
北海道東部にある帯広市は、十勝エリアの中核都市。商業施設や医療施設、文化施設がそろう一方、どこまでも広がるような平野や雄大な山並みといった北海道らしい自然に囲まれています。札幌市からはクルマで約3時間、特急列車で約2時間半、すぐそばには帯広空港もあるなどアクセス面でも利便性に富んだ立地です。
このまちに本社を構える株式会社土谷特殊農機具は、酪農に関わる設備や機器などを製造するものづくり企業。昭和8年創業の老舗でありながら、「Think Globally, Act Locally(世界の技術を地域で実践)」をスローガンに世界の先進技術を取り入れ、北海道の酪農を支えています。まずは会社の全体像について佐藤文哉さんに伺い、さらに後半ではUターン転職で故郷に戻ってきた社員さんにインタビューしました。
設計からメンテナンスまでワンストップで
株式会社土谷特殊農機具が創業した当初は、牛乳の輸送缶や搾乳用のバケツを扱うところから歩みを始め、今ではミルキングパーラーと呼ばれる搾乳施設や哺乳ロボット、ふん尿処理施設、自動給水器といった多彩な酪農機器・資材を手がけています。
「こと酪農に限っていえば、先進地は欧米諸国。当社ではスローガンの『Think Globally, Act Locally』に則り、最先端技術を持つ世界の酪農機器・資材メーカーから製品を輸入した上で、寒冷地仕様を中心とするカスタマイズを加えて酪農家さんに届けています」
株式会社土谷特殊農機具の採用担当・佐藤さん
こう教えてくれたのが採用担当の佐藤文哉さん。同社では単に製品を販売するだけではなく、設計から自社工場でのパーツ製造、工事の進捗や安全を管理する施工管理、システム構築、そしてメンテナンスまでワンストップで手がけられるのが強みです。
「昔からこのスタンスを貫き続け、突発的な修理や保守の対応ができるよう全道7拠点にメンテナンススタッフを配置しています。だからこそお客様からの信頼が厚く、全道でも名が知られるメガファーム(大規模酪農法人)の顧客も数多くいます」
帯広市のほか、札幌市・標茶町・中標津町・北見市・八雲町・興部町に拠点を構えています。
牛のふん尿で電気を生み出すバイオガスプラント
近年、同社では環境・新エネルギー関連のフィールドにも力を入れています。その代表例がバイオガスプラント。ごく簡単に説明すると、牛のふん尿を発酵させ、発生したバイオガスから電気を生み出す施設です。
「酪農家さんはバイオガスプラントで発電された電気を売ったり、ご自身の農場のエネルギーに使ったりすることで経営のプラスにすることができます。それだけではなく、処理されたふん尿を堆肥にも活用でき、その肥料で育った牧草をまた牛が食べて電気にするという循環型の酪農が可能になるんです」
別海町にあるバイオガスプラント。集中管理できるシステムが構築されているため、多数の農家さんで運営できます。
近隣の上士幌町では同社のバイオガスプラントで発電された電力の一部を、町内の農家や企業、一般家庭、公共施設などへ供給する取り組みも進んでいるそうです。
「当社ではあくまで酪農を支える技術を生み出すのが大前提。ただ、自分たちが手がけたバイオガスプラントによって、まち全体に貢献するやりがいを得られるのも魅力だと思います。他にも、冬の寒さをエネルギーとして製氷を行うアイスシェルターという技術を開発。もともとはランニングコストがかからない農産物の熟成庫として完成させましたが、この技術を活用した通年利用可能なカーリング施設も運営しています。こうした独自性が高く、環境に配慮したものづくりに携われることを面白みに感じる若い世代も増えているところです」
ものづくり企業の現場では男性が多いイメージですが、もちろん女性も活躍できます!
