林業のまち・足寄町には、林業でまちおこしをする若手のグループがある。そう聞いて、足寄町を訪ねました。
お話を聞いたのは、そのグループ「あしょろ岐志会」の会長、佐野大祐さん。日焼けした肌にガッシリした体格、まさに「山の男」という表現が似合う印象の佐野さんに、あしょろ岐志会の活動について聞いてみました。
札幌のアパレル会社から方向転換、林業の道へ
足寄生まれの佐野さんは、林業を営む会社の社長でもあります。といっても、林業の仕事に就いた時は、そこまで林業に使命感を持っていたわけではないと言います。
「札幌の専門学校に進学して、ジーンズショップの店長をしていましたが、20代後半で転職を考えていました。地元では父がずっと林業の仕事をしていたのですが、独立することになったため、仕事を手伝って欲しいと言われたんです」
中学生・高校生のころに、お父さんの仕事を手伝ってアルバイトで枝打ち(木の枝を付け根付近から鋸などで切り落とす作業。)などを手伝った時には、「こんな大変な仕事は絶対やりたくない」と密かに思っていたそう。そんな佐野さんでしたが、家族のために林業の世界に入ることに。
当時は渋々ながら家族のため仕事を続けていくうちに、「仕事があるなら地元に戻って働きたい」という若者からの相談を受ける機会が何度かあったと言います。
「みんな一度は地元を出るけど、結婚などを機に戻ってくる子がいて、『うちで働く気があったらおいで』って声をかけてました。最初は親と同世代の人が会社には多く居ましたが、そうやって徐々に世代交代していく中で、若い子が増えていったんです」
林業で頑張る若い子たちのことを知ってほしい
若手の社員と一緒に働くうちに、また、自身も林業の知識を得て地元の基幹産業であることを自覚していったと言います。
佐野さんには「林業の仕事のことはあまり知られていないけれど、地元に根付いた仕事で頑張っている子たちがいることをもっと知ってほしい」という気持ちが芽生えました。
そんな折、町の森林室の室長から、「林業グループを作ってみない?」と持ちかけられました。グループを作ってどんなことができるのか?メリットはあるのか?と、室長と話し合ううち、この業界で頑張っている若い人たちのための未来が見えてきました。
「山の仕事をしている人は、作業場と家の往復ばかりで、勉強する機会がありません。グループを作ることで、新しい技術や他の町の取り組みを知る機会ができるといいなと思いました。また、町の子どもたちに木に触れてもらって、身近に感じてもらったら、将来選ぶ仕事の一つに林業が入ってくれるかな、という期待もあり、やってみることにしたんです」
そこでまず、室長が森林室の主催で勉強会を開いてくれました。終了後に食事会を開き、集まった林業従事者たちに「林業グループを作って一緒に活動しない?」と声を掛けたのです。その時は活動内容も全く決まっていませんでしたが、6人が賛同してくれ、2011年5月に「あしょろ岐志会」が発足しました。
イベント時に伐倒・枝払いのデモンストレーションをした時の一コマ。
山を支える足寄の若い力が結集!
「あしょろ岐志会」の名前の由来は、足寄の「山」を「支」える「志」を持って集まっていること、また若い力を結集して活動することが求められる「分岐点」で意識改革のために立ち上がる、という決意が込められています。
活動内容は、イベントなどの場に出向いて小物入れやタンブラーを作る木工作体験、親子や中高生などの林業体験、伐倒や枝払いのデモンストレーション、そして、ウッドキャンドルやアカエゾマツオイル作りなどによる新たな木材活用の模索、メンバーの研修・研さんなどです。
足寄町の道の駅には、岐志会が作った木のベンチも置いてあります。
当初6名だったメンバーは、今では13人になりました。林業の会社の経営者や従業員を中心に、役場職員や森林組合職員も加わり、平均年齢は40歳。佐野さんの会社の従業員も、趣旨に賛同して自ら仲間に加わっています。北海道内の林業グループの中でも格段に若く、また他のグループでは森林所有者が中心のため、林業従事者で作られたグループも珍しいとのこと。
評判が高まり、イベントに呼ばれることも徐々に増え、ピーク時は仕事の繁忙期でもある8月から10月ころに、休みなく動いていました。
「せっかくの依頼なので、基本的に断らないんです。札幌に日帰りもしていました」。
イベントでの体験や実演に大きな反響が
木工作の体験は反響が大きく、リピーターも増えています。「足寄以外のイベントにも呼ばれて行くことがあるんだけど、そこでも見たことのある顔が...ということも多いです。毎年やっていると、いつも来てくれていた小さかった子が制服を着ていたりして、『もう中学生になったんだ』って。長くやると感慨深いこともあります」と嬉しそうに話してくれる佐野さん。こういった活動を通して森林資源や林業のことを知ってもらえたら、と言います。
