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学校と学生の取り組み
厚岸町

地元の魚の価値を高めたい!高校生が考える未利用・低利用魚活用20230320

地元の魚の価値を高めたい!高校生が考える未利用・低利用魚活用

釧路と根室のほぼ中間、南側に太平洋が広がる厚岸町。深く入り込んだ厚岸湾の奥には、プランクトンが豊富な汽水湖・厚岸湖があり、滋味あふれる牡蠣やアサリが獲れます。また、今年の9月には、「全国豊かな海づくり大会」も厚岸町で開催されることが決まっています。

この漁業の町には、全道で唯一、普通科と水産科が併置されている高校「「北海道厚岸翔洋高等学校(以下、厚岸翔洋高校)」」があります。水産科は海洋資源科と呼ばれ、全国から生徒を募集。恵まれた海の資源を生かした授業が行われています。また、令和4年度からは、道内2校目の文科省「マイスター・ハイスクール事業」の指定校となりました。マイスター・ハイスクール事業とは、職業高校・専門高校を対象にしたプログラム。今の産業界に足りない最先端の技術や知識を学校で身に付け、卒業後すぐにその業界で活躍できる人材を育成するというものです。

syouyoukoukou22.JPG高台からのぞむ厚岸の街並み
今回は、昨年12月に全国水産・海洋高等学校生徒研究発表大会に北海道代表として出場し、奨励賞を受賞した同校海洋資源科生産コース3年の平井秀太さんと箭内廉三さん、そして担当教員の鶴岡理先生に、研究発表や授業についてお話を聞きました。

北海道代表として、3年連続で研究発表の全国大会へ

全国の水産や海洋関係の専門高校の生徒たちが、自分たちで調べた研究成果を発表する「全国水産・海洋高等学校生徒研究発表大会」。この大会へ出場する前に、全道大会「全道水産クラブ研究発表大会」があります。実は厚岸翔洋高校は3年連続で全道大会第1位を獲得し、全国大会へ出場してきたという実績を誇ります。

syouyoukoukou20.JPG左から、箭内廉三さん、平井秀太さん、担当教員の鶴岡理先生

3年連続全国大会へ導いているのが、鶴岡先生。北海道大学水産学部を卒業し、その後博士課程まで進んだという水産動物学の専門家です。「教員になるつもりはなかったのですが、学生時代に取れる免許はすべて取ろうと思って、教育実習に行ってみたら、結構楽しくて教員になってしまいました」と笑います。魚の分類が専門で、現在も生徒たちと一緒に研究活動を行ったり、論文を書いたりしているそうです。
その論文はなんと、北海道の日本海側で発見された、新種のカジカに関するもので、大学の後輩が発見し、共同で研究中なのだとか。
ちなみに、一番好きな魚は?の質問には、しばらく迷った挙げ句、「全部」と答えるあたり、さかな愛が伝わってきます。

さて、同校では3年生になると、「課題研究」という授業があります。これは、これまで学んだことをベースに、生徒がチームに分かれ、それぞれ研究テーマを決めて調査などを行うというもの。高校生活の集大成のようなものだそうです。平井さんと箭内さんが手がけた未利用・低利用魚の研究もこの授業を通じて行ったもの。今年は6チームに分かれ、担当教員や外部指導者といった合計11人の大人がサポートに入り、研究を進めていきました。

syouyoukoukou2.JPG当日は、ちょうどマイスターハイスクール運営員会の開催日。委員長である町長はじめ、委員の皆さんが一同に会する中で、2人の研究発表も行われました

平井さん、箭内さん、そして担当の鶴岡先生。実はサッカー部の部員と顧問という間柄でもあり、授業だけでなく部活動の時間も共に過ごしてきました。互いのことはよく分かっており、チームワークもばっちりだったよう。全道大会へ行く前の校内選考を勝ち抜け、全道、そして全国へ進出しました。

研究テーマは、大量の未利用・低利用魚の有効活用について

平井さん、箭内さんの研究テーマは「厚岸の未利用・低利用魚の研究~アメマスを例に~」。水揚げされる魚の中には、おいしくない、鮮度の落ちるスピードが早い、漁獲量が少ない、さばくのが手間...といった理由から、飼料原料として安価に引き取られるか、捨てられてしまう魚が大量にあります。2人は、厚岸の未利用・低利用魚の中でも、魚粉原料以外に利用されないアメマスを取り上げ、その有効活用を研究しました。

