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まちおこしレポート
初山別村

漁師を育てる!人口1100人の村の新たな取り組み20210118

漁師を育てる!人口1100人の村の新たな取り組み

札幌から留萌を経由して日本海沿いを北上すること約3時間半。
初山別村は、北海道の北に位置する、人口約1100人の漁業と農業の盛んな村です。
付け加えるなら、「星を浴びる」体験ができると言われるほど、きれいな星空が有名な村でもあります。
そんな初山別村で、後継者不足が深刻な漁業の担い手を育てるための新しい取組が始まったと聞きつけたくらしごとチーム、さっそく取材にやってきました。
まずはその取組のきっかけともなった、漁業研修生の齋藤浩之さんに、お話を聞いてみることにします。

縁もゆかりもない初山別村で漁師をめざすまで

日焼けした肌に白い歯がさわやかな斉藤さんは現在31歳、千葉県袖ケ浦市の出身です。関東出身の斉藤さんが、はるか初山別村まで来たそのきっかけは何だったんでしょう。

syosannbetu24.JPG趣味はサーフィンという斉藤さん
「大学を卒業後、東京のIT企業で営業をしていたんですが、かなりの激務で、毎日終電で帰るような日々でした。そんなある日、ふと帰りの電車の中で、初山別村の美しい星空を背景にした地域おこし協力隊募集の中吊り広告を見つけたんです。見た瞬間「これだ!」と直感しました。確か、『君も初山別のスターにならないか!』的なキャッチコピーが入っていたと思います。
初山別がどこにあるかも、どんなところなのかも全く知りませんでしたが、それは重要ではなく、その日のうちにここに行こうと決意しました。会社と家を往復するだけの毎日、仕事して寝るだけの毎日で、とにかくそんな状況を変えたかったんだと思います。すぐに地域おこし協力隊に応募し、無事に採用されて初山別村へとやってきました。それが28歳のときです」

何の縁もゆかりも無い北の土地に、たった一枚のポスターをきっかけに飛び込んで来たという斉藤さん。その目に初山別村はどんな風にうつったのでしょう。
「第一印象は、思ってたほど田舎じゃないな、でした。家もまばらなものすごい田舎を想像していたので、何というか、拍子抜けしてしまいましたね(笑)」と語ります。
こうして、その「思ってたほど田舎じゃない」村で、東京とは180度異なる地域おこし協力隊員としての新しい生活がはじまります。与えられたミッションは「3年後に村に定住するためにとにかく活動すること!」でした。
そのため当時はとにかく何でもやってみたそうです。夏祭りなどのイベントの企画や実行、忙しい人のお手伝いや、便利屋さん等々、、、。村の人の役に立つためにと模索した、そうした活動の中には、農業や漁業の現場での作業も多かったようで、自然と一次産業の担い手の重要さを意識するようになっていったのでした。

syosannbetu26.JPG
そうしてあっという間に3年が経過し、いよいよ協力隊員卒業後のことを真剣に考えたとき、頭に浮かんだのは、お手伝いにいったことのあるタコ漁師さんの、ほんとうに楽しそうに働く姿だったそうです。
「仕事って、我慢しながら、辛さを感じながら、するものだと思っていましたが、68歳の漁師さんが毎日楽しそうに漁に出ていることに感動してしまって。なにより一人で、つまり自分の裁量で仕事ができることが魅力だと思いました。もちろん危険も体力的な辛いこともありますが、自分の責任においてストレスを感じること無く働ける、漁師という職業に惹かれました。今思えば、親方はタコがお金に見えてるのだろうから、そりゃ楽しいだろうなって(笑)
もうひとつは、協力隊として活動していく中で農業も漁業も知り合いがたくさん出来ましたが、農業は比較的若い人の参入がされていましたが、漁業は新しく入ってくる若い人がいなかったんです。なので、行くならより困っている所に行って、少しでも役に立ちたいなと思いました。もちろん、もともと海が好きだというのも大きな理由でした」

