「人との縁でここまでやってきているという感じなんですよね」
インタビュー中、何度かそう口にしていたのが、今回の主人公・長沼町に暮らす近藤 駿さん。どこか飄々とした感じもありますが、話を聞いているとしっかり自分の意見や町への想いを持っているのが伝わってきます。
2歳から長沼で育った近藤さんは、高校卒業後に長沼を出て、各地で暮らしたのちにUターン。現在は、民間企業で指定管理業務(道の駅マオイの丘公園、ながぬま温泉)を行い、長沼町の活性化に取り組んでいます。今回は近藤さんのこれまでとこれから、そしてUターンしたからこそ分かる長沼町の魅力について伺いました。
とりあえず一度道外へ出てみたいと、宮崎県とカナダのオタワへ
「高校を卒業したら、一度北海道を出てみたいと思っていました」と話す近藤さん。子供のころ、 誰一人知り合いのいないサッカーのクラブチームに入ったとき、新たに人間関係を築いていくことの面白さを知り、「外に出られるチャンスがあるなら場所は問わず、とりあえず新しい場所へ行ってみたいと思っていました」と振り返ります。
高校卒業後は、宮崎公立大学の国際文化学科に進学。「英語を学びたい人や海外に関心のある学生が多いこともあり、語学留学やワーキングホリデーを経験している学生の割合が高かったんです」と話し、近藤さんも3年生のときに休学し、ワーキングホリデーでカナダのオタワへ。
「英語が勉強したいとか、そういう目的ではなく、単純に知ってる人がいない海外のどこかで生活をするという経験が欲しかっただけなので、特に国にもこだわらなかったんですが、せっかくなら日本人が少ないところがいいかなと思ってオタワにしました」
ところが、いざ行ってみると思っていた以上に言葉の壁がありました。「最初の2カ月は苦痛で(苦笑)。とにかく必死で勉強しました。会話ができないと全然楽しくないですからね」と笑います。勉強の甲斐あって、現地の友人もでき、アルバイトをしながら、空いている時間は友人たちとパー ティーをしたり、出かけたり、オタワでの生活を満喫。約1年で帰国します。
IT会社、リゾートバイト、ゲストハウスの運営とさまざまな仕事を経験
帰国後は就職活動が待っていました。「特にこれがやりたいとか、これになりたいとか、そういうのがなかったので、とりあえず面白そうだなと思う会社を受けました」と話し、その結果、東京のIT会社に就職。
「実は面接のとき、僕があまりにも落ち着いて話していたせいか、中途採用の人と話しているみたいだと言われたんです。新卒らしいフレッシュ感はなかったんでしょうね」と笑います。
当初はシステムエンジニアとしての採用でしたが、バックオフィス部門での打診があり、新卒採用担当に。
「1年半ほど経ち、色々な業務を経験していく中で、自分がどちらかというと常に新しいことにチャレンジしていきたいタイプなのだと気付かされました」
退職届を提出し、その後のことは決めずに北海道へ戻ってきますが、長沼には戻らず、ニセコでリゾートバイトに就きます。
「学生時代、調理系のアルバイトをよくやっていたので、ニセコでもレストランの厨房で3カ月ほどアルバイトをして、そのあと長沼の飲食店で数カ月アルバイトをしましたが、すぐに静岡の浜名湖のレストランへまたリゾートバイトに行きました」。
いつまでもバイト生活を続けているわけにもいかないと考えた際、カナダのワーホリ時代、カナダ各地を旅したときに宿泊したゲストハウスのことを思い出します。
「泊まっていてすごく楽しかった記憶があって。少しは英語が話せるので、ゲストハウスをやってみるのもいいかなと思って、 とりあえずゲストハウスを運営している会社に入ることにしました」
2019年の秋から東京・浅草のゲストハウスにバイトで入って、半年後には社員となり、店長に。 右も左も分からない宿泊業界でしたが、新しいことに取り組むのが好きなタイプなだけあり、いろいろなことを楽しみながらやっているうちに大役を任されるようになります。しかし、コロナ禍となり、人も減るなど大変な時期に突入。そのような中でも浅草エリアにある3店舗のエリアのマネージャーを任されます。その後、両国店の店長と大阪・難波の店長を兼務し、大阪2店舗のエリアマネージャーにも抜擢されます。
