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まちおこしレポート
せたな町

温かい人、一級品の食、絶景。町を盛り上げるため協力隊が奮闘中20240429

温かい人、一級品の食、絶景。町を盛り上げるため協力隊が奮闘中

せたな町といえば、ユニークな観光ポスターをはじめ、夏の海水浴場、豊かな漁場と海産物、太田神社...という印象を持っている方が多いのではないでしょうか。今年は、カレーアイランド北海道で優勝を手にした「みつわ食堂」も話題になりました。

そのせたな町をもっと盛り上げようと頑張っているのが、地域おこし協力隊とそのOBです。外から来たからこそ分かるせたな町の魅力をもっと発信し、町を活性化させたいと意気込みます。今回は、観光協会の仕事に従事している2人の現役地域おこし協力隊員と、協力隊を経て地元で起業したOBに集まってもらい、せたな町へやってきた理由や町の魅力、町の課題とその課題にどう向き合っていきたいと考えてるかをたっぷり語り合ってもらいました。

「せたながいい」という娘の願いを聞き、大阪から完全移住を決意

setana_02.jpg大阪から移住した谷山浩司さん。現在は、地域おこし協力隊を卒業し、株式会社つなぐを設立。

まずは3人がどういうきっかけでせたな町へやって来たのかを伺うことに。トップバッターは、協力隊OBの谷山浩司さんです。谷山さんは生まれも育ちも大阪で、奥さまがせたな町出身。大阪の谷山さんの両親が続けて亡くなったことを機に、3人の子どもたちと祖父母が共に過ごせる時間を少しでも設けてあげたいと考えるようになったそう。

「自分は仕事があったので大阪に残り、妻と子どもたちだけせたなの親のところで暮らすような形を取りました。10カ月ほどして、長女が小学校へ入るタイミングで再び大阪へ戻ってきたのですが、その長女が『せたなに戻りたい』『大阪の学校はイヤだ』と泣く日々が続きまして。それなら...と、家族全員で移住しようかとなりました」

ところが、移住前に就職先を探したものの谷山さんが求める仕事が見つからず、ちょうど地域おこし協力隊を募集していることが分かり、ひとまず協力隊に応募し、2022年の10月に採用となりました。まちづくり推進課に所属し、特産品開発というミッションが与えられますが、谷山さんはふるさと納税に関わりたいと申し出ます。

setana_04.jpgせたな町役場の職員と話す谷山さん。

「地域おこし協力隊は3年で任期が切れます。でも、その先も家族とせたなで生活していくため、任期が終わるまでに独立してやっていけるよう、仕事を自分で作らなければと考えていました。そういったことも含め、いろいろ町のことを調べていく中で、せたな町は毎年約200人ずつ人口が減っている状態だと分かりました。そうなると地方交付税が年々減っていって、町が立ち行かなくなってしまいます。地方交付税に影響をしないふるさと納税の寄付額をあげていくことで、なんとか町をよくしていけるのではないかと考え、それで、特産品よりもふるさと納税をやらせてほしいと町にお願いしました。こちらへ来る際には、もうふるさと納税の中間業者として独立することは決めていて、地域おこし協力隊として活動しながら独立のタイミングを計っていたという感じです」

1年半で独立の目途が立ち、地域おこし協力隊を卒業し、「株式会社つなぐ」を立ち上げます。せたなの町や、せたなの返礼品の魅力を深掘り、せたな町のふるさと納税を外に広く発信していくための事業活動を行っています。

setana_03.jpgせたな町の商品をPR。全てが一級品だと自信を持って伝えています。

コロナ禍前に町内に家族で中古住宅を購入し、移住と同時に協力隊員に

さて、次は2022年4月から地域おこし協力隊として赴任し、現在は観光協会の事務局長を務めている小澤智之さんです。実は小澤さんも大阪出身。枚方市で生まれ育ち、父親が経営する建設会社で仕事をしていたそう。

setana_05.jpg谷山さんと同じく、大阪から移住した小澤智之さん。現在は、地域おこし協力隊のスタッフとして観光協会で働いています。

「もともと両親は早めにリタイヤして移住しようと考えていて、実はコロナの前にせたな町で中古住宅を購入していたんです。2019年かな。そうしたら、コロナがはじまって、2019年に移住する予定だったのが、外出ができない、移動できない時期があったりして...。結局なんだかんだでこちらへ来たのは2022年でした」

