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羅臼町

羅臼町漁協の青年部も興奮。シャケサミットが照らす、サケの未来20230323

羅臼町漁協の青年部も興奮。シャケサミットが照らす、サケの未来

世界遺産で日本遺産の生産地、羅臼で開催

北海道らしい食材と聞いて思い浮かべる人も多いサケ。スーパーに並ぶと秋を感じ、お歳暮の時期には新巻(あらまき)鮭が全国に届きます。毎年の漁獲高はニュースに取り上げられ、各地の川では遡上する姿に歓声が上がるなど、道民にとって身近な存在です。「サケの文化」は北海道遺産にも指定されています。

そんなサケを、もっとディープに楽しんでほしいと奮闘するアツい大人たちが、北海道にはいます。なかでも異彩を放つのは、恵庭市の宮大工・村上智彦さんや料理人らによるプロジェクト「ARAMAKI(アラマキ)」です。サケを真ん中に楽しみ尽くす「シャケサミット」を不定期で開いていて、2022年11月には知床半島の羅臼町で、第6回を開きました。

rausu_syake_2.JPG左が神山さん、右が田中さん
羅臼といえば世界自然遺産の知床にあり、日本遺産「鮭の聖地の物語」の一部を構成している町。今回のシャケサミットが画期的だったのは、まず浜のある現場が初めて会場になったこと、そして「オール羅臼」と言ってもいいほどの布陣だったことです。地元の40歳までの若手漁師でつくる「羅臼漁業協同組合定置青年部」(神山秀仁部長)とARAMAKIが共催し、町役場も全力でサポートするという、地域挙げてのお祭りです。人口4,500人ほど、カモメの鳴き声が聞こえる小さな町が、熱気に包まれました。

シャケサミットは、秋サケ漁が最盛期を迎える11月を中心に開かれてきました。なぜなら、11日11日は「サケの日」と呼ばれているから。「鮭」という漢字の右側(つくり)を分解すると、「十一」と「十一」になることにちなみます。

rausu_syake_3.JPGARAMAKIの村上さんが、サケ箱で樹上に作った小屋
また「ARAMAKI」というネーミングにピンときた方もいらっしゃるのではないでしょうか。そう、お歳暮の定番の「新巻鮭」が由来です。古く江戸時代から続くとされるこの保存食の木箱(サケ箱)をモチーフに、雑貨や生活道具、小屋などを作っています。

若手の漁師さんや「ARAMAKI」、料理人が届けたかったものは何だったのか。道内外から集まった約200人は、何を感じたのでしょうか? 当時の様子をリポートします。

未明の漁港へ。息つく間もない荷揚げ作業

11月12日、朝4時。参加者の皆さんの姿は、羅臼漁港にありました。漁協の青年部や町役場の方々のアテンドで、月明りで影ができるほど真っ暗な屋上駐車場から階段を降りると、お祭りのようにきらびやかな、まぶしい漁船のライトが目に飛び込んできました。33もの網元が、早番で忙しく作業しています。


rausu_syake_4.JPG仕分けの様子
網元の1つ、「丸ト田中水産」の田中賢志さんの船の近くで見学させてもらいました。船からは、はちきれんばかりに膨らんだ網が持ち上がり、そこから銀色の魚体が大きな台に移されていきます。10人ほどで手際よく仕分けされ、サケが大きな水槽に勢いよく流れていきます。

田中さんが言います。「メスは、黒いのがいいんです。お腹が熟して、イクラの粒が大きくなるから。きれいじゃない方が高いです!」。オスだと、トバに加工する時にクセが少なくてすむように、脂は控え目がいいようです。

rausu_syake_5.JPG荷揚げれたサケを持つ田中さん
息つく間もなく選別する作業に、見ているこちらも、手に汗握る高揚感がありました。1尾数十万円にもなるという、脂の乗りがよく「幻のサケ」と呼ばれる「鮭児(けいじ)」が揚がったかもしれないと声が上がる場面もあり、盛り上がりました。

