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レトロな家と風景に惹かれ七飯町へ。漫画家ファミリーの移住生活20240903

レトロな家と風景に惹かれ七飯町へ。漫画家ファミリーの移住生活

神奈川県二宮町から北海道七飯町へ移住した渡邉さん一家。健一(けんいち)さんと百花(ももか)さん夫婦と、長女と長男の4人家族で、2022年11月に七飯町内にあった古い空き家へ引っ越してきました。
健一さんの職業は漫画家。比較的場所を選ばず在宅で仕事ができる職業柄ですが、なぜ七飯町を選んだのでしょうか。どんな暮らしをしていきたいのでしょうか。レトロな佇まいで庭に果樹が植えられているご自宅へお邪魔して、西湘の二宮町から道南の七飯町へ引っ越してきた心の内を聞いてきました。

レトロな物件と風景に惹かれて七飯町へ

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渡邉さん一家が七飯町へ移住をした決め手は、お気に入りの物件があったことと、街の風景に心を打たれたことです。ただ、お二人からは開口一番「実は、七飯町に住みたいと思っていたわけではないんですよ」と意外な返答が返ってきました。

百花さんの実家が函館市内にあることから、はじめは道南のどこかに住みたいなと考えていました。土地勘や馴染みがあるのかと思いきや、百花さん自身は七飯町に隣接する函館市内に思春期の数年間住んでいたものの、道外で生活していた期間が長いため地元という実感がないそうです。

この時の移住先の有力な候補地は、七飯町の隣、北斗市か森町でした。

「北斗市と森町にいいなって思う物件があったんです」

移住を検討するために、森町が手掛けるおためし移住の施策を利用して短期間の生活体験をするために森町へやってきました。しかし森町に来た時には、候補の物件が売れてしまっていたのです。

アテにしていた物件がなくなり、森町に滞在をしながら物件探しをゼロからスタートすることになりました。そんな中、不動産のwebサイトで見つけたのが七飯町にある物件です。

健一さんと百花さんはこのように語りました。

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「造りが今時ではないというか、和風の門があったり和室があったり、レトロな感じが残っているのと、庭がしっかりあるのがいいなって思いました。古い建物ということもあって、木材など自然素材を多く使っている建物というのも健康面でもよいなと思いました。七飯町あたりを移動している時に、風景や環境のよさを感じたんですよね。それで、七飯町に住むことにしました」

ほかにもいくつか物件は見たものの琴線に触れず、見てきた中では一番築年数が古く約45年前の物件に一目ぼれ。建物や庭が望んでいたイメージにピッタリだったこととともに、適度に街が形成されていながら自然が豊かな七飯町の風土や気候など、地域のロケーションに惹かれて移住を決断しました。
移住を考え始めてから一年足らず。森町へおためし移住をしてから半年も経たずに今の家へ引っ越すという、なかなかスピーディーな移住でした。

健康的で快適な環境を求めて北海道へ

そもそも、なぜ神奈川県から北海道へ移ろうと考えたのでしょう。

「二宮町にいた時はアパートに住んでいたのですけど、手狭だったということと、カビがすごくて......」と健一さん。家族がいつも身近にいる環境は望ましいものの、自宅で漫画制作をしている時に子どもが机の上のものを手にしてしまうことがあるほど仕事と家庭が近すぎる環境だったため、土地も建物も広い家に引っ越したいと考えていました。
また、海に近いうえ建物の建材がプラスチックや金属が多くカビがかなり発生しやすい状況だったため、住環境を変えたいと思っていました。「とにかくカビがすごかった」と衛生環境にかなり懸念を感じていたそうです。

お二人のうちどちらが言い出したのかは定かではないそうですが、いつしか自然環境に恵まれた北海道に住みたいという話になりました。北海道の中でも積雪が少な目で、百花さんの実家に比較的近い道南のどこかに住もうという考えに至りました。

