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壮瞥町の新戦略、アウトドアで観光と町内を活性化!20230917

壮瞥町の新戦略、アウトドアで観光と町内を活性化!

壮瞥町(そうべつちょう)は、1989年から始まった「スポーツ雪合戦」発祥の地。いまや「yukigassen」が国際的な共通語になっているほど、海外でも親しまれています。「洞爺湖有珠山世界ジオパーク」のまちでもあり、多くの火山マイスターが活躍するなど、まちを盛り上げる「熱い」人たちが多く、スポーツや自然教育、国際親善などが活発に行われています。 2021年には、スポーツやアウトドアを観光や町内の活性化に生かす「そうべつアウトドアネットワーク(以下、アウトドアネットワーク)」が設立されました。現在は町内・町外に向けて体験型のコンテンツづくりに入っています。

sobetsuoutdoor03.JPGビビッドカラーのポロシャツが眩しい篠原さんと、ボーダーがお似合いの中岡さん

今回インタビューするのは、アウトドアネットワーク事務局を担当する、壮瞥町教育委員会の生涯学習課主幹・篠原真吾さん、そして地域おこし協力隊3年目、同事務局で活躍する中岡紗恵子さんのお二人。

中岡さんは壮瞥町と友好都市のケミヤルヴィ市があるフィンランドに造詣が深く、2021年に行われた世界的スポーツ大会では、ホストタウンとしてフィンランド男子競歩チームの事前合宿を招致した立役者でもあります。「モルック」という軽スポーツや、麦わらで作るフィンランドの代表的な装飾品の「ヒンメリ」、料理教室などのイベントでフィンランド文化を広めてきた中岡さん、アウトドアネットワークでも、フィンランド文化を組み合わせた楽しそうなプログラムを企画、実施しています。

「世界幸福度ランキング」が6年間連続1位というフィンランドに滞在して「自分が変わった」と話す中岡さん、そして全国企業の勤務経験があり、Uターンした今は休日のキャンプなど家族のふれ合いを大切にしている篠原さんに、アウトドアネットワークについて、またご自身のことについて、お話をお聞きしました。

洞爺湖と火山の壮瞥町でアウトドアネットワークが発足

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壮瞥(そうべつ)町は、洞爺湖有珠山(とうやこうすざん)ジオパーク内にある、豊かな自然に恵まれたまちです。数十年おきに噴火を繰り返す有珠山、国の特別天然記念物である昭和新山と、ダイナミックな自然を体感できることや、洞爺湖温泉街をはじめ、個性的な温泉が点在することから、観光や学習旅行など団体ツアーが多く訪れてきました。 しかし、旅のスタイルが個人やグループに変化してきたことや、コロナの影響もあって、町内を訪れる団体客は減少しています。

壮瞥町では、国の進めるアドベンチャーツーリズムや地域スポーツ振興の動きを受けて、地域スポーツコミッションである「そうべつアウトドアネットワーク」を設立。アウトドアやアクティビティを軸に、個人やグループ客に魅力ある体験コンテンツやツアー、町民向けの自然の豊かさを再発見してもらうイベントを企画する新たな取り組みを始めています。

アウトドアネットワークの担当である、教育委員会の篠原さんがこれまでの経緯を話してくれました。

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「壮瞥町ではネットワークの設立準備段階から、モニターツアーを通じたフィージビリティスタディ(実行可能性調査)を行ってきました。初めは『地域の魅力を再発見する』という活動で、町民向けに登山会やツリーイング、スノーシューなどの体験会を行い、次は町外の人に向けて、雪合戦やスノーシューなどのメニューも加えて参加してもらいました。また、勉強のためにアドベンチャーツーリズムの先進自治体を視察したり、アウトドア分野の会社の方を招いてセミナーを行いました」

その結果、より求められる体験コンテンツの方向性が見えてきたといいます。

「初めはアウトドアといえば運動するというイメージで、例えば冬には町のオロフレスキー場でスキーやスノーシューといった体験を行っていました。しかし、なかなかうまくいかなかったため、あらためて見直しを行いました。ひとつのアクティビティ体験だけでなく、地域の良さや文化も感じていただけるようなコンテンツも加えて、より広い範囲のお客様に興味を持ってもらえるように、また、初心者向けに気軽に体験できるプログラムも企画しました」