動き出した、初山別の漁師担い手育成の取り組み

こうして、村に残って漁師を目指すことを決意した斉藤さんですが、なりたいからと言って、そんなに簡単になれるものではないことも理解していました。漁の技術や知識にくわえて、船や資材を購入するための資金、さらには漁をするための漁業権を手に入れなければなりません。そしてその漁業権は、漁業協同組合の組合員になり、他の組合員に認められなければ与えられないのです。これらの難題を、未経験者の、しかも移住者であって地縁のない斉藤さんがクリアするのはかなり難しいことでした。そこで、相談したのが、初山別村役場に勤める岩田誠一さんでした。

syosannbetu9.JPG初山別村役場の岩田誠一さん
岩田さんにも当時の状況をお聞きしてみました。
「普段からつきあいのあった斉藤さんが、漁師になりたいと思っていること、自分がちょうど水産課に異動になったこと、それらがぴったりのタイミングで重なりました。もうこれは何とかしなければならないと思いました!実はそれまでも漁師の担い手を育成しようという検討会はあったんです。でも、具体的にはどうやって?というところから中々進めずにいたんです。それが、担い手候補の斉藤君が現れたことで大きなチャンスが訪れました」

さっそく動き出した岩田さん、担い手希望の方を受け入れる仕組み作りを始めます。
「まずは札幌の北海道水産会に相談に行きました。そこでいろいろとヒントを頂き、道庁の水産林務部からも各種助成制度のことなどを教えて頂き、担い手希望の方を受け入れる制度を作りあげていきました。
そして、村議会の承認を得て、今年(2020年)の7月に、実際の育成研修を実行・支援するための協議会として『初山別村漁業就業支援協議会』を発足しました。
正直、もしこの制度がまにあわなければ、個人的にでも受け入れしてくれそうな漁師さんに頭をさげようと思っていました。実は自分の身内も漁師なんです。でも、漁師のことを知っているからこそ、いくらベテランでもひとつの竈で二人が食べるのは簡単ではないことも知っていました。だから指導する側も、研修する側も負担にならないような研修制度をなんとしてもつくろうと思いました」

こうして、岩田さんの東奔西走もあり、初山別村で初めてとなる、村外からの移住者を漁師の担い手として育てるという村ぐるみの取組がスタートしたのでした!

syosannbetu25.JPG地域おこし協力隊員として村に来たときからのつきあい

初山別の特性に合わせた研修プログラムの作成

岩田さんに、その研修内容についても詳しくお聞きしてみます。
「初山別では漁師のほとんどがタコ漁をメインとしています。なので、3年間の研修期間では指導親方についてタコ漁を習得してもらいます。タコ漁は、作業だけ見れば難易度が低く、しかも使用する漁具もタコ箱だけなのでメンテナンスもしやすく、比較的参入しやすい漁業です。しかし、そうはいってもたった3年のまだ経験の少ない状態で、タコの居る場所や海の状態を見極めて漁をし、収入を安定させるのはかなり難しいと思います。そこで、タコ漁だけでなく、ヒラメなどの釣り漁や、サケなどの定置網漁など、複数の漁法を組み合わせて、それぞれの漁法を3人の指導担当親方から学べるようにした、というのがポイントです。独立後、タコ漁だけに頼らずに収入を安定させるのと、漁師としての可能性を広げてもらうのが目的です。また、海に出られないときの研修として、網の直し方はもちろん、刺し網など網のつくり方をいちから学べるのもポイントです。初山別では、昔から網を外注せず、自分で作ってきた漁師さんがいるので、それを学ぶことができるんです。
あとは、3年間の研修が終了した後の5年間も、収入の最低保証をすることを含めた、助成制度の充実です。最初はうまくいかなくても、思うように獲れなくても、あきらめずに安心してがんばって欲しいとの思いからです」

syosannbetu29.JPGタコ漁で使うタコ箱。ロープにつないで海中に沈め、タコが入るのを待ちます
わかりやすく、短く説明してくれましたが、それは方々との調整が必要な、かなり大変な道のりだったのではないでしょうか。漁師の担い手を増やしたいという、岩田さんの並々ならぬ想いが伝わってきます。
特に苦労したところはどんなところだったのか?聞いてみると意外な答えが返ってきました。

「苦労は特にないです。自分は漁師の父やおじを見て育ったので、漁師という仕事がどうゆうものか知っています。だから、漁師さんたちとのコミュニケーションは、自分以外の人だったら難しいところもあるかもしれないけど、自分は慣れてるから平気ですし、外の人との橋渡しや、研修スケジュールを組むなど、この役割は自分が適任だったと思います。
それよりも、予算という部分で、実際には村としてどんな支援をするのか、それにかかる費用やその根拠は?などを村に示して提案する必要があったので、そうした書類作業の方が自分にとっては難敵でした(笑)」

