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ニセコのまちで、旅人シェフが世界を繋ぐ橋渡し20220706

ニセコのまちで、旅人シェフが世界を繋ぐ橋渡し

札幌から車を走らせ、峠を越えると私たちの目の前に現れる力強い羊蹄山。その雄大な山を横目に、くらしごと取材班が向かったのは「世界の隠れたエキゾチックな聖地を楽しむ人のための特別な場所」をコンセプトに展開するホテル&リゾート。上質なサービスのほか、その土地の味覚や自然を取り入れた、極上のリゾートとして名高い「リッツカールトンリザーブ」です。世界にはまだ5軒しかなく、そのうちのひとつが、今回のくらしごとの舞台「東山ニセコビレッジ リッツ・カールトン・リザーブ」。

新しい建物や外国的な雰囲気が漂うニセコのまちを眺めながら、少し山沿いに向かって進むと、ついにホテルが見えてきました。

niseko_usami2.jpgここが「東山ニセコビレッジ リッツ・カールトン・リザーブ」

中に入ると思わず息を呑む洗煉された空間のロビー。新緑の緑が窓一面に映え、このホテルのブランドを物語っているかのようでした。

季節は6月頭。ちょうど新緑の緑が色濃くなってきた頃合いです。

niseko_usami3.jpg開放感溢れるロビー。

私たちの前に現れた優しい雰囲気を身に纏う宇佐見 太志(うさみ ふとし)さん。ここのオープニングスタッフとして、当初はフロント、そして現在は調理スタッフとして働かれています。

聞けばご出身は愛知県なんだとか。

niseko_usami8.jpgこちらが宇佐見さん。現在34歳です。

今やこの地で暮らし、働いていますが、20代までは「ニセコ」という地名さえも知らなかったと話します。そんな宇佐見さんがこの地にやってきた全ての始まりは一体なんだったのでしょうか?今日を迎えるまでの宇佐見さんの歴史を、少し振り返っていただきました。

直感のままに駆け抜けた20代

地元の高校を卒業後、一度大学に進学したものの、1年程で退学し、調理の専門学校に進学し直します。


「大学に入学してみて、学ぶというよりも遊ぶことがメインとなってしまって...なんだか違和感を覚えていました。そんな時に、専門学校に進学した友だちから、同じ目標を持って頑張る仲間と過ごしている話を聞いて、自分もそういう環境に身を置きたいと思ったんです」

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このお話から、宇佐見さんがどんな方なのか少し想像できるかもしれません。その真っ直ぐな瞳からも、愚直なのが伝わってきます。

調理の専門学校を選んだ理由についても教えてくださいました。

「高校生の時に働いていたファミリーレストランで、厨房に入っていた『高橋さん』という方がすごくキレイにオムレツを巻いていたのが今でも印象的で。その時に高橋さんから料理のことも教えてもらって、調理の世界に興味を持ちました」

専門学校を卒業後は、愛知県にある結婚式場の調理スタッフとして就職しました。

しかし、ここで過ごす日々は怒濤の毎日。

目まぐるしい日々の中、ある時調理から職種が変わり、営業を任されることに。営業として波に乗り、売上を上げれば上げるほどに、さらにプライベートの時間がなくなっていく...。このままで良いのだろうか?宇佐見さんの中にそんな疑問が湧いてきた、そんな時・・・専門学校時代の同級生がオーストラリアで過ごしている様子をSNSで見かけ、なんとその写真をきっかけに、宇佐見さんもまたオーストラリアへワーホリに出る決意をしたのでした。

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この時26歳。

突然決めた、オーストラリアへの道。

英語も一切話すことができず、入国審査の紙も書けない程の語学力だったと笑って当時を振り返ります。

「オーストラリアに行って、シェアハウスに住んでいたのですが、そこにいたスイス人が日本語を勉強していて。自分がその人に日本語を教え、逆に英語を教えてもらって、互いに言語を学んでいきました」

