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まちおこしレポート
滝川市

命輝く瞬間を共に20170619

この記事は2017年6月19日に公開した情報です。

命輝く瞬間を共に

夢が叶うキャンプ場

北海道滝川市。標高286メートルの丸加山の裾野に広がる広大な丸加高原に、とあるキャンプ場が存在します。その名も「そらぷちキッズキャンプ」。「そらぷち」とはアイヌ語で「滝下る川」という意味で、滝川の由来となった言葉です。


ちなみにここ、ただのキャンプ場ではありません。
このキャンプ場の利用者は、日本国内に20万人いると言われている難病を抱えた子どもたちと、その家族なのです。

sorapuchi2.jpgそらぷちキッズキャンプの外観

今回お話を聞かせてくださったのは、事務局長の佐々木健一郎さん。ここが一体どんなキャンプ場なのか、詳しくお話をお聞きしました。

sorapuchi19.jpg実は大阪からの移住者の佐々木さん。施設内のツリーハウスにて

「ここに来る難病を抱えた子どもたちは、周りの同世代の子たちの『当たり前』が当たり前ではありません。外で遊ぶことはもちろん、キャンプが出来るなんて考えたこともない。そんな子どもたちがこの世界にはたくさんいます。しかし、ここでは『どうせ出来ないから』の概念を壊し、『外で遊びたい!』や『キャンプをしてみたい!』という子どもたちの夢を叶える場所として存在しています」。

毎年数回行われるキャンプの期間は参加者にとって365日の中の3泊4日なので、決して長くはありません。短い間ですが夢を実現することができる非日常のこの場所に、多くの子どもたちが訪れています。

「このキャンプ場は全国、全世界の病気とたたかう子どもたちを対象とし、皆さんを無料で招待しています。お金があるなしに関わらず訪れることが出来る場所にしたかったからです」と佐々木さんは話します。

どうして『キャンプ』にこだわっているのでしょうか?

「ここがキャンプに特化している理由のひとつは、『非日常』の世界で得た楽しかった思い出を、これからも頑張るための薬にしてほしいんです」。

人生で見るとほんの一瞬の時間。しかし、そらぷちで生まれた「キャンプの魔法」は「日常」に良い影響を与えてくれると信じています。

「ここは、そらぷちの活動に賛同していただいた皆さんの寄付により運営をしている公益財団法人です。北海道の魅力を知ってもらい、そしてこのキャンプ場の存在意義を理解してもらい、今では道外の企業からの寄付も多くいただいています。全国企業はもちろん、道内企業や滝川の企業からも支援していただいたり、北海道マラソンとも提携しており、チャリティーランナー制度のチャリティ先のひとつとして、『そらぷちキッズキャンプ』が選ばれていたりと、多くの企業や個人の方に支えられて今日まで運営できています」。

佐々木さんは本当に感謝しているんです、と支援団体企業のお話をしてくださいました。

医療体制も24時間のサポート

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2004年から動き出したこのキャンプ。2017年4月現在、このキャンプ場にやって来た子どもと家族の数は700人を超えます。全国から子どもたちが集まり、今では飛行機に乗ってまでやってくるご家族が非常に多いとのこと。

皆さん気になるのは、キャンプ中の医療体制ではありませんか?難病を抱える子どもたちが宿泊するとなると、もちろん医療のサポートも必要です。そこでキャンプ中は医療者(医師・看護師)が24時間体制で全ての医療サポートを行っています。他にも、ボランティアスタッフも参加し、子どもの数よりスタッフの数の方が倍多い万全の状態でキャンプをスタート。

また、子どもたちによって抱える病気も様々なのでその子に合ったサポートも徹底的に行います。食事も同様に、子どもたちそれぞれに用意。

子どもによっては担当医師が帯同してくることもあり、緊急時は提携している滝川市立病院へ行けるような手配となっています。帯同している医師も、本来は別の病院の医師ではありますが、緊急時は滝川市立病院の医師として治療行為を行うことが認められています。

キャンプ参加には、もちろん子どもたちの担当の医師の理解も必要です。
「ここで過ごす数日の間で、気持ちが楽しくなって闘病生活にまた戻れるようにという想いを理解し、賛同してくれる先生方が増えてきました。ここで過ごすことが治療に良いんですということは、はっきりと数字で提示することはできません。しかし、キャンプから帰って治療に前向きに臨めるようになったり、心が元気になることは間違いないと思っています」と佐々木さんは力強く話します。

