アウトドアフィールドに恵まれている北海道には、根っからのアウトドア好きが大勢います。今回紹介する新十津川町の吉原正樹さんも、筋金入りのアウトドア好き。休日になればキャンピングカーに乗り、海に山に足を運び、釣り、サーフィン、登山と北海道の自然を満喫。ときにはテント泊と焚き火でまったりも。さらに仲間とバイクやスケボーにも興じます。と、ここまでは一般的なアウトドアファンと変わりませんが、吉原さんは自分の「好き」と「得意」を生かし、2023年、新十津川発のアウトドアブランド「WAVER KRAFT.(ウェーバークラフト)」を立ち上げました。そして、それを町の活性化につなげていきたいと活動中。そんな吉原さんにWAVER KRAFT.のこと、町への想いなどを語ってもらいました。
今回、お話を伺った吉原正樹さん。
ハムやソーセージの店の一角にオープンしたアウトドアのセレクトショップ
手づくりソーセージやハムで知られ、全国にファンも多い新十津川の「ヴルストよしだ」。その店の一角に、2023年11月にオープンしたアウトドアのセレクトショップ「Markeys.(マーキーズ)」があります。ここの運営を行っているのも吉原さん。今回はこちらの店舗でお話を伺いました。
「もともと、ヴルストよしだの代表・吉田(智博)さんとは、商工会青年部で知り合ってから、スケボー仲間としても仲良くさせてもらっていました。そこで、ショップをやりたいという話も相談させてもらっていたんです。『どこかいい物件が見つかったらいいね」なんて言ってもらっていたんですが、なかなか見つからず、『だったらうちにおいでよ』と声をかけてもらって...」
吉田さんにそう言ってもらったのは10月。急いで図面を引き、たった3日である程度の店構えを作り上げました。それから店で取り扱うものを取り寄せるなど急ピッチで準備が進みましたが、すべてが整い、無事11月にオープンできました。
それでは、吉原さんが「WAVER KRAFT.」を立ち上げ、「Markeys.」をオープンするまでのことを順に聞いていきましょう。
ここが新十津川町の市街地にあるヴルストよしだ & Markeys.です。
本業は地元の板金会社の代表。釣り、サーフィンなど、アウトドアは長年の趣味
吉原さんの名刺には、「株式会社吉原板金工業 CEO」と肩書きがあります。本業は板金会社の社長さんなのです。
生まれも育ちも新十津川の吉原さん。10代から地元の板金会社に勤務し、2010年に独立しました。昔の板金業界は、それこそ職人の世界。厳しい師匠のもとで腕を磨いてきました。
「僕がこの世界に飛び込んだときは、当時3Kと呼ばれる仕事のひとつでした。でも、誰もやりたがらない仕事を続けていたら、すごいことになるかもしれない!と思って、頑張ってみることにしたんです。もともと工作とか、ものづくりも好きでしたし」
一時期、板金修業で旭川市にいたときもありますが、基本はずっと新十津川。「正直、本当にキツイときもありましたけど、師匠になんとか褒めてもらいたくて、なにクソ!って思いながら仕事をしていました」と笑います。
自然豊かな町で育ったこともあり、子どものころから外遊びが大好きだったそう。休みの日には、愛犬と一緒にキャンピングカーで各地を回り、海釣りやサーフィンなどを楽しんでいました。
結婚して家族が増えてからは、家族そろってアウトドアを満喫。中2、小6、小4と、3人のお子さんがいる吉原さんは、「うちの子どもたちは赤ちゃんのときからキャンプに行っています。奥さんもだんだんアウトドア好きになってくれました」と笑います。
店先に停めてあった車もアウトドア仕様。ルーフテント、オーニングテントが搭載されています。「これまでキャンピングカーだったんですが、最近思い切って買い替えました。WAVER KRAFT.でアウトドアイベントに出るときもこのほうが便利だなと思って」と話します。
キャンプやアウトドアが好きな方にはたまらないアウトドア仕様の車です!!
