北海道の大企業とコラボ商品を生み出す15才
札幌中心部より少し西側、閑静な住宅街の中に歴史の深い学校があるのをご存知でしょうか。第二次世界大戦よりも前、1887年にアメリカ人宣教師によってつくられた女学校。背中に2つ星が並んだセーラー服の学校で有名な北星学園女子中学高等学校です(以下北星女子)。
その名の通り中高一貫校のこの校舎に通う中学3年生が、15才という若さで大企業と商品開発に取り組んでいると聞いて取材にお邪魔しました。
黄色い建物は通称「かぼちゃ館」。かつて、この学校をつくったアメリカ人宣教師スミス先生が住んでいたのだとか。今は資料館として保存されています。
高校生や大学生での商品開発は道内でもよく聞く話。しかし中学生、15才で商品開発に取り組むのは北海道でこの学校だけ。北星女子で行われるこの商品開発は、10カ月ほど時間をかけて取り組む一大プロジェクトのようです。
北海道の地元の企業と提携し、生徒たちのアイディアをかたちにするこのプロジェクトは早4回目。過去には、北海道キヨスク株式会社、株式会社サークルKサンクス(現株式会社ファミリーマート)、株式会社きのとやと商品化を行ってきました。
このプロジェクトはまず、マーケティングの基本から、コンセプトの作り方、プレゼンテーション方法などを学ぶところから始まります。その後、グループに分かれてアイディアを出し合い、プレゼン発表。審査員は、企業の社長・役員の方々や先生方です。見事このプレゼンで入選したアイディアが商品化へと進みます。
みんなでアイディアを出し合っています。
さて、4回目のこのプロジェクト。今回は、よつ葉乳業株式会社との商品開発でパフェづくりに挑戦です。見事選ばれたアイディアは、『ミルク&パフェよつ葉ホワイトコージー札幌パセオ店』にて期間限定で販売されます。
商品のアイディアを出し合う前に、企業側からテーマが発表されました。それは、「北海道のおいしさを、まっすぐに味わえるパフェ」というお題。「中学生の皆さんの自由な発想を楽しみにしています!」という企業側の応援メッセージを受け、早速生徒たちの自由なアイディア合戦が始まります。
グループは5〜6名で構成され、全15グループ。そして、今年はある3グループが発表したアイディアが実際の商品となって誕生しました。
商品化された3つのパフェです。ネーミングも値段も全て自分たちで考えたそうですよ。
今回は、その当時のグループ班長を勤めていた3名に集まっていただきました。プロジェクト中は中学3年生でしたが、現在は進級し高校1年生となった3名。佐藤瑠香さん、上遠野杏(かどの あんず)さん、奥野莉奈さんです。
「私たち、ジャンケンで班長になっただけなんです〜」と笑い合う3人。
頑固者たちをまとめる、バスケ大好き班長
バスケットボールがきっかけで実家苫小牧を離れ、北星女子の敷地内にある寮で生活している佐藤瑠香さん。バスケ部の練習前に少しお時間をいただきました。
早速ですが、商品開発ってまずは何から話し合うのでしょうか?