施設内には、遊んでいる途中で具合が悪くなってしまった子どもが休めるよう、「ほけんしつ」も用意しているのですが、「病室」という雰囲気を出さないよう細部まで意識しています。そのため、看護師は白衣を着ません。それも、病室感を出さないための理由の1つ。さらに、点滴を必要とする子には可愛らしい点滴台が用意されています。

sorapuchi16.JPG案内してくれたスタッフの森川さんの横に並ぶ可愛らしい点滴台

「どれがいいかな」「これにしようかな」と毎回子どもたちは、わくわくしながら選ぶのだとか。
なぜここまでするのか?それは、いつも病院にいる子どもたちに、安心してキャンプを楽しんでほしいという想いがあるからです。

そんな「ほけんしつ」の中で取材陣の目に止まった大きな地図。

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どうやらここのキャンプ場の地図のようです。よく見ると、それぞれの場所に文字が書かれていました。例えば、「冬なのに花?発見!」「まん丸な枝があったよ!」「雪山頭つっこむ事件!」など、その現場で起こったであろう出来事が子どもたちの字で記されています。

「私たちにとっては普通のことも、ここに来る子たちにとっては全部が新鮮なんです」。
些細な出来事も、子どもたちにとってはどれも大きな思い出になっているようです。

出来ないと思っていた遊びが、ここなら出来る

北海道ならではの自然がたくさんあるからこそ、自然と触れあったり、乗馬に挑戦してみたりと様々な遊びがあります。冬の時期になれば、雪を触ったことのない本州の子たちにとって最高の遊び道具に。体が冷えすぎないように注意しながら、雪と戯れています。


「自分の思うままに、やりたいと思ったことが出来るように、私たちはサポートするだけです。『どうせ自分には無理』なんてことが、ここには存在しません。基本的に『できない、だめ』ということは言わないようにしています」。

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sorapuchi6.JPG普通の車イスに比べて、タイヤが大きくなっています。これで砂利道や雪道も楽々行けるのです

sorapuchi7.JPG手洗い場も、車イスの子が自分ひとりでも使えるように高さを合わせたり、車イスが入るスペースをつくったりと使いやすい設計に

幸せの連鎖は家族にも響く

「ここに来る子どもたちは、手術の跡が体に残り、みんなと一緒にお風呂に入るのが嫌だという子もいます。しかし、ここに来る子どもたちは同じように手術の跡が残っている子も多い。『なんだ、自分だけじゃないんだ...。』と、堂々と同世代の子どもたちとお風呂に入ることができて、辛いのは自分だけじゃないというのが励みのひとつになっているようです」。


また、子どもたちだけではなくその家族も同じだと佐々木さんは話します。
「お父さんお母さんはお子さんを看るために、自分のパジャマに着替える時間さえもない状態の時もあります。気づかぬうちに、負担は体に溜まっていってしまうもの。でもここでお子さんを預かることによって、お子さんに笑顔が生まれるだけでなく、ご家族にもつかの間の休息によって笑顔が生まれるんです。そんなお父さん、お母さんの笑顔を見て、子どもはさらに笑顔になる。『お父さんとお母さんの笑った顔、初めて見た』なんて話す子どももいましたね」。

医療者も含め、一番に家族が常にそばで支えている。キャンプに参加したご家族も、同じ悩みを持つ他のご家族に出会うことによって、そこで芽生えるものもあると言います。ここでの出会いを皮切りに、家族同士の仲も深まり一緒にディズニーランドへ行きましたなんて報告を受けたこともあるんだとか。

「子どもだけでなく、大人も仲間がいるんだということを知ります。そらぷちは、『いつも誰かを支えている人』を支えたい思っています。自分たちの家に戻って、思い出を胸に頑張る糧にしてほしいのです。私たちが、こういった活動を北海道から広めていき、いつかここ滝川市で実践していることを日本全国でも広めていきたいと思っています。みんなで支え合える社会にしたいのです」。

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「北海道じゃなきゃダメだったんです」

正直、自然がたくさんあるところは北海道ではなくても、全国にそのような場所はたくさんあるはずです。しかし、佐々木さんは「北海道じゃないと出来なかった」と即答しました。

「北海道には北海道のホスピタリティがありますよね。おいしい食べ物がたくさんあるのはもちろん。そして、良い意味でとてもおおらかですよね。ここみたいに広大な土地もある。人が集まりすぎない。だからこそ、北海道という場所は合っているのだと思います。私たちが意識しているのは、静かに横にいることですから。しかも、四季がはっきりしている北海道の大自然は非日常を演出するのにピッタリだと思いませんか?」

