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まちおこしレポート
湧別町

二人の若者の個性が生み出す、オホーツクのまちおこし。20180806

この記事は2018年8月6日に公開した情報です。

二人の若者の個性が生み出す、オホーツクのまちおこし。

北海道の東北部、オホーツク海の中央部に位置し、道内最大の湖・サロマ湖を抱える湧別町。農業・漁業・林業と第一次産業を基幹産業とする地域で、色鮮やかなチューリップが咲き誇る町「上湧別」と、ホタテをはじめサロマ湖やオホーツク海の新鮮な海の幸に恵まれた町「湧別」が、2009年10月5日に合併して一つの町になりました。

この豊かな自然にめぐまれたまちで、二人の若者が地域おこし協力隊として活躍していると聞き、取材チームは湧別町役場企画財政課へと向かいました。到着すると笑顔で迎えてくれたのが、野田嘉斗さんと富樫徹也さん。このお二人が今回の主人公です。お二人の主なお仕事は湧別町のPR活動と情報発信、そして移住促進のための企画や運営です。お二人ともおもしろいのがこれらの活動の一環として、それぞれの個性を活かした取り組みをされていることです。ピアノを弾いたり、お菓子づくり教室をしたり、ライターをしたりと・・・この冒頭では語り尽くせないので、まずはお二人のこれまでについてからひも解いていきます。

オホーツクのまち湧別。移住の理由とは?

まずはお二人のご出身と湧別に移住されるまでについて教えていただけますか?と取材陣から問いに、では私からと先陣を切ってくれたのは富樫さん。

yubetsu02.jpg湧別町 地域おこし協力隊 富樫徹也さん

「私は山梨県の出身です。こちらに来る直前までは山梨の段ボール製造会社に勤めていましたが、東日本大震災の影響で建物が半倒壊、会社が存続不能となってしまいました。この先どうしていこう・・・と路頭に迷う中、以前からよく旅行に来ていた北海道を改めてゆっくり旅しながら考えようと決めました。そうした旅の中で見つけた答えが『地元に留まる理由もない。大好きな北海道へ移住しよう』ということ。そして、北海道へ移住するなら当時は1番知らない土地だったオホーツクにしようとエリアを絞り、仕事情報を調べる中、湧別町の地域おこし協力隊の募集に出会いました。ほんとすぐに応募しましたね。(富樫さん)」

次に、野田さんは?

yubetsu03.jpg湧別町 地域おこし協力隊 野田嘉斗さん

「僕はここ湧別町の出身なんです。高校卒業した後、昔からお菓子が好きだったので、札幌市にある製菓の専門学校へ行きました。そうしてそのまま8年間程、札幌でケーキ屋さんやイタリア料理店など様々な飲食店で経験を積んでいく中、日に日に強くなっていったのが、『いつか自分の店を持ちたい』という想いでした。そんな折、湧別にいる父から『いつか地元に戻ってきたいって言ってたけど、こんな方法もあるぞ』と湧別町の地域おこし協力隊募集について教えてもらったんです。実は湧別には製菓店が1軒もなく、私も自分の店を持つならお菓子を提供する店にしたいと思っていたので、このタイミングも何かの縁だと思い、起業・定住も将来の視野に据えた地域おこし協力隊として地元にUターンすることに決めました。(野田さん)」

経験を活かした地域おこし協力隊の活動。

こうして、2017年7月に野田さん、2017年10月に富樫さんがそれぞれ湧別町の地域おこし協力隊として着任しました。主な活動は湧別町のPR活動と情報発信、そして移住に関する企画や運営。まずお二人はPR活動として、今までなかなか整備できていなかった町のHPの整備や、ブログやSNSといったインターネットを活用した情報発信から取りかかります。

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「HPに町の施設情報が外観写真と地図だけ・・・という少し寂しい状態でしたので、これは情報が足りないなと、見どころなどの情報整備をしました。また、私は元々旅行をしながら撮影したりと写真を撮るのが好きでしたので、SNSでの情報発信としてインスタグラムの活用をまちへと提案し、4月には公式アカウントを立ち上げました。(富樫さん)」

yubetsu05.jpg湧別町公式のインスタグラム

こうしてHPやSNSによる、観光地やイベントの様子など、湧別がどんなまちなのか見てもらう試みからスタートしました。さらに富樫さんは学生時代に東京で音響技術の専門学校に通っていた際に、舞台の脚本を書いていた経験があり、この文才を活かしてブログや観光PRサイトに湧別に関することを投稿したりもしています。
(富樫さんのブログはこちら!是非ご覧下さい!)