参加した皆さんが興味深そうに水槽をのぞき込みます。その中に用意された水は、5度に保たれた羅臼の海洋深層水だとか。そう聞くだけで、味と鮮度は間違いないと思えます。サケは雌雄の別や規格ごとに分けられ、やがて市場に運ばれていきましたが、もうこの時点で食欲が刺激されてしまいました。

rausu_syake_6.JPGサケ箱でつくられたやぐら
荷揚げ見学の後は休憩を挟み、午後からはいよいよサミットが開幕。会場の羅臼町民体育館では、アリーナ中央にARAMAKIが作ったサケ箱のやぐらが鎮座していました。

漁協青年部による「トバつかみ取り」のコーナーや、町内の女性グループが丹精した、イクラおにぎりの販売ブースなどが並び、食欲とビール欲が刺激されていきます。羅臼高校の「創作料理プロジェクト」は鯛焼きのような型で、鮭節の入った生地を焼き、羅臼らしい食材を挟んだ「らうす大漁焼き」を販売。こういった飲食ブース、サケにまつわるグッズ制作のワークショップ、役場職員のアイデアという縁日的なキッズコーナーが所狭しと並び、お祭りムードが満ちていました。

rausu_syake_7.JPG「らうす大漁焼き」をPRする羅臼高校の生徒

新巻鮭の木箱から広がったサケつながり

アリーナ前方では、淡いブルーやライトグリーンのプラ箱が高く積み上げられ、そこに木箱を加工した「羅臼」の文字がかたどられていました。ポップで軽快、文句なしにかっこよいデザイン。いかにも映えそうで、スマホで記念写真を撮る人が続きました。そしてこのステージは、サケと共に生きる人たちがトークを繰り広げる舞台になりました。

「ARAMAKI」代表の村上さんは、シャケサミットやサケ箱への思いを語りました。関西などで宮大工の修行をして北海道に帰郷し、役目を終えたサケ箱でバッグやギターを制作していくなかで人気がどんどん高まり、サケから生まれるつながりの広さを感じました。木箱メーカーを通じて水産加工の関係者に、木製なので製材所や林業関係者に、サケ箱で店舗の内装を手がけたことで漁師に、それぞれ出会いました。サケの漁獲高が低迷し、プラ箱が普及する中で、相次いでメーカーが廃業していることも知ったといいます。

rausu_syake_8.JPGトークに登壇する村上さん

サケ箱をきっかけに、サケという北海道を代表する魚そのものや生産者の思い、海や川の環境、水揚げされる地域を知ることができる。もちろん遊び心はフル動員で! そんな思いから、シャケサミットは2016年に始まり恵庭市や札幌市で開催してきましたが、今回初めて、水揚げのある町での開催が実現しました。

サケ科の展示種類数が日本一の「標津サーモン科学館」(標津町)で副館長を務める西尾朋高さんもマイクを握りました。その昔、羅臼町に3か月住み込み、新巻鮭を作るアルバイトをしていたといいますから、羅臼との不思議な縁を感じている様子でした。

rausu_syake_9.JPG左から西尾さん、湊屋町長、卜部さん
長年にわたりサケと付き合ってきた西尾さん。「サケといえばドラマチックな生涯ですが、人間が関われるのは一部だけ。まだまだ分からないことが多く、不思議な点があるからこそサケは魅力的です」とサケ愛が止まりません。そして、2022年シーズンは資源量の多さを実感しているそうです。「朝夕とほぼ毎日、標津川の様子を見ています。10月中旬には数年ぶりに見るレベルで、黒々とサケが遡上していました」と教えてくれました。

人がサケの力を奪う? サケから見た温暖化

「さけます・内水面水産試験場」(恵庭市)の研究主幹で、「サケの予報官」とも呼ばれる卜部(うらべ)浩一さんは近年まで続いていた不漁について解説。「今年は全道で昨年比160%ほどと増えていますが、最盛期からみると、3分の1~半分ほどで厳しいままです」と指摘しました。その1つの原因に挙げたのは「気候変動による海流の変化」で、温度がほんの1~2度変化するだけで、サケにとって人間と比較にならないほど厳しさが増すといいます。卜部さんは「人間生活で感じられる変化を、より色濃くサケが見せている状況です」と伝えました。