「最初に私たちは、『自分たちの食べたいもの、パフェの中に入っていたら嬉しいもの』のアイディアを挙げていきました」。
こうして佐藤さんのグループで生まれた「いちごに恋するクリームブリュレパフェ」は、パイ生地やクリームブリュレを使い、焦がしたキャラメルを盛り付け。イチゴが主役となり、色合いも可愛らしいパフェです。
班長を務めるということは大変なこともあったのでは?と問うと、「正直私のグループは頑固者が多くて」と、にやりと笑みを浮かべる佐藤さん。
「意見を出す場面はもちろん、プレゼン準備の時は毎日放課後残って残って・・・。それが結構大変でした」。
佐藤さんの今考えている将来像の中に「バスケ」の存在も大きく、そのため部活との両立も大変だったようです。
そんな努力も実り、プレゼン後の入選発表で見事最優秀賞をとった佐藤さんグループ。
「入選グループの発表の時、最初に上遠野さんと、奥野さんたちのグループの名前が発表された時点で、『あーもう私たちダメだったんだ』って、みんな途中から上の空。でも、そのあと最後に私たちのグループの名前が呼ばれたんです!もう、その瞬間みんなで『キィヤァァァァァァァァー!』って叫んで、そしてみんなで泣きました(笑)」。
涙が出るほど嬉しかった、涙が出るほど気づけば本気だった・・・その喜びを仲間と分かち合えた瞬間は、きっと一生忘れることはないでしょう。
しかし、その後大変なことが待ち受けていたと言います。
「入選が決まってからは、記者会見や取材の対応、宣伝するためのチラシ配りなどが待っていました。どれも慣れないことばかりで目まぐるしかったですが、普段経験できないようなことばかりで、今思えば良い経験だったと思います」。
よつ葉の店舗にて人生初の記者会見!たくさんのカメラに囲まれ緊張気味です。
じゃあもう取材慣れしてるのでは?なんて聞いてみると、恥ずかしそうに首を横に振る佐藤さんでした。
ピンチをチャンスにchange!
「私たちは、最初にターゲットを絞りました」としっかりとした口調で話す上遠野杏さん。
「ターゲットは、『大人の女性』。この人たちの立場になって考えてみた時、『プレミアム』っていう言葉に惹かれるのはではないかとか、『濃厚チーズ』は人気ワードかもしれないなど、そんな話し合いをしていました」。
ターゲットを考え、そこからどうしたらこの人たちが喜ぶのかを考えるなんて、もはやマーケティング力を身につけているようで驚きです。
そして上遠野さんのグループで完成したアイディアパフェは「メープル香る濃厚チーズパフェ」。パフェと言えば甘いもの、という概念を取っ払い、チーズを使うことによって甘いパフェではないものをつくりたいという考えが込められています。
上遠野さんにとって、このプロジェクトはずっと憧れていたことなんだとか。
「先輩たちがこのプロジェクトを楽しそうにやっている姿を見てきたから、自分の番が来るのが楽しみだったんです」と言います。だからこそ、自分たちが考えた商品が選ばれたいという想いもひとしお。
しかし、プレゼン発表の時にまさかのハプニングが起きたそうで・・・
「いざ私たちの発表の番が来たとき、パソコンのトラブルが起きてプレゼンデータがちゃんと出てこなくて・・・」
「正直動揺しましたが、こんなことが原因で落選するのだけは絶対に嫌だ!と思って、堂々と胸を張って発表しました」と、力強くその時のことを話してくれました。そして見事入選した上遠野さんグループ。グループみんなの熱い想いはきっと言葉に乗って審査員へ伝わったのでしょう。
商品化となった後、お母様と一緒にお店に食べに行ったそうです。
「お店に入ったら、まわりの人が食べているものが気になって・・・(笑)。でも、嬉しいことに私たちがつくったパフェを食べてくれている人が多かったんです!」と喜びの表情。
卒業生の方々もお店に足を運んでいたようで、「美味しかった」とSNSに載せてくれる人が多く、その生の声が嬉しかったと話してくれました。
「この経験を通して商品開発という仕事の大変さも、楽しさも知ることが出来ました」とニコリ。
斬新なプレゼン方法で、勝負!