野田さんはお菓子作りの腕を活かしたこんな取り組みも行っているとお話してくれました。

「湧別では5月中旬〜6月にかけて、このまちで最も大きなイベントである『チューリップフェア』があります。毎年6万人くらいの来園者が訪れるイベントなんですが、このイベント会場のゆうべつチューリップ公園内にあるお店の一角に、今年から僕が作ったお菓子を置いてもらっているんです。少しでも湧別のこと覚えて帰ってもらえたらいいなと思ってます。(野田さん)」

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野田さんは他にも、ハロウィンパーティーなどまちのイベントが行われる際には、シュークリームやガトーショコラ、パウンドケーキといった色とりどりのケーキやお菓子を作り、子ども達をはじめ町民の方々に振る舞っているそうです。また、町内にある「地場産品加工センター」という調理もできる施設で、町民の方に向けたお菓子づくり教室も開いています。

「お菓子づくり教室は、お子さん連れのお母さんやおばあちゃんたちが参加してくれることが多いのですが、みなさん楽しそうにお菓子を作っている姿を見ると、なんだかスゴイ嬉しかったですね。(野田さん)」

yubetsu07.JPG町民の方とのお菓子づくり教室の様子

こうしてそれぞれの特技を活かした活動をされていますが、最近お二人はこんなことも始めたとつづけてくれました。

「移住促進のための企画として『移住体験プログラム』を始めました。大体1週間から3カ月といった期間で実際に湧別での暮らしを体験していただき、まちの魅力をや生活環境、ここでの暮らしを感じてもらう取り組みです。おかげさまで現在10組以上の予約をいただいており、順調な滑り出しです。またこのプログラムの一環として、秋にはオホーツク海での鮭釣り体験も企画中です。(野田さん・富樫さん)」

今までは人口が減っている中、移住に関してなかなか整備できずにいたといいますが、お二人が着任してからはこのような移住体験の他にも実際に移住するとなると必要な住まいに関する不動産情報の提供なども徐々に整備を進めています。

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アグレッシブに拡がる活動域!

地域おこし協力隊として活動を始めて野田さんが1年、富樫さんがまだ半年ですが、お二人の活動域はこんなものでは留まりません。

「実は私の他の肩書きを列挙しますと・・・『"町民音楽の広場"実行委員』『混声合唱団のピアノ伴奏』『図書館のプロモーター』などなど(笑)。小学生の頃から専門学校まで吹奏楽部で、今でも市民吹奏楽団に参加しています。昨年移住してきてすぐに『町民音楽の広場』というまちの音楽イベントにピアノの伴奏として出ないか?というお話をいただき出演したことが全ての始まりだったんですが、この演奏を聴いていた混声合唱団のリーダーからスカウトを受けたんですね。実はこの混声合唱団、ピアノ伴奏者がおらずほぼ活動休止状態だったんです。これはもったいないとすぐにお引き受けしました。(富樫さん)」

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移住してきたばかりの時に、こんなにも住民の方々からまちの色々なイベントなどに誘っていただいたりする富樫さん。富樫さんのおおらかな人柄があってこそと頷けます。富樫さんがこれも伝えたいですと言葉を続けます。

「旧湧別駅の跡地に建設された「さざ波」という文化センターがあります。ここには422名を収容する音響効果に優れた大ホールがありまして、さらにあの世界3大ピアノの1つ、スタインウェイのフルコンサートピアノまであるんです!日本が世界に誇るピアニスト、中村紘子さんや仲道郁代さんが2度に渡ってリサイタルを開いたこともあり、これから音楽を通した湧別を盛り上げる活動として、以前斜里町でリサイタルを開催したことのある、西村由紀江さんをぜひ湧別にも呼びたいと思っています!・・・すいません、興奮しすぎました(笑)。(富樫さん)」と熱く語ってくれました。

yubetsu10.jpg手ぬぐいを頭に巻く姿が何とも富樫さんらしく似合っています!

世界中、国・地域・民族・まち・村・集落・組織と人が集まるそこには音楽が存在します。富樫さんが笑顔で話しているのを聞いていると、音楽を通した人の繋がりは、いつの時代でもどんな土地でも強力なパワーがあるのではないかと、大げさではなく感じました。

すっかり富樫さんの独走モードになりかけましたが、野田さんも夢であるお店の開業についてしっかりと語ってくださいました。

「僕は起業に向けて少しずつですが、準備を整えています。まずはコンセプトとしては小さいお子さんがいるお母さんなんかも気軽に入れるお店にしたいと思っています。これはお菓子作り教室を通して感じたことが大きいですね。内装なんかは木目調にして、落ちつついた雰囲気にして。比較的近場の遠軽や北見のケーキ屋さんをまわったりして、勉強したりもしています。地域おこし協力隊としての任期は3年、僕はあと2年間あるので、その間には空き店舗を探して、改装をはじめたいなと考えています。(野田さん)」

