保健師って、どんな仕事をしているか知っていますか?
実は、あらゆる人がお世話になっている自治体の保健師さん。赤ちゃんが生まれる前後、成長する過程、そして大人になり高齢になるまで、住民の健康を保つためさまざまな場面で関わってくれています。特に、小さなまちの場合は保健師と住民の距離が近いのが特徴です。
北海道日高地区の中心地である浦河町の保健センター、子育て世代包括支援センターで町民の健康をサポートしている保健師と助産師の方々に、どんなお仕事をしているか、仕事のやりがいは...など、お話を聞いてきました。
浦河町役場に併設する「浦河町保健センター」が今回の舞台
おなかの中の赤ちゃんから生涯を終えるまで健康をサポート
浦河町の保健センター、子育て世代包括支援センターは町役場に併設され、合わせて4名の保健師と1名の助産師が在籍しています。
赤ちゃんを授かった時の妊娠届けの受理、生まれた後の戸別訪問と、成長過程ごとの健康診断や予防接種。大人になって一定の年齢になってからのがん検診、生活習慣病予防のための保健指導。まさに、胎児としてこの世に生を受けてから生涯を終えるまで、心身ともに健康に生活していくためのサポートをしています。
保健師、助産師になるには、看護師の国家資格の取得に加え、保健師または助産師の国家資格を取得する必要があります。看護師を養成する学校で、看護師としての進路を目指す人が多い中、保健師・助産師の道に進んだ人はどのような思いを持っているのでしょうか。
看護師や助産師としてのキャリアを積んで、浦河町に移住し活躍している主任保健師・津田有美さん、主任助産師の栗原礼子さん。そして、保健福祉課健康推進係長の松枝美喜さんにお会いしました。
左から栗原さん、松枝さん、津田さん。今回お話を伺った3人です。
病院の看護師から、地域で支える保健師に
入職して3年目になる主任保健師の津田有美さん。出身は富良野市で、大学卒業後から旭川市で看護師として8年勤務し、ご主人が浦河で家業を継いだのを機に家族で移住しました。
「看護師になりたいと思ったきっかけは、高校生の時の看護体験です。お年寄りの方の足を洗うお手伝いをしたら、『気持ちいいわ』と喜んでくださって。そこからやってみたいなと思いました」
津田有美さん
看護師としては、脳神経外科や小児科を経験。その間に2人の子どもの出産、育児休業を挟んで働いていました。
浦河町に来るにあたって、「小さなまちだから、地域の人と顔が見える関係が築ける。いろいろな世代の住民の方を支える保健師の仕事がしてみたい」と、キャリアチェンジを決意しました。しかしその年は求人がなく、老人保健施設の看護師を1年経験。その後保健師の求人が出たため、応募し採用となりました。
現在担当しているのは、産前産後のサポート。母子手帳交付の際の面談、パパママ学級での講座や赤ちゃんをお風呂に入れる練習など、生まれてからの赤ちゃん訪問、乳児相談や幼児健診、幼稚園訪問など、子育てに関わること全般です。
看護師としての経験は積んでいるものの、保健師としては初めての経験。「ちゃんと役割を果たせているかな?」と自問自答することもあるといいますが、「子育て中のお母さん、お父さんと顔と顔を合わせて話ができることに、やりがいを感じています。赤ちゃんの体重を計りたいと気軽にセンターを訪れてくれるお母さんもいて、専門職に気軽に『こんな時ってどうしたらいいの』と小さな悩みも相談できることが、浦河町のいいところですね」と、これまでの経験を振り返りながらお話してくださいました。
地域で困っている人を救う、保健センターの助産師に
今年、福岡県から移住して入職した助産師の栗原礼子さん。キャリアのスタートは大学病院の助産師でしたが、自身の子育てを機に保健センターに所属して子育てをサポートする助産師に転換。
「手術室の看護師に憧れて看護の大学に進みましたが、産科実習で出会った助産師さんから衝撃を受けました。大学病院で緊急帝王切開など大変な出産に立ち会う中、『出産は一生に1回から数回しか経験できないのだから、お母さんをいかに感動させるかが私たちの仕事』という言葉に、『そんなことを考えているなんて、すごい仕事だ』と助産師の道に進むことにしたんです」