未利用材の丸太に切り込みを入れて火を灯すウッドキャンドルも、地域のイベントなどに活用されたり、一般販売でも購入希望者が増えています。
イベント時には伐倒や枝払いのデモンストレーションも行います。普段見せる機会のないカッコいい林業マンの姿を見て、林業のことを知ってもらう絶好の機会になっています。一般の方だけでなく、メンバーの奥さんやお子さんも見学に訪れます。「いつもは、お父さんは朝早くから仕事に出て、夕方に汗だくで帰ってくる。仕事をしている様子を見る機会はなかなかないので、家族にとっても良い機会になっていると思います」
高校での講話やデモンストレーションを頼まれることもあり、それがきっかけでメンバーの会社に入社した卒業生もいるなど、少しずつ芽が出ています。
研修や視察にも何度も出かけました。特に、森林面積は足寄町よりも小さいながら林業の規模としては大きい下川町にはたびたび訪れたとか。
「若い子たちが見たことのないものを見ることで、刺激を受けて新しい情報を得る機会になります。下川町ではトドマツのアロマオイルを作っていますが、足寄町に多いアカエゾマツでも作れるのでは?と、抽出機を買って実験したりもしました」と、佐野さんが当初望んでいた若い人が先進地域から学べる機会も、あしょろ岐志会がなければ作れなかったものです。
道の駅の中には岐志会がプロデュースした作品がたくさん置いてあります。
オーストリア視察で、先進地の林業を学ぶ
佐野さんは、「今後の地域の林業のために何ができるか」と考え、2018年に林業の先進地であるオーストリアへの視察に出向きました。これは、十勝の林業家や木材加工場、建設業者、バイオマスの研究者などと連携して結成した「十勝の森林資源を活用した新産業創出研究会」で、とかち財団の「十勝人チャレンジ支援事業」に林業の団体で初めて採択されて実現したものです。
「先進地で知らないことを知れるのは面白いですね。岐志会をやる前なら、行ってみたいとも思わなかったと思う」と、佐野さん自身も視野の広がりを実感しています。
オーストリアの林業の視察は、佐野さんにとって大変刺激的なものでした。「向こうでは自然に木が世代交代をするので、日本と違って植林をしません。というのも、もっと昔に木を切りすぎた時に常緑針葉樹のトウヒを植え、それが育って種を落とし、大きくなったものから順次利用していくことで、雑草も生えなくなっています。また、木を伐採した時に選別された枝やチップなども、木材やエネルギーとしてすべて有効活用されています。オーストリアと日本では環境や背景が違うため、そのまま真似することはできないこともありますが、地域のものを地域で使うことや、効率の良いエネルギー利用などは、大いに見習うべきだと思いました」
林業を安心して働ける職場にしたい
そして、佐野さんが一番学びたかったのが、現地での安全教育です。オーストリアでは、北海道と同程度の森林面積で素材生産量は日本全体より多く、それにも関わらず事故発生率は日本の半分以下です。
その理由は、林業に従事する人が学ぶ森林研修所で、山に入って実践的なトレーニングを行い、基本動作を学んでいるから。日本は資格制度も座学が多く、実践は現場任せになっていると佐野さんは言います。
「事故に遭うのは、たいてい基本動作ができていない時です。最初にしっかり覚えて、その後も定期的に基本動作のトレーニングをする必要があると思います」
佐野さんは自分の会社でも定期的な安全講習を行っており、あしょろ岐志会のメンバーにもそれを共有しています。
「働いている子たちがお互いに指摘し合い、ここの会社では安全に気を配っていると自分たちで感じられるくらいやらないと、人は増やせません。絶対に安全だと思う方法でしかやってはいけないと思うし、命がけの仕事なんて仕事じゃない。『行ってきます、ただいま』が毎日繰り返されるのが当たり前であってほしいし、『ああ、今日も生きて帰れた』って毎日思うなんて嫌だからね」。
家族のために林業を継ぎ、働く若い人たちへの思いを原動力に、あしょろ岐志会を立ち上げ走り続ける佐野さん。
「林業は夏は暑く、冬は寒い中で作業をする過酷な仕事です。それでも、地域の若いみんなが続けていけているのは、あしょろ岐志会の活動から少なからず何かが生まれたからかな、と思います。これからも、みんなが山の仕事をやっていくためのモチベーションになればと思います」
愛情と情熱にあふれる佐野さんの背中は、とても力強く頼もしく見えました。
- あしょろ岐志会 事務局
- 住所
足寄郡足寄町北6条1丁目39番地(佐野産業株式会社)
- 電話
0156-25-7332