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まちおこしレポート
斜里町

インドから東京、そして斜里へ。知床のまちで輝く多才な日々20250908

インドから東京、そして斜里へ。知床のまちで輝く多才な日々

オホーツク海に面した道東のまち・北海道斜里町。世界自然遺産・知床半島の西側にあたるエリアを有する豊かな自然に囲まれたまちです。人口約1万人のこのまちに、2024年6月、地域おこし協力隊として着任したのが鈴木美華さん。現在は移住推進員として役場に勤務しています。東京で働いていた鈴木さんと北海道の出合い、斜里町に移住を決めたきっかけをはじめ、今の活動内容やこれからのことなどを伺いました。そのアクティブさに「おぉぉ」と驚くことも多々。斜里愛がひしひしと伝わるとともに、自身の暮らしを楽しんでいる姿がカッコよく見えました。

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インドや東京で、IT関連のカスタマーサービスに長年従事

役場を訪れると、笑顔で取材陣を迎えてくれた鈴木さん。大きな目で相手をしっかり見て、テキパキ受け答えする様子から、固めのバリキャリな方かと思いきや、取材をはじめるととてもフレンドリー。テンポ良いやり取りで取材が始まりました。

千葉県出身の鈴木さんは、インド人の父、日本人の母を持つハーフ。高校卒業後、浪人をする予定でしたが、ひょんなことからインドのIT会社に就職することになります。

「インドの知り合いが作っていたアプリが日本の市場で伸びていて、日本語の翻訳をしてほしいとアルバイトをしたのがきっかけで、そのまま働くことになり、インドへ。パキスタンとの国境近くのパンジャブ州のまちに約5年いました。翻訳から入って、そのあとは日本人向けのコンテンツマーケティングや営業などを行い、日本支社の立ち上げまで携わりました」

shari_suzuki_1.jpgこちらが鈴木美華さんです。

その後、インドで使っているスキルが日本でも役立つか試してみたいと、日本に帰国し、茨城県つくば市にある別のIT会社へ。その後、オンラインで全国の農家・漁師から旬の味覚を取り寄せできる「食べチョク」に転職します。

「IT畑で働いてきましたが、エンジニアというわけではなく、CSと呼ばれるカスタマーサポート、カスタマーサクセスを担当。お客さまに寄り添って、声を拾いあげ、それをプロダクトに反映させていくという役割ですね」

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初の北海道旅行で移住を意識。インターンで斜里を訪れ、まちと人の虜に

鈴木さんがはじめて北海道を訪れたのは2019年の夏。ちょうどお盆を過ぎたころでした。

「車を借りて道央道をひたすら走り、士別や剣淵(ともに、北海道の旭川の少し北部に位置するまち)まで行ったんですけど(笑)、窓をあけて風を感じたときに、ひんやりしていて気持ちがよくて、『あ、北海道に住みたいかも』と思ったんです」

その後、コロナ禍でリモートワークがOKとなり、鈴木さんは「それなら北海道に移住しながら仕事が続けられる」と移住に向けて準備をしはじめます。ところが、会社の出社方針が変わり、鈴木さんは一旦移住計画を断念。それでも、北海道に住みたいという思いは胸の中にずっとありました。

shari_suzuki_8.jpg海にも山にもと、大自然に恵まれた斜里町。

「ちょうどNetflix制作の『First Love 初恋』というドラマを見て、そこに出てくる北海道の風景を見たら、また一気に北海道熱が上がってしまい、私も早く北海道でライラックの花が見たいわ!となり(笑)、Webで勤務地・北海道で仕事を探し始めたら、ちょうど斜里町の地域おこし協力隊の募集を見つけたんです」

移住希望者へ向けた情報発信と窓口の基盤づくりというミッションでの募集でしたが、とりあえず話を聞いてみようとオンラインで担当者と面談をします。

「協力隊のことも分からないし、条件とかも一般企業のと違っていてパッと見ただけでは分からないし、そもそも行政の文書とかって読み慣れないと難しいじゃないですか(笑)。とにかく、町が何を考えているのかちょっと話を聞いてみようと思って面談しました」

shari_suzuki_9.jpgこちらが鈴木さんの職場、斜里町総合庁舎です。

仕事内容を具体的に聞くと、斜里で移住推進のために立ち上がった部署を軌道にのせて育てていくというものでした。これまで経験してきたのは出来上がった製品に対してのお客さまケアであり、内容としては異なるもの。しかし、話を聞くうちに、移住推進もCSも根っこにある大切なものは「人との繋がり」であると共通点を見つけ、これまでやってきた仕事が生かせると感じたと話します。

