
新篠津村の「土の力」で育てたタマネギ
札幌から車で1時間、当別町や江別市に隣接する石狩郡新篠津村。そこに、今回の取材先「つちから農場」があります。ここは、有機および特別栽培タマネギの生産・販売を行っている農場です。
今回は、つちから農場の代表取締役の中村好伸さん(写真中央)にお話をお聞きしました。
※有機栽培...使用が禁止された化学肥料や化学合成農薬を3年以上使っていない畑で、禁止資材を使わずに生産することです。商品には、有機JASマークがついています。
※特別栽培...化学肥料や化学合成農薬を、慣行農法の半分以下に減らして栽培することを言います。
「つちから農場」の名前の中には、「土」と「力」の意味が込められています。この2つを合わせ、「土力」と書いて「どりょく」とも読む。自家製堆肥と自家製ボカシ(肥料)を使い、健康な土づくりを作る「努力」をずっと続けてきたのです。自らの手で雑草を抜く手取除草という手法で、手間をかけて畑をつくり、そこで丁寧に丁寧にタマネギを育てています。
めぐり巡ってたどり着いた「農家になりたい自分」
中村さんは、生まれも育ちも札幌。大学卒業後は、「ものづくりの仕事がしたい」と考え就職した先は、ニッカウヰスキー。
しかし、配属された部署はものづくりの現場ではなく、東京の経理部でした。その後も、ものづくりがしたいという想いは消えず、思い切って退職を決意し28才の時に北海道へ戻ることに。その時の気持ちは、「とりあえず戻ってみよう」ただそれだけだったと言います。
「かっこいい言い方になってしまうけれど・・・」と、中村さんは言葉を続けます。
「土のそばにいたい、そう思いました。東京にいた時は、家から会社までの往復で一度も土に触れることはなかったんです。それがなんだかとても寂しく思えて」と。
しかしその当時、すでに中村さんは結婚もして子どもも生まれそうなタイミング。大きな選択でした。そんな時、奥様は「食べていけるなら良いよ」と優しく背中を押し、北海道の地へ戻ってくることになったのです。
その後、食品製造会社に勤務。
その時に、有名なナチュラリストに出会います。この方は、ラジオのパーソナリティを務める傍ら、山林を開墾するなど、自給自足の生活を行っていました。ある時「うちで働いてみない?」と声をかけられ、そこで有機農法での野菜の自給栽培を学びました。そうして、「やっぱり自分は、畑仕事が好きだなぁ」と思ったそうです。
「自分の気持ちには素直でいたい」という思いから「農家になりたい」と、ぽっと心に浮かんだ素直な気持ちを形にしていきます。
「ゆくゆくは経営者になりたい」という志があった中村さんは、跡継ぎのいない農業法人に入社しようと試みます。そこで出会ったのがつちから農場の前身、「佐藤農産」でした。
佐藤農産で農業の下積みを経験し、2008年代表を就任。そして、2013年に「新篠津つちから農場」として新たなスタートを切ることとなりました。
「味の宝石箱や〜」とは言わせない。当たり前に「普通に美味しい」位がいい
「タマネギの良さとは何ですか?」と問いかけると、中村さんは言いました。「私たちは、『特別なタマネギ』をつくりたいわけではありません。当たり前に育ったタマネギって、当たり前に美味しいですよね。それだけでいいんです。味の宝石箱や〜と言わせるほど、特別ではなくていいと思っています。それが、私たちつちから農場が目指す品質です」。
「化学肥料で成長を促進させるのは簡単。でも、無理矢理成長させられているタマネギにとったら、どこかで無理が出てしまう。だから私たちは『あなたの好きなように成長してください』そんな想いで、最低限の化学肥料だけしか使わず、タマネギを育てているのです」。
縁もゆかりもなかった新篠津村
生まれも育ちも北海道ではありますが、新篠津村との接点は全くなかった中村さんに新篠津村の良いところを聞いてみました。
「近くには江別や当別、札幌までも車で1時間程度。田舎にいながら、すぐそこに都会があるのでバランス良く生活が出来ると思います。あと、田舎ならではの嬉しい近隣住民との交流もここの良いところの1つかもしれません。昔は、例えば『味噌切らしちゃって~・・・』と、隣人が味噌を借りにくるなんて時代もありましたよね(笑)。ここに引っ越してきて、まさにそれが本当にあったんですよ。つくった野菜を持って行ったり、もらったり、そういう関係が出来るのって田舎の良さですよね」。
農業を通じて、障がいのある方の就労支援も
江別にある障がい者施設との繋がりもあり、毎週施設から7~8名の方がタマネギの袋詰めのお仕事をしに農場へやってきます。働きたくても、サポートがないとなかなか難しい、そんな方々を受け入れることにより働く喜びを知る機会が出来たことでしょう。タマネギ以外にも、とうろもこしの栽培も始めており、休憩の合間や仕事終わりに一緒に採れたとうもろこしを食べたりと、交流も図っています。
つちから農場、海外進出!?農場の今後の未来図
2017年2月、中村さんはサハリンへ行きます。その理由は、サハリンにタマネギづくりの技術を教えるため。仕事の幅がどんどん広がって行っています。「おかげ様で、つちから農場のタマネギを使いたい、欲しいという声も増えてきました。農業の神様が、きっとチャンスをくれたんだと思います」と、中村さんは言います。
新たに仕事の幅がどんどん広がっていく中、2016年まで3名のスタッフでやっていましたが、2017年は4名のスタッフが新たに仲間となります。
「ここは、年齢も、性別も、経験も、国籍も問いません。実はこの新しいスタッフの中には韓国人のスタッフもいます。日本語はぺらぺらですけどね(笑)。大事なのは、やる気。これに限ります。農家をやろうという覚悟がある人であれば、農業未経験の方でも大歓迎です」。
つちから農場で働くスタッフは独立を目指すスタッフが多いそうです。
中村さん自身、「農業経営者になりたい」という一心でやってきた方です。その思いを継ぐ人を応援したい、そう考えているようです。チャレンジを応援してくれる環境だからこそ、農業に挑戦してみたい・畑仕事が好きというやる気や覚悟がある人はつちから農場の門を叩いてみても良いのかもしれません。
新篠津の土に守られ育ったタマネギの「当たり前の美味しさ」をぜひ一度味わってみて下さいね。
- 新篠津つちから農場株式会社
- 住所
石狩郡新篠津村第37線北24番地
- 電話
0126-39-3976