Uターン・Iターンで働く人も。アパート探しからお手伝い
ここ最近、同社はベテラン層が多くなり、定年退職を控える社員も増えてきているとか。現状の人員にゆとりがあるとまではいえないものの、熟練の技術を若い世代に教える余裕はあります。そのため、新卒を中心とする採用にも力を入れていると、教えてくれた佐藤さん。
「当社には施設や設備の設計をするポジション、建物の施工管理をする人、工場内で溶接や金属加工をする仕事、システムを制御するSEなど、さまざまな職種がタッグを組みながら業務を進めています。言い換えれば、建築やものづくり、情報系など、これまで学んできたことや経験してきたことが生かせる場を見つけやすいのも特徴。もちろん、まったくのゼロから工場で溶接や組み立てを経験しつつ、それが牧場のどこで使われるのか学びながらステップアップした社員も少なくありません。最近は『あの人でなければ分からない』をなくすために、スキルの共有にも取り組んでいます」
働き方についても、これまでは機器や設備の故障に緊急対応するために土曜日の午前は出勤していましたが、交代制で週休2日を実現。当然、生き物を相手にする酪農家がお客様のため、「搾乳機が壊れた」という連絡があれば日曜日でも駆けつけることはありますが、その分はキチンと休日を振り替えています。
「当社にはUターン・Iターン者も多く、実は私自身も静岡出身。妻が帯広出身ということもあり、このまちが第2の故郷になりました。遠方から就職・転職されてくる方がいる場合、アパート探しから暮らしやすいエリアのご紹介などをアドバイスしています」
佐藤さん自身も移住者。だからこそ受けられる、的確なサポートやお手伝いは心強いものです。
地元にUターンする友人を通して、日に日に増した故郷愛
続いてインタビューのマイクを向けたのはメンテナンススタッフとして働く古川(こがわ)翼さん。ご出身は帯広市で、高校卒業後に札幌市にある北海道科学大学の情報系学科に進みました。
「大学ではITやプログラムを学んでいましたが、体を動かすことが好きなので就活ではブルーカラーの仕事に携われる企業を探していました。携帯電話の基地局に登って作業する職種にもあこがれつつ、就職先で配属されたのはJRの線路を保守する部門です」
地元の帯広市に戻り、酪農の世界でメンテナンススタッフとして働きはじめた古川さん。
線路の保守は日中に事務作業を進めながら、列車の少ない夜間にもメンテナンス作業を行う不規則な勤務スタイル。古川さんは入社から4年ほどで結婚しましたが、夜間作業が終わった朝に帰宅するケースが増え、昼夜のすれ違い生活から家族の時間が持ちにくいことに疑問を感じるようになったそうです。
「ちょうどそのころ、帯広出身で札幌に就職した友人たちも、都会のセカセカ感や残業の多さ、仕事の重圧に疲れて地元に戻る人が増えていました。僕はもともと札幌で働き続けようと思っているタイプでしたが、日に日に故郷愛が増してきて、『帯広に家を建てて地元に暮らす人生も魅力的』と思うようになったんです」
奥様は札幌出身ですが、別のまちに暮らしてみたいという思いを持っていたとか。将来的に子育てをすることも視野に入れ、帯広に戻ることを決意したと振り返ります。
先輩の優しさ、酪農家のおおらかさが心のゆとりに
古川さんは手先を使ったものづくりが好きで、スマホの電池交換程度であれば自分で作業してしまうタイプ。転職メディアを眺めていたところ、土谷特殊農機の「機械のメンテナンスをする仕事」という求人情報が目に留まりました。
「ホームページも調べ、酪農関係の機器や設備を扱っている会社だと知りました。環境に配慮したバイオガスプラントなどを手がけているのも面白そうでしたし、自分もいつか先端技術にふれられるのかもしれないと軽い気持ちで応募しました(笑)」
古川さんは2024年10月に土谷特殊農機具に転職。入社後は、先輩に同行してメンテナンスや修理の仕方を見学しながら、できる作業があれば少しずつ手を動かすスタイルで仕事を教わっていったそうです。
「最初は哺乳器の基盤を丸ごと入れ替える簡単な作業を任せてもらい、その後は給水器の修理や電気配線の接続などを覚えました。3カ月ほどが経ったころ、給水器の修理・メンテナンスに関しては一人でお客様先へ行けるようになりました」
インタビューの時点で、古川さんは入社からまだ4カ月。できる作業はまだまだ少ないものの、酪農家さんからの依頼に応えながら自分でスケジュールを組み立てて働けるところに魅力を感じています。
「前職では限られた時間内に作業を完了させるプレッシャーがありましたが、今は比較的余裕のあるスケジュールで修理や定期点検を行えます。加えて、酪農家さんはおおらかで優しい方ばかりですし、先輩方も分からないことは何でも聞ける雰囲気。心のゆとりが格段に増えました」
改めて気づいた水と空気のおいしさ
実は、古川さんの転職活動中に奥様が妊娠し、2025年2月に待望の第一子が生まれたばかり。引っ越し自体は大変だったそうですが、帯広市には産婦人科もいくつかあるため、出産にあたって不安は少なかったといいます。
「今のところ残業もほぼないですし、隔週土曜日が休みなので、子育てを妻に任せきりになるようなことはありません。子どもはまだ生まれたばかりで外出できない時期ですが、いつか十勝エコロジーパークのふわふわドームで遊ばせてみたいですね。そこは僕が幼いころに行って楽しかった思い出が強く残っている場所なので」
第一子が生まれ、ますます仕事に精が出る古川さん。
古川さんにとって帯広暮らしは約10年ぶり。商業施設が密集したエリアに住んでいるため、スーパーもドラッグストアも書店も徒歩圏内にあり、普段の買い物に困ることはまったくありません。「都市の規模感がちょうど良くて心地よいんです」と笑い、こう続けます。
「札幌に引っ越してからは、水道水があまりおいしく感じられなくて、ミネラルウォーターを買っていました。でも、帯広にUターンしてからは水がおいしくてビックリ。地元の空気ってこんなに新鮮だったっけとも感じています。人もセカセカしておらず、生活に疲れることがありません。この環境の中で、妻と子どもとのびのびと暮らし、仕事でももっと大きな案件に携われるようスキルアップしていきたいです」
こう語る古川さんの表情は、まさに「十勝晴れ」のように晴れやか。十勝エリアでのびのびと暮らし働く未来に大きな期待を寄せていることが手にとってわかるようでした。
- 株式会社土谷特殊農機具製作所
- 住所
北海道帯広市西21条北1丁目3番2号(西帯広工業団地)
- 電話
0155-37-2161
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