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北海道で暮らす人・暮らし方
安平町

ハーブや野菜の栽培を通じて障がいのある人と地域が繋がれる場所20230816

ハーブや野菜の栽培を通じて障がいのある人と地域が繋がれる場所

新千歳空港からほど近い安平町。古くから競走馬の町として知られています。遠浅(とあさ)と呼ばれるエリアにある「自然体験農園 とあさ村」が、今回の取材の目的地。

自然栽培でハーブや野菜を育て、鶏や羊も飼っているという「とあさ村」は、どういう方がどういう経緯ではじめたのか、これまでのこと、これからのことを村長の青木明子さんに伺いました。

育てた羊を感謝しながら皆で食す。肉も野菜もすべて自然の恵み

緑豊かな中に建つ赤いトレーラーハウスが目印。取材チームを迎えてくれたのは、かわいいネコちゃんたちと青木明子さんです。


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「ここでお話をしましょうか」と青木さんが勧めてくれたトレーラーハウスのテラスへ。少し高さのあるテラスからふと横を見ると、さっきまで気付かなかったポニーや羊の姿が目に飛び込んできました。

「わぁ!」と驚いていると、「草がぼうぼうに生えているから、気付かなかったのね」と笑う青木さん。

モンブランという名前のポニーに羊が4頭、このほか鶏やウサギ、犬、ネコも飼っているそうです。

「この間ね、あそこにいる羊の1頭を皆さんでいただくバーベキューのイベントを開催したんです。粗末にすることなく、みんなでおいしいね、ありがとうっていただきました」

この「命をいただくBBQ大会」には各地からたくさんの方が集まり、盛況だったそう。青木さんたちが育ててきたグラスフェッドの羊、いくらか寂しさもありましたが、命に感謝しながらおいしくいただくことが大切であり、「参加者の方たちには、肉も野菜もすべて自然からの恵みであるということを知ってもらう良いきっかけになったと思います」と話します。

きっかけは、障がいを持つ次男が地域になじみ、安心して暮らせる居場所を作るため

さて、この「とあさ村」が誕生したのは2016年。どういった経緯でここが立ち上がったのでしょうか。


「知的障がいと自閉症のある次男が養護学校の高等部を卒業する際に、彼がこの地域で地元の人たちと関わり合いながら暮らしていける居場所を作りたいと思ったのがきっかけでした」

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次男の功士さんは、地元の中学を卒業すると平取町にある養護学校の高等部で寄宿生活を送っていました。週末には自宅へ帰ってくるという生活スタイルでしたが、帰ってくるたびに青木さんたち家族が功士さんのメンタル面をいかに整えるかが大変だったそう。

「そのとき、心身ともに健康であるためには、よく寝て、よく食べ、体を動かし、休息をしっかり取ることが大事であると気付かされました。また、自閉症の子どものことを勉強していく中で、人と関わりながら働くことが大事であると学びました」

功士さんの将来のため、自分には何ができるだろうかと模索していた青木さん。功士さんのことを地域の方たちに知ってもらうためにも、まずは自分が地域の方と繋がろうと、地元の食育関連のNPO法人でコミュニティカフェの運営などに携わります。その傍ら、週末には功士くんと一緒に農業について教えてくれる学校にも参加していました。

「自然の中で土や作物などに触れている彼の姿は、とてもいきいきとしていました。高等部を卒業したあと、彼に合わせた支援ができる居場所として、農業をやってみようと考え、地域食堂によく来てくださっていた方にその話をしたら、『うちの畑を使っていいよ』とおっしゃっていただき、ここを始められることになりました」

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そして、功士さんの高等部卒業とともに「とあさ村」がスタートします。ここでは農薬や化学肥料、堆肥は一切使わない自然栽培を実践しています。

「農業に関してはまったくの素人。でも、だからこそ消費者の目線で、こういうものを自分たちは食べたい、作りたいという感じで、自然栽培を始めることができたのかなと思っています」

