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まちおこしレポート
八雲町

まちおこし、木彫り熊、空き家解消...あれこれ手がける女性法律家20231030

まちおこし、木彫り熊、空き家解消...あれこれ手がける女性法律家

道南の八雲町に、とてもアクティブでクリエイティブな女性の法律家がいます。本業が司法書士と行政書士でありながら、木彫り熊ショップ「kodamado」を運営。さらに、地域コミュニティー「やくもターコイズ」の主宰を務めつつ、レンタルスペース・シェアキッチン「カミヤクモ321」や空き家のマッチングサービス「nid」も展開している青沼千鶴さんです。

どんな想いで取り組んでいるのか、なぜそんな多様な事業をマルチタスクで展開できるのか。
八雲町のまちおこしに貢献する青沼さんに、お話を伺いに行って来ました。

長年法律を学び続けた努力家であり、登山家でもある

yamabiko_aoyama_syukkin10.png愛犬のこたろうくんと一緒に颯爽と出勤!青沼さんの事務所は八雲町の中心部にあります


青沼さんは道南の知内町生まれで七飯町育ち。八雲町には縁もゆかりもなかったそうですが、旦那さんの転勤に合わせて2011年に八雲町へやってきました。

「私、今まで同じところにずっと住むってことがなかったんですよ。学生時代は東京ですし、その後も実家にいたり転勤で函館だったり釧路だったり。でも気づいたら八雲町に来て13年経っていました」

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そう語る青沼さん。高校卒業後は東京都内の大学に進学し、山岳部に所属して約30㎏もの荷物を背負って本格的な登山をしつつ、弁護士を目指して勉強し続けていたそうです。 約10年司法試験に挑戦したのち司法書士の道へ転向。新聞社や法律事務所に勤めながら勉強を続け、司法書士の資格を取得したという努力家です。司法書士のほかにも行政書士や宅建(宅地建物取引士)の資格も持っています。

「なんでこうなっちゃったんでしょうね(笑)。自分でもびっくりなんですけどね」

以前は八雲町に住むことはおろか、今のような活動をすると考えもしていなかったようです。八雲町で士業とともに取り組むさまざまな活動について聞いてみました。

八雲町での活動の原点「やくもターコイズ」を始動

「もともとアートなどのイベントに行くのが好きで、東京に住んでいた時はコンサートにもよく行きました。でも地方に来ると何もないことにがく然としてしまって。それなら自分でコンサートを主催しようって思ったんです。仲間が手伝ってくれるって言ってくれたのをきっかけに、知り合いのアーティストを呼んで開いて、だんだん大きくなっていきました」

そうしてはじめたイベント「キャンドルナイト」、はじめは小さなレストラン内で実施しましたが年々規模が大きくなり、八雲町内の「遊楽部(ユーラップ)公園」を貸切で800人も集客するイベントに成長しました。

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このイベント運営の源は、青沼さんが2012年に始動した地域コミュニティー「やくもターコイズ」です。

「イベントを主催するとか、楽しいことをやって自分の街を自分の手で面白くするっていうのを目的として立ち上げました。『器』が欲しかったんです。誰でも参加していいし誰でも出てっていいし、そういう『器』があればみんな来やすいかなと思って。ここが私の八雲町での活動の原点だと思います」

「やくもターコイズ」は、「このまちをもっとおもしろく」 をコンセプトにしたコミュニティー。年齢も肩書も関係なく自由な考えを言える場で、「何かしたい」という人たちが集まり、アイデアをみんなでブレストしたり誰かのチャレンジを「じぶんごと」として応援したりしているそうです。

ここでの人の出会いとアイデアが実を結び、「キャンドルナイト」の開催をはじめ、町内各地でゲストを招いたトークイベントやワークショップ、演劇や寄席など、さまざまなイベント活動へとつながりました。
青沼さん自身も概ね毎月1回、キッチンカーや地元の出店者を招いて事務所の駐車場で「ふたばマルシェ」を開催。大好きなカレー屋さんの出店も叶ったそうです。