移住を考える方にとって仕事環境は大きな問題であり、業種によってはリモートワークが不可能なため移住に踏み切れなくなる要因でもあります。健一さんの仕事は漫画を描くとともにイラストも作成していますが、ともにリモートワークで対応してきたため、引っ越しをしても仕事への影響はほとんどありません。

渡邉さん一家の場合、理想の物件がすぐに見つかったということとともに、健一さんの仕事環境の柔軟さが、スピーディーに移住できた理由の一つかもしれません。ちなみに百花さんは健一さんの仕事のSNS発信の手伝いをし、「漫画家 渡邉 健一」を支えています。

ご近所とお互いに助け合う、という考え方

渡邉さん一家が七飯町に引っ越してきて、健一さんがはじめにしたことは役場への連絡。住民票の手続きなど誰もがすることとともに、移住に関する部署の方に対し、「何か手伝えることがあったらやります」と挨拶をしたそうです。
一般的に移住者はその町のことをまだ詳しくわからず、役場や周囲の方に支援や手助けをもらうことが多いはず。引っ越して早々に「手伝います」とはどのような考えなのでしょうか。

「相互扶助です。例えば地域の人たちに子どもを見てもらっている間に、子どもの親、若い人たちができることをやるような、地域で助け合うことです。自分ができることをすることで、自分が手助けをしてもらいやすくなると思います。どうやったら暮らしが楽になるかなって」と健一さん。


漫画家としての才能とスキルがなんといっても健一さんの強み。七飯町への移住をテーマにしたショート漫画を制作して提供をしたこともあります。

いっぽう百花さんは、庭にクリやリンゴの木をはじめ果樹を植えました。百花さんの夢の一つは庭づくり。畑を作っていく前段階として、成長まで時間のかかる果樹を植えることから進めたそうです。
そんな中、「近所のおじいさんと仲良しになったんです」と、近所づきあいからの相互扶助、というより助けてもらうようになったそうです。「ここらへん畑持っていた人がいたんだけど、やれば?」と声をかけられ、「はい、やります!」と答えたところ、おじいさんが持っている農機具の数々で休耕地を畑として整えてくれたのです。そのおかげもあり、今では自宅の庭とともに耕してくれた畑も使ってトマト、ダイコン、ニンジン、長ネギ、ゴマなどを栽培しています。
「多分70代半ばくらいの方で一人暮らしをされているのですけど、毎日のようにおじいさんと遊んでいます」とニコニコ笑いながら話す百花さん。この地域のかつての地形や街の様子など昔話も興味深いそうです。

渡邉さん一家が暮らすエリアは、若い世代が少なく比較的高齢者が多く住んでいます。小さな子どもがいる家庭がやってきたこと自体、地域の賑わいや元気さに少なからず貢献しているのかもしれません。「そんなふうに感じられているのであれば嬉しいですけどね」と健一さんは謙遜しました。

車がなくても生活できる

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移住を検討する際、物件の良し悪しや近所の方々との兼ね合いとともに大事なことは、生活インフラの整い具合です。交通網が発達した大都市ではない限り自家用車は生活必需品ですが、渡邉さん一家は車なしで生活をしています。
「車なくて大丈夫?ってよく言われます」「不便な面はありますけど、なんとかなっています」とお二人。自転車で行ける範囲にスーパーやドラッグストアなどがあるうえ、ネット通販や宅配サービスなどを駆使すれば問題なく生活できるそうです。また、路線バスで函館市街まで行くことができるので、都市部へ出向くのも比較的便利な環境です。

「むしろ、車がないおかげで近所の人と話する機会が増えていい気がします」と、近所づきあいのメリットがあると健一さんは言います。確かに、自宅のガレージから車で出かけてしまったら隣近所の人と立ち止まって話をする機会はありません。歩いたり自転車に乗ったりしているからこそ、百花さんの畑のように、軒先で出会った近所の方々とのコミュニケーションが生まれます。相互扶助の精神がこんな場面からも醸成されていくのかもしれません。

