札幌のマチナカからほど近い中島公園エリア。広々とした公園や有名ホテルが建ち並び、地元民から観光客にまで愛されているエリアです。
立ち並ぶ建物と建物の間にある細い中路にひょいっと入ってみると、青みがかったとある一軒家の前に「OPEN」というかわいい手書き文字が...
お店であると分かりつつも、その佇まいは「だれかのおうち」。思わず「お邪魔しま〜す」と戸を開けてしまいました。
こちらが本日の舞台。
ドアの向こう側からも「いらっしませ」ではなく「こんにちは〜」と、愛くるしい笑顔で出迎えてくれたのは、ここのオーナーの水野莉穂(みずの りほ)さんと、キッチンの加茂凪彩(かも なぎさ)さん。
元はゲストハウスだったこの一軒家は、みんなが集まるごはん屋さんとして2023年5月お二人の手によって生まれ変わりました。
お店の名前は「byme(バイム)」。
お店を作ろうと思ったきっかけや、これまでのこと、ずーちゃんという愛称で親しまれている水野さんにたっぷりお話をお聞きしましたよ。
オーナーずーちゃんを撮影するキッチンのなぎさん。
この先はずーちゃん、なぎさんと呼ばせてください!
じぶん探しの旅の末、行き着いた場所
ずーちゃん、実はお店を開くのはここが2箇所目。はじめてお店を開いたのは、大学卒業してから半年後のこと。恵庭に「アグラクロック」という飲食店を開いたのでした。
大学卒業して半年で?
思わずびっくりしてしまうその行動力。
そんなずーちゃんを突き動かした背景には「ひとり旅」がありました。
「大学2年生までラクロス部に入っていました。毎日が部活の練習、授業、そして恵庭に住んでいたので札幌と恵庭の通学の日々。時間のない毎日を過ごしていて、私ここから先成長できるのかな?ってふと立ち止まって考えたんです」
札幌と新千歳空港の間の恵庭市で生まれ育ったずーちゃん。
ラクロスももちろん楽しくて、大好きなこと。でも、忙しい毎日の中で、「このままでいいのかな?」という想いが芽生え、引っかかっていたのでした。考え、悩み抜いた末に、「部活を辞める」という選択を決めたずーちゃん。
「本気で向き合っていた部活だったからこそ、辞めるのであればいっそ大学も辞めようって考えたんです(笑)」
それはずーちゃんにとってのけじめでした。その気持ちからいかにラクロスに本気だったかがよく分かります。そして、大学は「辞める」ではなく「夜学部への転部」を選択しました。
ここからずーちゃんの歩く道のりに、新しい道が拓けて行きます。
「昼間はバイトをしてお金を貯めて、一人旅に出るようになりました」
とにかく「旅をした」と話すずーちゃんは、全国各地をまわり、人生を変えるきっかけとなった長野のゲストハウスと出会います。
長野のゲストハウスでの一コマ
「その長野のゲストハウスで住み込みで働いたりもしていたんです。そして、私もまさにこういうゲストハウスをつくりたいって思いました」
そんな夢を抱きながら過ごした大学生活の月日は流れ、まわりが髪の毛を黒く染め、リクルートスーツに身を包み始めたそんな頃。ずーちゃんは自分がその道を歩む姿が想像できませんでした。
逆にハッキリと想像できた未来は、あの長野で出会ったゲストハウスのような場所を自分でつくって、そこに人が集まってくる未来。
「想像できるものは叶うって信じてるんです!」
そう笑顔で語るずーちゃんは、この夢を叶えるべく、まわりの人に夢を語り始めました。すると、その甲斐あってか恵庭にあるもともとケーキ屋さんだった空き店舗を紹介してもらえることに。こんなラッキーなことあるんだ!と思っていたものの、実際に内覧してみると、ケーキ屋さんだったということもあり、そこはずーちゃんが描く「ゲストハウス」は難しそうな物件でした。
「すごくすごく悩みました...。ゲストハウスがやりたいけど、ここでは無理。でも、空き店舗を紹介してくれるなんてチャンス、もう二度と来ないかもしれない...」
ずーちゃんは改めて自分がしたいことを掘り下げて考えてみることに。そこで、自分の「本当にやりたいこと」に気づけることができました。
「最初はゲストハウスがやりたかったけれど、それは『人が集まる場所』が作りたかっただけなんです。これの表現方法は変えられると思った。よし、じゃあここで飲食店をやろう!って。私がやりたいことは人と人とを繋げること。私のやりたいこと、好きなことだけを詰め込んだ空間にするぞ!って決心がついたんです」
それは大学4年10月のことでした。
こうして誕生した「アグラクロック」
ずーちゃんのこだわりが詰まったお店です。
仲間たちと一緒に作り上げたお店です
工事をきっかけにみんなで過ごすこともできたそう。
「手伝いに来ました、っていう目的で来るだけで、隣になった人と話すきっかけができますよね」と話す通り、ここで人の輪が広がっていったのだとか。
そしてひとつ、ずーちゃんは決めていたことがありました。
「このお店は私ひとりで経営すると決めていました。例えば誰かと一緒にやったら、その人と私が作り上げた空間に『お邪魔します』っていう雰囲気になってしまう。私がやりたいことは、来てくれる人たちみんなで『ここをどうしていく?』って、想像もしない方向にみんなで行けたらいいなって思っていたんです!」
ずーちゃんの言葉を借りるとすれば、それは「夢中ステーション」。自分たちの可能性を信じて、夢を見て、目標を抱いて...そんなワクワクがぎゅっと詰まったスポットなんだとか。
ここでたくさんの出会いが生まれました。
しかし、世界が一変した新型コロナウィルスの襲来。
このタイミングで、お店を閉じることに決めました。
「コロナがあってもお店を続けようと思えば続けることは出来ました。でも、飲食店である以上パーテーションなどを設置しなきゃいけなくなる。それは、私が理想とする店ではなかったので、じゃあ閉めようと思って」
まさに潔い決断、と取材陣も思わず首を縦に振ります。
お店を閉じた後は、カメラマンやライター、名刺のデザインなどを手がけるなど、幅広い活動をしていきました。bymeの玄関先にあった「welcome」の文字も、毎月のお店のカレンダーもずーちゃんのデザイン。まさに多彩なずーちゃんは、さまざまなことを経験し自分のフィールドを広げていきます。そしてそれは、次のステップへ行くための準備期間でもあったのです。
心から信頼できる相棒とともに
さて、そんなずーちゃんのこれまでをお話してきましたが肝心の本日の舞台である「byme」についてお話していきますよ。
アグラクロックの時は「ひとりで経営する」をこだわりとして掲げていましたが、ここbymeは「なぎさん」と一緒にやっていますね...!