「とあさ村」は、「自然栽培パーティ」にも加盟。全国の障がい者が自然栽培に取り組み、楽しく働き、地域との繋がりを深め、みんなで日本を健康にしていこうと活動している団体です。このパーティの繋がりで、全国から「とあさ村」に研修にやって来る社会福祉関係の方もいるそうで、現在も月に1度は愛知県の社会福祉施設の方たちが訪れ、畑作業をしていくとのこと。

「パーティに参加して本当に良かったなと思っています。全国に仲間がいるという心強さもあるし、自然栽培に関するいろいろな情報が入ってくるので。パーティのドキュメンタリー映画があって、その上映会をぜひ安平でやりたいなと思っています」

自然の営みの中にある本来の豊かさに気付くことができる場所

「終わりました、終わりました」と、功士さんが赤紫色の花がいっぱいのカゴを持って現れました。マロウと呼ばれるハーブで、ドライにして青い色のハーブティーとして楽しむことができます。「ありがとう」と青木さんが受け取ると、「次、何しますか」と功士さん。

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「とあさ村」には野菜のほか、たくさんのハーブが敷地内に植えられています。ハーブセラピストの資格を持つ青木さんがブレンドしたハーブティーも販売しています。功士さんが摘んできたマロウもハーブティーとしてブレンドされます。

「100の仕事の百姓というだけあって、毎日やることだらけ。雑草抜きも少しずつ彼がやってくれています。動物もいるので、基本的に休みはないです」と青木さん。それでも、華奢な体をまとっているエネルギーは満ち満ちているように見えます。「ここでの作業に関しては仕事という感覚があまりなく、生活の一部になっているんですよね。忙しいけれどすべて楽しい」と笑います。

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この「とあさ村」、基本的には青木さんと功士さんの2人がメインで農作業を行っています。週末になると、ボランティアの方や「とあさ村」を応援している会員さんらがやって来て作業を手伝ってくれます。

天気が悪いときは、ハーブティーを詰める作業などがあり、年中やることはたくさんあります。

また、冒頭で紹介したBBQのイベントなどに関しては、ゴミ拾いやこども食堂を行っているNPO法人「HAPPY NEW EARTH」の田中季枝さんが全面的に協力してくれるそう。

「私ひとりでは思いつかないようなことを提案し、サラリとこなしてくれて、本当に助かっています」と青木さん。

たくさんの方たちのサポートがあって成り立っているとともに、サポートする側やここを訪れる人たちも「とあさ村」からたくさんのものを受け取っているようです。

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「私にしてみると日常である土いじりや草刈りも、都会にいると体験できないからと感動して喜んでくれる方がたくさんいらっしゃいます。豊かさや裕福=お金がたくさんあることと思うかもしれませんが、うちに来てくださる方たちは、自然の恵みをいただくことや農作業を通じて自然の中で過ごすことに豊かさの価値を見出している方が多いと思います」

また、青木さんのように障がいのある子どもを抱える親子も通ってきているそうです。

「障がいがあるお子さんと一緒の方は、地元や近郊、札幌からも多くいらっしゃいますね。週末に子どもと出かけられるところが少なくて困っていたという方も...。でも、ここに来るとお子さんがのびのびと自由に楽しんでいて、親御さんも安心していられるそうです」

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青木さんも自身の経験があるから、その気持ちはよく分かると話します。だからこそ、「とあさ村」がそういう人たちの居場所となり、地域の人たちにも知ってもらい、繋がりができればと願っているそう。

「実際、ここへ来てくださる方たちも障がいのある方たちのことを理解し、応援してくれています」

障がいのあるなしに関係なく、たくさんの人たちが繋り合い、支え合っているやさしい関係性が自然と育まれているのだなと感じます。

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あらゆる命が巡り、共生している畑。少しずつ地域の人にも知ってもらえるように

ひと通り話を伺い、畑やハウスを案内してもらうことに。「あ、そこ、ハーブです」と、青木さんに教えてもらわないと思わず踏んでしまいそうになる取材チーム。農薬や化学肥料を一切使わない自然栽培を実践しているので、雑草もたくさん生えています。そしてその横を悠々と通り過ぎていくネコちゃんたち。あらゆるものが共生しているのだなと感じさせられます。


