北海道のグルメと言えば......ジンギスカン!ですよね!北海道内にはいくつかの有名な「羊のまち」があります。そのうちのひとつが士別市。上川地方にあり道北やオホーツクへのアクセスも抜群で、のどかな牧場や畑の風景が広がるまちです。人口は2019年7月時点で約18,000人。上川エリアでは比較的大きなまちではあるものの、昭和30年~40年にかけては約4万人ほどが住むまちだったことを考えると、他のまちと同様に、人口減少に悩むまちのひとつとも言えます。
レストランのある丘から市街を見下ろした風景
そんな士別市に平成16年から牧場をはじめ今は農業・牧場はもちろん加工や飲食といった六次化までを手掛ける知る人ぞ知る「羊牧場」があります。それが「かわにしの丘 しずお農場株式会社」。そしてその発端はなんと建設業だったのです!
一体どうして建設業をしていた会社が羊の牧場を始め、そして加工から飲食までを手掛けるようになっていったのでしょうか。
まるで美瑛のように美しい景色が広がる「かわにしの丘」、その中にある200ヘクタールもの広さを持つしずお農場にお邪魔しました。
季節労働で働いてくれている方に通年で働ける安心を
畑に牧場に各種施設と広大な敷地に広がる「しずお農場」
しずお農場のそもそものルーツは、建設業を営み公共事業などを請け負っていた「しずお建設運輸株式会社」でした。当時、その建設会社の社長であった佐藤静男さんが、従業員の安定した雇用を維持するために農業の分野に進出して平成16年に設立したのが始まりだったのです。
ご存じのように、建設業という仕事は常に安定した仕事があるわけではありません。どうしても当時のしずお建設が行っていた仕事は冬~春の間は仕事が減ってしまうため、働く方は「季節労働」という形になってしまっていました。
「従業員の方々に通年で働ける安定した生活を送ってもらいたい」そんな想いから始まったのが農業だったのです。
また、会社で働いていた方々のなかには、農業を主な生業とされている方が、兼業農家として建設業に携わっていた方も多くいらっしゃったという状況で、そのみなさんのお力も借りて農業分野へ参入がしやすかったという理由もあり、まずは収穫や畑おこしの手伝いをする仕事を会社として行うことから、しずお農場として農業分野に取り組み出す歴史が始まったそうです。
会社員から農場の社長へ
山下 卓巳社長(右) 実習生のスタッフさんと
さて、それではここからはしずお農場の社長、山下 卓巳さんにお話をうかがいましょう。
山下さんは士別市出身。ご自身の実家は農家を営んでいらっしゃったそうですが、農家とは関係のない一般企業に就職をし、北海道物産展といった食品販売の経験を長らくされていたそうです。
「長い間会社員をしていたのですが、私も実家のことがずっと気になっていました。それでUターンを決めて士別に帰ってきたのですが、なんとその時に親には『まだ継がなくていい』って言われてしまったんです。それならしばらくは色々な経験をしてみたいと思い、飲食店で働いてみたり季節労働者の支援員をしたりしました。そんな時にしずお農場の会長の義理の息子さんと出会いました。その方は、しずお農場の社長をつとめていたのですが、『うちの会社で働きなよ!』とお誘いをいただいたことをキッカケに入社することになりました」
こうしてしずお農場で働くことになった山下さんですが、当然山下さんにとってははじめての農業です。最初は会社員の時とのギャップにとまどいつつも、だんだんと農業の魅力にのめり込んでいきました。
夢中で取り組むうち、やがて山下さんは請われてしずお農場の社長となったのでした。
しずお農場のサフォーク羊
当初畑おこしなどの仕事をしていたしずお農場ですが、ある時から羊の生産を始めます。そのきっかけは「羊のまちから羊が減っている」ということを知ったから。
かつては多くの羊牧場があった士別市ですが、輸入の羊におされてだんだんと牧場数が減っていったのだそうです。そこで市がしずお農場に声をかけ、11頭の羊から牧場はスタートしました。
