上富良野町にある株式会社西塚清掃社は、富良野地区の人々の暮らしになくてはならない企業。一般廃棄物を扱い、ゴミの収集やし尿の汲み取り、浄化槽の設置や維持管理、上下水道の工事など、地域のインフラとライフラインを支える業務を数十年続けています。
西塚清掃社の業務は、いわゆるエッセンシャルワーカーと呼ばれる仕事。残念ながら以前は3K(臭い・汚い・きつい)と揶揄され敬遠されがちな仕事でしたが、近年は地域に根差した生活環境への貢献度と安定度から、就職先や上富良野町などで暮らしたい人の転職先として注目の企業です。日々どのような仕事をしている会社なのか、魅力は何なのか、転職をして社員として働いているお2人と代表取締役社長の西塚邦夫さんに現地でお話を伺いました。
世の中の生活スタイルの変化を支え成長してきた会社
西塚清掃社は、上富良野町を拠点に世の中の生活スタイルの変化とともに成長してきた会社です。創業したのは1960(昭和35)年。当時はまだ馬車が走っていて、畑のたい肥にし尿を使っていた時代です。西塚清掃社は、町内と隣の中富良野村(現在の中富良野町)内を対象に、馬車に桶を積んでし尿の汲み取りの業務からスタートしました。
時代が移るとバキュームカーが導入され、ゴミの収集業務も始めました。さらに年月が過ぎ公共施設や住宅に水洗トイレが普及していくと、浄化槽の清掃や点検などの管理業務、さらに浄化槽の設備工事から派生して水道工事など業務の幅が拡大。現在ではこれらの業務のほかに下水やトイレのつまりなどの清掃業務や、汚泥の再生処理施設の管理業務なども手掛けています。
業務エリアは上富良野町と周辺の市町で、会社から車で概ね1時間圏内で業務が完結します。つまり、引っ越しを伴う転勤がない会社です。
半世紀以上、地域のインフラとライフラインを支えてきた会社では、どんな方がどのような思いで働いているのでしょうか。そもそもなぜこの会社を目指したのでしょうか。まずは社員の古茂田佳昭(こもだよしあき) さんと菊池真由美(きくちまゆみ)さんにお話を伺ってみます。
異業種からの挑戦で浄化槽管理士に
古茂田さんは上富良野町出身で、2014(平成26)年に入社。以前は大豆などを扱う町内にある別会社に勤めていました。転職を考え始めた際、求人票で西塚清掃社の募集を見て応募をしたそうです。
「当時住んでいた家から歩いて行ける距離だったんですよね」と語る古茂田さん。現在も車で数分あれば出社できるそうで、職場の近さは就転職の大事な動機です。
長年上富良野町で暮らしてきたこともあり、地元のライフラインを支えていた会社ということは知っていたうえ、偶然知人が勤めていて会社の雰囲気や業務内容なども聞いていたそうです。職場の近さとともに、業務の内容や会社の雰囲気が自分に合うかはより大事なことで、業績やモチベーションにも大きく影響するはずです。
異業種から転職をした古茂田さんはしばらくの間し尿汲取り業務などに就き、入社3年後に国家資格の浄化槽管理士を取得。現在は主に各家庭などの浄化槽の点検や清掃が主な業務です。ちなみに資格取得に関する費用などは全て会社が賄ってくれました。
そもそも浄化槽とは、汲み取り式ではなく水洗トイレなどがある建物で下水道が通っていない地域に必ずあるもの。排水を微生物の働きなどで浄化をして河川などに放流するための設備で、定期的な点検や清掃が義務付けられています。
古茂田さんなど浄化槽管理士の資格を持っている方々は、契約をしている建物の浄化槽を決められた期間内で定期的に巡回して清掃や点検を行っています。
「私が受け持っているのはだいたい200件弱ですかね。行く頻度は個人のお家だと2カ月に1回くらいですけど、公共施設とか病院とか大きな建物だと利用者も多いですし浄化槽も大きいので、1週間に1回とか行きます」
個人の住宅だと1日に12~13件くらい回ることもあるそうです。
「ありがとう」と言ってもらえる仕事
浄化槽は基本的に地中に埋まっていて蓋が屋外に出ている構造なので、仕事の際に天候や気候の影響が気になります。
「屋根の雪が落ちるところにある浄化槽なんて、かまくらを掘るくらい雪かきをしてやっと蓋にたどりつくところもあります。排水の熱で浄化槽の蓋の周囲は多少雪が溶けていることが多いのですけど、気温がかなり低いと蓋がガチガチに凍っていて叩いても開かないってこともあります。なので、氷を溶かして開けられるように、車にプロパンガスとバーナー積んでいます」
真冬は積雪や氷が行く手を阻み、真夏は汗ばむ中での点検や清掃になります。なかなか大変そうではありますが、天候次第である程度自分の都合で予定を調整できるそうです。