お二人は高校の同級生。
一緒に生徒会での日々を過ごし、いつしか深い話をする特別な仲に。高校卒業後、なぎさんは看護師になるべく室蘭の学校へと進学し住まいも移します。
一方でずーちゃんは恵庭を拠点に札幌の大学へ通う日々。距離は少し出来たものの、ずーちゃんはよく室蘭のなぎさんの元へ訪れたり、電話で将来についての想いを語り合ったりしていたそう。
ふたりは口を揃えてお互いを「大切な人」と語ります。
「なぎには、他のひとにはこんなに話せないってくらい、たくさん話しました。だからこそ、どんなところを大事にするかとかわかりきっている、信頼しています。なぎとならお店ができるって思ったんです」
なぎさんも言葉を継ぎます。
「私たちはまったく正反対の考えを持っています。『あるものでどうにかしよう!なんとかなる!』っていう莉穂の性格。私は、計画的で全て逆算して物事を考えて進めていくタイプ。だから私たち二人で互いに足りないところを補っている感じです」
そんなふたりが創り出すbymeの空間は、赤ちゃんでも過ごしやすい雰囲気。まさに、ママたちの憩いの場になりそうな...
そんななぎさんも、一児の母。0歳のお子さんと一緒にbymeに出勤しています。ママになっても働きたい、でも子どもと一緒にいたい、そんな想いが叶っているそう。
ずーちゃんは、お店のコンセプトにも繋がっているであろうbymeへの想いの根幹についてお話してくれました。
「恵庭のアグラクロックをやっている時に、たくさん学生さんも来てくれていたんです。悩みがある学生も多くて、そういう子たちって自分を信じ切ることができていない。『あの人にこう思われるから』って、人に選択を任せているんですよね。失敗してもチャレンジし続け、進むことができるには『愛』が必要。そして、その『愛』を一番最初にもらえるのってパパとママからですよね。子どもも、パパとママからの愛がもらえることが一番安心」
そのためには、ママの笑顔が必要。
ママが笑っていたら子どもも嬉しい。
ママが笑っていたら、それは世界平和に繋がる。
そう考えるからこそ、bymeでは「○○ちゃんのママ」ではなくて、ひとりの女性に戻れる時間にしてほしい。ママが笑顔になり、愛を子どもに与えてほしい。そしたら子どもたちはもっともっと生きやすくなる。
「私は『ママのために』とかではなくて、子どもたちの未来のために、を想っています。私自身はママじゃないから、ママ分野に関してはなぎの知識に救われているし、なぎ自身にもこうした『想い』があるから頼もしいんです」
だからこそ、bymeはママたちがとても過ごしやすい空間に。
授乳室やおむつ替え台、おもちゃや絵本...細かな気配りがbymeにはたくさん。
でも、このお店はママだけが限定のお店ではありません。
単身の方だって来るし、色々な人がこの扉を開けます。
アグラクロック時代のお客様や、旅人、本当にさまざまな出会いがここで生まれるのです。
「何かやりたい人同士が繋がっていて、何かやりたい人をみんなでバックアップしていきたいですね。bymeだけで盛り上がっていても面白くない。ここのすぐ近くの豊平川を越えたら『waya』っていうゲストハウスもあるし、あっちにもこっちにも魅力的な場所があって、点と点が繋がっている。豊かな居場所がここにたくさんあります」
これからを描く、未来図
不思議とずーちゃんのまわりには人が集まってくるのです。
今も尚、ずーちゃんの拠点は恵庭。
今後のずーちゃんのビジョンの中にも、恵庭は外せない場所なんだとか。
「ママさんって圧倒的に自分の時間がないじゃないですか。じゃあママさんのために『時間』を持ってくるにはどうすればいいんだろう?って考えた時に、おじいちゃんおばあちゃんって時間あるじゃん!この人たちの時間をお借りできないかな?って思って(笑)。例えば、お総菜を買うことに罪悪感を感じるママもいますよね。でも、おじいちゃんおばあちゃんが作ったものを食べるってことなら、お総菜を買うよりも自分を許せるのかもって思ったり。恵庭の島松ってところで採れた野菜を札幌にいる都会のママに!こうして恵庭と札幌を繋げたいって考えています」
もはやその熱い想いは恵庭市民代表。
恵庭と札幌の架け橋になり、人と人とを繋ぐ役目を果たそうとするずーちゃん。
bymeには今日も、たくさんの人が訪れます。「来てくれる人が毎日違うから、同じところにいても飽きない。この日常が幸せ」とそう語ってくれました。
- byme 水野莉穂さん
- 住所
北海道札幌市中央区南8条西1丁目13ー93
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