「内定をいただいたあと、地域おこし協力隊のインターン制度を使って、3月に2泊3日で初めて斜里町へ来ました。役場の人たちがとにかくいい人ばかりで、流氷が見られる自然観光スポットはもちろん、地元のおいしい寿司屋さんにも連れていってくれて、一緒にフットサルもして、一気にまちとまちの人の虜になりました。中でもスナックがめちゃくちゃ最高でしたね(笑)」

濃い3日間を過ごした鈴木さんは、「採用待遇を改めて読んだり聞いたところ活動に必要な車は支給されるし、ガソリン代補助も出るし、住む上での補助も多く、これまでの生活が大きく変わる不安が軽減されました」とニッコリ。

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役場内のスタートアップ的な部署で、移住推進に関する情報を発信

前職の引き継ぎなどを終え、斜里町へ移住。役場に席を置き、移住推進員として仕事をスタートしました。移住推進に関する情報を発信する斜里町の移住ポータルサイト「スムトコシレトコ」を立ち上げ、その運営やSNSの更新などを行っています。移住フェアのイベントに出たり、移住冊子を制作したりするのも仕事。また、移住希望者からの相談に応じ、実際にまちを訪れた人たちの案内や移住体験プログラムも企画。空き家バンクの管理も行っています。

「これまで斜里町には移住専門の部署がなかったんです。それで、新たに昨年4月に部署が立ち上がり、私はその年の6月からそこに加わっています。役場内のスタートアップみたいな部署ですね」

shari_suzuki_3.jpg「スムトコシレトコ」のサイトにあるインタビュー記事は、鈴木さん自ら取材も行うそうです。

「スムトコシレトコ」のサイトやSNSでは、移住に関する情報はもちろん、斜里町の日々の暮らしに関しても発信。移住者である鈴木さんならではの視点で、まちの人が見落としてしまっているような斜里の魅力を伝えています。

「行政の仕事に関わってみて、いかに公益性があるかを考えなければならないというのが自分の中では新しい発見でした。そして、斜里にはたくさんの観光をはじめとした資源があるのに、まちの中には、この魅力に気付いていない人もいます。皆さん、『斜里には何もないよ』と言うんですけど、まったくそんなことはないんです。まちの人にとって当たり前のことがすべての人にとって当たり前ではないということを、まちの人にも伝えていきたいと思っています」

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そんな斜里町の魅力のひとつとしてSNSでも紹介しているのが林業に関すること。鮭の水揚げ日本一を誇る斜里町は、漁業と農業が基幹産業として知られていますが、実は林業も盛ん。その昔、斜里町の木で日本の鉛筆用軸材の8割が作られていた時期もあり、その歴史をまちの人をはじめたくさんの人に知ってもらおうと、今年、町産の間伐材の端材(トドマツ)で鉛筆も作りました。「スムトコシレトコ」のSNSでも紹介した町民植樹祭でこのえんぴつを配布。ちなみに、東京で行われた移住フェアなどでも配ったそうです。

「林業の担い手不足もあるので、移住者の方の仕事のひとつとして、林業の情報なども発信していけたらと思います。役場というのは、基本的に縦割りが強いイメージですけど、私たちの課は横の繋がりを意識して活動しています。いろいろな部署と繋がりや交流を持つことで、斜里のさまざまな魅力をたくさん発信できると思うし、それが結果として移住推進や関係人口増加にも繋がっていくと思うので」

インドカレーイベントを主催し、キックボクシングの教室もオープン

地域おこし協力隊としての仕事のほか、個人的にインドカレーのイベントなども開催し、まちの人たちと交流を楽しんでいる鈴木さん。

「インドカレーをみんなで作る会など、斜里ではなかなか触れ合うことが少ないイベントを通して意外とスパイス系のカレーが皆さんに受け入れられると分かり、私自身もほかの人の作ったカレーとか食べたいなと思ったので、夏には道の駅でエスニックフェスを開催する予定なんです」

実はこのフェス、ただカレーを食べようという目的ではなく、町内に400人近くいる外国人技能実習生とまちの人の距離を縮めたいという狙いもあります。実習生の出身国の多くはタイ、ベトナム、インドネシアなど。彼らの国の料理を食べることで、まちの人と彼らの距離が近くなればと考えているそう。多くの実習生が季節労働で、まちの人たちと交流を深めないまま、まちを去ることが多いため、せっかくならば親交を深めてもらい、長くまちに定着してもらえたらと考えています。

