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このまちのあの企業、あの製品
札幌市

北海道で行列店を作ったのは東京からの移住者 ラーメン札幌 一粒庵20180305

北海道で行列店を作ったのは東京からの移住者 ラーメン札幌 一粒庵

北海道に移住する─。

30歳の時、お子さんが産まれてすぐのころ、そう決めてやってきたひとりの男性がいました。

激戦区の札幌で行列ができるほどのラーメン店をつくりあげた大島 陽さん。お話をうかがうと、世間で想像されがちな「ラーメン屋のオヤジさん」ではないことがつぎつぎに出てきました。そして、自身が移住者であるからこその、移住を考えている人への想い。これまでの経験と共に、未来につながるお話をいただきました。

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北海道で「食」を「職」にしたいと考えた20代

大島さんの故郷は東京。実家は六本木でドイツ家庭料理を出すレストランでした。ところが、「食」を「職」にしたいと考えるようになったキッカケは、なんと20歳で南極海母船式捕鯨に乗船したことから始まります。遠洋での捕鯨では、当然航海日数が長くなるため「冷凍」技術が必要になり、そこで冷凍鯨肉の加工に携わったことで、「食」が「職」になると体感したのです。そして東海大学海洋学部水産学科を卒業後、「食品冷凍技士」としての道を選択します。


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食品冷凍技士......読めば理解できる資格ではありますが、身近にその資格を持っている人はいないのではないでしょうか? 公益社団法人 日本冷凍空調学会が認定する世の中に50年以上前から存在する、低温食品の製造、品質保持の不備による損失や事故の発生を防止することを目的とした資格です。

食品冷凍技士として、大手ガス会社に勤めた後、より一層「食」への道を追求すべく、実家のレストランで5年ほど修行をします。そして「食」に完全に目覚めた大島さんは、決断をします。これからも「食」を学んでいくなら、絶対に北海道だと。

ichiryuan18.jpg現在、一粒庵での道産食材使用率は9割

移住先は経験を活かせる「仕事」で決めた

北海道へ移住する!そう決心されたあとの行動を聞いてみました。

「まずはやっぱり情報集めですよね。なので、北海道として東京に窓口を出している有楽町のセンターに足を運びました。いろんな市町村とかのパンフレットをたくさんもらって帰ってきた記憶がありますね」。こちらは、現在も北海道が移住希望の方への情報を発信するセンターとして運営している「北海道ふるさと移住定住推進センター」で、多くの方が情報を求めにやってくる場所です。大島さんは情報収集においてもこう語りました。「まずはやっぱり生きていくためには仕事でしょう。ですので北海道で働くための求人...特に食関連での求人情報を収集するのが一番の目的になりました」。

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「冷凍技術の仕事をしていましたから、密接していたのは水産業界。ですから、日本全国のメジャーな港は全て行きました。当然北海道ももれなく行っていましたので、北海道のことや生活についてはなんとなくわかっていたと思います。四季もハッキリしていますし、北海道ならどこでもって感じでしたが、仕事の情報を通じて選択したのは、小樽方面やオホーツク方面。最終的にはあるビール醸造会社でお世話になることになりました」。

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大島さんがおっしゃるビール醸造会社とは、北海道北見市にあるオホーツクビール株式会社。1994年(平成6年)4月の酒税法改正により酒造免許の要件が緩められた背景があり、ビールの年間最低製造量が2,000キロリットルから60キロリットルに引き下げられ、小規模ビールメーカーが各地に誕生し、ちょっとした地ビールブームが起こった時代でした。

その立ち上げに関わった大島さん曰く、「食品冷凍技士としての経験がありましたから、実はビールの醸造工程にも通じるものもあったんです。基本的に冷凍も醸造もQCですからね」。QCとは、quality controlのこと。製造業では当然となる製品の品質を一定水準に保つことがとても重要ですので、その考え方を熟知し、実行していた大島さんにとっては、すでに肌で学んだことでもありました。

「当時のオホーツクビールの考え方として、徹底した地元で採れるビール麦にこだわるというスタンスにもすごく共感できましたから、地ビール醸造士としてやりがいもすごくありましたね」。
大島さんは仕事も決め、奥様と小さな子どもを連れて、北海道北見市についに移住を果たしたのです。

必然だった「ラーメン」との出会い。そして起業へ

ここまででも異色な経緯と言えますが、もちろんこれで大島さんの行動は終わることなく、さらに広がります。地ビール醸造士として5年ほど勤め、事業としても軌道に乗ったころ、また縁があって別の決断をします。小樽運河食堂ラーメン工房のプロデュースと全国大手ラーメンチェーン店での経験です。

大島さんのお生まれから、過去の経験を考えていくと「なぜラーメン店を経営したいと思ったのか」が疑問でしたが、ここにきて初めてラーメンのキーワードがでてきました。

ichiryuan5.JPG一粒庵の店名には、店主の起業からの思いが込められている『種を播き、育ち、育てる企業に成るのだ。』

「これまでもずっと『食』に関わる仕事をしていきたいと考えていましたから、北海道に暮らすことになって、『ラーメン業界』との出会いは、必然だったのかもしれません。そして、ラーメンそのものもさることながら、そのビジネススキームにも大変興味を持ちました。それが起業の大きな要因でした」。