「親会社がホテルを運営しており、いろいろ勉強になるなと感じていました。実は3、4年経ったら独立しようと思っていて、そのことも会社には話していたので、いろいろ経験させてくれたのかなとも思います」
そしていよいよコロナから社会全体が回復の兆しを見せ始め、「よし、これから頑張ろう!」と思っ た矢先、会社が倒産してしまいます。ここでがっかりするかと思いきや、近藤さんは、「こういう経験ってなかなかできないので、面白いなぁと思いました(笑)」といたってポジティブ。
北海道・千歳にゲストハウスの空きがあるからやってみますか?という声もかかったそうですが、 このころには別の仕事にチャレンジしてみたいという思いが近藤さんの中にはありました。
「これまで、場所で選んでやってきたことってないんです。大学も道外に出てみたいと思ったけど、どこの場所に行きたいというのはなくて、たまたま受かったのが宮崎だったし、ワーホリもオーストラリアとかでもよかったんですけど、たまたまカナダになっただけだし、最初の就職先もゲストハウスもたまたま配属が東京だったみたいな...。だけど、東京や大阪で仕事をしてみて、 地方のほうが面白いことができそうだなとは感じていました」
町の課題解決のために考え、行動する。やりたいことに出合い、故郷の長沼へ
地方の地域事業に関わってみたいと考え始めた近藤さん、地域おこし協力隊が一番理想的かもしれないと視野に入れ始めます。そんなとき、長沼の幼馴染から、民間企業が長沼町で指定管理業務を行い、幼馴染の兄が間もなく入社するという話を聞きます。
「面白そう!って思って、すぐに紹介してよってお願いして(笑)、詳しく話を聞いて、この事業に関わりたいなと思いました」
面談した際、「仕事は自分で探すもの」という方針に強く惹かれたという近藤さん。「これまでいろいろ働いてみて、自分は決まったことをずっとやり続けるのが苦手だとよく分かりました。それよりも課題を解決するために自分で考えて、動いて結果を出していく仕事のやり方がいいなと思っ たんです」と話します。これまで特にやりたいものがあったわけでもなく、どこかモヤモヤしていた近藤さんにとって、「そう、コレ!コレがやりたい」と思った瞬間だったそう。
仕事の方針や考え方がマッチしたのはもちろん、地域事業に関わりたいと思っていた近藤さんにとって、長沼という町で、地元でこの事業に携われるのは大きなチャンスでした。
無事に採用となり、1年前に長沼にUターン。ときどきは帰省していましたが、あらためて戻ってきて、「オシャレなカフェができているなど、いい意味で自分の知らない町になっているなと(笑)。しかも、そのカフェの情報を町外の友人から教えられたりして、意外と町外の人から注目される町になっているんだなと驚きました」と話します。
町の良さを生かし、地域と同じ目線で同じ目標へ向かうのが「地域共生」
「住んでいたときには気が付かなかった良さみたいなものも、外に一度出てみたから分かる感じがします。今は町の良さを再認識しているところですね」
その良さとは、「まずは何と言ってもアクセスの良さ。新千歳空港から近いし、札幌や岩見沢、北広島など都市部と近いのが大きなポイントだと思います。でも自然が豊かで、程よい田舎感も魅力。もちろん、農業が盛んなエリアですから、農産物の質も高いですし」と話します。
町内にある人気スポット「道の駅マオイの丘公園」では農産物直売所で新鮮な旬の農産物を販売。札幌を含む近郊の町からも数多くのお客さんが訪れます。
近藤さんはこの道の駅の運営サポートも行っており、地元食材が楽しめるピッツェリアやこの地ならではの商品を取り揃える売店に加え、アウトドアグッズも並んでいます。
さらに、その地元の野菜のおいしさや良さを分かって、それを使ったメニューを出す店があったり、加工品を作ったりする人が増えているのも長沼の良さの一つだと話します。
