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まちおこしレポート
下川町

楽しくみんなを巻き込んでいく、アクティブな移住コーディネーター20240725

楽しくみんなを巻き込んでいく、アクティブな移住コーディネーター

北海道の北部にある下川町。東京23区と同じくらいの面積があるものの、その9割が森林という林業、製材業、農業が盛んな町です。人口は約2800人ですが、毎年移住者が増えていると町外からも注目を集めています。この移住者受け入れの立役者が、下川町の移住コーディネーターを務める立花祐美子さん。今回は立花さんに、下川町の魅力や移住者を増やすために取り組んできたことなどを伺いました。これまでは下川町産業活性化支援機構タウンプロモーション推進部の一員として活動していましたが、3月からは同部が「一般財団法人しもかわ地域振興機構」になり、今後は従来の活動にプラスして、新しいことも行っていく予定だそう。また、3月には立花さんが代表となり、全道の移住コーディネーターをつなぎ、北海道の移住促進のための活動を展開する「一般社団法人 移住のススメ」も立ち上げました。これらのことについても合わせてお話を伺いました。

住人が楽しいと感じている町。そのことを細やかなサポートで知ってもらう

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立花さんは北海道出身で、結婚を機に下川町へ。独身時代は金融機関や大手メーカーに勤務していたそう。下川町へ来てからは、名寄の観光協会や下川の印刷会社などで働いていましたが、移住促進に力を入れる「下川町産業活性化支援機構タウンプロモーション推進部」ができると聞き、2016年から同部で移住コーディネーターに。

「振り返ってみたら、何かを立ち上げて形にしていくのが好きなタイプなのかもしれませんね。何でも自分でやってみたいというか、やってしまうタイプ(笑)」

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自身も移住してきたからこそ、移住者が感じる不便さや気持ちは手に取るように分かります。立花さんは移住コーディネーターとして、移住相談だけでは足りない部分を補うべく、「もっとこうすれば...」と感じていたことをどんどん実行していきます。

その一つが細やかなサポートです。移住希望者が町を訪れた際、それぞれのライフスタイルに合わせた町内ツアーを実施。移住希望者の要望や彼らに何が必要かをくみ取り、訪問先を決め、アポも入れ、行程表まで作るそう。たとえば、子どもがいるファミリーであれば保育園や学校の見学など。当初は「そこまでやらなくても...」という声もあったそうですが、結果としてその手厚さが移住に繋がっていきました。

「不安に感じる点をとにかく解消して、下川に来てよかったと思ってもらいたいですから。そして、ツアーの段階から町の人たちとも交流してもらえるようにと思って町を案内しています。下川って、おもしろい人がたくさんいるんです。結局、住んでいる人たちが楽しそうにしていると、その町が魅力的に見えるんです。最終的にはそれが一番大事なのかなと思います」

何年もこのように町を案内していると、この移住希望者の人には町のこの人を紹介したらウマが合いそうなど、勘が働くそう。「下川はコミュニケーション能力の高い人が多くて、移住希望者とすぐに仲良くなるケースが多いですね。明日、山菜採りに行くけど行く?とか」と笑います。最近は、移住してきた町民が率先して移住希望者の案内をしてくれることもあるそうです。

リピーターも多い、町民と移住希望者らが交流を深める「タノシモカフェ」

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町の人との交流で欠かせないのが「タノシモカフェ」。立花さんが移住者の居場所作りのきっかけにと立ち上げた交流会の場です。

「今年で8年目になります。上司にみんなが交流できるカフェをやりたいと話をしたら、期の途中だったため、予算化されていない新しいことをすぐに始めるのは難しいと。でも、私はやりたい!と思ったらすぐに動いてしまうタイプなので(笑)、お金をかけないように食べ物や飲み物は持ち寄りにして、無料で参加できる場を開くからと上司を説得してスタートさせました」

タノシモカフェの参加者は少なくても毎回30名ほど。多い時は50名を超すことも。年代も20代~70代と幅広く、移住してきた町民、昔から下川に暮らす町民はもちろん、移住を検討している人や単純に下川が好きという下川ファンも集まってくるそう。リピーターが多いのも特徴です。

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「それぞれが料理やお酒を持ち寄って、楽しくとことん交流しています。山菜を使ったものなど、季節の料理を持ってきてくれる人もいますし、中には熊肉のシチューを持ってきてくれる凝り性の人も(笑)。飲んで食べると会話も弾むんです。持ち寄りパーティーですね」

また、これだけ盛況なのは「下川の人たちが、移住者に対してウェルカムだから」とも話します。かつて鉱山があり、人の出入りが多かったという下川町は、Iターンが多く、新しい人たちを受け入れる土壌があるそう。「田舎はよそ者が入ってくると警戒しがちで、それが閉鎖的な雰囲気に繋がってしまいますが、下川はそれがほとんどないんですよね」と続けます。

予約も不要、参加費もなしというタノシモカフェ。ほかの町の移住コーディネーターから「人が集まるかも含めて、賭けだよね」と言われたことがあったそうですが、立花さんは「私自身がこの町に受け入れてもらって、この町に暮らしてみて、『大丈夫、下川ならうまくいく』という根拠のない自信があったんです」と笑います。

「下川の人の気質というのか、とにかく新しいことや楽しいことが大好きな人が多い。北国だけど、ノリがラテン系なんですよね。だから、イベントもめちゃくちゃ多いんです。『こんなことやりたい、こんなイベントやってみたい』と誰かが言えば、『やろう、やろう』って気軽にみんな実行委員になっちゃう(笑)。出る杭を打たず、むしろ応援してくれる、寛容で成熟した人が多い。そういうバックグラウンドがあるから、タノシモカフェもきっとみんな楽しんでくれるって思いました」