先に家を購入していたということに驚きますが、てっきり知り合いでもいるのかと思いきや、「いや、誰も知り合いはいないんです。せたなも知らなかったですし。たまたま父親がネットでこの家を見つけて、ここいいんじゃない?見に行ってみようとなり、一緒に車でフェリーに乗って家を見に来て、父が家の持ち主の方と意気投合してしまい...」と笑います。せたな町以外にも、新潟や岡山などへの移住も検討したそうですが、実際に家を見て「ここがいい」とせたな町に落ち着くことになりました。

setana_07.jpgせたな町の三大まつりである、「玉川公園水仙まつり」のポスターを制作している様子。

最初はせたな町に来てから仕事を探す、もしくは自分たちで事業をやることも考えていたそうですが、ちょうど地域おこし協力隊で観光協会に携わる隊員募集をしていると知り、ひとまず協力隊として仕事をしてみようと移住前に協力隊になることを決めました。

せたな町の家を見つけたそのお父さんは現在65歳。現在は町内の認定こども園で清掃などのアルバイトをしながら、自宅敷地内の畑で野菜作りを楽しんでいるそう。「大阪の65歳とせたなの65歳って全然違うんです。せたなは80代、90代のお年寄りがまだまだ元気なので、せたなで65歳って言うとすごく若いんですよね」と話します。

観光協会事務局長の小澤さん、夏は「せたな漁火まつり」など三大祭り関連の仕事が大忙しで、それ以外の季節はスタンプラリーのイベントを企画したり、フォトコンテストを実施したりしています。どうすれば観光客がせたな町へ足を運んでくれるかを日々思案。事務所で事務作業をこなす日もあれば、祭りやイベントの際はずっと外に出ていることもあるそうです。

夕日の美しさと町の人の温かさに惹かれ、協力隊員に応募

最後は2023年10月から地域おこし協力隊になった樋口恭子さんです。樋口さんは札幌出身。広告業界で営業の仕事をバリバリこなすキャリアウーマンでした。ところが、「ふと、このまま突っ走っていていいのかな」と思い、1年前に会社を辞め、心機一転リゾートバイトに挑戦してみようと冬のトマムへ。そこでたまたま、せたな町出身の人と出会い、ゴールデンウィークにせたなへ遊びに来ます。

setana_08.jpg札幌から移住した樋口恭子さん。現在は、地域おこし協力隊として、せたな町の魅力をSNSで発信しています。

「一度も来たことがなかったので、せっかく知り合いもできたし、行ってみようというノリだったんですが、まず、海沿いの風車の景色に感動。そして、夕日が何よりも美しくて...」

利尻島でのリゾートバイトが決まっていた樋口さん。せたな町の美しい景色や町の人たちの温かさが忘れられず、2カ月間のバイトが終わったあと、せたな町で実施している「お試し暮らし住宅」に申し込み、8月に再びせたな町へ。

「そしたら、トマムのリゾートバイトで知り合った人から、すぐにわっかけ岩のレストランのアルバイトを紹介されて、さらにその次には玉ねぎ農家さんの種取りのバイトも決まって...」

setana_09.jpgせたな町のマスコットキャラクター「セターナちゃん」

眺めの良い太櫓(ふとろ)エリアの海沿いに暮らしながら、町の人たちとも交流を深め、「町の人たちは本当に温かくていい人ばかり。高齢の方たちも元気いっぱいで。だんだんせたなが好きになっていきました」と話します。そんなとき、地域おこし協力隊という制度があると教えてもらい、思い切って応募します。

無事採用となり、現在は小澤さんのもとで観光協会の仕事に携わっています。町内のあちこちへ行き、写真を撮ってSNSに記事を投稿するなど、せたな町の魅力を発信しています。

setana_10.jpg「私が撮影した写真を見て、せたな町に行きたいな、住んでみたいなと思ってもらうことが私の役目だと感じています」と語る樋口さん。

人も食も景色も。せたな町にはイイモノがたくさんそろっている!

