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このまちのあの企業、あの製品
赤平市

NASAより宇宙に近い、植松電機が描く未来。20190405

この記事は2019年4月5日に公開した情報です。

NASAより宇宙に近い、植松電機が描く未来。

北海道赤平市にある植松電機という会社をご存知ですか?
「ロケット開発」という言葉でピンときた方は、なかなかスルドイ!
北海道の片田舎(スイマセン!)にある企業ながら、北海道大学と協同でロケット開発に取り組み、ドラマ化もされた人気小説「下町ロケット」のモデルとも言われている会社です。
代表の植松努さんは「NASAより宇宙に近い町工場」「好奇心を『天職』に変える空想教室」などのベストセラーを著し、メディアでも度々紹介される有名人ですが、ご本人のインタビューは記事の後半で。まずは植松電機で働くフレッシュな2人の技術者、宮越愛斗さん、星野倖輝さんのお話からご紹介します。

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YouTube動画に、本に。社長の言葉に感銘を受けて入社した2人。

一人目の宮越さんは北海道江別市の出身。旭川の教育大学を卒業後、関東の会社に就職。植松電機に入社する前はプラント建設などに携わっていたそう。
「当時は植松電機のことを全く知らず、ある時偶然、社長が出演したTED(プレゼンテーションイベント)の動画を見て、モノづくりと教育をテーマにした内容にとても興味を持ったんです。もともと自分は教員志望だったので、宇宙開発と教育活動の両方に取り組める環境だというところに強く惹かれました」

uematsuerec7.JPG江別〜旭川〜関東〜そして赤平へとJターンした宮越さん

一方の星野さんは愛知県刈谷市の出身。植松社長の著書に感銘を受け、大学卒業と共に植松電機に入社しました。
「『NASAより宇宙に近い町工場』を偶然読んで興味を持ち、実際に自分の目で現地で見てみたいと思って会社に電話をしてみたんです。すると運良く、会社見学をさせてもらえることになり、その時にインターンに参加してみては?と声をかけていただきました」

uematsuerec2.JPG北海道へIターンした星野さん

会社の業務と自分の好きなことを半分ずつ。それが植松電機スタイル。

植松電機では、一日の半分を本業(マグネット製造)に、もう半分は各自の研究活動に費やすというユニークな方針を掲げています。というわけで、まずは2人に本業への関わりについて、聞いてみました。
「僕は電磁石のコイルを巻く作業や磁石を包むケースの加工や溶接を担当しています。機械加工に携わるのは初めてだったので、入社当時は先輩に手取り足取り教えてもらいました。うちの先輩たちは優しい人ばかりですね(宮越さん)」
「自分も最初の1カ月はマグネット製造に携わり機械の操作方法などを教わりました。今は先輩と一緒に、マグネットを取り付けた機械を遠隔操作する装置の開発に取り組んでいます。なかなか思い通りの結果が出ないことが多いのですが、試行錯誤する過程も面白く、やりがいを感じています。ここへ来て良かったと思える仕事に携われています(星野さん)」
もう半分の研究活動で二人が取り組んでいるのが「新人だけのロケット開発」だそう。
「僕らを含めた数名の若手だけで、一からロケットを作ってみるという社内プロジェクトが進んでいて、僕はロケットの機体づくりに、星野くんは発射装置の開発に取り組んでいます。うまく飛んでくれると良いんですが...(苦笑)」と、やや不安げな表情を見せる宮越さん。その様子を周りの先輩たちが温かな眼差しで見守っています。

uematsuerec6.JPG本業のマグネット製造の一コマ

近すぎず、遠すぎず、サポートの距離感がちょうど良い。

入社までの経緯はそれぞれ異なる二人ですが、働き始めてすぐに植松電機の魅力を実感したと声をそろえます。
「社員の自主性を尊重してくれるところが当社の魅力。新しい知識や技術を学びたいと言えば先輩が教えてくれたり、勉強会を企画してくれたりします。自分が興味を持った分野について追求していけるのは植松電機ならではだと思っています(星野さん)」
「植松電機の一番の魅力は、何をするにも自由なことですね。普段の仕事でもロケット開発でも『こうしなければいけない』という枠にとらわれないんです。もっと良いやり方があればどんどん改善していけるし、若手の意見にもしっかり耳を傾けてくれます。先輩との距離が近く、フラットな雰囲気も良いですね(宮越さん)」
若手が主体的にステップアップを目指せるように、「先輩たちがちょうど良く、手助けをしてくれるんです」と宮越さんはうれしそうに付け加えました。

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この赤平で世の中の役に立つ技術を学んでいきたい。

今後の目標について聞くと「人の役に立ちたい」と二人。
「自分の強みと言えるような分野を作りつつ、幅広い技術に対応できる技術者を目指したいと思っています。もともと自分は教育にも携わりたいと思っていたので、当社の教育活動にも積極的に参加して、子どもたちに夢を与えられるような活動に取り組んでいきたいですね(宮越さん)」
「困っている人の力になりたいと思っています。マグネットの製造でも、宇宙開発でも、世の中のニーズを解決できるような知識や技術を身に付けて、社会に貢献できる技術者を目指していきたいです(星野さん)」
各方面から注目を集める植松電機の期待の若手として、やや緊張した面持ちでインタビューに答えてくれた二人。その言葉の端々から、植松電機での日々が充実している様子がひしひしと伝わってきました!

