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酪農の本場を目指して十勝へ移住。牛も人も幸せにする仕事を!20240905

酪農の本場を目指して十勝へ移住。牛も人も幸せにする仕事を!

酪農への思いに惹かれ、いざ北へ

北海道の南東部、十勝地方といえば、新鮮なミルクやバター・チーズを思い浮かべる人も多いでしょう。その玄関口にある新得町は、東大雪の山々と日高山脈に囲まれ、緑豊かな牧草地がどこまでも続いているかのようなまちです。

そんな新得町内にあるメガファーム「有限会社北広(ほっこう)牧場」に、地元の広島県を離れて新卒で入社した女性がいます。大好きな牛を愛情いっぱいに育て、幸せそうな木村莉沙さん。彼女はなぜ、北の大地に渡り、ゼロから新しい世界に飛び込めたのでしょうか?

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広島の大学で自然地理を学んでいた木村さん。就職を考え始めて、もともと生き物や自然が好きだったという原点に立ち返ったそうです。「周りは公務員や銀行員、会社員になるケースが多かったんですが、自分には向いていないなと思いました」。人混みも電車通勤も好きになれそうになく、生き物や自然のそばで仕事をしたいという思いを募らせます。「人に囲まれるより、動物のそばにいる方が落ち着くんですよ」。そこで浮かんだのが酪農であり、その本場としての北海道でした。

まず、大学4年の8月に最初の一歩を踏み出します。移住体験の一環で、十勝地方の足寄町を訪問。個人経営の酪農家の仕事現場を見学し、「やっぱり動物との生活は素敵」と確信したといいます。その際、せっかく北海道まで来たのだからと、求人サイトで気になっていたメガファーム「有限会社北広牧場」にも立ち寄り、1泊2日で牧場体験をしました。

20240731_hokkobokujyo_17.jpg生き物や自然が大好きな木村莉沙さん

牛を世話した経験などなく、右も左も分からなかった木村さんを、牧場の皆さんは温かく迎えてくれました。3歳上の先輩が親身になって搾乳や哺育を手ほどきしてくれ、「機会があったらまたおいで」と優しく声をかけてくれました。泊まったのは元社長の自宅。いろいろな話をする中で家族のような会社の雰囲気に惹かれました。そして、「酪農を子どもが『やりたい』と言える職業にしたい」という元社長の言葉がグサっと刺さりました。

木村さんは北広牧場の酪農への思いに共感し、「一緒にやってみたい」と心に決めます。広大な北海道の牧場で生き生きと働く自分をイメージし、迷いはありませんでした。広島に戻ってすぐ履歴書を郵送。この時はまだご両親に打ち明けていなかったため、後からとても驚かれたんだとか。思いの強さがよく分かります。

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故郷を離れ、身近とは言えない業種に飛び込む。それは思い切りが良すぎる決断にも映りますが、「自分に合ったところにスッと入った感じです」と、木村さんに気負いはなさそうです。幸い北海道は、大学のゼミの教授がよく通っていて、合宿も北海道だったことから、心理的には遠い存在ではありませんでした。一人暮らしをしてみたいという木村さん自身の願いもあり、自然な流れで北海道移住に踏み出すことになります。

みんなで幸せを突き詰め、届ける

就職活動で他社へは目もくれず、2018年に北広牧場へ入社した木村さん。1泊2日の体験で得た感動は色あせることなく、新天地で酪農家としての一歩を踏み出しました。

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入社した年は搾乳や哺育などの基礎を先輩について学びました。牛の様子を見て獣医と相談し、治療方針を考えるなどの診療も手がけました。先輩たちの手厚いサポートで仕事に不安はなく、とにかく「面白い!」の一言に尽きる一年だったそうです。そして、「牛は愛おしい」という気持ちがどんどん強くなっていきました。関われば関わるほど、1頭ごとの個性を知れば知るほど、好きという感情が湧いてきました。お乳を飲んでいても、泣いていても可愛い。ツンツンされても許せてしまう。人間の子どもや赤ちゃんに似た可愛さがたまりませんでした。脱走しても、許せてしまうのだとか。さすがに最初は焦ったそうですが、じきに「走ってきていいよ。どうせ帰ってくるんでしょ」と広い心で戻るのを待てるようになりました。愛情と信頼の深さに驚かされます。

