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まちおこしレポート
岩見沢市

ワインタクシーで空知に人の巡りを!20180607

この記事は2018年6月7日に公開した情報です。

ワインタクシーで空知に人の巡りを!

岩見沢市は空知エリアの行政や経済、教育文化の中心地。農業を基幹産業とし、水稲をはじめ小麦や玉ねぎ、花の生産が盛んです。札幌市からはクルマで約30分(高速道路利用)、新千歳空港からは約60分と交通アクセスも便利。けれど、こと観光に関してはウイークポイントで、海外からのインバウンドも年間で500人ほどなのだそうです。この課題に立ち上がったのは、地元の足として愛されている日の出交通株式会社(以下、日の出交通)。一体どんな取り組みを始めたのでしょうか。中心人物である所長の中路隆広さんにお話をうかがいました。

空知に点在するワイナリーを観光タクシーの軸に。

「いきなりですが、北海道グリーンランド(遊園地)以外に岩見沢の見どころを思いつきますか?」
冒頭からこう切り出した中路さん。答えに詰まる取材陣をやさしい眼差しで捉え、今までは観光客が押し寄せるようなまちではなかったと言葉を継ぎます。

「だけど、北海道グリーンランド前のポプラ並木の美しさ、栗沢地区の菜の花が黄色い絨毯のように染まる初夏、萩の山市民スキー場山頂からののどかな田園風景...地元の人は見慣れていますが、市外の人には息を飲むような光景に映るはず。このまちには知られざる観光資源がたくさんあるんです」

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中路さんも参加する岩見沢青年会議所では、まちの魅力を発信しようという話題が度々持ち上がりました。けれど、何から始めれば良いのか分からずに悶々とする日々を過ごしていたといいます。

「光が見えてきたのは2年ほど前。岩見沢市観光協会に元大手旅行会社のメンバーが加わり、観光タクシーのツアーを組んではどうかというアイデアをご提案いただきました」

観光タクシーの軸に据えたのがワイナリー巡り。空知エリアには現在10軒近くのワイナリーやヴィンヤードが点在し、ワインの試飲やぶどう畑の見事な景観が小さなブームとして盛り上がりつつあったのです。中路さんは岩見沢市観光協会や青年会議所のメンバーとタッグを組み、日の出交通を含む岩見沢に観光タクシーを導入する算段を整えていきました。

hinode_koutuu_3.jpg岩見沢の「宝水ワイナリー」に停車中の観光タクシー「そらちワイン&フード タクシー」。この個性的な黄色い車種は、岩見沢市内で唯一日の出交通が導入した「JPNタクシー」。2020年 東京で開催される世界大会に向けて開発された、妊娠中や子ども連れの方など、さまざまな人が利用しやすいユニバーサルデザインです。

ガイドブックでは知り得ない「非観光地」も案内!

ワインツーリズムをメインに、空知エリアの観光資源をPRするための「そらちワイン&フード タクシー」がスタートしたのは2016年。北海道観光振興機構の助成金が3年間活用できることも決まりました。

「初年度は僕らの主観を交えながらオススメのスポットやレストランを巡るようにしていました。ただし、すべてが手探り状態(笑)。観光に来る方には意外とマニアックなグルメのニーズが高かったり、3時間の貸し切りでは物足りなかったりといったデータを得られた1年間です」

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お客様アンケートから時間や価格設定の見直しを行い、細やかなモデルコースを整えたのが2017年。ワイナリーやぶどう畑の見学にはクルマが必須ですが、ドライバーが試飲を楽しめないというネックから開放されることも手伝い、利用者数はグンと伸びたそうです。「空知=ワイン」の認知度も着実に広まりました。

「一方、この観光タクシーはお客様が自由に行き先を決められるのも特徴。基本的には当日に希望のルートをお聞きして運行していますが、事前に時間と場所をキッチリと決めてスケジュールを送ってくださる方もいます。ドライバーの中には、お客様に岩見沢志文地区の由来を話し、その石碑を案内するなどオリジナルの寄り道をする人も。ガイドブックでは知り得ない『非観光地』を盛り込んだコースも面白いと評価をいただいています」

hinode_koutuu_5.jpgワイナリーについて説明するドライバーの井手喜孝さん。ワインの魅力を自ら学んでいるのだとか。

「そらちワイン&フード タクシー」はリピーター率が高く、「こんな場所にワイナリーがあることを知らなかった」「今度は歴史を学びたい」とお客様からの声が続々と届いています。今年度の運行についてもお問い合わせが絶えないようです(2018年5月現在)。

胸のうちに燃える「岩見沢ラブ」が原動力!

