そんななか、音楽イベントでのボランティアをしていた時に「市民向けの植樹祭」などのイベントを行っている企業から植樹の企画や運営をやってみないかと仕事を紹介され、1年半に渡って植樹祭などに関わるお仕事に携わりました。
もともと自然が好きだったと話す長井さん。
植樹祭に関わりながら、もっと木に関わる仕事をしたい、と考え始めます。
そこで、2018年の9〜10月に開催された林業就業支援講習に参加します。
知識をつけたうえで、そのすぐあと10月に北海道が開催した「北海道林業お試しツアー」にも参加!
11月には有限会社スリースターズ興業の職場見学へ。
見学を経て林業で働きたい意欲を高め、そして勤務をスタートさせたのです。
取材時には働き始めて4カ月だった長井さん。
今のお仕事状況を聞くと「5キロ痩せたんです(笑)」と笑いながら話します。
「夏場はやっぱり想像していた通り大変さはありますが、森の中で働ける、という充実感がありますね。かなり痩せたのですが、腕の筋肉が付いて引き締まってきました」と笑顔をにじませます。
林業業界で働くときには林業ならではの服装や機材が必要になります。
防護ズボンやヘルメット、チェーンソーなどなど、働くために必要な道具は会社で用意してくれたのだとか。
「チェーンソーが新車だったんですよ!うぉ〜〜〜新車だ〜〜と嬉しい反面、大事にきちんと使ってしっかり働かなきゃと身が引き締まりましたね」と長井さん。
新品のチェーンソーを新車と表現することに驚きとかっこよさを感じた一時でした。
森を育て、人を育てる仕事
それでは、塚田さんや長井さんが働くスリ―スターズ興業とはどんな会社なのでしょうか。
社長の簑島金次(みのしまきんじ)さんにお話を伺いました。
スリ―スターズ興業は平成13年に設立された、比較的新しい会社です。林業の会社ですから、元々林業に携わっていたのかと思っていたら、簑島さんはなんと以前は木材工場でサラリーマンをされていたのだそうです。
「工場で働きながら、冬は林業の手伝いなんかもしてたんだよね。だけどその会社が廃業しちゃって、どうしようかな~と思ってた時に付き合いのあった森林組合に『林業やらないか!』って声をかけてもらってね。それがきっかけでこの会社を立ち上げたんだ」
林業の仕事は、森を作りそこからまた木をいただくという仕事です。森林組合から現場を紹介され、会社が木を切って製品にし、その現場にまた木を植え森を守っていくまでが林業の仕事です。簑島さんはその仕事について、こう言っていました。
「最近は林業もハイテク化が進んでいますが、機械でやるとどうしても木材が無駄になり、利用出来ない部分も出てきてしまう。やっぱり仕事の丁寧さだと人の手には敵わないんです」
林業の業者には木を切って製品にして出荷するだけの業者も中にはあるそうですが、手作業をすることでスリ―スターズ興業ではその先の森のことも考えて作業をしているそうです。手で作業をし、細い材木まで利用することで廃棄されてしまう部分を減らし、森に残していく『ゴミ』を少なくするそうです。そうすることで山の環境が良くなり、未来の森林資源に繋がっていくのだそうです。
林業の仕事は、森ができるまでにも大変な時間がかかりますが、同時に人が育つまでにも長い時間がかかる仕事なのだそうです。未経験から始めた社員さんが仕事を一通りできるようになるまでだいたい5年はかかるのだとか。簑島さんはこう言います。
「やっぱりこの仕事は1年で1サイクルだからね。次の年にその仕事が2回目になるから、そう簡単に一人前っていうわけにはいかない。今うちの会社は社員が7人で1つの現場しか持てていないけど、そのうち2つに増やしたいと思ってるんだ。若い人も入れていきたいと思っているから、まずは上になる社員が後輩の指導をできるくらい育つことが一番かな。やっぱり今いる仲間を大切にしないとね」
この広い空知を舞台にした林業の現場には、森を大切にし人を大切にする、そんなあたたかさが溢れていました。
- 有限会社 スリースターズ興業
- 住所
北海道雨竜郡雨竜町字尾白利加92-16
- 電話
0125-77-2052