モニター体験を通じて、プログラムをより親しまれるものに

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壮瞥町は「そうべつくだもの村」で知られるように、昔から果樹園が多いまちです。また、野菜の栽培も盛んです。そこで、地元のトマトや野菜を収穫した後に、オロフレスキー場に行って自分でピザを作って味わったり、フルーツ農園での果物狩りをプログラムに盛り込んだモニターツアーを企画したとのこと。

また、上級者向けだった冬のオロフレ峠へ樹氷を見に行くというスノーシューツアーに加えて、もっと手軽に参加できるようにと、雪が積もった冬の果樹園でのイベントを実施。りんごの木や果樹園についての話を聞きながらスノーシューで歩き、休憩タイムにその場で淹れたコーヒーとスコーンを味わうというツアーが好評を得ました。

スキーのコンテンツも、対象を初心者や慣れない人に絞ることで成功します。これまで町内の子どもに毎年行っていた初心者向けのスキー教室を、町内外の初心者向けにも行ったところ、これが大好評!幅広い年齢層の人が参加したそうで、「受講後はスキーのシーズン券やスキー板を購入する方もいて、オロフレスキー場の活性化にもつながりました」と手ごたえを感じるようになりました。

スキーは初心者だったという名古屋出身の中岡さんも、こちらに来てから自主的にオロフレスキー場に通い続けてスキーの1級を取得したそうです。「業務上、スキー授業で写真撮影や子どもたちの見守りをするので必要だと思い、資格を取りました。最初のうちは『生まれたての子鹿だ』とよく言われたんですけどね」と笑いながら話す中岡さんに、上司の篠原さんが「彼女はすごいですよ、何につけてもモチベーションの高さが素晴らしいんです」と教えてくれました。

そんな中岡さんは、これまで得たフィンランドの経験と知識を生かしながら、木の棒をボーリングのように倒すゲーム「モルック」や、2本のポールを持ってフィールドを歩くノルディック・ウォークなど、気軽に参加できるフィンランド発祥のスポーツイベントを行ってきました。特に、老若男女を問わず楽しめるモルックは、これから全国にも広まっていきそうな注目のスポーツです。

「熱い」壮瞥町の人たちの調整役として体験メニューの実現化を目指す

今年度のアウトドアネットワークでは、モニターツアーで得た手ごたえを生かして、スノーシュー体験やツリーイング、洞爺湖でのSUPや初心者向けスキー体験などのプログラムをさらにブラッシュアップするほか、新たな魅力あるコンテンツづくりを行って、商品化につなげることを目指しています。「ガイド確保などの問題をクリアしながら、まずは2つ3つと、できる範囲で具体的に形にしていくことを目標にしています」と篠原さん。

中岡さんは、新たにアウトドアネットワークの「地域コーディネーター」に任命されました。 「壮瞥町の魅力ある自然と施設、人をつないで1つのツアーを企画する際に、コーディネーターとして調整を行うのが私の役割です」と中岡さん。ネットワークの会員は地域に根差して長年活動してきた人が多く、各分野からさまざまな意見を持つメンバーの思いを取りまとめていくのも重要な役割のひとつだといいます。

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「今から30年も前に、雪合戦をスポーツにした昭和新山国際雪合戦を立ち上げたり、フィンランド・ケミヤルヴィ市との友好都市関係を結んで中学生の海外研修を始めた壮瞥の人たちは本当にすごいと思います。どちらも町民の協力が欠かせませんし、それを継続して現在まで続けてきているんですよね。この地域を良くしたいと思っている、熱い人たちが多いまちなんです」と中岡さんは話します。

壮瞥町には、ケミヤルヴィ市との親善団体として発足した「キートス・クラブ」、壮瞥町の高齢者大学「山美湖大学」、それに火山の歴史や恵みを伝えて防災や減災に貢献する「洞爺湖有珠火山マイスター」をなど、自主的に学び活動をする人が多くいます。