樋口さんから「夕日がきれい、町の人が温かくていい人ばかり」という話が出たところで、せたな町のいいところ、好きなところを聞いてみることに。

「やっぱり町の人たちがいい」と小澤さん。移住前に何度かせたな町を訪れた際、「どこから来たの?」と気さくに声をかけてくれる人が多かったそう。「人懐っこいタイプが多い気がしますね。移住するって話をしたら、『よく来たねー』ってほとんどの人が言ってくれて」と笑います。谷山さんも「たしかに人はいい。『こんなところによく来てくれたね』とだいたい言われる」と頷くと、「そこ、そこなんだよ。『こんなところに』って自己評価が低いんだよなぁ」と小澤さん。

setana_11.jpgせたな町の課題と未来について語っていただきました。

小澤さんは、「景色も美しく、食に関しても一級品がそろっているのに、売り方やPRの仕方が下手だから、周りの町に先を越されて、二番手三番手に下がってしまい、また自己評価が下がるということを繰り返しがち。それが残念」と指摘します。

役場と観光協会で考えるユニークな観光ポスターからも分かる通り、楽しいことが好きで、外から来た人に対しても大らかなせたな町の人々。「美しい景観や豊かですばらしい食など胸を張れるところはたくさんあるのだから、そこをもっとうまく外へ発信できるよう、観光協会としてもそのあたりのお手伝いをしていきたいと考えています」と小澤さん。

ちなみにその観光ポスターのアイデアは、毎年まちづくり推進課の職員と観光協会のスタッフ、約15名が集まって、飲み会でアイデア出しをして決定するそう。「5月くらいに集まって、そこから急ピッチで動き出すんですよ」と谷山さん。長く企画を温めていると、ネタが古くなってしまうからなのだそう。そのあたりのユーモアへのこだわりも町民性のようです。「パロデイ―好きなんですよ、町の人たち」と小澤さんも笑います。

setana_12.jpg毎年、旬のネタを取り入れてポスターを制作。お酒を飲みながら意見を出し合うそうです。

豊かな食の町のはず...。もっと町民にもその豊かさに触れてもらいたい

食に関して、「一級品がそろっている」という話が出ましたが、ふるさと納税の返礼品の取材や撮影も行っている谷山さんから見て、その辺りはどう見えているのでしょうか。

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「本当にいいものはたくさんそろっています。魚介はもちろんのこと、白カビ部門で日本一を取ったチーズダムのチーズや高級店にしか卸していない羊肉、SPF豚の若松ポークマンなど、本当にすばらしい生産者さんや事業者さんがいるんです」と谷山さん。樋口さんも「札幌のオータムフェストでアルバイトをした際、せたな町はおすすめしたいおいしいものがいっぱいあるなぁと実感しました」と話します。

その一方で、「こんなにすばらしいものがそろっていても、その大半が首都圏や札幌などに出ていくため、これらを町内で町民がほとんど購入できないという現実もあるんです」と谷山さん。「食の豊かさを町としてPRしていくためにも、町民が購入できるようなシステムや場所、流通を整備し、それをもっと発信していくことが大事じゃないかなと思います。子育て世代は食に気を使う人も多いから、それが移住にもつながるんじゃないかなと。子どもたちにも、町にはこんなにすごいものがあるんだよと伝えていきたいですし」と続けます。

「本当にそう思います。たとえば、豚肉。若松ポークマンの豚肉は臭みもなくて、豚肉ってこんなにおいしいんやと驚いた」と小澤さんが言うと、「脂もうまいし、甘みもあるしね。町にとんかつ専門店があってもいいくらいじゃないかって思う。そもそも飲食店も数えるほどしかないしね」と谷山さん。小澤さんが「そういえば、これだけいい食材がそろっているんだから、あとは料理してくれる人がいれば、食い倒れの町にできるよねって前に話したこともあったね」と続けます。

町や町の人が好きだからこそ、みんなをつないで活性化していきたい

外から来て、町のいいところをたくさん知れば知るほど、「町の活性化のためになんとかしたい」と思っていると話す3人。

谷山さんが仕事をする中で感じているのが、「つながりのなさ」なのだそう。「ふるさと納税の返礼品のことでいろいろな事業者の方たちにお会いしますが、みなさん横のつながりがほとんどなく、ほかの人がどんなふうに何をやっているか知らないんです。せっかくいいことをやっていても情報共有する場がないし、まとまりがなくてもったいない。それは、事業者間だけでなく、町と事業者、町と町民、事業者と町民、みんなにあてはまります。こんなに小さな町なのだから、みんなで一緒に良くしていこうという形になれば、もっと町が活性化し、最終的にみんなにとって良くなるんじゃないかなと思うんです」と話します。

setana_20.jpg夏は大賑わいの三本杉海水浴場で写真をパシャリ。

谷山さんの会社の名前は「株式会社つなぐ」。「事業者、町、町民、みんなをつないでいきたいという思いから、この名前にしました。まだ手探りな部分はたくさんありますが、つなぐことで新しい産業が生まれるなど、町の発展につながれば、この町に暮らす子どもたちのためにもプラスになるのではと考えています。若い人たちが町に残ってもらえるように新しい仕事も生み出していかなければならないと思うので」と想いを語ります。

