もし、街からスーパーが無くなったら。
「買い物難民」という言葉を聞いたことがあると思います。過疎が進む地域で、採算性などを理由にスーパーが廃業、あるいは撤退してしまい、食品をはじめ日常生活に必要な商品の購入が困難になってしまう人々のことです。
現在、北海道だけでなく、全国のあらゆる地域で高齢者の買い物難民問題は深刻化しています。そんな中、道民にとってはお馴染みのスーパーマーケットチェーン、アークスグループの新しい取り組みに注目が集まっています。
道北アークスの新業態「ダ*マルシェ」がオープン。
アークスグループは北海道や東北を中心に複数のスーパーマーケット業態を展開しています。その中で、道北エリアの店舗運営を担っているのが株式会社道北アークスです。
道北アークスは、 2015年春、これまで展開してきた「ビッグハウス」「ウエスタン」「ベストプライス」などに加え「ダ*マルシェ」という新業態をオープンしました。これは人口の少ない地方自治体を対象にした従来よりも小型のスーパー。他社が運営していた建物に居抜き出店するなど、初期投資を抑える工夫で2017年夏までに6店舗を展開しています。
居抜き出店で初期投資を抑える...とはいえ、他社が経営存続を断念した地域に、なぜ出店を?とギモンも沸いてきます。
新業態立ち上げに込められた想いや店舗運営におけるさまざまなノウハウを、2017年4月にオープンしたばかりの「ダ*マルシェ沼田店」で聞きました。

きっかけは沼田町の既存スーパー閉店。
取材に応じてくれたのは道北アークスで、ダ*マルシェ選任マネジャーを務める富樫忠弘さん。
「沼田店はダ*マルシェ業態では6店目となりますが、実は、この取り組みを始めるきっかけになった店舗なんです」
話の発端は今から3年ほど前のこと。沼田町では当時、他社のスーパーが、長く住民の生活を支えていました。しかし、売り上げ減少などを理由に、2017年4月をもって閉店が決定。これを受けた同町では、住民の買い物難民化を懸念し、道北アークスに相談を持ちかけました。
「住民の中でも若い世代の方は、車で深川や旭川へ買い物に行けます。ですが、車に乗らない高齢者の日常の買い物には、町内のスーパーが欠かせません。そのため、当社に出店してもらえないかと町と商工会から相談があったんです」
トップダウンで新業態のモデル構築に着手。
道北アークスでは沼田町への出店を検討しますが、一般的なスーパーが安定して経営を行うためには、少なくとも1万人の商圏が必要だと言われています。しかし、町の人口は約3,000人。従来通りの店舗運営では採算が見込めません。
幹部陣が頭を悩ませていたその時、「それなら、3,000人で採算の取れる店を作ればいいじゃないか!」と檄を飛ばしたのは、同社の六車亮社長でした。富樫さんは六車社長の意図を次のように解説します。
「当社が店舗展開している道北エリアは、沼田町に限らず、どの市町村でも人口減少のリスクを抱えています。高齢化のスピードも早く、現在は従来型の店舗運営で何とかなっていても、5年10年後はかなり厳しくなっていくはず。社長はそれを見越した上で、今から3,000人規模の商圏でも運営可能な店づくりに取り組むべきだという方針を打ち出したんです」
コンビニチェーンを参考に、店内業務を大幅軽減。
1万人の商圏が必要だった店舗運営を、1/3以下の商圏で可能にするには思い切った発想の転換が必要だったと富樫さんは振り返ります。
「スーパーでお金がかかるのは、建物の建築費と人件費、それに光熱費です。光熱費は普段の節約で多少抑えることが出来ますが、建築費と人件費を削減するには新しいアイデアが必要でした。まず建築費については、新築ではなく、既存の建物に居抜き出店することでコストを圧縮することになりました。
人件費の内訳を詳しく見ると、その1/3がレジ・品出しスタッフで、2/3が野菜のカットや惣菜製造などのバックヤードスタッフです。新業態ではバックヤード作業を旭川のプロセスセンターに一元化することで、店舗作業を簡略化し人件費を大幅に削減することを考えました」
また、新たに総合物流センター『DaMC(ダマック)』を設置し、グローサリー商品をここから各店舗に配送。店舗での荷受作業を無くし、業務の効率化を実現しました。
「お手本にしたのはコンビニチェーンです。物流や商品管理において、コンビニ各社は我々スーパーよりも相当進んでいます。見習うべき所は見習い、新業態の運営モデルを固めていきました」
町に「店を持っていく」ことの意味。
地方都市が抱える「買い物難民」の問題に取り組むのは道北アークスだけではありません。宅配サービスやネット通販、移動販売車などを導入する企業も増えています。そんな中、「店舗を作る」という選択をした理由は何だったのでしょう?
「これまで長く道北地域でスーパー運営をしてきた当社には、道北のライフラインを守るという責任があると感じています。それには、単に商品を届けるだけでなく、「地域に店を持っていく」ことが大切なんです。その証拠に、ダ*マルシェがオープンすると地域のお年寄りがたくさん来店してくれて、『ご無沙汰でしたね』『元気だったかい?』といったお客さん同士の声があちこちから聞こえてきます。つまり、スーパーは食品を買うだけでなく、地域の憩いの場であるということなんです」