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かつて湧別は日本最北の産地としてリンゴが特産品でした。しかし残念ながら病気の流行などにより今ではほとんど生産されなくなってしまいました。野田さんはそんなかつての特産品を使って、地元の若者にも湧別の歴史を知ってもらおうと、今年の成人式後に開かれた交流会へ湧別のリンゴを使ったタルトを提供したりもしています。

初めての暮らし。戻る暮らし。ぞれぞれの移住。

そうそう忘れてはいけないことがありました。お二人とも湧別に移住してきて暮らしが変わったと思うのですが、実際住んでみていかがでしょうか?

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「私は山梨からの移住なのでやっぱり一番は冬が衝撃的でした。山梨でも雪は降ることがありますが、根雪にはならずすぐに溶けます。なので、雪の多さもそうですが、中でも一番驚いたというか戸惑ったのが、家の中のストーブ。こちらに引っ越しした時に部屋にあるストーブを見て、最初はこれが何なのか分からなかったんです。よくよく見るとストーブなんだと理解できたんですが、火のつけ方がわからない・・・。すぐに業者さんに連絡してストーブの使い方を学びました(笑)。(富樫さん)」

「僕は高校生まで湧別にいて、直近も札幌にいました。なので、そこまで大きな変化は感じなかったのが正直なところです。でも広い空き地にソーラーパネルが並んでいたのは昔はなかった光景ですね。あとは、『チューリップフェア』に来てくださる観光客の方々に海外、特にアジア圏の方がとても多くなったのは大きな変化です。こうしたインバウンドへの対応にはまちとしても取り組んでいきたい課題です。僕は一度外に出た人間、富樫さんも外から来た人間、外を見たからこそ見える目を持って、二人で協力して取り組みたい課題の一つです。(野田さん)」

お二人とも住まいは役場が用意してくれた職員住宅に住んでいます。普段の買い物などは湧別にあるスーパーやコンビニなどで困ることはないそうですが、衣服やちょっといつもとは違う買い物をしたい時には車で15分程度の隣町遠軽に出掛けることもあるそうです。

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まっすぐに湧別のために伸びる2つの道。

最後にお二人にこれからについてお話を伺いました。

「私は地域おこし協力隊として移住するにあたり想っていたことがあって、それは住民票を移して住むだけじゃおもしろくない。その土地でその土地のために何をするのかをしっかりと考えておくということでした。現在、湧別というまちや観光のPRといったミッションがありますが、その大きな枠の中で、音楽もそうですが、色々な方々と実際に触れ合い、みんなでこのまちを盛り上げたいという想いです。『地元のために』の想いがあると長く住みつづけ、働くことを楽しめると思っています。(富樫さん)」

実は富樫さん、かつて友人が憧れた沖縄に移住し、1年足らずで戻ってきたことがあるといいます。そしてその理由は、憧れや観光の先を考えていなかったのではないかと富樫さんは推測します。長く先も見据え、考え、想いを持っている富樫さん、今の活動についてもなかなかすぐに結果が出るものではないかもしれないが、未来ための仕事として頑張りたいとも仰っていました。

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「僕がこのまちに戻ってきたのは、このまちで初めてのお菓子屋さんを作ること。まだ先のことですが、こういった活動や実際に開業できたらお店も見てもらって、このまちにいる若い人達にも、やればできるというか、将来の幅を広げてもらえたら嬉しいですね。そうそう、若い人といえば最近は役場の総務課・企画財政課・農政課・水産林務課・商工観光課、そして地域おこし協力隊が協力し合い、『産業映像化プロジェクト』という企画に取り組んでいるんです。これは湧別の地場産業や観光資源を映像化して、将来に歴史を残そうというもの。未来の湧別町民、若い世代の人達にも伝えていけたらと思っています。(野田さん)」

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取材後には、この時まさにピークを迎えていた『チューリップフェア』にお二人が案内をしてくださいました。一面に広がるチューリップと天気も味方をしてくれ、とても素敵な時間を過ごすこともできました。そして、車に乗り込み帰路につく取材チームに最後まで笑顔で手を振って送り出してくださったお二人の姿がとても印象的でした。

湧別町役場(上湧別庁舎)
湧別町役場(上湧別庁舎)
住所

北海道紋別郡湧別町上湧別屯田市街地318番地

電話

01586-2-5862

URL

http://www.town.yubetsu.lg.jp


二人の若者の個性が生み出す、オホーツクのまちおこし。

この記事は2018年5月28日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。