そして、名古屋から来た中岡さんも、壮瞥の人に負けず劣らずの「熱い」人です。地域おこし協力隊に入ってからは、2021年の世界的スポーツ大会でフィンランド選手の事前合宿を招致するため、運営する委員会と交渉する大役を務めました。関係者と交わしたメールのやり取りは400通を超え、壮瞥町がフィンランド男子競歩チームのホストタウンに選ばれたのです。コロナ禍のためフィンランド選手団との直接の交流はできませんでしたが、町内に呼び掛けて応援の千羽鶴やメッセージを送ったり、中岡さんが間に入って町民のおもてなしの声や、選手団からの声を伝えるなど、できる限りの交流を行いました。まちの人も、選手団の人を見れば笑顔で手を振ったりと、温かい空気が流れていたそうです。

また、コロナ禍でフィンランドからの訪問団が来ることができなかった際にも、中岡さんはフィンランドの暮らしや文化を感じられるイベントをしようと、親善団体キートス・クラブを通じてモルックやヒンメリづくり、アイシングクッキーづくりなどを企画、実施しました。その結果、フィンランドに興味を持つ参加者が増えて、町外からクラブに入会した人もいるといいます。

さらに、洞爺湖有珠山火山マイスターの資格も取得して、ガイドや子どもの学習授業に生かしています。上司の篠原さんが「土日も活動していて、いつ休んでいるのか分からないですよね」と感心するほどの活躍ぶりですが、中岡さんが見せる微笑みと語り口は充実感に満ちています。

世界幸福度ランキング1位のフィンランドで学んだもの~中岡さん

「フィンランドへ行って人生が変わりました」と話す中岡さんの、壮瞥町に来るまでのお話も伺ってみましょう。 高校時代にアメリカ留学経験があり、地元の名古屋にある大学で国際英語を専攻した中岡さんは、母国語でない国で英語がどのように使われているかということに関心を持ち、フィンランドの大学に留学します。「フィンランドでは、ほとんどの人が英語を話せますし、大学の授業も英語で行われていました」という中岡さん。そこで、フィンランド国民の人柄に惹かれたといいます。

sobetsuoutdoor13.jpgフィンランドに住んでいた頃の中岡さん

「彼らは謙虚で、素直で、シャイで正直。それに、あまり肩書といったもので人をジャッジせず、いつも対等に向き合って、中身を判断して認めてくれるんです。そんな姿を見て、また、フィンランドの人たちに、私も受け入れてもらって、自分自身も変わりました。そして客観的に私という存在や、外から日本をみることができて、自分を大切にできるようになりましたし、周りのものや肩書、経歴といったものを気にしなくなりましたね。特別なことをしなくても、1日1日を、隣にいる人と過ごす時間を楽しめることを幸せと思うようになりました」

卒業後は、海外からみて日本の福祉が充実していること、おばあちゃんっ子でお年よりと話すことが好きだったことから地元で高齢者介護の会社に入ります。初めは現場での介護業務を担当し、その後は本社の人事部に異動。ここでは本社と現場の橋渡しとなる役割を果たしていました。入社から10年経ったころ、自らのキャリアにひと区切りを感じて転職を決意。大好きだったフィンランドのサンタクロース村で、日本人向けの通訳や旅行販売窓口の担当として働きはじめました。

そこに、コロナ禍が発生します。夏に帰省しようと思っていた日本にも、すぐには帰れなくなりました。数ヵ月後にやっと帰国したものの、観光客が激減したためにサンタ村では仕事がなく、日本で待機する日々が続きます。そうしていたところ、アメリカ人の友だちから日本の地方の良さや、北の大地、北海道がフィンランドに似ていることを聞きます。調べてみると、壮瞥町で、世界的スポーツ大会でフィンランド選手団のホストタウンになるための招致活動を担う地域おこし協力隊を募集していることを知りました。

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「ほかにも道内の3つのまちを候補にしていたんですけれど...」と言う中岡さんに、さらなる決め手があったといいます。

「洞爺湖が好きなんです。眺めていると心が静まる感じで、洞爺湖が見えるまちで生活できるのはいいなと思いました」

現在は壮瞥町に住んで3年目、子どもたちからは「さえちゃん!」と呼ばれるそうで、まちの人とも顔なじみになりました。「大地の恵みならではの温泉も楽しんでいますし、私は果物好きなんですけれど、ほかでは食べられないぐらいおいしいんですよ」と、プライベートでもこのまちを満喫しています。

