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まちおこしレポート
むかわ町

希望と明かりを照らす、NPO法人marge(マージュ)20240307

希望と明かりを照らす、NPO法人marge(マージュ)

ある日の取材帰り、高速道路から「むかわ」と輝くイルミネーションを発見。なんでも、とあるNPO団体が自費でイルミネーションを灯しているとのこと。さっそく取材に伺うと、移住して新規就農した若手と地元出身のベテラン社長のコンビがまちづくりのために奮闘していました。

大学卒業後に営業の仕事に携わるも、農業の夢を諦めきれず...

NPO法人marge(マージュ)の理事長をつとめる岡松 諒さんは福岡県出身。北海道大学農学部の進学を機に北海道に足を踏み入れました。大学在学中はYOSAKOIに熱中し、チームを立ち上げるなど精力的に活動。その中で、YOSAKOIソーラン祭りの運営の一部にも一年間関わったと言います。

marge_13.jpg明るい笑顔でお話ししてくれた岡松理事長

「学業との両立に苦労しながら、なんとか卒業しました(笑)。大学卒業後は東京本社の会社に勤めて、営業職で大阪の支店に配属になったんです」

その後、3年間の営業経験を経て、友人から「進学塾を一緒に起業しないか?」を声をかけられ、学習指導をする塾と、農業体験などができる両方の塾の起業を目指して東京に移住しましたが、土地価格や事業の厳しさに直面して、夢をかなえることができなかったと言います。

挫折しかけたその時に思い出したのが、大阪時代に出会った町工場のことでした。

「リーマン・ショックの影響で仕事がなくなり、途方に暮れているとき、営業先のとある町工場の社長が、小さなものづくりに尽力する姿に魅了されたんですよね。その経験から、自分のこだわりを大切にできる分野に身を置き、人生を楽しむべきだと気づいたんです」

そして、大学の時から思いを抱いていた農業に、北海道の地でチャレンジしようと考えます。農業に関する情報収集を進め、新規就農者を募るイベントに参加。その出会いが、岡松さんの人生を大きく変えることになったのです。

農業者として独立するために北海道へ。しかし...

まず、岡松さんが参加したのは新規就農フェアでした。しかし、ここで大きな問題に直面します。

「ある町の担当者に、『独身では研修が受けられない』って言われたんですよ。どうしよう...と思っていた時に手招きしてくれた方が『うちなら独身でも受け入れOKだよ』って。それがむかわ町の担当者だったんです」

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独身でも農業研修を受けられる、札幌や新千歳空港へのアクセスが良い、新規就農へのサポートが手厚いことから、むかわ町に移住することに決めたと言います。

そうして岡松さんは単身でむかわ町へ移住。農業研修を受けます。研修を終えていざ独立となったのですが、「仲間でも親戚でもいいからだれかもう一人いないと事業の継続は難しいよ」とアドバイスをもらいます。

marge_5.jpgこどもたちにも恵まれ、むかわ町での生活がより楽しくなったと言います

「当時、学生時代から付き合っていた彼女がいたんです。私が就職で大阪に行くからと、札幌から大阪までついてきてくれたんですけど、私が東京に行くことになり、彼女を大阪へ置き去りに...。さらに北海道で就農するとなると、ついてきてくれるか不安で仕方なかったですね」

しかし、彼女は岡松さんのお願いを快諾してくれました。二人は結婚して、農業に取り組むことになります。

「だから妻には頭が上がらないんです。こんな自由奔放な僕についてきてくれたんですから」

marge_04.jpgむかわの名産、春レタス。岡松さんも生産しており、収穫は3月中旬~4月上旬を予定

農業の道に進む中、岡松さんは春のレタス、夏のトマト、秋のほうれん草、冬のニラなど、計画的に四季折々の作物に取り組んだと言います。現在は特にレタス、トマト、ミニトマトの生産が主力となっていますが、挑戦心旺盛な岡松さんはイチゴ栽培にも取り組み始めました。

「この新しい挑戦には妻も共感して手伝ってくれていますが、未だ収益が上がっていません。しかし、やり続ける理由として、採算だけでなく、自分たちの夢やこだわりを大切にし続ける姿勢が大事だと妻に教えられましたね」

今では地元の農家の方々からのサポートも受け、畑での体験を通じて消費者と生産者との交流を深めています。

竹田さんと出会い、NPOを立ち上げた目的は...