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牛たちと向き合って7年目の木村さん。酪農の醍醐味について「一頭一頭違う動物が相手で、人間が工夫した分だけ牛は返してくれます。完成形がないのが面白いですね」と語ります。900頭ほどの牛を育てている北広牧場の経営理念は、「牛も人も幸せに」。多くを飼養するとストレス対策が必要になりますが、その時々で最善と思われる設備や工夫を導入してきました。牛が健康で幸せなら育てる人も幸せになる、という理念の正しさは、木村さんの毎日の充実ぶりが証明しています。

北広牧場は生乳を生産することの延長として、乳製品の加工販売にもチャレンジしています。「幸せの循環」を目指し、2018年からは自社の乳製品ブランド「HOKKOH MILK」をスタートさせました。搾りたての北広牧場の生乳をふんだんに使用した「濃厚ふわふわミルクソフト」や、十勝生まれの乳酸菌を使った「ほっこうミルクの のむヨーグルト」などを展開。今ではキッチンカーも各地で人気を呼び、看板メニューのソフトクリームなどを提供し、牧場の豊かさを届けています。食べた人から直接反応がもらえる、貴重なチャンネルです。

20240731_hokkobokujyo_sns_1.jpg「ほっこうミルクの のむヨーグルト」。オンラインショップでも購入可能です

木村さんもキッチンカーで販売を手伝うことがあり、自慢の商品でお客さんを笑顔にする瞬間が大きなやりがいだといいます。「社員みんなで幸せとは何か、牛はどうしたら幸せなのかを考えています」と楽しそうです。その幸せを直接、食べる人と共有できる。これも幸せなことですね。

充実の職場環境と、心を広げる自然

動物を365日ケアする酪農は、命と向き合う仕事です。早出なら早朝4時台から勤務が始まります。牛舎では、牛と人のケガ・ストレスを減らすために気を抜けません。牛たちのちょっとした変化に目を凝らし、素早く対処することが求められます。こうした苦労があるだけに、働く環境の質が、意欲・パフォーマンス・健康を左右するとも言えるでしょう。

北広牧場は3日出勤して1日休みというサイクルで、休日は月に7~8日。木村さんは年2回帰省した年もあり、1週間ほど休みを取ってリフレッシュした後輩もいるそうです。かつては当たり前のように長時間労働がありましたが、今は3パターンのシフト制で回しています。牛を育てる人が健康かつ幸せでなれけば、牛も幸せになれません。

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スタッフのうち女性は4割を占めます。牧草や機械を移動させる時や、動かない牛を起こす時など力が求められる作業もありますが、木村さんによると「これは無理。みんな助けて!」とメッセージを出すことで、周りが手助けしてくれ、困ることはありません。北広牧場では「酪農=男性の仕事」というわけではなく、女性たちのきめ細かな仕事が会社全体を支えています。さらにパート社員にも社会保険が用意され、出産や育児を経ても活躍できるよう、多様な働き方を受け入れているといいます。

そして何より、北海道の圧倒的なスケールが欠かせない魅力になっています。見渡す限りの十勝平野や山々が四季を感じさせ、忙しい中にあっても心にゆとりをもたらしてくれます。暮らす環境としても、新得町の豊かな自然は貴重です。インドア派の木村さんは休日に好きなアイドルの動画を見るなどしてのんびり過ごしますが、周りはアクティブな社員が多いのだとか。登山・釣り・スノーボードをはじめアウトドアを楽しんでいます。オンとオフの充実が、心身を健康に保つことに一役買っています。

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牛を育てながら、人や組織も育てる

現在、哺育管理長の木村さん。牛を育てる現場で若手を引っ張るリーダーになっていますが、入社2年目からはバックオフィスの総務も担当しています。ちょうど会社として制度づくりに本腰を入れ始めた時期で、白羽の矢が立ちました。データ入力のほか、牧場や社内の雰囲気が使わるようなSNSを駆使した広報、さらには北広牧場が近年力を入れている採用も任されています。一般的な企業でのバックオフィスならやる気が起きなくても、牧場という好きな現場をより良くする仕事なので、楽しめるのだそうです。