移住を検討している人にとっては、いいところも悪いところも含めて町民から生の声を聞けるのがメリットになります。最近は、まちづくりの勉強をしている大学生らも多く参加。町の人たちも外からの刺激があるので、楽しみにしているそう。

オンラインも駆使。道内19エリアによる「北海道移住のすゝめ」で地域間連携も

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もう一つ、立花さんが行っている取り組みで欠かせないのがオンラインを駆使した移住促進。オフラインの移住PRイベントも数多く実施していますが、コロナ禍にいち早くオンラインによる移住関連イベントを立ち上げたのも立花さんでした。

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「コロナ禍は、1カ月に1つはオンラインイベントをやっていましたね。人がリアルで集まれないときはタノシモカフェもオンラインでやりました。オンラインのイベントはほかの自治体と一緒に行うこともあれば、『北海道移住のすゝめ』でも頻繁にやりました」

ここで出てきた「北海道移住のすゝめ」というのは、道内の19市町村の移住コーディネーターによるチーム。コロナ禍の2021年に合同でオンライン移住促進イベントを開催したことがきっかけとなり発足しました。この取りまとめを行っていたのが、立花さんが所属していた下川のタウンプロモーション推進部でした。この春にタウンプロモーション推進部の業務が新たに設立された「一般財団法人しもかわ地域振興機構」に移行するにあたり、立花さんを含む「北海道移住のすゝめ」チームのメンバー3人で「一般社団法人 移住のススメ」を立ち上げ、「北海道移住のすゝめ」の取りまとめに関しては「一般社団法人 移住のススメ」が行うことに。

「この一般社団法人は、ニセコ町と喜茂別町の移住コーディネーター2人と私の3人で立ち上げました。『北海道移住のすゝめ』の活動をしている際、いつか会社を作って移住に関するおもしろいことをやりたいねと話していたんです。19市町村の取りまとめはもちろん、自分たちの経験を生かして、移住促進を進めたいと考えているほかの自治体の移住の受け入れ体制の整備や移住コーディネーターの育成などもやっていきたいと考えています。ゆくゆくは道外の市町村、さらに世界の国々の移住に関することもできたら楽しそうだねと話しています」

「一般社団法人 移住のススメ」のメンバー以外の「北海道移住のすゝめ」のメンバーとも連携はばっちりで、「みんな優秀な人ばかり。いろいろなことができる人たちがそろっているから、これからもいろいろ楽しそうなことができる予感しかありませんし(笑)、どんどんおもしろいことをやっていきたい」と立花さん。昨冬には、全道各地から「北海道移住のすゝめ」のメンバーが壮瞥町に集まり、昭和新山国際雪合戦にも参加。「オンラインのミーティングでシミュレーションはばっちりだったんですけどね、リアルな練習ができなかったので残念な結果でした...」と笑いますが、メンバー間のチームワークの良さがよく分かります。

「以前は地域間の連携というのがあまり好きではなかったんです。どこかの町だけが負担を強いられるようなケースも多くて。でも、『北海道移住のすゝめ』のメンバーはちょっと違っていて、それぞれがアイデアを出し合うなど、地域間連携の良いところが最大限生かされている感じなんです」

みんなの共通の想いは「北海道を盛り上げたい」。「北海道移住のすゝめ」に関わっていることにやりがいを感じてくれる人が多くてありがたいと思うとも立花さんは話します。

楽しいことの連鎖。楽しく暮らしたい人が下川や北海道に増えてほしい

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「一般財団法人しもかわ地域振興機構」の職員として、これからも下川町の移住促進を軸に活動をしながら、「移住」というキーワードで活動の幅を広げていきたいという立花さん。

「いろいろな活動を行っていますが、私のベースは下川町。下川の魅力を外へ発信し、移住希望者には移住後も安心して暮らしてもらえるように全力でサポートします」

とにかくよく笑う立花さん。フットワークの軽さにも驚かされます。移住のことだけでなく、いろいろなイベントを企画し、実施することも多々。

「2月に行われたアイスキャンドルミュージアムのイベントで、お酒を出す出店者がいないと聞いて、じゃあ自分たちでやろう!と立ち飲みバーをやったんです。みんな喜んでくれて、それを見ていた人たちが次は自分たちも何かやってみようって思ってくれて...。学校祭がずっと続いているような感じ(笑)」

楽しいことが連鎖し、町を盛り上げているようです。さらに話を聞いていると、立花さんは町内のクラフト作家さんたちを集めた団体も運営しているそう。本当にアクティブです。

「下川は起業している元気なママたちも多く、性別に関係なく自分たちのやりたいことを形にしやすい町なのかなと思います。その空気感が伝わるのか、やりたいことがあって移住してくる人も増えています。町で起業塾もやっていますし。でも、起業が移住の理由じゃなくてもOK。自然の中で子育てがしたい、薪ストーブのある生活がしたいでももちろん歓迎です。地域の人材バンクで仕事のマッチングも行っていますし、移住者の住まい対策も行っています。楽しく暮らしたいという人がたくさん集まってくれたらうれしいです」

立花さんの話を聞いていると、下川にも、北海道にも、「移住」というキーワードをきっかけに楽しい輪がどんどん広がっていくような気がします。これからの活動も楽しみです。

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一般財団法人しもかわ地域振興機構
一般財団法人しもかわ地域振興機構
住所

北海道上川郡上川郡下川町共栄町1−1

電話

01655-4-3511

URL

https://shimokawa-life.info/

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楽しくみんなを巻き込んでいく、アクティブな移住コーディネーター

この記事は2024年6月5日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。