marge_11.jpg竹田さん(写真左)との出会いで「人生観が変わった」と岡松さん(写真右)

農業に取り組む岡松さんに農家さんが紹介してくれたのが、現在margeの副理事を務める竹田さんでした。

むかわ町出身の竹田さんは、土木建築業の社長。過去には道内の大手ゼネコンで道内を走り回っていました。各地の行政のことに詳しい竹田さん。「町をよくしたい」という思いから、数多くのアイデアを企画書にして提案し続けてきました。

そんな竹田さんと出会い、様々なことを学び、「人生観が変わった」と岡松さんは話します。農業に関しても、「とにかくいいものを作ろう」と考えていた岡松さんに竹田さんはこう言いました。

「農業は単に作物を作るだけでなく、消費者側の気持ちも考えながらやっていかないとだめだよ」

このとき岡松さんは、竹田さんの言葉にハッとしたと言います。竹田さんの人生経験やビジネスの考え方に触発されていきます。

marge_12.jpg『こうした方がいいんじゃない?』とイルミネーションに意見を出し合う岡松さんと竹田さん

そして2018年9月6日、北海道胆振東部地震が発生。地域の方々が食料の調達に困っている中、竹田さんから、

「君たちの農家がどんなものを作っているのか、どんな活動をしているのかなどを知ってもらうために、余った野菜を被災地や必要な人たちに提供してみたらどうか」と言われたんです。

岡松さんは当初、自分の生計が厳しい中での提案にとても悩んだと言います。ですが、実際に野菜を提供し、相手の喜ぶ顔を見て、人々に喜びや感謝を届けることの意味に気付けたそうです。

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「竹田さんとの交流は、農業のビジネス面だけでなく、地域とのつながりや社会的な責任についても学ぶ機会となりました。本当に色んな事を学ばせていただいていますね」

そんな竹田さんに、「将来的になにをしていきたいのか?」と尋ねられました。岡松さんは、「みんなが語り合い、地域の人々が集まる場所をつくりたい」という思いを伝えると、竹田さんは、

「それだったら一人でできることには限界があるからNPO法人を立ち上げよう。NPO法人なら、個人でやるよりも自治体の助けも受けやすくなって、取り組みが長期的に持続できるようになるしね」と背中を押してくれたのです。

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そうして2021年の12月、岡松さんはNPO法人margeを立ち上げます。最初は、かねてから岡松さんがやりたいと思っていた、農業や防災などの通年型の体験学習を中心にスタートしました。

これは、竹田さんが過去に作成した企画書を基に、「地域の文化や職業を通じて訪れる人たちに新たな体験の場を提供したい」という思いを実現する取り組みだったと言います。

「竹田さんの企画書は、15年から20年前のものでありながら、今なお通用するアイデアを秘めていたんです。竹田さんの長年にわたる地域への提案と積み重ねられた経験が、現在の活動にいかされているんだなと改めて実感しましたね」

margeは、地域振興と共に地域文化の継承や新たな観光資源の創出を目指して、地道な活動を進めています。

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街と希望に明かりを照らす、イルミネーションプロジェクト

margeを立ち上げた1年目にはじめたのが、イルミネーションのプロジェクト。

「コロナ禍で暗いニュースが続く中で、イルミネーションの明るい光で地域を照らして、人々に喜んで欲しいと思ったんですよね」と竹田さん。

「竹田さんにイルミネーションを『やれやれ!』と言われて...。せっつかれながら始めたんです(笑)予算は竹田さんが出してくれましたが、手作りでなるべく節約しながらパネルやLEDを調達しましたね。毎日寒くて大変でした」と岡松さんは笑います。

marge_7.jpg子どもたちのデザインをもとにした、むかわ竜(カムイサウルス)、シマエナガ、トマト、メロン

竹田さんの土木業の経験から地域の景観法やリスク管理にも配慮しつつ、手作業で作り上げたイルミネーション。初年度から多くの反響があったそうです。

点灯し始めて数日後には、SNS上での情報が広がり、近くの通行者が立ち寄ったり、高速道路を走る車がわざわざ降りてきてくれたりと、写真を撮る光景が続出したといいます。