2,000人以下の商圏でも運営可能な業態へ。
「いざという時に、すぐに商品を提供できるのも店舗にしか出来ないサービスです。ダ*マルシェでは今後、地域のニーズに合わせてホームセンター商材やドラッグストア商材の販売を検討中です。『身近にお店があって良かった』という安心感を届けることも私たちの使命だと感じています」
ダ*マルシェ業態であれば、人口が2,000人を下回るような地域でも出店が可能と胸を張る富樫さん。
「もちろん、課題がないわけではありません。例えば商品の受発注システムなどは1万人規模の商圏を対象にしたものを流用しているので、今後はより小さな商圏の、きめ細やかなニーズに応えられるものに改善していかなくてはいけません。また、店内の働き手を確保することも重要なテーマです。例えば子育て世代の主婦など『働きたくても時間が合わない...』といった方々を活用できるように、こちらの受け入れ体制も検討が必要です」

全商品を『そこそこ』プライスダウン。
商品の価格についてもズバリ聞いてみました。小型店ということで割高なのでは?
「アークスグループはディスカウントスーパーが主体なので、そこと比べると若干割高なのは否めません。店内作業を簡略化するために、日替わりの特売品も設定していません。ですがその分、全商品を『そこそこ』プライスダウンしているんです。なので、商品によってはディスカウント店よりも安い場合があるんですよ」
せっかく店舗を出しても買いやすい値段でなければ意味が無いですからねと富樫さん。
「実際『ちょっと高いね』と言われることはあるんです(苦笑)。でも、店舗を続けるためにはこの値段になってしまうんですと話せば、皆さん『そうだよな〜。また来るわ!』と理解してくれるんです」

地域の皆さんと共に歩んでいければ。
道北アークスに入社して約20年。今のような仕事に携われたことを富樫さんは本当にうれしく思っているのだそう。
「これまでは正直、自分の店のことだけを考えていればよかったんです。でもダ*マルシェを担当するようになって、役場の方、商工会の方、保育園、学校、町内会など、本当にさまざまな方と関わるようになり、その地域の一員になったような気持ちを感じています。店舗があることで、実現できるサービスはまだまだあると思っています。例えば当社の取引先を使って、ちょっとした家の修繕をするなど...。『道北アークスに頼めば何とかしてくれる』という信頼を得て、地域の皆さんとともに歩んでいければと思っているんです」
- ダ*マルシェ 沼田店
- 住所
北海道雨竜郡沼田町北1条4丁目2-2
- 電話
0164-36-2000