「アポイントを取る必要はなく決められた期間内に1回行けばいいので、天気が悪い時は山のほうは行くのをやめて別の日にするとか調整できます。十勝岳の中腹にある温泉の凌雲閣にも月1回行くのですけど、天気のいい日だと眺めが最高ですね。『あー、綺麗だなー』って思うほど景色がよくて写真を1枚撮って帰ってくることもあります」
スケジュールの自由度があるということとともに、四季の自然を日々楽しめるのもこの仕事の魅力なようです。さらに、古茂田さんにとってそれ以上の一番の魅力を教えてくれました。
「訪問先では会ったことがない方もいますけど、挨拶に出てこられる方がけっこう多くて、世間話をずっとしちゃったりジュースを下さる方がいらしたり、お会いしておしゃべりすることがよくあります。話をするのも楽しいですし、その中で『いつもありがとう』って言っていただくことが多いは、この仕事のいいところだと思います。ちょっとしたことですけどね」
さまざまな人とコミュニケーションを取ることができ、「ありがとう」と言ってもらえることが何よりもの魅力だと言います。
「水が流れないって困ると思うので、みなさんの生活のためになるのが一番」と語る古茂田さん。地元に根を下ろし、地域の人たちとの交流や四季の自然を楽しみつつ、感謝をされながら日々仕事に励んでいます。最近は休日に釣りを楽しみつつ、自分自身のスキルアップのため浄化槽技術管理士という資格の取得も目指して日々勉強しているそうです。
事務職をしながら現場に目覚めて浄化槽管理士に
次にお話を伺った菊池さんは旭川市出身で、結婚を機に旦那様が暮らす上富良野町へやってきました。しばらくの間は上富良野町から旭川市や富良野市の勤め先に通っていたものの、家庭の事情で近所の会社への転職を考え、2021(令和3)年に西塚清掃社へ入社しました。
医療事務の資格や調剤薬局での業務経験はあったものの、町内に希望の業種の仕事がなかったそうです。「一般事務ならなんとかなるかなーと思って、見学に来させてもらったんですよ」と菊池さん。人のよさそうな社長に惹かれ、ここなら安心して働けると思い応募し、晴れて社員となりました。
普段のお仕事は事務服を着て接客や電話応対、請求書の作成などの業務を担います。その傍ら、つなぎを着て他の社員に同行をして清掃業務など現場に訪れることも。
「家の中丸ごとゴミの片付けをするってご依頼が最近多いんですよ。お年寄りの方が娘さんのところで一緒に暮らすことになったから家の中丸ごと片づけたいとか。私が行くのは年数回程度ですけど、現場の仕事けっこう好きです」
菊池さんはそれまで現場に出ることはもちろん、環境をよくする仕事に携わるなど思いもしたことがなかったと言います。実際に出てみて興味を持ち、好きが乗じてなんと資格を取得。これから浄化槽管理士としてデビューするのです。偶然にも、くらしごと編集部が取材に訪れた日の朝、浄化槽管理士の資格取得に合格したと連絡が来たそうです。
「社長に『興味あるなら資格取ってみるか』って声をかけてもらって。古茂田さんと一緒に現場を何カ所か見させてもらって、そのあと札幌市に泊まり込みで講習を12日間びっちり休みなしで受けました。あとはYoutubeに出ている試験対策とかも見て勉強もしました」
札幌市に行っている間、小学校5年生と1年生のお子さんは旦那様と一緒にお留守番。「行く前は泣いていましたけど、当日は大丈夫でした」と、不在の間も家庭は問題なかったのだとか。事前に洗濯やトイレ掃除なども教えて役割分担して覚えてもらうなど、むしろお子さんの成長にもつながったようです。受験費用や滞在費も会社持ちで、家計への影響もありませんでした。
プライベートではお子さんの成長が何よりも楽しみという生活。仕事では新たな門出を迎え、ご自身の成長を楽しんでおられる様子です。
「意外と力仕事も好きなので、女性だからと気を遣わずもっと頼ってもらっていいのにって思うこともあります。もちろん、もしも事故が起きたらってことが一番にあるので仕方ないことかもしれませんけどね」
やる気満々な菊池さん。これからは既存の事務の仕事をメインで進めながらも現場にも出ていき、マルチプレイヤーとして活躍していくことになります。
社長に就任して直面したのは人材の確保
最後に、会社の陣頭指揮を執る西塚社長にお話を伺いました。西塚清掃社を創業したのは西塚さんの祖父で、その後両親が会社を継ぎます。西塚さんは一度町を出て札幌市の設備会社で働いていましたが、家庭の事情で1990(平成2)年に上富良野町に戻り入社をしました。しばらくの間は母親が社長を務める中、水道の工事を中心に、汲み取りや清掃などさまざまな仕事で現場に立ってきました。