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ちなみに、他のチームのテーマはというと、、外来種であるウチダザリガニについて、はえ縄漁業の安全操業についての研究、など、どれも興味深いものばかり。

平井さんと箭内さんがこのテーマを選んだきっかけについて、「先輩たちがやった研究テーマを引き継ぐのもありだけど、違うものもあるんじゃない?とアドバイスを受けて、授業で学んだ未利用・低利用魚にしました」と平井さん。

実は、前年まで鶴岡先生のチームは、「アナジャコ」を様々な角度から研究し、2年連続で全国大会に進んでいたのです。それを踏襲することもできたかもしれませんが、2人が選んだのは、新しいテーマでした。

syouyoukoukou7.JPG廊下にはってある自分たちの研究レポートの前で1枚!

鶴岡先生が担当する「漁業」の授業の中でも、未利用・低利用魚についての話があったこと、2年生の総合実習の時間に実際の漁を通じて未利用・低利用魚をリアルに見たことで、2人は研究テーマとして取り上げることにしたそう。漁業実習の底刺し網では漁獲の3割以上、カゴ漁では8割以上が廃棄対象になるという現実を目の当たりにしたことも大きかったのかもしれません。

漁師への聞き取りから、「揚げかまぼこ」の商品開発まで

まずは厚岸の未利用・低利用魚の実態をより深く知るため、フィールドワークとして漁師の方たちに話を聞くところからスタートしました。日ごろから、高校自体が町の漁師や漁業関係者としっかり関係を築けているので皆さん協力的。話を聞く中で、春の漁の際にアメマスが大量に混獲されることを知ります。アメマスはおいしくないと言われ、飼料として安価に引き取られるだけと聞き、2人はこれの有効活用を図るためにおいしく食べる方法を開発することにします。

syouyoukoukou40.jpgこちらがアメマス

厚岸漁協直売店に協力してもらい、アメマス20kgを無償提供してもらいます。生物学的な側面も兼ねた研究なので、各個体の重さや長さを計測し、胃の内容物のチェックも行ったそう。それから、アメマスの食味を確認するため、塩焼き、煮つけ、蒸し焼き、ムニエル、フライ、カルパッチョとあらゆる調理法を試します。平井さんは、「カルパッチョは生臭くてまずかったです...。煮付けも皮目が臭くてダメでした。まずいのは本当に嫌でした」とそのときのことを振り返って苦笑いします。

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さまざまな調理法を試した結果、旨みを加えて油で揚げるのが向いているという結論に達します。そこで、学校の授業でも取り組んだことがあった「揚げかまぼこ」を開発することに。何度も試作を重ね、地元で水産加工場を経営していた鍋谷さんにも試食と助言を依頼。「鍋谷さんに、フードプロセッサーだけに頼らない練り方のことや、油の温度のことなどをアドバイスしてもらい、改良をしたら、劇的においしくなってテンションが上がりました」と箭内さん。

syouyoukoukou39.jpgがんずと呼ばれるムロランギンポ

アメマスのほか、ヌメリや生臭さがひどいためにアメマス以上に利用されないムロランギンポ(地元ではがんずと呼ばれる)でも揚げかまぼこ作りに挑戦します。最終的に、タマネギ入りや、紅ショウガ入りなど、アメマスで3種類、がんず1種類の合計4種類の揚げかまぼこを開発。実際に厚岸漁協直売店、町内の揚げかまぼこ製造販売業者、釧路水産試験場加工利用部の方たちにも試食してもらい、大きさもそろえたり、見た目にも気を配ったほうが良いなどの助言をもらいながらさらにブラッシュアップし、商品化の価値があると認めてもらったそう。

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未利用・低利用魚の活用が、漁師への還元につながってほしい