「好き」と「得意」で町を盛り上げたいという想いから生まれた「WAVER KRAFT.」
さて、今回のメインの話、「WAVER KRAFT.」が誕生した経緯について話を伺いました。
「ちょうど2022年2月だったかな。コロナにかかって家にいる間、考える時間がたっぷりあったので(笑)、板金技術を活かして、自分が欲しい、使いたいアウトドアギアを作ってみたいといろいろ構想を練っていました」
新十津川町商工会の青年部部長も務めている吉原さん。常々、町を活性化させたい、若い人にももっと関心を持ってもらえる町にしたいと思っていました。ちょうど、地元のキャンプ場「しんとつかわキャンプフィールド」がリニューアルするという情報も入ってきており、「何でも町任せにするのではなく、町に住む自分たち民間からも何か波を起こせないだろうか」と考えていたところでもありました。
そして構想から約1年、2023年1月に誕生したのが「WAVER KRAFT.」です。WAVERは「動く、揺れる」、KRAFTはドイツ語で「力、パワー」を意味し、英語のCRAFTの意味(手工芸、手技、クラフト)も掛け合わせて名付けました。
「ブランドコンセプトを、板金の技術で地域を巻き込み、その波及効果で町を盛り上げようと決め、第一号商品として、焚き火台と鉄板プレートを作ることにしました」
ロゴやプロダクトデザインは町に暮らすデザイナーの友人・風間龍行さんに依頼。「彼と一緒にあーだ、こーだ言いながら、何度も試作を繰り返しました。同じ鉄を使うのですが、普段仕事で使う技術と同じ部分もあれば、まったく異なる部分もあり、難しいところもたくさんありました」と振り返ります。
制作に必要な道具も板金用とは異なるため、WAVER KRAFT.用の工場も準備。「農機具屋さんが使っていた工場を借りて、板金の仕事の隙間時間に製作しました」と吉原さん。
焚き火台は簡単に分解することができ、収納時には厚さ2cmと持ち運びも楽々です。
こだわりが詰まったギアは、通なアウトドアファンの間で話題に
そうして完成したギアを引っ提げ、アウトドアのイベントなどに出店。できるだけ荷物は少ない状態でアウトドアを楽しみたいと普段から考えている吉原さんのアイデアが詰まったこれらは、すぐにコアなアウトドアファンの間で話題に。コンパクトになる焚き火台は本当に優れもので、畳んだあとに収納しやすいのもポイント。素材やデザインにこだわった質の高いアウトドアギアを作る小規模ブランドを指すガレージブランドとして、WAVER KRAFT.は注目を集めます。
イベントなどに出たことがきっかけで、いろいろなガレージブランドの優れたギアと出合った吉原さん。新十津川町にキャンプに来たお客さんや地元の人たちに、WAVER KRAFT.のことはもちろん、ほかの良質なギアも知ってほしいと考え、アウトドアのセレクトショップもオープンすることに決めます。それが、このMarkeys.というわけです。
店名の由来は吉原さんのニックネームからなんだとか。
WAVER KRAFT.の製品は、Markeys.のほか、町内のグリーンパークしんとつかわや大畠精肉店、隣町である滝川市のアパレルショップなどでも販売。吉原さん一人では製造が追いつかないため、板金会社のスタッフ4人もWAVER KRAFT.の製品作りに携わっています。「板金は冬になると仕事がなくなるので、WAVER KRAFT.の仕事で冬も継続雇用が可能に。スタッフにとっても安定して仕事があるのはちょうどいいんです」と話します。
また、最近は家の中でも使うことができるランプシェードや、Tシャツ、帽子、コーチジャケットなどアパレル関連のアイテムも作っており、これらも評判です。ファンの方からの「こんなのがあったらいいのに」という声も参考にしながら、板金業の傍ら、製品作りに取り組んでいます。
WAVER KRAFT.以外のガレージブランドの商品も多数扱っています。
世代を超え、みんなで一緒に町を盛り上げなければ意味がない
アウトドアギアを作って終わりではなく、WAVER KRAFT.のコンセプトにあるように、その波及効果で町を盛り上げたいと考えている吉原さん。今、課題に感じているのは、世代間の相互理解が足りない点だと言います。
吉原さんの周りには、「新十津川でこんなことをしてみたい」「新しいことに挑戦したい」という若者もたくさんいます。その一方で、商工会の青年部長として町の年配者の方たちとの交流も多くあり、その中で双方の間に壁があると感じているそう。
「僕は、世代的にちょうど中間にいる人間。だから、どちらの気持ちも分かるんです。これまで町を守ってきた年配の人たちは、新しいことを始めようとする若い人やよそから入ってきた人に対して警戒する傾向があるし、荒らされるのではないかとつい保守的になってしまう。だけど、これからも町を継続的に発展させていくには若い人たちに入ってもらって活性化させることも必要。でも、それぞれが勝手にやってもそれは町のためにはならない。いろいろな世代が一緒に町をおもしろくしていかないと意味がないんです。だから、僕のような中間世代が調整役にならなければと思っています」
さらに「新十津川にはいいものもたくさんあるし、何より住みやすい町。僕的には、まだまだ伸びしろがあると思っています。だからこそ若い人たちの力も必要。僕がこうやってWAVER KRAFT.やMarkeys.をやっているのを見て、自分も何かやってみたいという若い人がいれば応援したいと思います」と続けます。
ご自身のこと、まちのこと、気さくにお話してくださる吉原さんからは、みんなでこのまちを楽しむ!という想いが伝わってきます。
わいわい会議を機に、町の事業者同士が繋がり新たなコラボ商品も誕生
そんな吉原さん、町に対する熱い想いを持って、2023年11月に町の活性化に向けた取り組みについて話し合う「新十津川わいわい会議」に登壇。わいわい会議では、自然や歴史、芸術など、町の資源をどう生かしていくかについて、町の人たちを中心に話し合いが行われました。
「登壇を依頼されたときはそんなの無理と思ったけれど(笑)、みんなで町を盛り上げたい、若い子たちが集まれる場を作って応援したいという僕の想いをたくさんの人に伝えることができ、参加して良かったと思っています」
「わいわい会議」はとても良いきっかけでしたと話します。
この会議がきっかけとなり、わいわい会議のLINEグループができました。吉原さんのように町を盛り上げたいという人や、地元で何か新しいことを始めたいという人が参加し、情報交換が活発に行われています。
「そこに参加している町の畳屋さんから、畳を作ったときに出る端材と鉄を使って一緒に何かできませんかと声をかけてもらい、壁に飾れる畳と鉄の一輪挿しを作りました。こんなふうにみんなが繋がって、新しいことをやっていけたらいいなと思います」
吉原さんが考える最終的な夢は、「キャンプ場のオーナー」なのだそう。「みんなが集まって、やりたいことをやれるようなキャンプ場を新十津川に作りたいですね」と語ってくれました。
- Markeys./株式会社吉原板金工業 CEO 吉原正樹さん
- 住所
北海道樺戸郡新十津川町字中央6-99 ヴルストよしだ店内
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