村のこと、漁業のことを知り尽くしているからこその頼もしい言葉です。

岩田さんたちが、そのように力をいれる背景には、どんな現状があるのか、漁協の佐藤支所長にも聞いてみました。
「組合員は現在30人、高齢化が深刻で、自分(56歳)より年下は4人しかいません。ほとんどが60歳前後なのでこのままでは、あと20年後には漁師さんは数名しかいなくなってしまうかもしれません。まさに待った無しです。もしこの制度ができなかったら、漁師の息子さんが地元に戻って来てくれるのを待っているくらいしかなかったですね。
どうにかしなくては、というのはあったけど、じゃあ何をすればいいのか?そこから中々進めなかったのが、斉藤さんと岩田さんをきっかけに一気に動き出しましたね。率直に、漁協としてもとてもありがたい話です」 

syosannbetu14.JPG長年、村の漁業を見守ってきた、北るもい漁業協同組合 初山別支所町の佐藤弘欣さん

研修スタートから半年がたち....

さて、くらしごと取材チームが斉藤さんに最初に会ったのは、研修がはじまって間もなくの7月でしたが、10月に近づいたある日、再びお話をうかがう機会を得ました。
その日はあいにくの天気で、斉藤さんは指導担当の親方の一人岩田常蔵さんの作業小屋で、先輩の技能実習生たちと一緒に、ナマコなどをいれるカゴの修理に追われていました。一目で、7月とは顔つきが違うことに気づきました。何かたくましくなってる!?

それを伝えると、「少しモテるようになりましたかね?」と冗談を言いますが、作業のその手を止めることはありません。
先輩との息もぴったりでカゴの補修作業をすすめるその様子からは、夏には感じられなかった、自信のようなものが伝わってきます。

半年がたった今、改めてこの研修について聞いてみました。
「やはり3人の親方からそれぞれのやり方を学べるのはすごく貴重だし面白いですね。タコ箱漁ひとつをとっても、大まかなやり方はもちろん一緒ですが、タコ箱の上げ方とか、離し方とか、それぞれの親方によって違って、いろいろな発見があります」
まだ失敗も多いですが、最初に比べると『そこ邪魔!』って注意されることが無くなってきました。つまり、最初よりは全体の流れが見えてきて、自分がどこにいるべきか、次に何をするべきか、がわかってきたのかもしれません。
研修に入る前から船舶免許は持っていたんですけど、操船もだいぶ慣れて来ました。ヒラメやタコ漁のときは操船を任せてもらっています」
と着実に成長している様子。

syosannbetu11.JPGバリ、と呼ばれる道具を使って、手際よく網を補修していきます
今は3人目の親方のもとで、定置網漁の研修中だという斉藤さん。3人もの親方について学ぶのは、貴重でもあるけれど、それぞれのやり方に慣れるまですごく大変なのでは?と勝手に心配する取材陣に
「親方は3人ともとても温厚な人です。常さん(岩田常蔵さん)は趣味も釣りというくらいで、しかけとか色々工夫するのが好きだし、いつも釣りのことを考えてますね。祭蔵さん(岩田祭蔵さん)は、外国人実習生も口を揃えて「優しいよ!」と言うような方ですね。
常さん(常蔵さん)の家には、近所や遠方問わずいろんな人が来るので、その縁で漁師さんの知り合いも増えていますし、羽幌や遠別といった村外の漁師さんとも知り合いになりました。それから、祭蔵さんのところの実習生たちとは年も近いし、彼らは日本語もペラペラなのですぐにうちとけました。漁師の先輩としていろんなことを教わっています」とにっこり。
こちらが勝手に思い描いていた、厳しい親方からのスパルタ的指導、とは無縁の様子です。それどころか、親方とのやりとりを見ていると、公私にわたって良好な関係が築かれているのがわかります。

