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まちおこしレポート
標津町

気付けば町民のソウルフードに。標津の味は、福住の味。20181112

この記事は2018年11月12日に公開した情報です。

気付けば町民のソウルフードに。標津の味は、福住の味。

お蕎麦屋さんの始まりは実は「お菓子屋さん」

北海道の世界遺産知床。この名称を聞いたことがある方は多くいるかと思いますが知床が存在する「羅臼町」、そして空港があるまち「中標津町」の間に挟まれたまちが今回のくらしごとの舞台となる「標津町」です。


中標津空港から車で20分ほどすると、目の前に眩しく光り輝く大きな海が広がってきました。海の方へもう少し歩みを進めると、そこにはキレイに整備された公園があり、さらに奥へ突き進むと釣り人がちらほら。澄んだ空気とほのかに感じる海風の香りを浴びながら、海岸通りのすぐ近くに佇むひときわ大きなお蕎麦屋さんののれんをくぐりました。

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時刻は午前10時。
飲食店のオープン時間は基本的に11時台のところが多いですが、このお蕎麦屋さんは10時からオープンしているのが売りのひとつ。

お蕎麦屋さんの名前は「そば処 福住総本店」。道内各地、札幌でも何店舗か目にしたことがあるお蕎麦屋さんの総本店が、この海が見える穏やかなまちから誕生した...その誕生秘話を紐解いていきましょう。

時は遡り、第二次世界大戦が終わってからわずか6年後の昭和26年。山口ミネさんというひとりの女性がこの店を立ち上げました。

「ちょうど高度成長期。このあたりは漁業も盛んで、商店街が整備されてきた時代です。まちとしても発展していこうとしているときでした」そう私たちに教えてくれたのは、現在この店を守る社長の佐藤さん。山口ミネさんのお孫さんにあたります。

fukuzumi_souhonten3.jpgこちらが佐藤さん。くらしごと取材陣を優しく出迎えてくださいました

「実は最初はお菓子屋さんからスタートしたんですよ。まあお菓子屋、といいますか、せんべいとかを仕入れて売っていたんですけどね」

その後、子どもの教育費や生活面のことを考えて何か別の商売を...と考え始め、まちのみんなと「こういう店をやってみたらどうだろう?」「あれはどうだろ?」など意見を出し合った結果、新たに食堂というかたちでお店を出すことになりました。

食堂、とは言いつつも表向きには「お蕎麦屋さん」として動き出したのが全ての始まり。そして今では北海道に数多く点在するお蕎麦屋さんとなりましたが、初めてののれん分けはお隣中標津町に完成したショッピングモールの中。ここのテナントで入ったのが記念すべきのれん分け第一号店でした。
現在、総本店と繋がっているお店は10店舗ほど。他は他社のフランチャイズで経営されています。

fukuzumi_souhonten6.jpg地名としてもよく使われている「福住」。店名の由来は『福が住む』そんな意味合いからきているそう。山口ミネさんがつけたお名前です

昭和26年から想い続ける、標津町民への想い

このお店がご自身の実家であった佐藤さんにとって、幼い頃からお店を見てきたからこそ「自分の母がこの店を継いだように、自分もこの店は守るものだ」とずっと思っていたそうです。


佐藤さんが家業を継ぐタイミングは高校卒業してすぐのこと。

継いでから今日この日まで、時代の流れは著しく変わり、標津町もどんどん変化していきました。人口の減少はもちろんのこと、まわりの飲食店も後継者不足で店をたたみ、少しずつ活気が無くなっていくのをひしひしと感じざるを得ません。そんなまちでこの店を守り続けている理由とは一体・・・

fukuzumi_souhonten15.jpgキレイに掃除も行き届いてる店内

「大きく聞こえるかもしれないけどさ...」と、佐藤さんはその想いを語ります。

「今じゃだんだん、このまちもこういうお店が少なくなってきたんですよ。でも、『福住』という名前を多くの人に知ってもらっているからこそ、総本店として謳っているからには、この店はなくせない。標津に行けば福住さんがあるよ、そうやって評価してもらってますからね」

地場に根付いているからこそ、地元の人たちへの想いが熱いお店。冒頭でも少しお伝えしましたが、他の飲食店よりも1時間早く、朝の10時にお店をオープンしているのにも地元の人たちを想うからこそ。

「このまちは漁師まちなんですけどね、漁師の仕事がいいとこ落ち着いて、港からお腹すいたって出てくるのがこれくらいの時間なんですよ」
確かに私たちがくらしごと取材陣がお店に入った10時のあと、すぐにちらほらとお客さんが入ってきていました。

fukuzumi_souhonten12.jpg漁港には船がたくさん。

「のれんの無いところに『店を開けてくれ』なんて入れないですよね。だから10時からこうしてのれんをあげて、漁師さんたちに気兼ねなく入ってきてもらえるようにしてるんです」