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乗り物ならなんでも大好き!な少年時代を過ごした植松社長。

さてここからはお待ちかねの植松社長が登場。
「子どものころから一度も本を捨てたことがない」という言葉通り、子ども向けの乗り物の本と難しそうな専門書が入り混じって置かれているという、ちょっと独特の雰囲気の社長室で話を聞かせいただきました。

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ご出身は赤平市に隣接する芦別市。子どものころから紙飛行機が好きだった植松さんは、中学、高校と進むに連れて次第に宇宙への憧れを抱くようになり、大学では流体力学を専攻。卒業後は名古屋で航空機設計を手がける会社に入社しました。数年間勤務した後、北海道に戻り、1994年に家業である植松電機に入社。2000年に赤平市内の工業団地に本社社屋と工場を建設しました。

2004年に北海道大学の永田教授との出会いからロケット開発を手がけるようになった植松さん。「植松電機=ロケット」というイメージで語られることの多い同社ですが、現在はそれらに加え、幅広い業界との交流や技術支援を行っているのだそう。
「例えば最近では南極探検用のソリの開発などに携わりました。なぜソリを?と思われるかも知れませんが、南極という場所はマイナス60度まで冷え込み、さらに強烈な紫外線に晒されるなど、宇宙空間によく似た環境なんです。しかも1100キロメートルという距離を移動するためには高い耐久性が必要。ソリづくりにも宇宙開発のノウハウが存分に生かされています」

また、世界に3台しかない(日本には1台だけ!)と言われる、微小重力実験塔(コスモトーレ)を自社で建設するなど、チャレンジスピリットに溢れる植松電機には本州の企業からもさまざまな相談事が持ち込まれます。
「国内トップレベルの企業や研究者が私たちの装置を使わせてほしいとやって来るんです。そうした人たちと一緒に仕事をする機会は、得ようと思って得られるものではありません。僕たちはそういう人と仕事をすることで、知識や技術を吸収していっているんです」

儲かるかどうかではなく、困っている人の役に立つかどうか。

とはいえ、こうした取り組みはすぐに利益にはつながらないと、植松さんは苦笑い。
「さまざまな研究開発を手がけていますが、すぐに売れそうなもの、簡単に儲かりそうなものは殆どありません(苦笑)。もし、売れそうなものならきっと誰かが既にやっているし、儲かりそうなものなら激しい競争になっているはず。後から始めてもパイの奪い合いになって、消耗してしまうだけですからね」

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だからこそ、儲かるか否かではなく、世の中の「悲しさ」「苦しさ」「不便」など皆が困っていることの解消に力を注ぐのだと植松さん。そうすればそこに新しいパイが生まれるのだと説明します。
「これから人口が減っていく時代になれば、ますますモノが売れなくなるでしょう。でも、世の中の問題を解決できるものなら、きっと必要とする人がいるはずだし、それは新しいパイを作ることになる。これからはそういうことのできる人が活躍する時代になっていくと考えています」

もうひとつ、植松電機のユニークな特徴のひとつが、宇宙やロケットなどの専門教育を受けていない、「普通の人」が研究者として活躍しているということ。一体どのような人材育成を行っているのかを尋ねてみると「特別なことはしていない」という意外な答えが返ってきました。
「マグネット事業でも他社との研究でも、僕は大まかな目標を示すだけで、それ以外の指示はほとんど出しません。だから基本的には、どんなやりかたをしても良いんです。何度も失敗をするかも知れませんが、それが知恵や経験になり、次はどうすれば良いかを判断する力を養うことになります」

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「目線がローカルじゃない」人が多いのが、赤平の魅力。

社内の人材は勝手に育っていくと笑う植松さんですが、子どもたちへの教育活動に熱心に取り組んでいます。学校単位の工場見学を毎年多数受け入れているほか、同社の施設を使ったモデルロケット教室、宇宙をテーマにした科学教室「コズミックカレッジ」などを定期的に開催しています。全国各地からの講演依頼も次々に舞い込んでいます。

また植松さんは、自身の趣味でもある「スポーツシューティング(いわゆるサバイバルゲーム)」のイベントを開催し、そこにも子どもたちを巻き込んでいると教えてくれました。
「僕は昔から目が悪く、遠近感がないので球技は全然ダメなんです。だから子どものころは体育が大嫌いでした。ただ、そんな僕でもエアガンだけはうまくできたんです。エアガンは機械が玉を飛ばしてくれるので運動神経は関係なく、誰でも対等に楽しめて、うまく当たれば自信になる。以前、子どもたちを集めてサバゲーをやった時は、運動が嫌いな子、苦手な子もみんな目を輝かせて楽しんでいました」

最後に赤平という街の魅力を尋ねると「目線がローカルじゃない人が多い」と話してくれた植松さん。
「地域に根ざしていながら、国内外で通用する技術を持った企業が多く、外向きの視点を持った人が多いのがこの街の特徴。そういう人たちとの交流を通じて自己研鑽ができるのは赤平の魅力だと思います。また、札幌から1時間という近さでありながら、人口密度が小さく、土地も安い。人生全体にかかるトータルコストを抑えて生活できるのも良いですね」

株式会社植松電機
株式会社植松電機
住所

北海道赤平市共和町230番地50(赤平第2工業団地)

電話

0125-34-4133

URL

https://uematsudenki.com/

【事業内容】車両搭載型低電圧電磁石システム設計・製作・販売、宇宙航空関連機器開発および製作


NASAより宇宙に近い、植松電機が描く未来。

この記事は2018年10月5日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。