
SAWフィルタ用タンタル酸リチウムウエハー?
札幌から共和町に向かう国道沿いに住鉱国富電子株式会社の工場があります。工場とは言うものの、建物はとてもクリーンで気になる騒音や匂いはほとんどありません。ここでつくられているのは、SAWフィルタ用のタンタル酸リチウムウエハーというハイテク材料。製品名を聞いて取材陣が頭に「?」を浮かべていたところで「僕も専門的なことは詳しくないんですが(笑)」とにこやかに説明してくれたのが同社の人事担当、長尾学道さんです。
「まずSAWフィルタというのは携帯電話やスマホに搭載される電子部品のこと。特定の周波数の電波を効率よく取り出す役割があり、通信時のノイズを少なくすることができます。このSAWフィルタには、タンタル酸リチウムやニオブ酸リチウムという結晶からつくったウエハー(結晶を薄くスライスしたもの)が使われ、この工場ではその結晶とウエハーを製造しているんです」
ウエハーの厚さは0.15~1.00mm。同社の製品はその品質の高さで評価を得ている。画像提供:住友金属鉱山株式会社
スマホの高機能化で需要が急増中!
ひとつのSAWフィルタに搭載されているウエハーは1mm角以下の非常に小さなものだと長尾さん。
「ただ、SAWフィルタは対応する周波数の数だけ搭載する必要があるんです。以前の携帯電話であれば、国内での使用が中心だったため、1台に2~3個のSAWフィルタが搭載されているだけでしたが、スマホ時代になると、各国の周波数に対応するために、より多くのSAWフィルタが搭載されるようになりました」
最新型のスマートフォンでは約40~80個ほどのSAWフィルタが搭載され、ウエハーのニーズが急速に高まっていると言います。
鉱山から始まった共和町の産業の歴史
では、共和町でどうして、このようなハイテク材料がつくられるようになったのか。その歴史を遡ると、昭和初期に栄えた国富鉱山へとたどり着きます。
同町では明治時代から銅や鉛の採掘が行われ、国富地区では製錬所が操業していました。昭和10年に住友金属鉱山が採掘権を得て、そのころ、採掘・製錬事業は最盛期を迎えます。しかし、その後、資源枯渇から採掘は中止され、やがて製錬所も操業を停止しました。この時、住友金属鉱山は共和町から撤退するのではなく、製錬所を電子部品の製造工場へ衣替し、経営を継続。それが住友金属鉱山国富事業所(住鉱国富電子株式会社の前身)です。同事業所は経営継続のためにさまざまな事業に取り組み、たどり着いたのがタンタル酸リチウムを始めとしたハイテク材料の製造事業。2009年、住友金属鉱山の会社分割によって住鉱国富電子株式会社が誕生しました。
従業員の9割以上が近隣町村から
現在、この工場では約300名の従業員が働き、共和町の雇用に大きく貢献。製造スタッフの留田風我さんに話をうかがいました。留田さんは生まれも育ちも共和町の国富地区。2015年に入社し、実はお父さんも同社の従業員として勤務しています。
「隣町の岩内高校卒業後、新卒で入社しました。この会社を選んだ理由は父の影響が大きいですね。ちょっと特殊な仕事だけれど、自分たちがつくった製品が世の中の役に立つと聞いていて、やりがいがありそうだと思いました。生まれ育った地元で働けるという点も魅力でしたね」
ハイテク材料だけど、業務経験は不要
留田さんが担当しているのはウエハーの元になるインゴット(結晶)をつくる作業です。
「ウエハーの製造プロセスを簡単に説明すると、インゴット(結晶)の育成、成形、切断、表面研磨、洗浄、検査、出荷...という流れになります」
工場にはインゴットをつくるための炉(結晶製造装置)が整然と並べられており、留田さんの職場では数十名のスタッフが交替制で製造を行なっているそう。
「ハイテク材料と聞くとつくるのが大変なイメージを受けますが、製造法自体はそれほど複雑なものではありません。原料を混ぜ合わせて高温で焼成し、それを炉で溶かしながら数日間かけて結晶を育てていきます。ただ、炉で溶かした原料に結晶の中心になる『種』を付ける作業には、ちょっとコツが必要。うまくできるようになるには1、2カ月がかかりました」
自分の成長を実感できるのがやりがい
仕事の面白さについて、留田さんは「自分の成長を実感できるところ」だと話します。「最初は右も左もわからず、携われる作業も工程の一部分だけだったのですが、だんだんできる仕事が増えて、自分一人でも一通りの作業がこなせるようになりました。その時はようやく一人前になれた気がしてうれしかったですね。今の目標は常に安定した品質のインゴットをつくれるようになることです」
ビアパーティーや忘年会などのイベントも
工場で働く皆さんはどの工程でも黙々と作業に取り組んでいましたが、休憩時間などはとても和気あいあいとしているのだそう。留田さんも休日には同じ工程の同僚とボーリングなどをして楽しんでいると言います。
「年に何度かは会社のイベントもあり、夏にはビアパーティーをしたり、冬に忘年会があったり。そういう機会を通じて他工程の人とも親しくなれます」
プライベートも充実させられる働きやすい環境
工場から歩いて数分のところに社員寮や社宅が用意されるなど福利厚生が充実し、働きやすい環境が整えられている同社。ウィンタースポーツのメッカであるニセコも近く、プライベートも仕事も大事にしたいという人にとっては魅力的な職場と言えそうです。