「移住者の人が増えているのもやはりそういう魅力が町にあるからだと思うんです。立地の良さを含めて、その強みをもっと生かして町を盛り上げたらいいと思うし、僕的にはもっとどんどん新しい人が入って来たらいいと思っています」
近藤さんは、「発展していくためには、いろいろなエッセンスが混ざり合って、対立もあって、枠を取っ払っていくことが大事だと考えています」と話し、地域住民、地域事業者の皆様と連携することで実現可能になることはたくさんあると考えています。
「特に僕が携わる施設では、役場と連携することが大事だと考えます」と続けます。
「町でこういうことをやったら楽しいんじゃないか、こういう場所があったら喜ばれるんじゃないか。日々そういうことを考えて、実行に移しています。頭の中は常に長沼に還元できることは何だろうということでいっぱいですね」
「ミート&キャンプ」はジンギスカンなどの食材、キャンプグッズがなどBBQに必要なアイテムがずらり
ミート&キャンプの森下店長と。長沼を訪れた人や地元の人が楽しめるよう、売り場づくりに力が入ります
具体的には、ながぬま温泉の敷地内にオープンした「ミート&キャンプ」 の立ち上げや、2023年9月に開催した食と音楽のフェス「NAGANUMA OASIS - FOOD & MUSIC FESTIVAL-」に携わってきました。「ミート&キャンプ」では、地元の名産であるジンギスカンやBBQに必要なアイテム、便利でおしゃれなキャンプ道具などを販売。地元の人のほか、キャンプで訪れた人たちに評判のショップです。「NAGANUMA OASIS - FOOD & MUSIC FESTIVAL-」は、長沼の豊かな食材を使った町の飲食店などが出店。地元のアーティ ストも含む多彩なミュージシャンによるステージパフォーマンスやアウトドア体験、ワークショップなども行われました(詳しくは公式Instagram 公式HPをご覧ください)
2023年9月18日に開催したNAGANUMA OASIS - FOOD & MUSIC FESTIVAL-。多くの人が集まり、食と音楽で長沼町の魅力を発信しました魅力ある人たちが暮らす町に。もっと面白いことにチャレンジしていきたい
「長沼の人って、長沼のことが大好きっていう人が多い。町に愛着を持っている人、活動的で活発な人が多いです。町のポテンシャルは高いと思うので、もっともっと面白くて楽しいことができると思うから、僕自身もどんどん挑戦していきたいですね。町が盛り上がると、町を離れていく人はおのずと減るし、そこに仕事、雇用が増えていけばさらに人が定着すると思うんです」
常に仕事のことを考えている(つまり町のことを考えている)近藤さん。毎月1回は必ず幼馴染たちと地元の野菜とジンギスカンでBBQをすると決めているそう。
長沼といえば味付ジンギスカン。こちらは温泉併設「ひつじの旅」で楽しめる「3種食べ比べセット」。それぞれ味わいが違ってびっくり
「小さい頃からこの町で一緒に育った家族みたいな仲間と、会って、食べて、話して、そんな時間も大事だと思っています。田舎って、こういう人と人の繋がりもすごく重要だと、東京や大阪で暮らしてみてあらためて感じています。都会では近所の人との繋がりはそれほど必要ないけれど、 田舎で暮らすにはそれも大事。だから、移住者の人を増やすには、町の人に魅力を持たせることも必要だと感じています。この人たちと繋がりたいとか、こういう人がいるなら暮らしてみたいと思ってもらえるような人の魅力発信とか、移住を考えている人が先に町の人と繋がりを持てるような機会を設けることなども大事だと思います」
育った長沼の町を離れ、海外やほかの都市で暮らし、いろいろなものを見て、聞いて、いろいろな人と出会い、さまざまな価値観に触れてきた近藤さん。「人の縁でここまできたという感じはあります。たくさんの人に出会い、視野が広がり、いろいろな経験を経てきた結果、自分の軸ができ、前向きにいろいろなことに挑戦できるのかなと感じています」と話してくれました。町をさらに盛り上げるために、次にどんなことを仕掛けてくれるのか楽しみです。