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「このハーブはレモングラス。レモンのさわやかな香りがしますよ。こっちは和ハッカ。スッとした香りで清涼感があります」

青木さんが一つずつハーブの説明をし、葉をちぎって手渡してくれます。鼻の近くに持ってくると、それぞれの良い香りに癒やされます。

ここでは烏骨鶏も飼っていて、卵も採れます。野菜、ハーブ、卵、肉。あらゆる命が育まれ、巡っています。これらはここでも購入できるほか、安平町や苫小牧の道の駅でも販売しています。ハーブティーなどは札幌などの福祉関連施設でも扱っているそう。

「最近は、安平町の早来の学童で子どもたちが販売してくれることもあり、地元の子どもたちにもここのことを知ってもらうことができてうれしく思っています」

地域の方たちとの交流に関しては、ここから車で5分程のところにある貸農園を「みんなの畑」として貸し出しているほか、ここから車で2、3分のところに、コミュニティサロン「みんなの家」もオープン。せっかくなのでとこちらも案内してもらいました。

もう一つの居場所「みんなの家」。「とあさ村」と共に継続させていくことが目標

「みんなの家」は、JR遠浅駅の目の前にある建物で、もともと一軒家だったそう。壁にはいきいきとしたネコたちの絵が大胆に描かれています。


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ここは、2018年の北海道胆振東部地震の際、障がいのある人が一般の避難所で過ごすことの難しさを感じた青木さんが、普段は障がいのある人と地域の人の交流の場としてオープンし、いざというときには障がいのある人が安心して身を寄せられる場所になるようにと作ったサロン。クラウドファンディングによって始めることができたそうです。

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「最初は横文字のおしゃれな名前を付けようかなと思っていろいろ考えたのですが、結局、『みんなの家』が一番しっくりくるなと思って」と青木さん。現在は毎週月曜に、サロン&カフェとしてオープンしています。「とあさ村」の卵を贅沢に使った手作りワッフルやハーブティーを楽しめるほか、野菜などの販売も行っています。

取材チームもマロウ入りのハーブティーとワッフルでひと休み。卵とバターたっぷりのワッフルは、噛むたびにその風味が口の中に広がり、幸せな気分に。ハーブティーは青い色が美しく、それだけでも絵になりますが、青木さんが出してくれたシロップ漬けのレモンをカップに入れると、青からキレイなピンク色に変化。そのキレイな色にうっとりします。

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今後の「とあさ村」のイベントについて尋ねると、「今はサツマイモの株主を募集中です」と青木さん。株主と言っても、もちろん株券ではなく、サツマイモの株のことです。自分たちで植え付けをして、秋には収穫を行います。1株1000円で5株から募集しているそう。収穫時には、みんなと畑でおいしく食べるイベント企画などもあるかもしれません。株主になりたいという方はぜひ申し込みを!

最後にこれからのことを伺うと、「最終的には私がいなくても継続できるシステムをしっかり構築するのが目標です。今はNPO法人ですが、たとえば就労継続支援B型事業所でもいいので。そのためにも、想いに共感し、ビジネスとして経営面を支えてくれる方などに来てもらえたらと考えています。また、農福連携で『とあさ村』がモデルケースとなり、あちこちに同様の場所が増えていったらいいですね」と話してくれました。

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奥では、功士さんが自分のお気に入りのお昼ご飯を作っておいしそうに食べていました。「とあさ村」「みんなの家」は、いろいろな人が繋がり、混じり合いながらも、それぞれが認め合い、ストレスなく過ごせる温かな居場所なのだなと感じられました。

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とあさ村 村長 青木明子さん
住所

北海道勇払郡安平町遠浅721-21

URL

https://toasamura.com/


ハーブや野菜の栽培を通じて障がいのある人と地域が繋がれる場所

この記事は2023年6月28日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。