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旭川市

ケアの心で走る、うちのドライバーは世界一! 旭タクシー(株)20190425

この記事は2019年4月25日に公開した情報です。

ケアの心で走る、うちのドライバーは世界一! 旭タクシー(株)

旭川市にある「旭タクシー(株)」さん。実は北海道で初めて介護タクシーを導入し、ヘルパードライバー(ケアドライバー)を誕生させた会社です。社長の西野さんは、従来のタクシー会社というイメージにとらわれず、次々と新しいことにチャレンジし続けています。
最近では、インバウンド向けの旭川観光をもっともっと盛り上げるべく、仲間といろいろ活動したり、タクシードライバーという枠にとらわれない働き方を模索したりと、何やら面白いことを考えている様子。

地域を盛り上げて、人が集まる環境をつくり、観光や旅行で訪れた人の中から、ここに住んで働きたいと思ってくれる人も出てきたらいいね、と語る西野さん。さっそく詳しくお話をうかがいました。

世界を視察して見えた介護タクシーの可能性

西野社長、実はドライバーとして働いた経験は無いそう。お父様の立ち上げたこの会社を継ぐまでは札幌で歯科技工士として働いていたというから驚きです。
それでも小さい頃から無線による配車の声を子守歌に育ってきた西野さんにとっては、全く知らない業界というわけでもないので特に抵抗感は無かったそうです。

でも、就任してすぐに、人口減少や高齢化にともなう、業界の疲弊感に直面します。
「何か新しいものができないもんか、と悶々としてたね」と当時を振り返ります。

そんなとき、何とかしなければという同じような思いを抱えたメンバーが集まって、西野さんも参加したJC(青年会議所)内に旅客サービス部会が立ち上がったのです。
部会でまず企画したのが、福祉先進国の交通事情を視察するための、ロンドンとストックホルムへの旅でした。
西野さんは、そこで働くドライバーの質が高いことに衝撃を受けます。
聞けば、ロンドンなどではタクシードライバーのライセンスを取るためにはとても厳しい基準があるそうです。
「日本で言えば、ライフル銃を持つ資格のようなものだね。交通違反歴や、家族のことなどライセンスを取るためにまず厳しい審査がある。逆に言うとタクシードライバーのライセンスを持ってるということは信頼できる、というお墨付きががあるようなものだね」と教えてくれました。

asahitakusi-8.JPG常に笑顔で話してくれた西野さん

日本よりもドライバーの質も地位も高いと感じた西野さん、帰国してすぐに、日本ではどのように取り入れられるかを考えます。
ちょうどその頃は国としても高齢者対策を目的としたゴールドプランが策定された時期でもあり、全国的にも様々な福祉に対する取り組みが聞こえて来てもいました。
その中でも北九州のJC仲間であるタクシー会社さんから
「ヘルパー資格を取って、ケアドライバーとして乗務する、というやり方がある」ということを教えてもらいます。

これだ!と思った西野さん、九州や四国の介護タクシーを取り入れている会社をあちこち視察してまわり、介護タクシーに取り組む姿勢や、具体的な方法、注意点など見聞を重ねました。

意気揚々と北海道に戻り、いざ介護タクシーを始めようとしますが、何と事業自体の許可がなかなか下りなかったそうです。
今でこそ異業種の会社が福祉事業を手がけるのは珍しくありませんが、当時はまだまだ違和感や不安感を持たれたのです。
そんな状況をどう打開したのか聞いてみると

「正面突破だね」と笑います。

実際に介護タクシーを実施している地域を訪れて、そのニーズや可能性を目の当たりにしていた西野さんには、絶対に必要だという確信がありました。
なので、九州や四国や東北ではすでに実施しているのに、なぜ北海道は出来ないのかを正攻法で訴え続けたそうです。
結果、許可を勝ち取り、ここにめでたく北海道初の介護タクシーが誕生することになったのです。

asahitakusi-7.JPG学生時代は柔道部だったそう

スキホの会で観光を盛り上げる

さて、介護タクシーなど福祉事業と同時に、西野さんがチカラを入れているのが地域の観光振興です。特にインバウンド向けのサービス充実には早くから取り組みを始めていました。
その一つが「スキーホリデーで冬期滞在型観光を振興する会」、略してスキホの会、です。文字通り冬場の滞在型観光を盛り上げるべく、中小企業同友会のメンバーを中心に結成されました。