卜部さんは文化的な面も踏まえ、サケと人の関係を紹介しました。「サケという魚ほど、古来、多くの国々で神話として語り継がれていた魚はいません。自然の恵みをいただく上でのルールや、環境を守る大切さといったメッセージが込められています。自然産卵などでサケが本来もつ力を生かす、そして気候変動を抑えることで、サケが末永く守られていくと思います」

サケ漁師出身という羅臼町の湊屋稔町長は、「徐々に資源は回復に向かっている感覚があり、今年の浜はにぎわっています」と現場の様子を教えてくれました。その一方で、個人的に気になっていることを明かしました。それは、自身が漁師として船に乗り始めた約35年前はサケの平均は4kg弱でしたが、今では2.5kgほどになっているという変化です。その背景の1つにあるかもしれないこととして、「漁師にとって絶対必要」と前置きした上で、ふ化事業を挙げました。

rausu_syake_11.JPGトークでサケを守り育てる方法について語る湊屋町長
「本来サケは子孫を残すために、4年間を費やし、やっとの思いで川に戻ります。メスに選ばれるために数km先まで泳ぐ体力が求められます。ですが、河口近くで捕獲されて人間に卵を絞られるということを、何世代にもわたってされてきた。すると体力も苦労も必要ない。人間が一生に一回の営みを奪ってしまっているとも言えます」

かつては浜でオスかメスか瞬時に判断がついたものの、最近では産卵期に成熟したオスに見られる「鼻曲がり」が少なくなっているといいます。その上で「最近は捕獲しない川が増えています。自然産卵を促す、自然回帰という意味ですごくいいことだなと感じています。長い年月をかけて昔の形に戻していくことが必要です。サケが育つ環境を僕たちが守っていかなきゃいけないし、次の世代に伝えていかないといけません」と自身の考えを伝えました。

サミットという名にふさわしく、正面からサケの今と未来を語り合いました。北海道庁によると、2022年9~12月の秋サケ漁獲高(速報値)は前年より76.2%増え、近年では豊漁となりました。この大切な恵みをみんなで守り、生かしていこうと思えるトークでした。

競りとフードインスタレーションで熱気上昇

続いては、青年部による競りです。競りに使われる棒状の「手かぎ」を持ち、ハチマキを巻き、顔をほんのり赤くした青年部の田中さんが「羅臼で獲れたサケを皆さんに食べていただきたいんで、もう、儲けなんて考えてないですから!」と切り出しました。赤字を厭わず、羅臼ファンを増やすべく盛り上げ役を買って出ました。


rausu_syake_13.JPG青年部による競りの様子
青年部長の神山さんらと一緒に「はい! なまら大きい新巻のオスと、イクラのできる生のメス、ラブラブセット!」「今朝獲れた生のオスと、一番いい時期に獲った新巻のセットです!」と声を枯らしました。「200円!」「500円!「1000円!」と信じられないような値段の呼び声とともに、次々と手が挙がります。2人はキレッキレに切り盛りし、派手に鐘を鳴らしました。遠くは九州から、オンラインでの参加もありました。オスは3.5kg以上、メスは3kg以上の選りすぐった45本が1時間ほどで完売しました。

この競りはもともと、豊漁祈願で毎年9月に開かれていた「らうす産業祭漁火まつり」の人気イベントでした。それがコロナで途絶え、漁協青年部の漁師さんたちにとっても復活は悲願でした。それだけに熱の入り方は並々ならぬものがあり、リアル会場の大歓声やオンライン参加者の「めちゃくちゃ楽しかった~」の声に感激しきりでした。

この日の締めくくりは、羅臼尽くしの晩餐です。日本各地を訪ねてその土地の素材を生かす「出張料理人」ソウダルアさんが、即興の「フードインスタレーション」を披露しました。羅臼で探し歩いた「いただきもの」を使い、サケの湯煮やトバ、イクラのソース、特産のコンブなどを贅沢に、巨大なキャンバスに描くように並べました。会場で販売されていた、筋子が載ったおにぎりや高校生作の「らうす大漁焼き」も、一夜限りのアートを彩りました。

rausu_syake_15.JPGソウダルアさんによる、五感で味わう、フードインスタレーション
ソウダルアさんは、料理と自然の関係について語りました。「本来料理とは、その土地のものをどうおいしくいただこうかと考えるものでした。そして自然が中心にあり、自然への愛、愛する人においしく食べてほしいという思いです」

