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農福連携で日本の障がい者福祉を変えたい。カレイドスコープ20240425

農福連携で日本の障がい者福祉を変えたい。カレイドスコープ

近年、農福連携という言葉を見聞きしませんか?農業と福祉の連携のことで、障がい者が農業分野での活躍を通じ、障がい者の生きがいや仕事の創出と、農業の人手不足解消を目指しています。
日本各地で農福連携の取り組みが行われていますが、今後世の中を激変させるのではないかと思うほど、革新的な取り組みをしている農福連携コーディネーターが北海道にいます。札幌市を拠点に近隣市町村をフィールドに活躍する、合同会社カレイドスコープの加藤純平さんです。
加藤さんがどのような取り組みをしているのか、何を目指しているのかなど、じっくりお話を聞いてみました。

農業目線の農福連携を推進

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加藤さんが運営するカレイドスコープは、障がい者福祉に関するさまざまなコーディネートを担う会社。農福連携など、農業と福祉をつなぐ民間の中間支援組織としての立ち位置で仕事をしています。
主な業務内容をかいつまんで説明をすると、人手が足りない農家さんから農作業を受託し、障がいのある方で働きに出たい方を農作業の現場に派遣して作業をしてもらうという一連の流れをコーディネートする仕事です。農家さんから得た受託料から作業をする障がい者へ報酬を支払い、残りの一部が手数料として会社の収益になるというビジネスモデルです。


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加藤さんは、農福連携には大きく2つのパターンがあると言います。1つは福祉目線の農福連携。もう1つは農業目線の農福連携。

「農業目線の農福連携でないと意味がないと思うんですよね」と、加藤さんは言います。

昨今日本各地で行われている農福連携の大半は、前者の福祉目線が多いとのこと。この場合に障がい者が農作業をする目的は、障がい者自身の体調を整えるためや就職に向けた訓練をするため。労働や雇用というよりも療法の一つという視点で、主に福祉事業所の農園などで作業をしてもらうというパターンです。
加藤さんは、労働や雇用という視点での取り組みで、戦力になる障がい者が依頼先の農家に行って作業に就き、障がい者自身が適正な報酬を得るという農業目線での農福連携を目指しているのです。

加藤さんのこれまでの経歴を伺いつつ、そこへ至った背景を探ります。

たまたま入った福祉の世界で感じた疑問や課題

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加藤さんは1991年生まれ。札幌市内の高校を卒業したのちしばらくの間、アルバイトをしながら趣味の釣りに明け暮れていたそうです。20歳の頃、知人に「福祉施設で運転手が辞めちゃったからかわりに入らない?」と誘われたのをきっかけに福祉業界へ入りました。当時は福祉に対して特別な想いや前向きな意向があったわけではないものの、正社員に登用され、夜勤を務め、高齢者の介護や障がい者の介護などに就きました。

「親の介護のために仕事を辞めるって、僕は間違ってると思いますし、障がいのある子供の介護のために親が仕事を休むというのも間違ってると思います。なぜ休んだり辞めたりしなきゃいけないかと言うと、そこに必要なサポートがないからなんです。現状としてそうせざるを得ないんですよね」

加藤さんは、福祉業界に足を踏み入れてから、日本国内の福祉の世界に対する数々の疑問や課題を実感してきたそうです。モヤモヤとした気持ちを抱えつつ約7年間、同法人内の高齢者小規模多機能事業所と障害者グループホーム、就労継続支援B型事業所に勤務。就労支援の事業所に所属し、退社をする直前に大きな転機が訪れました。札幌市白石区にある原木シイタケの農園でのことです。

「原木シイタケの隣で生キクラゲの栽培をしてたんですが、僕が会社を辞めるタイミングで生キクラゲも栽培をやめるという話を聞いたんです。『じゃあそれ全部ください』とお願いして、新篠津村で生キクラゲ栽培を始めたんですよ。枝豆と大豆が同じ豆って知らなかったくらい、農業には疎かったんですけどね」