夢に挑戦できる「カミヤクモ321」をオープン

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人のつながりや想い、アイデアをもとにさらに大きく発展させた取り組みが、「カミヤクモ321」。八雲町の山の中で空き家になっていた古民家をリノベーションしたレンタルスペース・シェアキッチンです。 「最初から『これやろう』って思っていたわけじゃなくて、いろいろ始めてみたら素敵な仲間がいて。その人達ってすごいスキルとか能力を持っていて、私には絶対できないものが出せる人たちなんですよね。私は物を作れないので、ゼロから何かを生み出して作る人とか夢があるって人の望みを叶えたくて」


やってみたいことや夢を叶えるラボのような空間。日替わりでカフェが登場したりリラクセーションサロンが登場したり、さまざまな人がやりたいことや得意なことを実践するチャレンジショップのような場所です。

「小商(こあきない)ってすごくいいと思うんですよ、自分の手で価値を作って稼いで暮らしを築くってとても勉強になると思いますし。得意なことがあってもいきなり自分でお店持つのは大変なことなので、動き出せない人もたくさんいると思います。小さなことから始めてみて、ダメだったらいつでも辞められるっていうくらい気楽に始められるのが一番いいんじゃないかなって思うんですよね。みんないろいろなスキルを持っていて、眠らせておくのが本当にもったいないですもん」

青沼さんの狙いや想いに共鳴した意欲的な人たちが北海道の内外から「カミヤクモ321」に集まり出店し、日々チャレンジを繰り返しています。ここでの経験をステップに町内で新たに店を構えるという人もいるそうです。 この先、八雲町周辺ではここを卒業した個性的で尖ったお店が増えていきそうな予感。とってもワクワクします。

空き家を活かしたビジネスも展開

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「カミヤクモ321」が元は空き家だったように、八雲町をはじめ各地に数多くの空き家があります。そこで青沼さんは、八雲町周辺の空き家を活用してほしい人と空き家で何かしたい人をつなぐ空き家ニーズバンク「nid」も手掛けています。宅建などの資格を持っているからこそできるビジネスです。


さらに、「旅行者が八雲町へ来ても泊まるところがないと残念なので、町内の空き家を活かした民泊もできればと考えています。私は犬が大好きなのですが、犬連れ、特に大型犬と泊まれる宿が少ないと実感しているので、犬も一緒に泊まれるような施設ができればと思い描いています」

何をするにしても、「誰のために?」「何のために?」「なぜ?」が大事と語る青沼さん。単にフットワークが軽いだけではなく、しっかりと現状やニーズ、目的を把握した上でさっと動いています。


八雲町の伝統文化、木彫り熊の伝承と継承を目指す

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これらの様々な活動のお話を聞くとものすごい行動力だと感じますが、青沼さんの取り組みはまだまだほかにも。
司法書士・行政書士の事務所の隣に店を構える木彫り熊と本の店「kodamado」の運営です。事務所で本業の仕事をしつつ、店にお客様が来たら対応するというスタイルで営業しています。

北海道内には木彫り熊が有名な街は複数ありますが、八雲町も木彫り熊の一大名産地。かつて八雲町で開拓を進めた尾張徳川19代目当主の徳川義親が、冬の農閑期の手仕事にのために、また美術を浸透させて生活文化を豊かにする目的で、スイスから木彫り熊を持ち込んだことから八雲町に根付いたと言われています。

「八雲町の唯一無二のものは何だろうって考えたら、木彫り熊にたどりついたんです。数年前から東京とかで木彫り熊がちょっとブームになって、メディアに取り上げられたり八雲町へ見に来る人が増えたりしているのですけど、町内に資料館はあっても見て買えて楽しめる場所がないな、じゃあ始めちゃおうかって。八雲町の木彫り熊って、鮭を口でくわえている典型的な形だけではなくて多彩なデザインがあるんです。ここに来るお客様も『こんなにいろいろあるんだ』『イメージが変わる』と驚き、自分の好きな熊を探して選んでいきますね」

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お店では、伝統ある古い木彫り熊を展示しているほか、八雲町内外の作家さんが手掛ける木彫り熊を販売しています。町民が自宅で眠っていた木彫り熊を「飾るかい?」と貸してくれることがあるほか、「ちょっと彫ってみた」と言って作品を持参する人もいるそうです。

「木彫り熊って『山』を感じるんですよね。私が登山をするなど自然の中で育ったからかもしれませんけど。冬の間の副業として始まった歴史的な経緯もあるので、身構えず気軽に彫る人が増えたらいいなと思います」