2017年、旭川市は冬期のDMO(観光地域作りを主導する団体・法人)登録を認定され、カムイスキーリンクスがその事務所になったのですが、スキホの会は、それより以前から独自の動きをしていました。
まず着手したのが、インバウンド向けのアンケート調査です。人脈を活かして、中国人やフランス人など北大(北海道大学)の留学生に手伝ってもらった結果、多言語でのアンケートが可能になり、かなり濃い内容が集められたそうです。
どこから来たのか、どうして旭川に来たのか、どこに泊まるのか、予算はいくらか、美味しかったものは、誰と来たのか、一番欲しいサービスは、不便に感じていることは、などなど多岐にわたる質問項目から見えてきたのは、思ったよりも様々な地域の人が来ているということ、親子連れで来る人が多いこと、交通に不便さを感じていること、などでした。

これらの貴重な生の声や、DMOとの連携活動などを通して西野さんはますます観光タクシーのニーズを実感することになります。

「観光客が一番不便なのは飛行機を降りた後の二次交通なんです。
北海道は移動距離が長いし、旭川は北海道の真ん中でもあるし、二次交通がもっと便利になればもっと人が来ると思いますよ」

でも西野さんがイメージしているのは、ただの移動手段としての二次交通ではありません。

「結局は介護も観光も一緒なんです。旭川を訪れた人に対していかにエスコートできるか、なんです。
手をとって病院や施設の中までアテンドするのが介護タクシー、手をとるくらいのつもりで観光地をアテンドするのが観光タクシー、ですから」

asahitakusi-3.JPG事務所に掲げられる社是。何よりも安全が大事!

なるほど。そんな気持ちで乗せてくれるタクシーなら、日本人にはもちろん、外国人にとっても安心のサービスなのは間違い有りません。

「ケアやってると、観光の仕事は難しくないです。ケアの心をもっていればたいがいのことはOKだから」

その言葉に、西野さんの目指すサービスの本質が見えるような気がしました。

うちのドライバーは世界一

お話を聞いていると、ケアと観光の融合というキーワードが見えてくるのですが、もしかして何かまたやりたいことがあるのですね?という質問には

「将来的には、アジア圏から日本に来るインバウンドの家族旅行をサポートしたい」との答えが返ってきました。
聞けば、家族旅行に行きたいけど、高齢の親はバスやタクシーの長時間移動が厳しい、とか温泉などの施設に入れるか不安、と言った声が多かったそうです。

「ケアの資格も観光の知識もある、うちのドライバーなら役に立てると思うんだよね。旭川に行けば、車いすでも乗れるタクシーと専門の知識をもったケアドライバーがアテンドしてくれるから安心、って思ってもらえたらいいね」

きっとそれは近い将来実現するでしょう。
すでに旭タクシーさんには、普段から様々な問い合わせが入っているそうです。
営業係長の元地さんと次長の金野さんが教えてくれました。

asahitakusi-2.JPG左端が次長の金野さん、右端が営業係長の元地さん

例えば、ある福祉施設に入所している女性の息子さんから、年に何回かだけでも親孝行したい。うちの母は絵が好きなので、札幌の道立美術館を見て、モエレ沼、定山渓温泉をまわる日帰り旅行に連れて行きたいがサポートしてもらえますか?というご相談が。もちろんお引き受けし、ケアドライバーさんが温泉の中までもアテンドし大変喜ばれたそうです。

またあるときには、お孫さんの結婚式に別々の施設にいるおじいちゃんとおばあちゃんを参加させてあげたい。というご相談が。
式場への移動のサポートと、式場での付き添い介助までをした結果、家族の方は安心して式に参加することができ、良い式になりました、とこれも大変喜ばれたそうです。