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採用に関わることで、「牛を育てる人」を育てることへの関心も高くなりました。「最近は『人が全てだな』と感じています。もっともっと、人を大事にする業界にしていきたいです」。人を採用し、入社後にどう成長させるか。その人がどうなっていくか。それは環境によって変わっていくので、人を生かすのが私たちの大切な役割です」

個人のキャリアアッププランを重視して、達成感をもたらす成長支援制度を拡充するなど、人材育成プログラムを構築してきた北広牧場。「自分はこうなりたい、成長していきたいという思いがあれば、成長できるプログラムがあります」と誇らしく語ります。働く人の健康や幸せの度合いを高めることや、一人ひとりの能力や強みを引き出すことで、組織は元気になり、結果として牛や生乳の質もよくなるという好循環を描きます。

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全国の食卓を支える北海道の牧場で採用を担うようになり、「酪農という仕事をたくさんの人に知ってほしい」と強く願うようになりました。「本州では牛が近くにいるとは感じにくいですし、牛乳がどう作られているか考えることも、なかなかありません。生産現場を知ってもらえるだけでも嬉しいです」と語ります。就職前の1泊2日の体験で聞いた「子どもが『なりたい』と思える職業に」という目標は今も鮮やかで、次の世代に酪農という豊かな仕事をつないでいきたいという希望が木村さんを突き動かします。

社員数は倍増し、新事業の土台に

北広牧場の二代目社長の息子として2007年に入社した、取締役の若杉真吾さんにもお話を伺いました。

20240731_hokkobokujyo_8.jpg有限会社北広牧場 取締役の若杉真吾さん

人間が生きていく上で欠かせない一次産業であり、土を良くしてエサの牧草を育てるなどゼロから生み出すという営みに、魅力と誇りを感じている若杉さん。「子どもたちが目指す職業に」という目標は木村さんのそれと完全に符号しています。また、命の尊さや命をいだだくありがたみを伝えるために牧場体験を始めるなど、意欲的に挑戦しています。

そのために若杉さんは牛のマネジメントだけでなく、労務管理やルール策定といった人のマネジメントでも試行錯誤。会社が持続・成長するための基盤づくりに奔走してきました。新しい風を取り込み、北広牧場の社風を若い人たちとつくっていきたいという思いから、木村さんが入社した頃から採用は新卒一本に絞りました。

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木村さんの活躍ぶりについて、若杉さんは「北広牧場が組織として前に進むための土台をつくってくれました」と語ります。特に採用活動については、募集の方法や文章の内容、インターンシップの中身、求職者・求人媒体とのやり取りも任せていて、頼もしい存在だといいます。木村さんが仲間に加わった当時、社員はパートも含め10人ほどでしたが、現在は2倍に。社員たちが経営陣と一緒になって会社の行動指針を考えたり、仕事をする上での理念についてアイデアを寄せてくれたりするまでになりました。

2024年10月には、第二牧場が稼働します。「社員が増え、成長してくれたことで、この事業に乗りだすことができました。今後は加工にもより力を入れ、第二牧場の価値やロケーションを生かして観光にも貢献し、新得町に多くの人を呼べるようにしたいです」と若杉さんは期待を込めます。

木村さんの入社翌年には、朝に放送されていたドラマのロケ地になった北広牧場。酪農王国・十勝の豊かさを全国に発信する大役を担いました。これからは、牛も人も幸せになれる仕事の素晴らしさまで発信する舞台になりそうです。

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有限会社 北広牧場
有限会社 北広牧場
住所

北海道上川郡新得町字新得基線85-13

電話

0156-64-3047

URL

https://hokkoh-farm.co.jp/

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酪農の本場を目指して十勝へ移住。牛も人も幸せにする仕事を!

この記事は2024年7月31日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。