栗原礼子さん
大学病院で働く中で迎えた自身の出産、育児。その時、改めて「地域で子育てしている人はこんなに悩んでいる」ということに気づき、保健センターに勤務する助産師を志すことにしたといいます。
保健センターに所属する助産師は、全国でもあまりいませんが、必要性が認知され徐々に増えてきているそう。栗原さんは、九州の各地で、産科婦人科・不妊治療看護など様々な経験を積んだ後、全国の保健センターから正規職員の助産師の求人を探したところ、見つけたのが浦河町と、高知県の四万十市でした。
「全国で探しても数は多くない求人です。浦河町に決断した決め手は、出産できる病院があること、海も山もあり子どもにとっても楽しみが多いと感じたことから選びました」
面接はリモートで、引っ越してきた時が初めての北海道だったという栗原さん。
「子どもたちも伝えた時は戸惑っていましたが、『馬に乗れるよ、冬は天然のスケートリンクがあるよ』と浦河の良いところを必死でアピールし(笑)、楽しみにしてくれるようになりました。移住担当の方も親切にしてくださったので、不安はなかったですね」
入職後は、妊娠期から出産後までの相談を受け、必要と思われる方へ子育てのサポートをしています。
「大都市だと担当が分かれているため、支援が必要な人に急に電話をしても取ってくれなかったり、支援を断られたりすることも多いですが、浦河町では妊娠時に面談をしてそこから関係を作っていけるので、『栗原さん』と名前を言って訪ねてくれるようになります。乳幼児相談でも、悩みを気軽に相談してもらえます。先日は、子育てで悩んだお父さんが来てくれたので、赤ちゃんのおんぶの仕方を伝えたら喜んでくれました。言葉で伝えるだけでなく、手取り足取り教えられるところが良いと思います。そうしているうちに、夫婦のちょっとした悩みも話してくれたり。お父さんお母さんの心が健やかであれば、お子さんに辛く当たることもなくなりますから、子どものために親など周りの人を元気にすることが大切ですね」
まちの機関で連携し、子育て世代をサポートしています
母の背中を見て、地元の方の健康の手助けを
保健福祉課健康推進係長の松枝美喜さんは、勤続14年目。浦河町出身で高校までを過ごした、生粋の浦河っ子です。母が看護師として病院に勤務した後、高齢者の訪問看護の仕事をしていて、小学生の時に連れていってもらったことがこの道に進むきっかけに。
「寝たきりの方や、車椅子に乗っている方などを訪問していました。母が来るとご本人やご家族が喜んでくれている姿を見て、こういう形で人の役に立てる仕事があるんだ、と思ったのが高齢者の地域看護・介護を意識した原点ですね。その後、地域の方を訪問する仕事をさらに深掘りし、健康教育などを通して住民の方が元気になるサポートができる保健師を目指すことにしました」
松枝美喜さん
大学入学時から、保健師を志望していた松枝さん。地元の近くで就職したいと考えていたところ、運よく浦河町の求人がありました。まず赤ちゃん訪問、体重測定から始まり、先輩の指導のもと、さまざまな業務を現場で経験していきました。
「ベテランの先輩が多く、見守られながら自由に経験を積んでいけたと思います。入職当初は、知識や経験がない中うまく対応できない悩み。数年経つと、この支援でいいのか、他に選択肢はないかという葛藤。さらに、他の専門職との連携を通し、思いが違う中で協力する難しさとうまくできた時の喜び。係長になった今は、町の事業としてどう展開していくべきかと、それぞれの段階での思いを抱えながら、成長して来れたと思います」
新生児の生まれた家庭への訪問や健診の問診・計測・指導もお仕事の一つ
小さな町とは言え、限られた人数で住民のさまざまな相談に対応している保健師。また、検診の業者選択から手配、財政支出、伝票処理まで実施運営全般を担っています。「大きな都市には、こんなにこなせる人はいません。本当にすごいです」と助産師の栗原さんも絶賛しています。さらに2021年以降は、通常業務に加え新型コロナウイルスのワクチン接種にも関わり、多忙な日々を過ごしています。
