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まちおこしレポート
苫小牧市

民間運営の「苫花地方卸売市場」。花卉普及のための挑戦20230823

民間運営の「苫花地方卸売市場」。花卉普及のための挑戦

私たちが日ごろ、スーパーや小売店で手にする野菜や魚などは、そのほとんどが卸売市場でお店の方たちが仕入れ、販売しているもの。花も同様で、基本的に卸売市場から仕入れたものを町の花屋さんが店頭に並べて販売しています。

最近は、自治体が行っていた地方の卸売市場の運営方式が変わり、指定管理者制を導入するところや完全に民営化するなど、時代とともに変化しています。

苫小牧市でも青果と水産の市場は指定管理者を置き、花卉は公募を経て民間へ。

そして2023年1月、旧公設地方卸売市場花き部が移譲され、「苫花地方卸売市場」がオープンしました。今回は、市場の施設を買い取り、運営をスタートさせた「苫花」へ伺い、現場を任されている同社の取締役部長・野宮健佑さんに話を伺いしました。

tomahana2.jpgこちらが野宮さんです。

「苫花」の親会社は、花卉の流通に一石を投じた札幌の「ブランディア」

「苫花」は2012年に設立された花の仲卸の会社。苫小牧とその近郊の花屋さんに花を卸してきました。同社の親会社は、民間の花卉市場を独自に開設して花卉業界の流通革命を起こしたともいわれる札幌の「ブランディア」。野宮さんも、苫花が設立される前はブランディアに在籍していました。


「ブランディアには大学生の時にアルバイトで入りました。実家が当時札幌で花屋をやっていて、親の紹介もあり、最初は跡を継ぐための修業のつもりで入ったのですが、代表の熱意に引っ張られるようにしてがむしゃらに仕事に打ち込んでいるうちに、結局そのまま就職していました」

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社長の鈴木幹也さんは、それまで不可能とされてきた「欲しい花を欲しい時に欲しいだけ仕入れられるシステム」を作り上げ、全国の生産者から花を仕入れ、ネット販売などで花屋さんのニーズに応えてきました。

「社長は新しいことにとにかくチャレンジする人。花を通して暮らしをより豊かにという想いがあり、北海道だけでなく、全国、海外へも進出を考えています。とにかくその勢いや情熱がすごいです。社員にもどんどん新しいことに挑戦させてくれます」

野宮さんはそんな社長のもとで3年働き、苫花が立ち上がるときに苫小牧へ。

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「正直、最初は抵抗が少しありました(笑)。1年くらい札幌から通っていたんですが、途中から苫小牧に引っ越しました。住んでみたら、夏も札幌より涼しいし、冬も雪が少なくて、今となっては暮らしやすいです」と話します。苫小牧で結婚し、現在はお子さんもいらっしゃいます。

花の種類も産地もしっかりインプット。少しずつ地域の取引先との関係性を構築

これまで苫花の運営に尽力を尽くしてきた野宮さん。「最初は本当に大変でしたけど、仲卸の仕事を覚えながら、このエリアのお客さんたちとの信頼関係も少しずつ築くことができ、そういう意味ではとてもいい感じで仕事を進めてこられたと感じています」と話します。


苫小牧は人口に対して、昔から花屋さんの数が多いと言われています。港があり、工場も多数あって、大きな企業がたくさん集まっているため、花の消費は個人よりも企業によるところが大きいそう。さらに苫小牧の卸売市場には、苫小牧市のほか、近隣の千歳や伊達をはじめ、日高地方からも買い付けにやってきます。

tomahana9.jpgまさに市場!という雰囲気の現場にワクワクしてしまう取材陣・

また、卸売であれば、バラならバラ、ユリならユリと、それぞれその花の種類に関する専門として知識を深め特化してやれますが、仲卸は広く浅くとにかく「花」全体を知らなければなりません。

「(実家が花屋で)子どものときから身近に花があったので、花に対してはまったく抵抗がありませんでした。むしろ花は好きでした。でも、花の種類や産地など覚えなければならないことがいっぱいで、仲卸の仕事をするようになって、とにかく販売しながら全部を覚えていったという感じです」

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そのかいあって、今は市場に入ってくるほとんどの花の産地や種類をパッと見て答えられるように。「と言っても、どんどん新しい品種が増えていますし、常に勉強ですね」と続けます。

さらに、「今年に入ってからバタバタと市場の運営に関してもやらなければならないことが増え、また忙しくなっていますが、それも含めて楽しんでいるという感じです」と笑います。民間が卸売市場を運営するということで、周囲からの期待も大きく、苫小牧を中心に花卉の振興普及という役割も自分たちが担っていこうと考えています。

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活性化のための協議会も発足。普及活動の第一弾は市役所広場のフラワーカー

仲卸としての仕事も継続させながら、市場の運営・管理も行わなければならない野宮さんのもとに、強力な助っ人が頻繁に札幌から訪れるようになりました。3月にブランディアに入社し、苫花の市場長に就任した北村徹夫さんです。これまでは別の会社に勤めていましたが、ブランディアの立ち上げの頃から社外関係者として関わってきた方で、会社のことや企業風土は熟知しています。