農福連携のコーディネートをスタート

行動力と交渉力に長けた加藤さん。2019年に障がい者の就労支援を行う合同会社カレイドスコープを立ち上げるとともに、新篠津村内で畑と倉庫を手に入れて生キクラゲ栽培を始めました。この年の秋頃から、近隣農家との繋がりから農作業を手伝うようになり、新篠津村農協主催の農福連携勉強会も開催しました。
地域とのつながりが深まる中、近所の農家さんから「予定していた派遣の人が急に来なくなったので手伝ってほしい」という依頼が。障がい者をアテンドしたところ、農家さんに大好評。「仕事ができるし、毎年続けば田植えの時期の即戦力になる」と、継続依頼すると伝えられたそうです。近隣のほかの農家さんからも声がかかるようになり、自社での人手が足りず、知り合いの事業所に声をかけて障がい者をアテンドするようになりました。
ここで、長年福祉業界に務めてきて疑問に感じたことの解消に努めます。


「紹介をするのに無料はおかしい。手数料をいただこう」
「農福連携の多くの場合、作業内容はパートさんと変わらない作業をしているので、作業内容に応じた報酬をいただくよう農家さんへしっかり依頼しよう」

2020年の春、加藤さんが提唱する農業目線での農福連携のコーディネート業が始まりました。

農福連携コーディネートは「町おこし」にもつながる

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加藤さんが取り組むコーディネーターの一番の仕事は、農業者や企業と、福祉事業所との間の溝を埋めてつなぐこと。両社の課題の確認とともに、マッチングした時に作業を効率よく進めるためのマニュアル作りや現場環境の把握、さらに工賃の交渉など、やることは多岐に渡ります。

「農家さんと福祉事業所が1対1なら両社で話し合ってできるでしょうけど、相手が5社や10社にもなると、間にコーディネーターがいないと絶対大変だと思います。なので、そこをうちが引き受けて、その分の手数料で運営しているのです」

取引をする農家さんや農業法人は、新篠津村内のほか、栗山町や安平町など札幌周辺の市町村へ続々と広がっています。自前の施設としてはシイタケ栽培の農園とともに、収穫したシイタケをパック詰めする加工場も札幌市内に作りました。農園での収穫作業はもちろん、パック詰めする加工施設も障がいのある方々が働く場。自社に登録をしている障がい者も年々増えて2024年2月時点で約65名、運営するスタッフも約25名になりました。
さらに、農福連携から派生し、札幌市内の清掃業などにも障がい者のアテンドをするなど、同じスキームを生かしてさまざまな業界へも展開しています。

「農福連携って言葉を使ったほうがわかりやすいから使っていますけど、農福連携というか農業は一つの選択肢に過ぎないと思っています。やりたいのは農業ではなく障がい者福祉の仕事なので」と加藤さん。

地域の産業に障がい者が働くことにより地域の活性化にもつながるため、農福連携のコーディネートは「村おこし」や「町おこし」だとも語ります。

「町おこしのために地域の名産を作ろうとしても、10年後にも残る商品を生み出すのはなかなか難しいと思うんですよ。でも、例えば障がいのある方20名が住める空間を作ったら、それだけで人口は20名増えますよね。これがグループホームの形なら、生活サービスと就労サービス、それぞれ1つずつ会社を設立できるんです。20名分の仕事も必要になるので、農業とか地元の産業の人手不足やなり手不足の解消にもなります。人口が数千人の町や村にとってはけっこう大きいことだと思うんです」

こんな加藤さんの発想や想いを具現化する取り組みの一つが、2023年に安平町内に設立した福祉の受け皿となるNPO法人「いんくるらぼ」。農福連携にこだわらない活動拠点で、障がい者や高齢者の福祉、子育て支援などさまざまな地域の課題解決に取り組む組織です。障がいの有無や年齢、性別に関係なく誰もが福祉を享受できるようになることを目指しています。

さらに、2024年夏頃にはユニバーサル農園をオープン予定。以前栗山町内で間借りしていたシイタケ農園を移築し、安平町や周辺市町の障がい者の雇用の受け皿として稼働する予定です。