2004年、場所は札幌を選択し、自分のお店として開業します。それが地元でも超有名店となる「ラーメン札幌 一粒庵(いちりゅうあん)」の始まりでした。お店の名前は、ラーメンの「麺」の主原料である小麦の、一粒一粒までも大切に味わえる店づくりをしたいからとのこと。これはビール醸造の経験からも、生産者の気持ちを受けとめた、大島さんの心に宿った想いの表れなのかも知れません。そして、お店の方針もこう決めます。「北海道の良い食材を厳選して調理し、スローフードとして提供する」と。

ichiryuan6.JPG JR札幌駅前、ホクレンビルの地下に行列ができるラーメン店「一粒庵」はあります

さっと気軽に食べるという感覚が当たり前であるはずのラーメンの文化。そのラーメン独自の文化もオリジナルで変化を加え、勝負していきたいと考えたのです。カウンター6席、テーブル4人席×2卓しかないお店ですが、その限られた枠でラーメンを食べるために、今日も大勢の人が行列をつくります。そこには、味はもちろんですが、その考えや「食」に対する真の想いが伝わっているからこそのファンからの答えのようです。

ichiryuan7.jpg看板メニュー「元気のでるみそラーメン」

目指す先は「北海道」にこだわった文化の継承

大島さんにこれからのビジョンを聞いてみました。

「実は自分とかこのお店の未来って、日々どうしていこうかって考えが揺れるんです。自問自答の毎日ですね(笑)。時代も情勢も変わるし、お客様のニーズも変わる、自分がやってみたいことの優先順位だって変わっていく世の中で、確実なコレというものを明示するのが難しい時勢なのかもしれないですね。でも、北海道の札幌にこれから新幹線がやってくる。だからそれまでにはもう少し店舗を増やしていけたらというのは考えています。北海道外からこの札幌に直接降り立って、札幌に来たならラーメン...それなら北海道の食材をこだわって使ってる一粒庵でしょってなってくださったら嬉しいですし、それを受け入れる箱ももう少しだけ広げていきたいと考えています」。

ichiryuan8.JPG一粒庵を「家業」ではなく「事業」に、さらに「産業」を生み出すまで成長させたい。

それについての課題もありました。それはもしかすると「ラーメン」という文化や「飲食業」という業界から起因してしまうものかもしれません。今の世の中、ファストフードの台頭や仕事のマニュアル化、セントラルキッチンの導入、ロボット化など、合理性が重視されがち。グローバルチェーンを目指していくためには、必然なことでもありますから、それ自体は否定されるものでもありません。ただ、その流れの中で、業界全てが同様に見られてしまうことが課題のようです。

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北海道の産地にこだわり、生産者さんと対話を重ね、その食材の良さを引き出すために手間暇をかけ、いらっしゃったお客様と会話でおもてなしをしながら、食を通じて思い出もつくってくださるために日夜頑張っているお店も北海道にはたくさんあります。前者と後者では、働くスタイルに違いがありますから、前者のようなイメージで仕事をしようと思うと、当然ミスマッチがおこるのです。

ichiryuan11.jpg道産小麦の自家製麺

「今の課題は、どう人材を採用して、育成していくかということですね。自分の考えでもあり、お店のコンセプトでもある、食材の地産地消という理念を、もし自分がいなくなった時が来てもその文化が継承されていく長く続くお店運営をしていくための地固めをしていきたいと思っていますから、そのためには、想いを共有できる人材と一緒に前に進めたいと考えているんです。すごくスペシャルな人を求めているわけではないですよ。例えば素直にもくもくと仕事をするタイプの人だって、いつか自分でも店を持ちたいんだっていう独立志向の人だって、いいと思います。でもやっぱり『食』にこだわりがあったり興味がある人がベースになるんだと思います」。

ichiryuan9.JPG信頼する仲間と一緒の時は、取材時のマジメな表情とは違い、ホッとした優しい笑顔に。

それと同時に、北海道への移住者でもある大島さんはこう語られました。

「もしかすると、北海道の『食』に関わる仕事がしたい方には、移住者さんの方が理解が早いかもしれません。なにせこれまでの北海道外の経験を通じて、他の食材と比べられますから。そして、『食』と自然は密接な関係がありますから、そういった思考の意味でも移住者さんがより楽しんで働ける要素がつまっているかも。私自身、アウトドア派で、海にも遊びにかなり行っていましたし、高校時代は山岳部で山に登りまくっていました。登山は大好きで、日本山岳会にも所属しています。そして、子どもが小さな時に北海道へ移住しましたが、自然環境のなかで子育することのメリットも考えていましたし、子どもが成長していく上での食べ物のことも考えると、本当に北海道は最高の場所だと言えますね」。

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とても温和な雰囲気でありながら、お考えの節々にクレバーな印象を感じる大島さん。つい最近、難関のワインソムリエの資格も取得したそう。実家から学んだドイツ料理や、ご自身の経験を通じた魚介の知識やビールの知識も使ったさらなる展開も、事業の将来として考えられることもあるそうです。

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ラーメン店で働く─普通に想像するイメージではなく、『北海道の食』を考え、学び、提供する人になるために働く。そういった世界観を得られる場所が「ラーメン札幌 一粒庵」。そんな風にも見られるようになったら嬉しいなと思った取材でした。

ラーメン札幌 一粒庵(いちりゅうあん) グラシアス(有)
住所

北海道札幌市中央区北4条西1丁目 ホクレンビル地下1F

電話

011-219-3199

URL

http://www.ichiryuan.com

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北海道で行列店を作ったのは東京からの移住者 ラーメン札幌 一粒庵

この記事は2017年12月26日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。