「津田さんと栗原さんは、浦河に来て3年目と1年目ですが経験豊富なので、何かあればサッと引き受けてくれて本当に助けられています。保健師の仕事は、人の健康に関わることなので単年では成果が見えないことが多く、住民の方にとってまだまだ足りないと感じています。個別の支援で顔が見える関係を築けていますが、まだ相談に来ていない、保健センターを知らないという方に介入していくのも保健師の重要な仕事です。これからメンバーが増えたら、そこもきめ細かくやっていきたいと思っています」
現場で働いてこそわかる、保健師の仕事の醍醐味
実は近年は、若手職員の入職が少なくなってきたといいます。看護師出身の津田さんは、「学生さんにとっては、看護師と違って保健師の仕事は幅が広くて分かりにくいことも多く、それで選ばない人もいるかもしれません」といいます。
「学校の授業でピンと来なくても、実際に入ると働く意味が見えてきます。不安があっても、思い切って飛び込んでみたら楽しいですよ!」
地域で一人一人のサポートができる喜びは大きいと、3人は力説します。
浦河町で働く魅力をたっぷりお話してくださいました
また、新卒者や未経験者にも手厚く教えてくれるのも、職場としての強みだといいます。
「今の参事は、私が入職してからお世話になっています。困難があっても負けずに立ち向かう人なので、私も同じ気持ちで働いてきました」と松枝さん。また、津田さんは、「それまで成人や高齢者のケアが多く、赤ちゃんや子育てに関わることへの不安もありましたが、先輩からのサポートでスムーズに関われるようになりました。」と、初めての仕事にも心配なく取り組めたそうです。また、土日が休日で夜勤がなく、規則正しい生活ができることもメリットとして挙げられていました。
参事の盛(もり)さんも「自慢の職員です!」と笑顔
自然が豊かで食べ物もおいしい浦河町
ちなみに、移住してきたお2人、浦河町での生活はいかがでしょうか?
「浦河の人はみんな優しいです。子どもの友達がたくさんできたことと、見ず知らずの私たちでも学校や幼稚園で親同士のつながりができたことがありがたいです。困った時に助けてもらえるのが心強いですね」と、旭川から移住した津田さんはいいます。
休日は7歳と5歳の子どもを公園に連れて行ったり、引き馬体験をしたりと楽しんでいるそうです。
また、福岡から来た栗原さんも、浦河の暮らしを満喫しています。
「住居は、移住担当の方が気密性が良く冬も暖かいからと、今の物件を紹介してくれたんです。庭には家庭菜園を作りキタアカリを植えました。スーパーに行くと、魚の種類が違うのも面白いですし、殻付きのホタテや大きなホッケにもびっくり。山の中に素敵な銭湯も見つけました」と、にっこり!
海のまちでもあり、有名な馬産地でもある浦河町
浦河町出身の松枝さんにとっても、「大人になってから浦河の景色の良さ、自然があることで心を穏やかにしてくれる魅力に気づきました」と、都会にはない魅力を話してくれました。また、同級生が地元で働き、自分の世代がまちを作っていることに感動を覚えることも多いとか。
「保健センターで研修会を開いた時に、同級生に頼んで食に関する講演をしてもらいました。食べ物や食器を扱う時の気持ちの持ち方など、普段とは違う話が聞けて良かったですね。また、デザイン事務所を運営している同級生にも、がん検診のポスターを作ってもらいました」
地域住民に検診や相談という形で関わり、健康を支える保健師・助産師。浦河町という小さな町だからこそ、近い距離感で関わり、手応えを感じることができるようです。
人の温かさや、海と馬産牧場の風景も浦河ならでは。
これから保健師を目指す方や、現在看護師・保健師として活躍中の方、北海道の地域ならではの素晴らしい環境で、貴重な経験が積める浦河町はいかがでしょうか?
- 浦河町保健センター・子育て世代包括支援センター
- 住所
北海道浦河郡浦河町築地1丁目3-1
- 電話
0146-26-9004(保健センター)/0146-26-9030(子育て世代包括支援センター)