プロデュースと管理に徹底

ここ数年で一気に事業領域が広がり、拠点も札幌近郊とはいえ広範囲に及ぶ中、加藤さんはどうやって仕事を回しているのでしょう。ふと気になり尋ねてみると、「LINEで全部できちゃいます」と驚きの返答が。
加藤さんのコーディネート業のスタイルは、プロジェクトの立ち上げ時はじっくり入りこみ形作りますが、動き出したら自身の役目は全体管理とトラブル対応や相談対応くらい。あとは現場をしっかり任せられる責任者に管理を一任します。
例えば、シイタケ栽培に関して加藤さん自身も多少なりとも知識や経験がありつつも、日々の栽培など品質管理はシイタケ栽培のプロに任せるようにしているのだそう。


「僕が関わるのは、立ち上げとスタートの時以外、あとは管理のところだけ。でないと回らないですよ(笑)」

人に託しても運営がしっかり回るようにする仕組み作りも、コーディネート業では大事なポイントです。現場の人を信頼し、その方々のモチベーションがアップしていくような心がけも求められるはずです。

障がい者に健常者と同等の報酬と働き口の選択肢を

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加藤さんの人への想いは、スタッフはもちろん障がい者の方々に対しても同様です。

「最近働いている農作業 チームは、うちのパート雇用や正社員雇用までステップアップできる環境は作っています。『今まではスタッフ数名の中の1人だったけどこの先はみんなの代表、管理者だよ』って責任感を持つこともできますし。人生って多分そういうもんですよね」

こう熱く語る加藤さん。キャリアアップの可能性を示すだけではなく、障がい者の方々に対して健常者と同等の報酬を提示するのはもちろん、農業のみならず仕事の選択肢を多数作って用意をして受け入れています。

「障がいを持って生まれたがために、高校1年生の時にどんな仕事にしたいか決めて、2年生で職場の実習をいくつかして、3年生で会社を決めてそこに行く前提で実習するんですよね。日本の障がい者福祉の現状だと。うちは10年 くらいかけていろんな仕事をやって、その中から得意なこととか好きなことを見つけて、この仕事で食っていこうと思った時にそこに入ればいいんじゃないかなって思ってやっています」

福祉業界に入り障がい者福祉の世界を見てきて感じた疑問や課題を埋めていくのも、加藤さん流の農福連携コーディネート業です。

「いろんな仕事を作れたらいいなって考えが、事業をスタートした時からありました。農業だけじゃないですし、清掃業務とか加工業務もあるし、イベントとかもあっていろんなことができます。得意なことや好きなことを見つけられるような就労支援事業所というのがうちの強みです」

福祉目線ではなく農業目線での農福連携で、さらに農福連携から農業以外の分野にも横展開をしているからこそ、適正な報酬と多種多様な働き口を提供できるのかもしれません。

日本の障がい者福祉を変えていきたい

カレイドスコープを立ち上げ、ここ2、3年で一気に進めて軌道に乗せた加藤さん。さまざまな展開をスピーディーに進めているだけあり、1年後は何をしているか全く想像がつかないと言います。ただ、何をするにしても全てにおいて共通するベースは、障がい者福祉に関わること。農福連携は取り組む事業の中であくまで一つの手段にすぎず、障がい者福祉の世界をよりよく変えていこうというのが加藤さんの想いです。


「障がい者福祉は社会インフラだと思っています。目指しているのは、障がい者福祉の商社みたいな感じかもしれません。障がい者が税金に助けられるだけではなく、障がい者自身が働いて稼ぎ、納税者になる。そのための仕組み作りが僕の仕事です。日本の障がい者福祉を変えていきたいんです」

13〜14人に1人が何かしらの障がいを持って生まれると言われている昨今。加藤さんが思い描く障がい者福祉の商社がより軌道に乗って各地へ伝播したら、障がい者にとっては健常者と同様の賃金があたりまえとなり、働き口の選択肢がより増えるかもしれません。そして、働き手が欲しい企業や人口減に悩む地域の救世主になり、さらには税収増につながる可能性もあります。

加藤さんが手掛ける事業を覗いてみると、変化に富んだ多彩な事業が万華鏡のごとくキラキラと輝いて見えました。カレイドスコープを回して大きくしていくことで、地域の活性化にもつながり、明るい未来へと激変していく予感がしてなりません。


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合同会社カレイドスコープ
住所

北海道札幌市北区屯田5条4丁目7番24号

URL

https://kaleidoscope-sapporo.com/


農福連携で日本の障がい者福祉を変えたい。カレイドスコープ

この記事は2024年2月26日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。