全国大会を終えたあとも、地元の中学校や青年・女性漁業者交流大会で発表するなど、あちこちにひっぱりだこの2人。取材陣が初めて発表を見たのは、全道の漁業者の代表が集まる全道大会でしたが、大人にまじって一歩もひけをとらない堂々たる発表に驚くとともに、自分たちの言葉でしっかりと伝えていた姿が印象的でした。「回を重ねることで自分たちの言葉で発表できるようになったのかもしれません。原稿をただ読むのではなく、自分たちが重ねてきた研究をそのまま自分たちの言葉で伝えることが大事だよと指導してきました」と鶴岡先生も嬉しそうです。

syouyoukoukou14.JPG様々なメディアで、2人や先輩たちの研究がが取り上げられています

研究をスタートさせた頃は、協力をしてくれる漁師や漁協関係者、水産関係者など、大人たちと話をするのは緊張したという2人。「それでも周りの人たちに協力してもらい、研究、開発を進めていって、結果として商品化できるところまでいけたのはとてもうれしかった」と話します。さらに、「僕の家は漁師ではないですが、友達の家は漁師も多いですし、実習などでお世話になっている漁師さんたちもたくさんいます。未利用・低利用魚を活用することで、地元の漁師の皆さんの収入につながったらと思います」と箭内さん。鶴岡先生は「当初、商品開発までこんなにうまくいくとは思わなかったんです(笑)。授業の狙いとしては、自分たちで考え、行動し、経験をすることが最も大事だと考えていたので、うまくいかなくてもそれはそれでいいと思っていました。でも、2人の努力もあって、結果として皆さんにも喜んでもらえるものになり、全国大会にも出場できて、本当に良かったと思います」と目を細めます。

syouyoukoukou5.JPGアメマスの揚げかまぼこにはタマネギが、ムロランギンポの揚げかまぼこには紅生姜が入っています。どっちも旨みが強くとても美味しい。筆者の好みは、よりなめらかなムロランギンポのあげかま。

教科書には載っていない、学ぶこと、探求することの面白さを伝えたい

平井さんは釧路町、箭内さんは釧路市の出身で、毎日1時間近くかけて通学。どちらも実家は漁業関係ではありませんが、箭内さんは「釣りや魚が好きだったのでこの学校を選びました」、平井さんは「兄が通っていて、親や先生にも合っていると思うよと勧められて進学しました」と話します。実際に船に乗って漁に出る実習や今回の研究などを通して、「前よりも魚や漁業について興味が持てるようになったと思います」と平井さん。

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高校卒業後は、平井さんは釧路の土木関係企業に就職が決まっており、商船などの乗組員に関心がある箭内さんは小樽の海上技術短期大学校へ進学するそう。それぞれ異なる道へ進みますが、2人は「研究は面白かったです」と口をそろえて言います。鶴岡先生は、「研究課題の授業は、教科書に書いていないことを学ぶ、『探求』をテーマにしています。机にただ向かうだけでなく、人に話を聞いたり、実際に調査をしたり、学ぶこと、勉強することの楽しさを伝えたいと思っているので、『面白かった』と2人に思ってもらえるのは、教師としてもうれしいですね」と最後に話してくれました。自ら考え、行動し、学びを深めるという経験は、卒業後も2人にとって大きな力になるのは間違いありません。

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今回、2人が研究テーマにした未利用・低利用の魚。厚岸のみならず各地で問題になっており、大半が廃棄されているそう。持続可能な生産を行っていくためにも、2人が取り組んだような未利用・低利用魚の有効活用の研究は重要で、こうした取り組みが各地でも広がることを期待したいところです。また、地元の漁師や水産加工業者など、地域のさまざまな人たちが、厚岸翔洋高校の生徒たちのために協力を惜しまないところが素晴らしく、地元の専門高校と地域がしっかり結びついていることは、町の産業の発展にとっても理想的だと感じました。

syouyoukoukou25.JPG厚岸でお気に入りの場所を聞くと、箭内さんが教えてくれたのがここバラサン岬。学校のすぐ裏手にある海岸で、良くみんなで釣りにくるのだそう

北海道厚岸翔洋高等学校
住所

〒088 - 1114 北海道厚岸郡厚岸町湾月1丁目20

電話

0153-52-3195

URL

http://www.aksy.hokkaido-c.ed.jp/


地元の魚の価値を高めたい!高校生が考える未利用・低利用魚活用

この記事は2023年2月27日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。