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さらに、青沼さんは熊をテーマにしたイベントも企画。冬には「冬眠まえのクマまつり」、そして春には「冬眠あけクマまつり」と称してこれまでに5回開催してきました。木彫りの実演やワークショップ、トークライブやマーケット、木彫り熊をテーマにしたグルメやガイドツアーなど「熊」にまつわる楽しみがもりだくさんの内容です。

2023年6月の「冬眠あけのクマまつり」は12日間のロングランで開催。kodamadoやカミヤクモ321のほか八雲町内の飲食店や企業、施設などが協力してくれました。八雲町内のほか、他の市町村からも出展者が集まり、それぞれが「クマまつり」を盛り上げてくれたといいます。
会期中は北海道内はもちろん全国から「熊好き」のお客さんが集まり大盛況。青沼さんは出展者、来場者に感謝しながら、12月には「冬眠まえのクマまつり」を計画中だと話してくれました。

青沼さんは八雲町の伝統文化の継承、そして地域活性化にも一役買っています。

仕事も地域活動もプライベートも充実。原動力は八雲町の人

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楽しいこと、興味があることにどんどん取り組んでいく青沼さん。本業の法律のお仕事にも邁進しています。「司法書士・行政書士 やまびこ事務所」を八雲に開業したのは2011年。それから10年以上の時を経て、地元の方々の心強い味方になっています。


「地域の方から法律に関してさまざまなご相談を承っています。多いのは相続や遺言に関わることですね。不動産の取得をする際や独立起業する時など法律の知識が必要になる機会もあります。法律に関する悩みや困り事があれば気軽に相談していただきたいですね」

地元の人はもちろん、外国人のお客様が多いというのも「やまびこ事務所」の特長。

「ビザの申請や在留手続きなど入国管理に関する手続きも受けていますので、相談したいという外国人の方が遠くからわざわざいらっしゃることも多いんです。八雲町でこうした仕事ができるということはあまり知られていないのかもしれませんね。いま切実に、一緒に働いてくれる仲間を求めています!」

と青沼さん。公私ともにめいっぱい活動しているからこそ、仲間の存在は本当に大きいのでしょうね。

これだけ数多くの活動に携わっていて、プライベートやお休みがあるのか気になってしまいます。青沼さんのエネルギーの源泉は何なのでしょうか。

「休みがあったら、最近はあまり行けなくなっちゃったのですが、やっぱり山には行きたいです。アルプスとか本格的な登山。海外旅行も好きで北欧などへ行っていましたが、コロナ禍になって行けなくなってから海に目覚めちゃって。ダイビングのライセンスを取って3日間弾丸で離島に行きまくりました。あと、趣味で社交ダンスもしています」

終始明るく柔らかい感じでお話しされるのに、さまざまな事業や活動を同時進行で回し、プライベートも充実させるバイタリティーと好奇心に圧巻です。

「全然大したことのない小さい活動なんですけどね、本当にちっちゃい遊び感覚だからできちゃうのだと思います。八雲町でやれることはいっぱいありますし、深堀りできます。それに、それぞれの活動ごとに一緒に楽しんで頑張れる仲間たちがいるからやっています。一人では絶対できないですし、ノリと勢いだけでついてきてくれる仲間がありがたいです」

青沼さんは謙遜して語りますが、じゅうぶん素晴らしいまちおこしの取り組みばかりです。日本各地どこへ行ってもやっていけそうな気がしますが、こう語りました。

「東京に住んでいたらこんな⾵に活動はしていなかったはずです。私は⼋雲町に育ててもらったと思っています。なので、⼋雲町から出ることは考えていませんし、ずっと⼋雲町でやっていきたいと思っています」

青沼さんにとって、八雲町でのまちおこしの山頂ははるか先のようです。これからも仲間とともに、さらに上を目指して挑んでいきます。

司法書士・行政書士やまびこ事務所 青沼千鶴さん
司法書士・行政書士やまびこ事務所 青沼千鶴さん
住所

北海道二海郡八雲町本町87番地ふたばビル2階

電話

0137-63-2917

URL

https://yamabiko-office.com/

kodamado(木彫り熊の店)

https://shop.kodamado.com/

カミヤクモ321

miyakumo321.jimdofree.com


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この記事は2023年9月26日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。