そうして過ごす日々の中で、1年程で語学も日常会話には困らなくなるくらいまでに上達。海外での働き方にも慣れ、「海外の仕事の取り組み方はとてもラフだなと思いました。休憩時間にバーベキューしたり(笑)。楽しい思い出です」と懐かしみます。

2年程オーストラリアで過ごした後、一度日本へと帰国。その後すぐにワーホリ中にせっせと貯めたお金で、世界一周の旅に出ます。

「オーストラリアに行った時から、このワーホリで出会った友だちに会いに世界一周の旅に出ようというのはずっと考えていたことなんです」

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それをすぐに実現させた宇佐見さん!さすがの行動力。まずは韓国、アジアからと西周り。最終的に北米までやって来ました。

「スペインは歩いて縦断もしました。そういう巡礼する観光地があって、900キロを1ヶ月かけて歩きました。20キロのカバンを持って、1日30キロ進むんです。巡礼者同士の仲間もできました。ペルーでは5人の仲間と手作りのいかだを作ってアマゾン川を下ろうと計画もして実際にいかだを作って渡ったのですが、途中で壊れてしまって漂流してしまいました(笑)」と、笑って話しますが、ピラニアやワニが潜むアマゾン川での漂流は危機一髪!なんともヒヤッとするエピソード、今では笑い話となったようです...(笑)。

niseko_usami6.pngスペイン巡礼中の写真。

こうして世界一周の旅を終え、宇佐見さんはいよいよ腰を据えるべく日本へ戻ります。
さて、ここから一気にニセコ行きのお話へと進みますよ。

「もともと兄の影響で、愛知にいる時からスノーボードをやっていたんですが、旅を通じて出会った友だちに『ニセコ』というまちの存在を教えてもらったんです。何やら雪質も最高だし、外国の人がいっぱいいると聞いて、ニセコの求人を調べ始めました」

趣味のスノーボードが休みの日に出来て、英語の使った仕事がしたい、そう考えて見つけた、ニセコアンヌプリホテルのフロントスタッフの募集。応募してると、見事採用。トントン拍子に事が進み、ニセコへ移住。こうして、初めてホテルでのフロント勤務が始まりました。
2018年10月のことでした。

リッツカールトンリザーブで挑戦する意義

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こうしてアンヌプリのホテルでフロント正社員スタッフとして3年程働いていた頃、2020年にあのリッツカールトンリザーブがこの地にやってくると耳にしました。挑戦心溢れる宇佐見さんは、当時の上司に「リッツカールトンリザーブで挑戦してみたい」と相談。上司の背中押しもあり、リッツカールトンリザーブの求人が出た際にはすぐさま応募し、見事採用。オープニングスタッフとして働くことが決まったのでした。

「リッツといえば、ホテル業界の中でも上位クラスのホテルだと思っていました。そこで働く挑戦をしてみたいと思ったんです」

いつだって、ステップアップをしていくのが宇佐見さん。
こうして2020年12月に「東山ニセコビレッジ リッツ・カールトン・リザーブ」がこの地に誕生し、宇佐見さんも仲間入りしました。

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業界でも名高いホテル。まさに、「リッツブランド」。

だからこそ、最高級のおもてなしや、このホテルならではの文化なども最初に2日間の研修で学ぶそう。宇佐見さんいわく、この研修で「あなたならどうするか?」と自ら考える力が身につくと言います。

「お客様が口に出しては言わないけど思っていることを想像して、サービスできるように、というのは、ここで働く上で大切にしていることです。例えば僕の場合、冬は山へ行って一滑りして雪質を確かめ、お客様にその日の雪山の状況をその日の感覚で伝えることができる。パンフレット以外のことを伝えることができるやりがいがあります」

niseko_usami4.png宇佐見さんがニセコの山でスノーボードを楽しんでいる様子

また、前職のホテルフロントでは、1日150組以上を接客していたのに対し、全50室のみのこのホテルでは、1名1名と向き合う時間が長く、お客様とのコミュニケ−ショーンもひとつひとつが濃いと言います。
長期休みともなれば、家族連れも多い。最近では、リモートで仕事をするのに道外から来る方も多いのだとか。