「僕は花の名前と種類はそれこそこれから覚えていかなければならないのですが、野宮くんをサポートしながら、ここから花卉の普及のための発信などをしていくのが自分の一番の仕事」と北村さん。

tomahana18.jpg「なんでもやります」と力強く話す北村さん。

まずは、周辺の花卉関連事業者に声をかけ、「苫花地方卸売市場活性化連絡協議会」を立ち上げました。花卉の振興普及を目的とした組織として、生産者、JA、卸売、仲卸、小売店らが参加。委員長には北村さんが就いているそう。

「一般の消費者の方たち、市民の方たちにとって、卸売市場はなじみが薄かった場所だと思います。でも、これからはこの場所を皆さんに知っていただくとともに、花に触れてもらう機会を協議会としてどんどん増やしていきたいと考えています。花卉業界を盛り上げていくためにも、花を購入してくれる消費者の方たちの裾野を広げていく必要があるので」と野宮さん。

その第一弾として7月14日に行ったのが、「Flower Car Limitedshop」。苫小牧市役所の中央広場で、1日限定のフラワーカーの店を登場させました。

tomahana4.jpgキッチンカーならぬフラワーカー

普段、花を購入する機会がない方にも気軽に手にしてもらえるようにと、気軽に購入しやすい価格の花を用意したほか、珍しい色や形の花も多数並べました。軽トラックをアレンジした荷台に並ぶ花は、遠くから見ても色鮮やかで思わず近くに寄りたくなります。

まるで、ヨーロッパの街角にある花屋さんのようです。この日は、花のある暮らしを身近に感じてもらうため、生花のほか、ハーバリウム(専用オイルに花を浸した観賞用ボトル)や花を使ったアクセサリーなども用意。たくさんの市民の方が足を止め、花を手にしてくれたそうです。

「仲卸としては長くやってきていますが、小売りとしての動きは今回がほぼ初めて。一般消費者の方たちと直接交流できる良い機会だったと思います。今後も花屋さん等とタイアップしながらフラワーカーを使ってイベントなどに出店し、花のある暮らしのきっかけ作りができたらと考えています」と北村さん。夏から秋にかけて、札幌方面のイベントにも駆けつける予定だそうです。

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異業種との共創も視野に入れながら市場を運営。仲卸としてはトップを目指す!

新しいことに果敢に挑戦するというブランディアの精神は、苫花にもしっかりと引き継がれており、フラワーカーのほかにもいろいろな企画を考えているそう。

今回、取材陣が野宮さんたちに話を伺ったのは、卸売市場の2階に新たに設けられたスペース。1階は競りの場所もあり、いわゆる卸売市場という光景ですが、2階のそこだけはまるでカフェのようなオシャレなスペースになっていました。

「一般の人にもたくさん利用していただけるスペースとして改装しました。まずはここで、フラワーアレンジメントスクールを定期的に行っていく予定です」と野宮さん。白老町在住の人気フラワーデザイナー・西村由佳さん(jill's garden)を講師に、7月、8月と開催することが決まっています(7月はすでに定員に達しています)。

「フラワーカーのショップを出した際のアクセサリーやハーバリウムもjill's gardenさんのもの。生花店で働かれていた経験もあって、センスもいい方なので、これからもいろいろ一緒にやっていけたらと思っています」と野宮さん。

tomahana16.jpgお花をモチーフにしたレジンアクセサリーがとっても可愛かったです。

このほか、秋以降も花に触れてもらうためのイベントなどを企画する予定とのこと。野宮さんは、「ただ、イベントは一過性になりがちなので、そこは気を付けなければと考えています。イベントをきっかけに花に継続的に触れてもらい、花のある暮らしが当たり前になる人を増やすことが目的ですから」と話します。

花はし好品ですが、部屋にあるだけで暮らしに潤いを与えてくれます。暮らしに花を取り入れる人が増えると、生産者、卸売、小売、消費者、すべての人にとってプラスになっていくとも話します。

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「また、自分たちだけでやるイベントだけでなく、異なるジャンルの方たちとコラボするなど、花卉業界以外の企業と共創的なことも今後はやっていけたらと考えています」と北村さん。苫小牧をはじめ、胆振・日高エリアには、さまざまな業種の企業が集まっており、共創するにしてもたくさんの可能性があると話します。「あとは、そのきっかけやチャンスをどう生かすかは自分たち次第。これからですね」と続けます。

最後にこれから先に考えている夢やビジョンを尋ねると、「市場としては、一般の方たちにも知っていただく活動、花卉普及に関する活動をもっと行っていきたいですし、そのための発信もしていきたいですね。仲卸としては、小売店など取引先の方たちからのさまざまな要望にしっかり応えていけるようになりたいです。今は人手が足りないなどの理由で対応できていな部分もあります。さまざまなサービスを供給できるようなシステム、仕組み作りをしていきたいですね」と野宮さん。

そして、「ここで頑張って、仲卸のトップになりたいですね。5年後くらいにはもっと大きな会社になっていると思うので!」と笑顔で話してくれました。

苫花地方卸売市場 株式会社 苫花
住所

北海道苫小牧市末広町2丁目1番1号

電話

0144-38-8787


民間運営の「苫花地方卸売市場」。花卉普及のための挑戦

この記事は2023年7月18日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。