「あれ?今何の質問だっけ?」なんて、熱く語りすぎて途中で質問が飛んでしまう一生懸命さが初々しい奥野さん。
奥野さんのグループは「トマベリービューティーパフェ」。トマトとベリーを掛け合わせた商品です。
「パフェって、いちごとかバナナとかのフルーツが多いですよね。それって定番すぎて面白くないなって思っていて」。
そんな話し合いの中で出てきたのが、「トマト」だったそうです。
「野菜の中でも甘みのあるトマトを使ってみるのはどうだろうか、という意見が出てきました。トマトとベリーって合わないのでは?と思いつつも、即実験!そしたらこれが、合ったんです!」
それを他の人にも証明すべく、奥野さんたちはプレゼンで工夫をこらします。
「ソフトクリームと、ベリーと、はちみつ漬けにしたトマトを先生方に食べてもらうために職員室をまわりました。その試食してもらっている姿をビデオで撮影し、先生方のリアルな反応を証拠としてプレゼンの時に流したんです」。
なんとも力の入れよう。商品開発担当の千葉先生も「ここのグループのプレゼンへの力の入れ具合は凄かったですね」と言葉を継ぎます。
北星女子で長年数学を担当、弓道部の顧問でもある千葉先生です。
「今何て質問されてたんだっけ〜」と、場を和ませてくれた奥野さん。
挑戦して、失敗して、成長して
「必要なのは『Try&Error』ですよ」と千葉先生。今回入選とはならなかった3グループ以外も、入選グループと同じように時間をかけ研究し、プレゼンに臨みました。きっと、どのグループにも様々なドラマがあったはず。それだけは忘れてはいけないのです。
また、このプロジェクトを通じて、よつ葉の社員の方々は生徒たちのアイディアを優しく受け止め、それに対しプロとしての意見も返してくれたそうです。1つの商品が世に出ていくためには、Try&Errorが必要なことをこの商品開発のプロジェクトを通じて生徒たちは学ぶことが出来たのではないでしょうか。
物事に積極的に取り組んで、様々な方法をとにかくやってみる、そしてうまく行かなければまた別の方法を試してやってみる、という挑戦心を北星女子の生徒たちは知らず知らずのうちに身につけているのかもしれませんね。
この他にも、北星女子では様々なことに『TRY』できる行事やイベントがたくさんあります。
そのひとつに、中学3年生全員でカナダへ2週間の語学研修に行くことが挙げられるでしょう。
英語が好きだと語る上遠野さんも、北星女子のこういった様々な行事や、英語に力を入れているところに惹かれたと言います。
「昔から英会話を習っていて、英語にはすごく興味があったんです」と、廊下に貼り出されたカナダに行った時の写真を指さしながら笑顔で答えてくれました。
「見て見て〜!」と無邪気に案内してくれましたよ。
中学3年生という若さで、カナダへ。しかもホームステイという貴重な経験ができるこの語学研修。上遠野さんは7日目くらいから英語がはっきりと聞き取れるようになって、堂々と外国人と話していた姿が佐藤さん、奥野さんの中でも印象的だったそうです。
様々な行事で、たくさんのことに挑戦できる北星女子。中高一貫というメリットを活かし、6年間という時間の中でたくさんの挑戦と失敗を繰り返し、生徒たちはここを卒業していくことでしょう。
「北星」だからこそ、星のように輝き歩み続ける
この商品開発のプロジェクトを通し、先生の目から見て生徒たちは何か変わりましたか?と尋ねてみると、「劇的に変わったというところはありません。でも、色々なこと、様々な視点で興味を持つことが出来るようになったなと思っています」と千葉先生は優しい口調で話しながら、無邪気な笑顔の生徒たちを見守ります。
「先生って、今ドラマに出てるあのお父さん役の人に似てるよね〜」なんて盛り上がっています。
北星女子が札幌に誕生し、130年を迎えようとしています。戦争という歴史をも乗り越え、この長い間積み上げてきた北星女子の歴史は、今も消えることなく輝き続けている気がします。その証拠に、校内には無邪気な笑顔を始め、真っ直ぐな心、強い意思のある瞳を持った生徒たちが、胸をはって歩いています。
北星女子に入学した6年後、強く芯のある女性としてここを巣立っていく生徒たち。でもきっと、10代最大の青春時代の「6年間」は長いようできっとあっという間。
自分たちの歩む道を、まわりと助け合いながら「隣人を自分のように愛しなさい」という学校の教えを胸に、そして星を背中に掲げ、今日も星のように北星女子の生徒たちは輝くのです。
ここで過ごす時間を、日々を、どうか大切に。そのままの純粋無垢な姿で青春を謳歌してくれますように。
- 北星学園女子中学高等学校
- 住所
北海道札幌市中央区南4条西17丁目2番2号
- 電話
011-561-7153
- URL
◎Facebookも随時更新中!
北星学園女子中学高等学校Facebook