地元志向でUターン、民間会社勤務の目を生かす~篠原さん

それでは、民間企業から13年前に壮瞥町役場に転職した、篠原さんにもご経歴を伺ってみましょう。すぐ隣町の伊達市出身でUターン組。奥さんも壮瞥町出身で高校時代からのおつきあいです。

「元々、私は長男で地元志向を持っていました。祖父母の家もありましたし、子どものころは祖父の田んぼや畑を手伝ったり、山で遊んだりした思い出があります。もし、このまちを出ることになっても、いずれは戻ってくるんだと決めていました」

札幌市の北星学園大学で経営情報学科を専攻、卒業後はなるべく地元から近いところをと、室蘭市立病院門前の調剤薬局で医療事務を務めました。「女性が多い職業なので『男は珍しいね』と、よく言われながら働いていました」と笑う篠原さん。その後札幌本社に移り、管理システム開発の仕事を行います。さらに、東京に転勤してグループ会社にシステム展開をしていく業務を担当しました。

ふるさとから、どんどん離れてしまった篠原さんですが、ある時期に地元へ戻ることを決意します。

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「私が年齢的に公務員試験を受けられる最後の年になったんです。これが地元に帰ってこられるラストチャンスと思い、壮瞥町の試験を受けることにしました」と篠原さん。東京にいたときは、奥さんの育児の大変さも気になっていたといいます。

「私も忙しくて、なかなか子育てに参加することができませんでしたし、子どもと遊びに行くことも難しかったですね。こちらに来てからはお互いの実家にサポートしてもらって、とても心強く思っていますし、子どもに『来週はキャンプに行くか?』と誘えば2人とも『行く行く~!』という感じで、家族で思い切り楽しんでいます」

役場では、民間企業の経験が生きていると篠原さんは話します。「自治体の業務を柔軟な視点で見ることができるので、それが役に立つこともありますね」と篠原さん。ちなみに、趣味は筋トレで、ジムに通いベンチプレスを120キロ、130キロと上げているのだとか!娘さんが参加した宿泊学習に、業務上で同行したときは「パパが来てくれてうれしい」と言われるほどの、頼もしいお父さんなのです。

魅力あるツアーで観光客を呼び込み、町民のアウトドア事業に還元を

アウトドアネットワークの将来像についてお聞きすると、篠原さんは真剣な表情で語ってくれました。

「いずれは法人化して自走できるようにしたいですね。アウター向けのイベントで入ったお金を、インナー、つまり町民向けの事業に回していけることを理想としています。アウトドアネットワークの会員の方たちは、各分野の第一線で活躍してこられた方ばかりで、このまちをより良くしようという意識が高いだけに、それぞれの異なる思いや意見をお持ちです。みなさんの強い思いを調整する、地域コーディネーターの中岡さんも大変だと思いますが、逆にうまく落としどころを見つけて『おお、これだね』とみなさんが納得できるようなコンテンツを作っていくのが、やりがいになると感じています」

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数ある壮瞥の魅力を組み合わせながら、着実に多くの人が楽しめるコンテンツを作って、国内や海外のお客さんが集まってくるようになる。まちに住む人たちも、アウトドアや異文化体験、スポーツに参加して、貴重な自然や文化を持つふるさとを愛するようになる。

壮瞥町には、中岡さんのほかにも、さまざまなジャンルで活躍する「熱い」地域おこし協力隊の人たちがいます。これからの壮瞥町、ますます楽しみになりそうですよ。

そうべつアウトドアネットワーク 篠原真吾さん・中岡紗恵子さん
そうべつアウトドアネットワーク 篠原真吾さん・中岡紗恵子さん
住所

有珠郡壮瞥町滝之町287番地7 壮瞥町教育委員会(事務局)

電話

0142-66-2131

URL

https://www.town.sobetsu.lg.jp/chosei/gyosei/sobetsu-outdoor-network.html


壮瞥町の新戦略、アウトドアで観光と町内を活性化!

この記事は2023年7月19日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。