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北海道で、この滝川という場所でキャンプ場をつくることになった経緯は、医療者と造園家の奇跡の出会いがきっかけでした。

ある時、米国難病児キャンプというものに患児とともに参加した医師たちが、「ぜひ日本でも」と決意し立ち上がったこと。
そしてもうひとつが、元国土交通省の松本守さんを筆頭に、造園家たちが「バリアフリーの公園という考え方を超えて、病気の子どもの幸せをサポートすることができないか」と考え動き出したこと。

フィールドは違えど、同じ目標を持って同時に動き始め、運命かのように両者が出会い、手を組みました。滝川という土地に目を向けたのは、この事業の立ち上げから動いていた松本守さんの出身が滝川だったというのも大きなきっかけとなったそうです。

そんな2方面からの想いに、滝川市役所は賛同。バックアップに入り、日本で初めて、病気とたたかう子どもたちのための特別に配慮された常設のキャンプ場づくりが、実現に向け進み始めました。医療者がいて、造園家たちがいて、滝川市という3つが出会い、それぞれの『やりたい』という気持ちが合った瞬間でした。

sorapuchi.jpg広大な敷地が広がる中に、木のぬくもり感じる広々とした施設

受け入れてくれた滝川市民

「滝川に来た当時は、ここのキャンプ場施設の説明を市民に伝えるも、『難病の子どもって言われても・・・』と何とも言えない視線は、少なからずあったと思います。しかし、今ではそらぷちキッズキャンプという存在をしっかり受け入れてくれています。滝川には、新しいものを受け入れるというスタイルがありますよね」と佐々木さんは話します。


「今では、本州からのお客さんが来た時にここのキャンプ場を見せたいと連れてきてくれる人も多くなりました。皆さんまちの自慢の1つにこの場所を挙げてくれることもあるんです」。

ボランティアスタッフとしても市民の方がたくさん活躍し、今も尚その数は増えているとのこと。佐々木さんが住む滝川の家の大家さんもボランティアスタッフの1人なんだとか。他にも、滝川の農家さんや医療者、そしてキャンプに参加した子どもがボランティアスタッフとして活躍してくれているそうです。

sorapuchi9.JPGこの手作り人形はボランティアスタッフがつくっているもの。キャンプが終わったら参加した子どもたちにプレゼントしています。

そらぷちが伝えたいこと

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佐々木さんに、今後の目標を聞いてみました。

「まずはこのそらぷちキッズキャンプという存在を多くの方々に知ってもらいたいです。そして、難病を抱えるお子さんや親御さんに『ひとりじゃない』『仲間がいる』ということを伝えたい。
また、ボランティアスタッフはこれからも集めていきたいと思っています。寄付というかたちの支援も、私たちの今後の糧となります。少しでも、多くの子どもたちが参加できるように、皆さんとこの施設をこれからも大切に育てていきたいと思います」。

ボランティア登録はどなたでも出来るそうです。企業ではなくとも、個人でも応援ができます。少しでも気になった方は、そらぷちのHPもぜひ見てみてくださいね。

「ここに来たからと言って、病気が治るわけではありません。闘病生活に戻って、亡くなる子たちがいるのも事実です。産まれてきた時から親より先に亡くなる可能性が高い子もいます。ご家族が最後の思い出にいい経験をさせてあげたいという想いと、笑顔で撮影したここでの家族写真が宝物になったという声もいただきました。子どもたちも、一人じゃない、仲間がいるという想いを励みに治療に向き合ってくれることが出来ればと思っています。病気が辛くて死のうと思っていたけれど、自分と同じ人がいるなら頑張ってみようと思ったと実際に話してくれた子もいるんですよ。難病を持った子には、外に出るリスクを勘案しなければならないこともありますが、心が元気になる薬としてこのキャンプに参加してみるという選択肢をこれからも提供していきたい、そう思っています」。

偽りのない心からの笑顔を見せ、生き生きしている時こそが、まさに命が輝いている瞬間なのかもしれません。心から笑い、必死に生きようと、今を生きている子どもたちの輝く命の光を、そらぷちキッズキャンプはこれからも見守り続けていきます。

公益社団法人そらぷちキッズキャンプ
公益社団法人そらぷちキッズキャンプ
住所

北海道滝川市江部乙町丸加高原4264-1

電話

0125-75-3200

URL

http://www.solaputi.jp/index.html


命輝く瞬間を共に

この記事は2017年4月27日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。