数年後『天然のおやつ』を子どもたちへ

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お話を伺ったのは移住をしてから約1年半のタイミング。見ず知らずの街での生活にもやっと慣れてきて地域にも馴染んできた頃かもしれません。生活が落ち着いてきたタイミングで、この地に腰を据えてこの先やっていきたいことを伺ってみました。

百花さんは「タイルを貼ったりペンキを塗ったり、お家の手入れをしていきたいです。キッチンを変えたり照明をつけ変えたり」と語ります。成長するまで年月のかかる樹木を先に植え、日々の食材になる野菜作りを始め、やっと住環境に手を入れていけるようになったようです。

watanabe_kokubn148.jpg専用塗料を塗ってできた黒板。楽しい工夫で家を手入れしています

健一さんは「実のなる木をたくさん植えてくれたので、あと何年かしたら子どもたちに『天然のおやつ』をあげられそうです。どうせおやつを挙げるなら、健康的なもののほうがいいですし」と語り、子どもたちの成長とともに健康的な生活を送ることも意識しています。以前住んでいた家でカビに悩まされてきたこともあり、ことさら大事なこととして捉えています。

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「年配の方に聞くと、昔はけっこうそんな感じだったようで、庭の木の実とか山の中のものとか」とも言います。実は、渡邉さん一家の家の庭には前に居住していた方が植えていたハスカップなどが残っていて、今でも実をつけているそうです。

「けっこう、いろんなのあるよね、樹齢が40年くらいになりそうな木もあるし」
「前の方が残していってくれたものをけっこう生かしています」

お二人にとって、物件選びの際に住居だけではなく庭に残っていたさまざまな樹木の数々も評価のポイントでした。当然ながら、一から植えて年月をかけて育てていくよりも、元々あるものを生かしたほうが早く収穫できるようになります。新築ではなく空き家に住むメリットです。

七飯町で制作し、発信していく漫画に期待

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在宅で仕事をしている健一さんにとって、住環境は仕事環境に直結する大事なことです。よりよい仕事環境にしていくため「暮らしを楽しくするのが一番」と語ります。以前は子どもたちによって仕事の手を止められてしまう懸念があったものの、この先は子どもの成長とともに、子どもたちと一緒に仕事ができるようになることも期待もしています。

「在宅で仕事をしているので、やっぱり暮らしが一番重要なポイントになってるかなと思います。いかに家族4人での暮らしを楽しくするかっていうことは大切にしてます。子供たちと一緒にできる仕事といいますか、子供たちと一緒に生活している中で思ったことかを漫画で発信するのもよいのかもって思います」

七飯町へ移住をしたことで子どもが健やかに育つ環境が整い、自身の仕事環境の質と仕事の幅も広がる可能性も期待できます。ほかの人にはなかなかない漫画制作のスキルと才能というアドバンテージもあり、移住者のリアルな姿や移住者目線で役立つ情報を描くことで七飯町への移住促進のPRにもつながります。移住直後に役場に挨拶へ出向いた時の気持ち、相互扶助の実践です。

キッチンなど家の内外装の手入れがある程度ひと段落する頃、庭には樹木に果実が実り始めているかもしれません。子どもたちは『天然のおやつ』をほおばりながら、健一さんのお仕事を手伝うようになっているかもしれません。漫画やSNSでの発信を通じ、七飯町の魅力に惹かれて移住をする人が増えるかもしれません。
この先、渡邉さん一家は理想の住環境でどんな物語を紡ぎ、作画していくのでしょうか。七飯町からどんな漫画が世に送り出されていくのか楽しみです。

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七飯町 渡邉健一さん、百花さん
住所

北海道亀田郡七飯町

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レトロな家と風景に惹かれ七飯町へ。漫画家ファミリーの移住生活

この記事は2024年6月14日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。