こうしてフロントマンとして活躍されていた宇佐見さんですが、ある時宇佐見さんの履歴書がシェフの目に止まり、キッチンスタッフとしての道を提示されました。

「もともと英語を使う仕事がしたかったので、フロントでお客様を接客することがしたいと思っていたんです。でも、厨房の人手が足りなくなった時に、当時のシェフが僕の履歴書をたまたま見て、調理師免許持ってるところに着目してもらい、声をかけてもらいました。リッツの厨房は、オープンキッチンになっていて、お客様に自分でお料理を運ぶこともあり、お客様と関わることは続けられるので、厨房で頑張ってみようと思いました」

niseko_usami11.jpg外国人スタッフとお話し中。

そんな経緯もあり、今ではディナーを担当するシェフのひとり。キッチンには、外国人スタッフもおり、英語が話せない日本人スタッフとの間に立って、橋渡しがしたいと宇佐見さん。

オープンキッチン仕様だからこそ、お客様との距離も近く、直接美味しかったよという言葉が聞けることもあって、お客様とのコミュニケーションが絶えることはありませんでした。

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季節が変わる頃には、新たなメニューを考えます。材料の見積もりを取ったり、試食したり、メニュー表を変えたり・・・新しいメニューを生み出すにはやらなくてはいけないこともたくさんあります。そんな中でも、ニセコ産・北海道産の恵みを活かしたメニューをと、考えているそうです。

niseko_usami13.jpg愛知からこの北海道に移住し、海鮮の美味しさにとても感動したそう。

好きを仕事にするということ

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「休みは楽しんで、その糧で仕事を充実させる」と語る通り、プライベートの時間も楽しんでいる宇佐見さん。


ニセコは噂に聞いていた通りの雪質の良さで、仕事前や休憩時間に滑りに行くことも。春はその雪が解けて、スリル満点のラフティングが楽しめ、それからの季節はキャンプやゴルフ、ツリートレッキングなど、四季折々のアクティビティが満載なのです。

宇佐見さん自身もこれらのアクティビティに加え、室内スケートボードなんかも楽しまれているのだとか。

また、ホテルから車で5分程の距離にある社員寮の駐車場で、みんなでバーベキューをするなんてこともあるそうです。寮は共同のシャワーが3つ、共同キッチン、基本は一人部屋で、月3万円で光熱費込み。現在は20人ほどがそこに住んでいるとのこと。ワーホリ行く前にニセコで経験してから行きたいっていう人もいれば、皆共通して、「ニセコが好き」「英語を活かして働きたい」と、そんな想いでやってきた挑戦心ある人たちが多いとのことです。

ニセコに移住し5年目。

地元の人たちとも仲良くなっていき、ここでの生活も気に入り、もはやここがホームだと語ります。

そんな宇佐見さんに今後の目標を聞いてみると...
「40代はお金に余裕ができると思うので、ホテルなどに泊まりながら世界一周をしたい。60代は、船に乗って世界を一周したいと思っています」
と話し、まさに宇佐見さんの人生のキーワードは旅。

もちろん拠点はここ、ニセコに置いて、ここから世界へ旅に出る。

宇佐見さんのお話を聞いていると、何歳になってもチャレンジし続ける大切さ、楽しさが伝わってきました。
英語が話せなかったのに、ワーホリや世界一周をして、今や縁もゆかりもなかったニセコで働いている。まさに旅をしながら生きている宇佐見さんのディナー、世界を知っているからこそ織りなせるその味を、一度味わってみてはいかがでしょうか。

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東山ニセコビレッジ リッツ・カールトン・リザーブ
住所

虻田郡ニセコ町曽我919-28

電話

0136-44-3491

URL

https://www.ritzcarlton.com/jp/hotels/japan/higashiyama


ニセコのまちで、旅人シェフが世界を繋ぐ橋渡し

この記事は2022年6月6日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。