標津町といえば特産品は「鮭」。せっかくなら地元の食材を存分に味わってほしいと、この総本店では鮭を使ったメニューがたくさんあります。「地元標津でしか食べられないメニューを」ということでここでしか味わうことのできないメニューばかりです。

fukuzumi_souhonten5.jpgお蕎麦屋さんに来ていくら丼が食べられる!?それは漁業のまちだからこそ出来る贅沢。他にもお蕎麦といくら丼のセットはもちろん、海の幸を使ったメニューがたくさん。

フランチャイズの店舗も含め、北海道中に広がる「福住」。でも決してチェーン店のような店ではないのです。

「福住に行けば、どこに行っても同じ味で食べられると思われるんですが、自分の考えでは一軒も同じ味はないんですよ。だって、のれん分けしたオーナーさんによって求める味は違うんです。材料も違うだろうし、もちろん麺も変わるだろうし」

「うちだって、『今日ちょっと濃いね』なんて言われることもあります。出汁で使っている鰹は生き物ですからね。出汁の出る出ないがあるのも当たり前。うちは添加物も使っていないからこそ、毎日全く同じ味を提供するってことはできないんですよ」

老舗といえども世の動きにアンテナを張り続ける

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今や「働き方改革」なんて制度も進んでいる中、佐藤さんは「時代の動きに柔軟に動けるような店をつくっていきたい」と常にアンテナを張っています。

「『老舗』としての方針をずっと変えずに貫くことも大事だけど、消費者の方も変わってきていますからね。時代背景にある程度そった道を歩まないといけないなって思っています。働く人の形態も変わってきていますしね。生きるために、子どもを育てるためにと働いていたのが、今は自分の時間を大切にする働き方になってきている」

だからこそ、この総本店で働くスタッフのシフトづくりにもそれを反映させようとしているそう。こうした働く側への配慮は嬉しいものです。

fukuzumi_souhonten8.jpgイキイキ働いているスタッフさんの笑顔が光ります

そうは言っても、このまちは若者が釧路や札幌へと都市へ出て行ってしまう流出型のまちになっているという現状があります。しかし、一度出た人が数年後にまたこのまちに戻ってきてくれる人も少なくはないのだとか。やはりその理由はこのまちの住みやすさにあるのかもしれません。

北海道の代表的なコンビニ「セイコーマート」の他に、セブンイレブンも町内には立ち並び、決して不便さは感じさせません。
「静かで住みやすいですよ。田舎だけど、隣には空港もあって、欲しいものは手に入って、大体のものは足ります。冬は確かに寒いですけど、夏は本当に快適ですねぇ」

願わくば...標津がもっとかつての昔のように活気に溢れて欲しいと強く願っている佐藤さん。

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途中でもお話しましたが、標津の漁業関係者と手を組み、鮭を使ったメニューとしてコラボしたりと佐藤さん自身も様々なことに挑戦しています。このまちだからこそ出来ること、このまちじゃないと出来ないこと、それと今日も戦っているのです。

fukuzumi_souhonten13.jpgメニューに記されたそばアレルギーの方へ向けた一言。そば以外のうどん等も、そばを茹でた同じ釜では茹でませんよというメッセージをいち早くメニュー欄に取り入れたもここ福住なのだそう

昭和26年からの歴史の長さもあり、当時親に連れらてきた子どもが、今度は親となって自分の新たな家族を福住に連れてくるお客さんも多いと、そんな嬉しいエピソードも聞かせてくださいました。「もう家族の2世代は見守ってきたね」と佐藤さんは笑います。

この地元密着のお蕎麦屋さんは、もはや標津のソウルフードと言ってもいいかもしれません。
「このまちが元気であるかぎりやっていきます。標津町っていうまちがあり続けるためには、今あるお店屋さんが頑張ってやっていくことが一番大事なところなんじゃなかな」と、店内を優しい瞳で見つめる佐藤さんでした。

fukuzumi_souhonten9.jpg最後にスタッフの方々と集合写真を。女性陣、みんなとても仲が良さそうでチームワークもバッチリでした。

そば処 福住総本店
そば処 福住総本店
住所

北海道標津郡標津町北1条東1丁目1-2

電話

0153-82-2305

URL

http://oishii-fukuzumi.com


気付けば町民のソウルフードに。標津の味は、福住の味。

この記事は2018年10月10日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。