小澤さんも「やれること、やりたいことはいっぱいあるよね。地域おこし協力隊も、ボクたち3人はこうやってつながっていますけど、酪農ヘルパーで来ている人とは交流が少ないから、今後つながりを持てたらと思いますし、これから来る協力隊の人が定住してくれるようにやれることをやっていかないとという気持ちもあります」と話します。

今回、小澤さんや樋口さんと一緒に観光協会で仕事をしてくれる地域おこし協力隊を募集するそう。「やりたいと思っていることを実現するにもやはり人手が足りないのが事実。町のためにどうすればいいかアイデアを出してくれる、フットワークの軽い方にぜひ来てほしいですね」と小澤さん。「役場の中におさまってしまうようなタイプより、少しぶっとんでるくらいのほうがいい気がする」と谷山さんが言うと、「そうだね、そして町のいいところを案内できるガイドみたいなことやツアープランをたてられるような積極的な人が来てくれたら尚うれしいかも」と小澤さん。

setana_06.jpgせたな町の魅力を伝えるにはどうすればいいか、日々意見を出し合っています。

せたな町を好きになって、一緒に活躍してくれる新たな協力隊隊員を募集

話してると次々にアイデアや課題が飛び出し、本当にせたな町が好きなのだなと感じます。そんな3人に対して、役場で地域おこし協力隊を担当しているまちづくり推進課の主任・鳴海航さんは、「町の人はみんないい人ばかりと言ってくれていましたが、彼らも本当にいい人なので、町の人たちも彼らに心を開いていると思う」と話します。

地域おこし協力隊だったメンバーの定住率が低かったせたな町。定住してもらえるように、改善点などをヒヤリングし、少しずつ協力隊が活動しやすいようにと改善を進めてきました。町の人ともコミュニケーションを取りやすいよう、月に1回は飲み会を開き、日ごろから話がしやすいように努めてきたそうです。

setana_18.jpgせたな町役場で地域おこし協力隊を担当しているまちづくり推進課の主任・鳴海航さん。「地域おこし協力隊のみなさんと町おこしができるのは、本当に楽しくやり甲斐があります」と語ります。

「まだまだ改善点もあるので、OBの谷山さんや隊員として活躍してくれている小澤さん、樋口さんらからの意見にも耳を傾けながら、協力隊が活動しやすい環境を整えたり、みんなが交流できる機会を設けたり、改善を進めるとともに、もっと協力隊を増やしていけたらと考えています」

特に観光に関しては、これからさらに強化していかなければと考えているという鳴海さん。「ずっとここに暮らしていると気が付かないせたなの魅力を新しい視点で教えてくれるのが、今日集まってくれた3人やほかの協力隊OB。せたなを盛り上げるための新しいアイデアも出してくれるので、新しく募集する隊員の方も一緒に入って町を盛り上げていってもらえたら」と期待を込めて話します。

これから募集する隊員の方には「まず、自然豊かなせたなの町に興味を持ってもらいたい」と鳴海さんは話します。小澤さんも「海釣りするには最高です。アウトドア好きな人にはぴったりですね」と話します。食や自然、そして人、たくさんの宝物がまだまだ眠っているせたな町で、小澤さんや樋口さん、谷山さんらと一緒に新しいことに挑戦したい、町を盛り上げたいという方はぜひ一度問い合わせをしてみてください。

setana_21.jpg彼らがいる限り、せたな町の未来は明るいでしょう。「観光協会の地域おこし協力隊」として、一緒に働きませんか?

せたな町役場 まちづくり推進課 まちづくり推進係
せたな町役場 まちづくり推進課 まちづくり推進係
住所

北海道久遠郡せたな町北檜山区徳島63番地1

電話

0137-84-5111(課直通/担当 鳴海)

URL

https://www.town.setana.lg.jp/


温かい人、一級品の食、絶景。町を盛り上げるため協力隊が奮闘中

この記事は2024年4月5日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。