そんな口コミが広まったのか、驚くことに病院や市役所で介護保険以外のことは旭タクシーさんに聞いてみたらどうですか、と言われて来ました、という相談もあるそうです(笑)

ある意味地域のライフラインですね。との問いかけには

「そうだね、うちを便利に使ってもらえば、多少からだが動きづらくなってもQOL(生活の質)も保てるかもね。だって以前視察したロンドンやストックホルムのドライバーは丁寧だったけど、介護の資格まで持ってるわけではなかったし、今ならうちのドライバーが世界一だと思うよ」とにっこり。

西野さんが信頼をよせるそんなドライバーさんたち、どんな思いで働いているのか、実際にドライバーとして勤務する川本宏さんにもお話をうかがってみました。

仕事が固定化されてないから面白い

「2種免許も持ってたし、接客の経験もあったし、旭タクシーならそうゆうのが全部いかせるのでは」という思いから、この会社を選んだという川本さん。
普段心がけていることを聞いてみると・・

asahitakusi-6.JPG勤務して10年目という川本さん

「有名人の利用も多いのですが、有名人でも一般の方でも、それが誰であっても臨機応変にその人の様子を見て対応することを心がけています。疲れていそうならあまり話しかけず、一言二言話してまだ話したそうなら盛り上げるようにするし、最近ではスマホを見だしたらそっとしておいて欲しいのかなと認識します」

ヘルパー資格はまだ持っていないということですが、ケアの気持ちはきっと全員が持っているのでしょう。

この仕事をしていて嬉しかったことは?という質問には
「共感しあえたとき。」
という少し意外な答えが。聞けば、ある日、年金をもらう年齢になったけど、月に1日は働いてるという男性を乗せたそうです。その日がまさに月に1度の出勤日でした。
「年金をもらいながらでも健康でいて働けるのが嬉しい」と言うお客さんに、川本さんは
「僕もそうです。一生懸命とりくめる仕事があって幸せです。」 と答えたそうです。
「何でもないことだけど、そんな共感ができたときがとても嬉しい」と照れくさそうに語ってくれました。

逆に「困ったお客さんもいるのでは?」と少し意地悪な質問には

「たまに、目的の場所に着いても話が終わらなくてなかなか降りてくれない人もいる。次の場所に行きたいのに中々いけない (笑)」とのこと。

プロの仕事に徹しながらも、お客さんとのコミュニケーションを楽しんでいる様子が伝わってきました。

asahitakusi-5.JPG

ちなみに今後チャレンジしたいことは?という質問には
「チャレンジしたいというよりは、固定化されていない色んな流動的な仕事のある会社なので、一つづつそれを乗り越えていくのが自分自身のチャレンジになっています」とのこと。

ここで「観光試験ももう1回チャレンジしないとならないしな!」と元地さんと金野さんから声がかかります。
何と!先日受けた観光に関する資格試験の結果が不合格だったそう。

結果は少し残念でしたが、強制されてるわけではないのに、それぞれが観光の知識や資格を取得したり、スキルをあげる努力をするのが当たり前になっている環境のようです。
正直、負担に感じたりはしないのか、という直球の質問には

「他から来た人は驚くのですが、うちの配車率は冬場ならほぼ100%、夏場でも7〜8割です。介護や観光など社長の作りあげた武器があるから、うちは公園で時間をつぶしたり、どこかで客待ちをしたりがほとんどないんです。あとは自分個人で出来ることとして少しでもスキルを上げたいです」
「1日があっというまに終わる」 という言葉に充実感が現れていました。

ここで、試験に落ちたことをばらしてしまった金野さんが、川本さんの名誉挽回とばかりに
「でも、先月の売上は3位、今月の売上はトップなんですよ」とこっそり教えてくれました。

「川本さんは配車しやすいように走ってくれるんです。例えばもうすぐお客さん降りますよ、と配車担当に合図をしてくれれば、こちらは次の場所をすぐに指示できて効率が良いんです、その積み重ねですね。細かいことだけどやるかやらないか、で全然違います」と元地さん。