「このイルミネーションがあることで、高速道路を走っている人に『いまむかわ町にいるんだな』って気付いてもらえます。『いまむかわ町だからもう少しで目的地に到着だな』とか『次来たときにここに寄ってみよう』と思ってくれるだけでも大きな意味があるんです」と竹田さんは言います。

 marge_23.jpg日高道鵡川インターチェンジから西に約2キロの地点の南側に設置。イルミネーションは、通りかかる人の目を楽しませています

「誰にも言ってなかったんだけど、点灯期間がなんで2月14日までか知ってる?表向きはバレンタインまでって感じなんだけど、実はおれの誕生日が2月10日だから、それまで点灯したかったんだよね(笑)」

この竹田さんの話に岡松さんも取材班も大笑い。しかし、それが功を奏し、地域の人々は冬季においてもイルミネーションに癒され続けることができました。

このイルミネーションプロジェクトはさらに展開し、2年目からは地元のこどもからデザインを募集。2年目には15点のデザインが集まり、今年は応募数が70点と4倍以上に増えました。さらにイルミネーションの点灯式も行うなど、子供たちと地域の交流も深めています。

marge_10.jpg過去のイルミネーション写真をスマホで見せてくれました

「来年以降も、このプロジェクトが地域のコミュニティに新たな希望と楽しさを届けることができるように、頑張って続けていきたいですね」

イルミネーションプロジェクトの未来について、

「高速道路の降り口から国道まで、ずっとイルミネーションが続く『イルミネーション通り』を作りたいんですよね。これにより、地域の人々が交流しやすくなり、地域全体が盛り上がることが期待できます」と竹田さんは言います。

岡松さんと竹田さんの夢に共感した人々が増え、プロジェクトの成功を見守りながら、「今年のイルミネーションも良かったよ」と声をかけてくれる人も増えてきました。

地域の期待に応えるため、プロジェクトはさらなる展開を検討しており、地域振興に向けてコミュニティと協力し、明るく希望に満ちた未来を築くために邁進しています。

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「楽しく学べる防災」をコンセプトにむかわ町と協定締結

むかわ町とNPO法人margeは、災害時だけでなく、常日頃からむかわ町と協力して防災に取り組む地域防災協働体制の協力に関する協定書を締結しました。

これは、地域住民が楽しみながら学べる防災の場を提供するための取り組みで、地域全体の安全対策が進むことが期待されています。

「胆振東部地震が起きてからは、自分自身で身を守っていかないといけないと強く感じました。こどもたちから大人まで、常日頃から防災の意識を持っていて欲しいですね」

2023年11月には、震災5年イベントとして、「みんなで楽しく学ぼう!むかわ町復興応援フェスタ」を開催。margeはイベントの実行委員長として、企画から運営までを担当しました。

marge_21.jpg防災イベントのブースでは簡単な「ろうそくランタン作り」を行いました

「震災復興の講演会から、簡易トイレや被災地の暖を取る足湯体験等の防犯グッズの展示、ランタン製作体験や防災風呂敷活用体験等の防災体験ができる盛りだくさんのイベントになりました」

災害を経験した地域だからこそ、地域における防災の意識を高めて普段から備えることが大切なのだと岡松さんはいいます。

「具体的な取り組みの一環として、今年中に大規模な防災イベントを予定しています。むかわ町は、震災被害が大きかったエリアでもあるため、高い防災意識を持つ地域住民に向けて、普段からの備えを楽しむ機会をつくりたいとアイデアを出し合っています。イベントにはこどもだけでなく、障がいのある方も含め、広く町民が参加できるように工夫していく予定です」

marge_20.jpg防災イベントにはたくさんの方に足を運んでいただきました

NPO法人名のmarge(マージュ)とはフランス語で「余白」という意味。私たちにほんの少し、相手や周囲を受け入れられる心の余裕「余白」があれば、きっと相手の挑戦や悩みを受け入れて、励まし、応援できるだろう。そんな優しさが集まる空間であって欲しいという思いから名付けたそうです。

「様々な人が交流できる場所を創りたい」と奔走する、岡松さんと竹田さんの冒険はまだまだ続きます。

NPO法人 marge(マージュ)
住所

北海道勇払郡むかわ町田浦141

電話

0145-47-7812

URL

https://h-marge.com/


希望と明かりを照らす、NPO法人marge(マージュ)

この記事は2024年1月30日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。