しずお農場で育てている羊は黒い顔が特徴のサフォーク種が100%です。その餌はトウモロコシや麦、大豆などを主原料とした配合飼料なのですが、しずお農場ではその他にビートの搾りかすを使っています。
というのも国内で生産されたうちの100%が北海道産というビートですが、士別ではその生産も盛んなため羊の飼としても活用されているのだそうです。
そんな環境で育った羊はとっても柔らかく独特の臭みの少ない高級ラム肉として全国へ出荷されているのですが、しずお農場の特徴は自社で加工場を持ち食肉にして出荷することができるというところです。
さらにしずお農場はそれだけにとどまりません。自社で提供するところまでできるようにしたのです。
一次産業から六次産業まで
レストランにて取材中に社長に出していただいた自家栽培のトマトジュース
「一次産業だけの農業には限界があると私たちは考えました。そこで二次産業で食肉に加工し、三次産業としてのサービスも含めた販売も始めたのです」
山下さんがそう言った「三次産業」とはつまりレストランのこと。11年前にスタートした「ファームレストラン ミュー」(※現サフォークダイニングSHIZUO)はしずお農場で作った羊を様々な料理で楽しむことができるレストランです。
しずお農場ではビート、トマト、飼料用トウモロコシ・スイートコーンの栽培もしているのですが、レストランからはそんな広大な美しい農場の景色を一望できます。
さらに自社内に砂風呂のように米ぬかに入ることで体内に米ぬかの酵素を吸収し細胞を活性化させるという「米ぬか酵素風呂α」という施設をオープンさせたり、宿泊施設の「ファームイン λ(ラムダ)」を展開するなど、しずお農場は単なる羊牧場にとどまりませんでした。
「現在私たちの出荷するサフォーク羊は、大変ありがたいことにたくさんのニーズがありまして、生産が追い付いていない状況です。ですので、ご期待に添えられるように、どんどん羊も増やしていきたいと思っています。そのためには、人材採用の課題も乗り越えていかねばならないのですが、農場や牧場でも積極的に外国からの技能実習生を受け入れていれる方針でカバーすることで、加工場をはじめ、レストランももっと営業日を増やしていきたいと考えています。一次産業から三次産業までを担っている私たちですが、この先はさらに六次産業の活性化を目指していきたいと思っています」
しずお農場では、早くからベトナムを中心とした実習生の受入を積極的に行っていました。農場を撮影でまわると、本当に楽しそうに笑顔で働く外国の若者がたくさんいらっしゃったのも印象深かったです。かつては、安い賃金で短期間だけ働いてもらい、日本人がやってくれないことをしてもらえるような雰囲気がありましたが、そのころから、人として育てたい、分け隔てなく対価を支給したいという想いがあったので、働く外国のみなさんからも評判が高かったようです。先日の報道でもあったとおり、元実習生のベトナム国籍の女性が道内初の「特定技能1号」を取得と至ったのも、これまでの経緯があったからではないでしょうか。
たくさんの方々が働いていますが、みなさん笑顔で楽しそうでした
また、移住支援施策のひとつである「地域おこし協力隊」の研修先としても積極的に受け入れているのも特徴です。以前ご紹介したロビンソンこと加藤くんもここで修行をしたそうです(加藤くんの記事はコチラ)
国籍を超えて、従業員のことを想ってスタートした「しずお農場」。士別の企業と言えば「しずお」と言われるくらい、地元ではメジャーになったのは、そういう地域と人ともに歩んできたからなのかもしれません。かつて多くの羊牧場が消えていった時代に、地域のためだからとチャレンジした想いは、きっとこれからも羊牧場の枠を越えて未来に向かう、地域にフィットした産業を展開していくに違いないと思います。
- しずおグループ かわにしの丘しずお農場株式会社
- 住所
北海道士別市武徳町46線東3号
- 電話
0165-22-2151
- URL