中路さんはもともと日の出交通のタクシードライバー。高校卒業後、京都の大学に進むも、地域性や習慣の違いに肌が馴染まず、ドロップアウトしてUターンしました。「しばらくフラフラしていたところ、父が経営する当社で働いてみたらどうかと兄(現・専務取締役)から誘われたんです」と苦笑します。

「ただ、タクシーに乗務してみると意外と自分に向いていると思いました。お客様を目的地まで安全にお連れして、道中に和やかにおしゃべりするのが楽しくて。3年乗務した後に運行管理者の資格を取得して管理側に回りましたが、個人的にはタクシードライバーとして働き続けたかったくらいです」

一方、タクシーに乗務して地元の人の話を聞くうちに、ゆるやかに勢いを失いつつあるまちの雰囲気をひしひしと感じたとか。けれど、岩見沢の外に暮らした視点からは、まだまだ高いポテンシャルを秘めていることも見え、地域が変われば必ずまちに力が宿るという思いを抱くようになりました。なるほど、胸のうちで燃える人一倍強い「岩見沢ラブ」が中路さんを突き動かしているのですね。

hinode_koutuu_6.jpgベテランドライバーの井手さんと中路さんのツーショット。

移住者でも未経験者でも乗務はウエルカム!

「そらちワイン&フード タクシー」の今後に向けて力を入れているのが外国人の対応。日の出交通は、「地域未来投資促進法(※)」の認可と支援を受けた上で、東京から講師を呼んで身振り手振りを交えた伝え方のセミナーも開きました。

(※)経済産業省 北海道経済産業局の、地域の特性を活用した事業の生み出す経済的波及効果に着目し、これを最大化しようとする地方自治体の取組を支援する制度。

「台湾では海外の観光地で投稿したSNSの画像、旅行者の口コミサイトから人気に火が付くケースも多いそうです。その時に対応できなければチャンスを逃すことにもなり兼ねないので、今から受け入れ体勢を整えておくのが大事だと思います。岩見沢も他のまちと同様に人口が減り、どの企業も売上に頭を悩ませていますから、全世界をマーケットに考えるくらいの意気込みがなければ!」

中路さんは常に前向きで岩見沢、ひいては空知エリアの活性化を心から望んでいることが伝わってきます。ココでちょっと意地悪な質問。ドライバーのみなさんは、「そらちワイン&フード タクシー」や外国人の対応に負担は感じてないのでしょうか?

「ドライバーはまちが良くならなければ、会社も良くならないと考える人ばかり。地元のために頑張っていたらいずれ自分に返ってくるというスタンスです。それに報いるというわけでもありませんが、キャッシュレス機能や最新の配車システムを導入して少しでも働きやすさを整えています」

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日の出交通では普通免許さえあれば第二種運転免許の費用は会社が負担し、道を知らなくても最新の配車システムが目的地へ導いてくれます。年齢層は23歳〜75歳と幅広く、農家や塗装業とダブルワークをしている人もいるとか。「若くても移住者でも岩見沢を盛り上げてくれるためにウチで乗務してもらえるなら大歓迎」と中路さんはニッコリと笑い、こう締めくくりました。

「岩見沢を、そして空知を人が巡るエリアにしたい。そのためにタクシー会社ができることはまだまだあるんです!」

日の出交通株式会社
日の出交通株式会社
住所

北海道岩見沢市大和2条9丁目19-5

電話

0126-25-2121

URL

http://hinodetaxi.pepo.jp/


ワインタクシーで空知に人の巡りを!

この記事は2018年5月9日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。