syosannbetu12.JPGナマコなどをいれるカゴの補強作業。先輩との息もぴったり!
斉藤さんの作業を見守る常蔵親方に、斉藤さんについて聞いてみました。
「斉藤君が、せっかく村に残ってくれるんだから自分の知ってることは何でも教えてあげたいと思うよ。彼は覚えるのが早いし、一生懸命だよ。これからは彼みたいな若い人が、その後に入ってくる人たちとうまくやってくれればいいな。俺らはもう年だからさ」
そして、こうも続けました。
「俺以外にも教えられる人はたくさんいたと思うけど、息子がちょうど役場の担当だったしね。あと俺意外と仕事好きだしね!好きな人が教えるのが一番いいんでない? じゃあ俺がやるかって」
聞けば、常蔵さんは自分の漁に出る日以外も、趣味でお友達を乗せて釣りにでかけるのだとか。ふと気づくと、作業小屋の中も、本業のタコ漁やヒラメ漁に関係の無い仕掛けや、釣り道具などがいっぱいです。。(笑)
こんなに漁が好きな人たちに教わっているから、斉藤さんもあの笑顔なんだな、となんだか妙に納得してしまいました。

syosannbetu10.JPG仕事は楽しくやんないとね!と話してくれた岩田常三親方。岩田誠一さんのお父様です

漁業はもちろん、一次産業にたくさんの人が就業して欲しい

今後は、どんな漁師になりたいかという質問には、独り立ちできるようになったら、漁業の新しい技術開発などにも協力していきたい、と答えてくれた斉藤さん。ちょっと意外な答えでしたが、それは、漁業全体の未来という視点で考えているからこその答えなのでした。
「協力というのは、例えば、研究者に海や漁のデータを提供したり、一緒に考えたりといった事です。自分で研究することはできないけど、漁業の仕事がより便利になったり、より多くの人が就業しやすくなったりするように何か自分にできることがあればやっていきたいです。極端な話、船の自動操縦とか、リモートの釣り(!?)とか。考えると楽しいですね。とにかくもっともっと一次産業にたくさんの人が就業しやすくなるといいなと思っています」
漁業の楽しさも厳しさも知ったからこその言葉です。

最後に斉藤さんに、聞くまでもないですが、初山別に来て良かったことを教えてもらいました。
「とにかくサラリーマンをやっている時よりも100倍楽しいです。やらされているのではなく、やりたいことをやっているからだと思います。あとは、毎日美味しいご飯が食べられる!これが一番大きいですね、親方のところで一緒に食べさせてもらってるんですが、そのご飯がすごく美味しくて、おかげで健康になった気がします。夜も、以前は寝る前に毎日仕事のことを考えていましたが、今はもう考える間もなく寝ちゃう感じですね。もし、田舎暮らしに興味があって海が好きという方は、是非初山別に来てみて欲しいですね。今後、自分の後輩ができたらすごく嬉しいです」

syosannbetu6.JPG漁でつかう様々なしかけについて丁寧に教えてくれました。思わず釣りがしたくなります
翌日、普段なら絶対起きられないだろう時間に早起きして、港に行ってみました。
明日はきっと良い感じだよ、と常蔵親方が言ったとおり、昨日の雨空が嘘のように晴れ、港は、今年一番だというサケの大漁にわいていました。
差し入れを持ってやってきた常蔵親方の奥さんの言葉が、印象に残りました。
「斉藤さんや外国人実習生の方など若い人が村に来てくれて、自分たちもすごく嬉しいんです。今までは近所の人とも、老後の話しくらししか話題がなかったのに、彼らが来てから、楽しい話題が増えました」

syosannbetu18.JPG村で唯一、定置網漁を行う岩田祭蔵親方と。祭蔵親方は常蔵親方のお兄様です
担い手不足が深刻な漁業の世界。
しかし、斉藤さんのように「漁業にチャレンジしてみたい」という方は全国にたくさんいるはず。そうした人たちと、初山別村のように、希望者をオープンに受け入れて、みんなで育てていこうという想いが出会えれば、きっと斉藤さんのような、新たな担い手がまた生まれていくことでしょう

初山別村漁業就業支援協議会
初山別村漁業就業支援協議会
住所

北海道苫前郡初山別村字初山別96番地1

電話

0164-67-2211(初山別村 経済課 水産商工係)


漁師を育てる!人口1100人の村の新たな取り組み

この記事は2020年9月29日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。