「イベントによっては、行政で予算をきちんと取ってやったほうがいいものもありますが、個人でやったほうが進めやすいものに関しては補助金などを使いながらやっています。あと、まちの人たちの協力も必要なので、普段からまちの人たちといい関係を築きながら、各所に連携して進めていくようにしています」

役場の人たちとも仲がいいそうですが、ほかにもスナックで知り合った地元企業の方たちとバンド活動もしているとのこと。話を聞いているだけで、毎日やることがいっぱいのように感じます。アクティブですねと伝えると、「正直、自分にとって当たり前なことがこんなにも受け入れられていくと思わなかったです。私って意外と『推進力がある女』だったんですね」と笑います。

shari_suzuki_13.jpg「私、人見知りなんです」と言う鈴木さんですが、思わず「ウソだー!」と取材陣(笑)。

鈴木さんのアクティブさは、カレーイベントやバンド活動だけではありません。地域おこし協力隊の活動とは別にキックボクシングの教室を開催しているのです!

「東京にいたとき、ダイエット目的でキックボクシングをはじめ、20キロ痩せたんです。それで、キックボクシングにはまって、試合にもチャレンジするようになりました。斜里に移住してきて、キックボクシングのできるところを探したんですが、一番近くて釧路にしかなく、それなら自分でやるかと思って、教室をはじめちゃいました」

shari_suzuki_28.jpg気合いの入ったキックを繰り出す鈴木さん!(写真:鈴木さん提供)

教室を立ち上げて1年ほどですが、生徒の数はすでに約140人ほどいるそう。下は13歳から上は60代まで、斜里町内はもちろん、近隣の町村からもたくさん通っています。今は公民館などを借りて教室を開いていますが、「きちんとキックボクシングのジムを構えたいと思っていて、そのめぼしい場所も見つけたので、2025年10月6日からオホーツク管内初のキックボクシングジムを設立します!」とニッコリ。「いつか町内の学校の部活動になったらいいな」とも話します。

shari_suzuki_5.jpg実際にキックボクシングを体験した皆さんの声をSNSで発信したりもしているそうです。

観光でもいいから、まずは一度斜里を訪れ、その魅力に触れてほしい

昨年9月に東京で行われた移住関連イベントに初めて参加した鈴木さん。足を運んでくれた人たちに斜里町の魅力をたっぷり伝えてきました。このときにブースを訪れてくれた女性が、今年斜里町へ移住。就職先もトントンと決まったそう。早速、移住推進員としての活動が結果に結びつきました。

自身も移住者である鈴木さん、移住するにあたっての心構えを尋ねると「多くを求めすぎないことかな」とひと言。移住というのは引っ越しと同じようなものだと話し、「大事なのは、自分が何をしたいのか、何を大事にしたいのかを、自分の中で整理してから移住したら、おのずと移住先での暮らしを楽しめると思います」とのこと。移住先に対して、あれもこれもと期待ばかりを先行させず、まずは自分自身がどうしたいか自分と向き合うことが第一歩なのかもしれません。

shari_suzuki_17.jpg役場の中でも、鈴木さんの快活な活動は、噂になっているようですよ。

最後にこれからのことを伺うと、「斜里町に来てくれる人をもっと増やすことをしていきたいと思っています」と真剣な表情。「観光でもいいから、まずは一度斜里に来てみてほしいですね。情報化社会になって、多くの人が情報過多になっていると思うんですけど、だからこそ、素晴らしい自然に囲まれた斜里に来てもらって、リラックスしながら、自分の価値観や自分の好きなものを見つめなおしてもらいたいと思います。そして、『斜里、良かったな』と思って、移住を考えてもらえたら、私としてはもっとうれしい」と、最後は大きな目を細めながら語ってくれました。

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斜里町役場 総務部政策推進課魅力創造係 地域おこし協力隊 鈴木美華さん
住所

北海道斜里郡斜里町本町12番地

電話

0152-26-7708

URL

https://www.town.shari.hokkaido.jp/

スムトコシレトコ/https://shiretokobranding.org/shari-iju

鈴木さんのキックボクシング情報はこちら/https://www.instagram.com/micaszk/

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インドから東京、そして斜里へ。知床のまちで輝く多才な日々

この記事は2025年6月25日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。