西塚さんが社長に就任したのは2010年代になってから。社長へ就任して間もなく、富良野市が運営するし尿や生ごみの処理場の運転管理業務を受注し、会社の規模がより大きくなりました。「先代が築き上げてきたレールがあったので」と謙遜する西塚さん。この当時の課題は人材の確保だったそうです。
「受注した案件、前は別の会社が運営されていたのです。前の会社の方々が当然いらっしゃるわけで、そこを頭下げて残ってくださる方はうちの会社に入って残ってもらえませんかってお願いをしました」
少ないながらも会社を移籍してくれた人もいて、業務が拡大する中で働く仲間を増やすことができました。
若年層の採用活動は、地域に残って暮らしてもらうため
人材の確保は積年の課題。ここ数年は今まであまり手掛けてこなかった若年層の採用、特に高校卒業の新卒者の採用にも意欲的に取り組むようになりました。
「若い人たちは『汚い』『臭い』って敬遠されるので無理だって募集していなかったんですよ。でも、最近はイメージも変わってきていますし、環境問題とか一生懸命学校で勉強する時代になりましたよね。少しずつ見かたも変わってきているので、募集したら来てくれるようになるのではと考えました」
西塚さんは高校生にもわかりやすいようにと、自社の業務の内容や雰囲気などを非常に平易でわかりやすい資料にまとめました。資料の中には、西塚清掃社で働くことでのメリットとデメリットも包み隠さず簡潔に記しているのが印象的です。
例えば、地方の転勤がなく残業が少ないこと、安定している業界であること、職種の幅が広いので飽きない反面、多くのことに対応する必要があること、盆暮れ正月や連休の休みが少ないこと、3Kのイメージが強いことなどです。
これらの情報を自社のホームページに掲載をしているほか、社長自ら富良野地区の各高校や旭川市の高校に出向いて資料を配って説明会も開いています。
「生徒さんには受けがよくないのは確かです。先生や親世代の方々には好評なんですけどね。高校生を口説き落とすのはハードル高いかもしれないのですけど、環境をよくする仕事って、イメージが少しずつ変わってきているようには感じます」
その甲斐もあり高卒者が2名入社。その方々は入社後に残念ながら別の地域に引っ越すことになったなどの理由で退社してしまいましたが、今まで新卒者がいなかった会社にとっては大きな一歩です。
「たまたまかもしれませんが定着には結びつかなかったんですよね。その点も課題だなと思います。中高年の世代が若い人たちとどうコミュニケーションを取っていくかってことも大事なことだと思います。仕事の教え方や教わり方も昔と今では違いますし、遊び方も違いますよね。そこは私たちが勉強して理解して頑張らないといけないところです」
世代間のさまざまなギャップを埋めるためにも、旧来の仕事の進め方やコミュニケーション方法にはこだわらない考えです。また、年代の偏りをなくしていくためにも、若年層の採用とともに20代や30代などの中途採用も意欲的です。
高校生など若手世代へのアプローチは、たとえ振り向いてもらえなかったとしても続けていくことに意義があると語ります。
「半分ボランティアだと思っています。もちろんうちに入社してくれれば一番嬉しいのですけど、やっぱりこの地域に人が残っていただくことが一番大事だと思うんです。地域に残って暮らすということは、トイレも使うしお風呂も入るので、うちの仕事に結びつきますしね」
人口減や高齢化、地域の衰退など、さまざまな課題がある世の中の現状に対する宿題だと思っているとも語られました。
なくならない仕事であり、なくしてはいけない仕事
ゴミ収集の仕事や浄化槽の点検業務など、西塚清掃社が手掛ける仕事は、人が生活している限りは絶対に必要な仕事です。
「業界の集まりで長の人がよく言うんですが、一般廃棄物の仕事って人口減少などで仕事が細くなってはいくけど、なくなりはしない。だからそれは安心していいんだけども、最後の1人がいなくなるまでなくしちゃいけない仕事なんだ。お前らそれは心して仕事にかかるんだって、おっしゃるんです」
西塚さんをはじめこのお仕事に就く方々の業務は、なくなりはしない仕事で、なくしてはいけない仕事。地域の人たちが嫌がる作業やできない技術を提供し、喜んでもらえる仕事です。富良野地区に人々が暮らしている限り、西塚清掃社はこの地に根を張り続けて支えます。
- 株式会社西塚清掃社
- 住所
北海道空知郡上富良野町北町1丁目4-10
- 電話
0617-45-2312
- URL