イクラ作り体験、そして〆は悶絶のイクラ丼

最終日は「裏サミット」として、羅臼漁港にある畜養施設でイクラ作り体験がありました。前日の未明、目の前で荷揚げされていたサケがズラリと並べられ、参加者はまず包丁を手に、メス1尾ずつと向き合いました。そばにいる漁協青年部の皆さんがフォローし、頭の落とす時の力のかけ方、腹から卵をきれいに引っ張るコツを教えてくれました。


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取り出された鮮やかな筋子をボウルに移し、思い思いに網でほぐしていきました。「意外に力強くやっても大丈夫です」「グリグリしても潰れないくらい強いんで」と漁師さんからアドバイスを受け、一心不乱に手を動かしました。真水だと濁るため、やや塩を加えた水でかき混ぜていきます。地元漁師は羅臼昆布と醬油に50分ほど浸し、ザルに戻して2日間冷蔵庫で冷やすそうです。ちなみに、田中さんのこだわりは48分なんだとか。

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作業が終わった後は、お待ちかねのランチです。無農薬の炊き立てのお米に合わせるのは、
もちろん漁師さん自家製のイクラ。しかも、蒸し器に40分入れて塩とサラダ油、ゴマで味付けした特製サケフレークもたっぷりと。「漁師のいくらと最高のフレーク。食べ放題、かけ放題ですよ!」(田中さん)と、サービス精神もノーリミットです。参加者からは「うますぎる...犯罪だ!」という声も上がりました。あら汁やカレイの唐揚げも振る舞われ、まさに皆さん、箸が止まらない様子でした。

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全てのプログラムを終え、皆さんに手応えを聞きました。

青年部長の神山さんは「羅臼のいい魚、いい景色を知ってもらいたい一心でした。ハードはARAMAKI、ソフトは青年部や役場で力を合わせて、みんなでサケのお祭りができました。自分たちが主体になって楽しいことを仕掛けられるかも、と思えました」と嬉しそうです。

田中さんも「俺らは普段、魚を獲って製品を作っていますけど、なかなか地方で知ってもらうのは難しいです。シャケサミットで各地のいろんな人に直接届けることができて、皆さん本当に喜んでくれて、良かったです」と充実感たっぷり。

「羅臼に来て、ARAMAKIのものづくりやサケをきっかけに、道内外の人とつながることができました」と感想を教えてくれたのは、北海道科学大学4年の弓野詩苑さん。生産現場で刺激を受け、漁業という仕事をこれまでと違った角度から見れたようです。

rausu_syake_19.JPG大学4年生の弓野詩苑さん

「漁師さんの仕事場は昔ながらのイメージがありました。でも羅臼の漁協は施設もきれいで、こういう所で働くのもいいなと思いました。皆さん丁寧に教えてくれますし。漁期はここで頑張って、ワーケーションするなんていいですよね!」

消費者からすれば、現場で水揚げされるサケを見ると、スーパーに並ぶ切り身の見え方も変わりそうです。さばき方、食べ方を漁師さんに教われば、楽しみはもっと広がります。生産者からしても、ものづくりの職人や消費者と出会うことで、新しい可能性や誇りを感じられるはず。お互いに幸せな関係を生み出すサケは、まさに北海道を代表する遺産です。

■ARAMAKI
■羅臼漁業協同組合定置青年部
住所

■ARAMAKI/〒061-1402 北海道恵庭市春日94-1
■羅臼漁業協同組合定置青年部/〒086−1893 北海道目梨郡羅臼町船見町2-13

電話

0153-87-2131(羅臼漁業協同組合定置青年部)

URL

https://aramaki.world/about/
http://www.jf-rausu.com/kumiai/index.html


羅臼町漁協の青年部も興奮。シャケサミットが照らす、サケの未来

この記事は2023年2月24日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。