本人はあまり語りませんが、やはりいろいろな努力がそこにはあるようです。

DSCF1434.JPGお薦めの観光スポットとして川本さんが教えてくれた青池、研修の時に撮影したそう

仕事×趣味、そんな働き方があってもいい

ところで話は変わりますが、川本さんの趣味を聞いてみると「スノーボード」とのこと。
実は西野社長は、これまで多くの社員を採用してきた経験や、様々な地域や世代や職業の人と交流してきた経験から、新しい働き方の一つとして、仕事と趣味を組み合わせられないかと画策中なのです!

きっかけはスキホの会の視察でトマムに行ったときに道外から来た若者がたくさん働いているのを見たことでした。
道内はどこも人が足りないのに、なぜここにはこんなに若者が?なんでこんな寒いところに?
思わず一人一人に直接声をかけて聞いてまわったそうです。

すると、みんなが口をそろえて言ったのが、「北海道が好きだから、ウインタースポーツが好きだから」という言葉でした。
そこで出会った若者の多くは、リゾートで働きながら好きなスノーボードやスキーを楽しんでいたのです。
そのあとにニセコにも視察で行く機会があったのですが、そこでもまた外から来た若い人が好きなことをしながら街の仕事を支えていました。

そこで西野さんは考えます。お客さんとして旭川に来ている人も、もしかしたら仕事としてタクシーを選んでくれるかもしれない。そのためにはどうすれば良いか?
介護タクシーを始めたとき、それまではほとんど無かった女性や主婦の応募がかなり増えた、という経験から、ただ乗せるだけの従来のイメージ通りのドライバーでは無く、新しい付加価値をつけた働き方を示せれば、きっと人は来る。と。

「頭に浮かんだのは「北海道を一緒に遊びませんか!」みたいなキャッチコピーだったな〜」
「自分だったら、美味しいお店の紹介は得意だからサンロク(3.6街と呼ばれる旭川の歓楽街)のガイド兼ドライバーだな」
と西野さんは笑います。

「それこそ、ボードが得意ならスキー場まで乗せていって滑り方もレクチャーする、スノーボードレクチャー+ドライバー、とかもありだね」

DSCF1451.JPG元地さんおすすめ、サイクリングコースにぴったりの、美瑛や富良野の連なる丘

「自分だったらサイクリングですね」と元地さんも続けます。
実際、市内の自転車屋さんと連携して美瑛などへのサイクリングツアーも企画しているとのこと。
「自転車を積み込めるタクシーもあるし、お薦めのコースをガイドもできるし、自分向けの企画ですね」

ちなみに、西野さんの趣味を聞いてみると・・ズバリ、釣り!とのこと
「朱鞠内湖という場所には、釣り目当ての人が良く来るけど、非常に交通の便が悪いんだよね。みんなレンタカーを借りて来るけど、往復以外はほとんど使わないとしたら、もったいない。釣りポイントに詳しいドライバー付きのタクシーだったらすごく嬉しくない?」

「住んでる人間だからこそわかる、案内やレクチャーができるし、今出た以外にも、例えば登山が好きなら登山ガイド兼ドライバーとか、その人の好きなことを活かしてくれたらいいね」

皆さんの、次から次へと出てくるアイディアがとまりません!

今は、そういったニーズを掘り起こしている段階だということですが、観光客が増え続ける状況の中、きっとそういった旅の仕方や働き方を求めている人がたくさんいるはずです。
西野さんや社員の皆さんの挑戦はまだまだ続きそうです。
近い将来、また北海道初の「○○○○兼タクシードライバー」が誕生するのを楽しみにしています。

旭タクシー株式会社
旭タクシー株式会社
住所

旭川市永山北2条9丁目13-5

電話

0166-48-1151

URL

http://asahi-taxi.co.jp


ケアの心で走る、うちのドライバーは世界一! 旭タクシー(株)

この記事は2019年3月29日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。