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【北海道へ移住 生活費のお話】vol.06 美幌町20210329

この記事は2021年3月29日に公開した情報です。

【北海道へ移住 生活費のお話】vol.06 美幌町

道東の交通の要衝として知られる美幌町。生活機能がそろう中心部を抜け、大地を突っ切ること約20分、空へ伸びるような丘の上の一本道に出ました。両脇には畑と、牧場と、遠くの山。この起伏に富んだ大パノラマの地に、埼玉県から移住して新規就農した畑作農家・吉田さんご家族のお宅があります。なんとラーメンの全国チェーン会社員からの転身。新天地に飛び込んだきっかけや、変化した暮らしぶり、気になる生活費を聞きました。

移住をお考えの方へ

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北海道美幌町に移住したら今の生活費はどうかわるの?
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吉田さんご家族 基本データ

〈家族構成〉
夫・吉田武薫(たけのぶ)さん、妻・良子さん、長女・長男・次女の5人家族

〈移住情報〉
ご夫婦はともに福島県出身。全国に飲食店をチェーン展開する企業に勤務し、移住の直前は埼玉県さいたま市に住んでいました。東京で開催された新規就農セミナーをきっかけに、2012年4月にまずはご主人が移住。その後ご家族も移り住み、移住1か月前には3人目のお子さんが生まれ、5人での新しい暮らしがスタート。

〈移住時の不安要素〉
武薫さんは、事前にリサーチもし、2泊3日のツアーでまちの様子も体験済みで、とくに大きな不安はなかったそう。福島県の出身ということで、北国の冬のイメージも想像できていました。良子さんも、武薫さんが大丈夫と思うのなら大丈夫、とすんなりと新天地へ。

〈現在のお仕事〉
自宅のまわりに広がる約35ヘクタールの畑を所有し、ビート、秋まき小麦、澱原用馬鈴薯(デンプン原料用のジャガイモ)、冬収穫のアスパラガス「冬姫」などを育てています。これからも新しい作物などに挑戦していきたいそう。

移住してみての感想

  • 繁忙期と農閑期のメリハリがついて良い
  • 何より家族との時間が増えた
  • 思った以上に生活しやすいコンパクトタウン
  • 美幌町のロケーションは、まさに思い描いていた北海道の景色だった
  • 地域の行事や、保護者どうしの交流など、すぐに地元の人たちと打ち解けた
  • 野菜などの食材には困らない
  • 見たことの無い太さのアスパラや、初乳でつくる牛乳豆腐など、ここならではの美味しいものに感動

移住前の生活費と移住後の実際の生活費(月額)

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※左側は移住前の家計調査による平均的な数字、右が吉田さんの実際の生活費
※交際費・嗜好品等の出費は含まれていません。

やはり一番大きいのは家賃(住居費)。家を前オーナーから譲り受け(購入)、リフォーム工事には町の助成があるため、住居費に関してはかなりのダウンになりました。プロパンガスは高めですが、主暖房には薪ストーブを使用し、薪は畑から調達するので格安です。都会のように公共交通機関が無いため、交通費は多少かかりますが、もちろん駐車代はかかりません。

ラーメンチェーン店長からの転身

取材は2月の極寒期、薪ストーブの焚かれた暖かいご自宅にお邪魔しました。1月下旬までアスパラの作業があり、3月頭からビートの育苗が始まるため、ちょうど畑の仕事がない時期。吉田武薫(たけのぶ)さんは農繁期に録りためた映画を見たり、本を読んだり、昼寝したり、夕方からビールを飲んだりと、勤め人が憧れるような時間を過ごしていました。部屋の端っこには、気配を感じさせないほどにくつろぐ、1匹の猫の姿も。どんな経営スタイルなのか...。どんどん想像が膨らんでいきます。

bihoroyosidasann3.JPGこの薪ストーブのおかげで室内はぽかぽかです
吉田さんは就農7年目で、町内の平均を上回る35ヘクタールを耕し、ビート、秋まき小麦、澱原用馬鈴薯(デンプン原料用のジャガイモ)、冬収穫のアスパラガス「冬姫」を育てています。自然に左右される厳しい世界に初めて足を踏み入れ、就農当初の26ヘクタールから規模を拡大させています。アグレッシブに攻めるスタイルなのかと思いきや、さにあらず。安定的に経営を続けるため、綿密な「作戦」と基盤づくりをしてきた結果なのだそうです。

ラーメンをつくる中で沸いた、「食」をつくる現場への関心

ご主人の武薫さんは福島県の出身。大学卒業後は、全国転勤のあるラーメンチェーンに入社しました。現場では主に店長として店を回し、調理場にも入っていました。ある店で店長をつとめていた時、偶然、同じ福島県出身の良子さんを新入社員として迎えたのが、2人の出会いでした。

武薫さんは15年勤めた会社で、現場一筋でした。「工場から届いたものを調理して、お客さんに届ける仕事。『ラーメンつくれるっしょ?』って、今でもこの辺の知り合いにも言われますけど、店舗では茹でるだけなんです」と笑います。

bihoroyosidasann14.JPGこちらがご主人の武薫さん
忙しくも充実し、やりがいはありましたが、勤めて何年かすると、ある変化が。自然と、食材を仕入れる仕事に興味が湧いてきたのです。外食の業界でも徐々に国産食材に切り替える動きが出てきた一方で、勤務先の会社は低価格路線の商品展開のため、価格を抑えるべく多くが海外産のままでした。地産地消や、食の安全・安心も叫ばれるようになってきたころで、武薫さんは疑問を抱くようになりました。

「仕入れを知る上で、農業の現場や、農家の仕事も知る必要があります。だんだん生産の現場への興味が強くなってきました。会社は他社より遅れてはいましたが、いずれは国産食材に目を向けるようになると思っていたので、その時のためにも、現場を知りたいと思ったのが農業への関心へのきっかけです」

気づけば、バイヤーの仕事や農業に関連する本を読み漁ったり、調べたりするようになりました。のめり込んだら、一直線。会社を辞める1年前、2011年7月、東京・池袋であった北海道の新規就農セミナーで相談し、美幌町を紹介されたことが、移住の始まりでした。

bihoroyosidasann10.JPG奥様の良子さん
「話があんだー」。良子さんに新規就農の計画を打ち明けたのは、セミナーに行く少し前でした。部屋に農業の本が増えていったことから、すでに良子さんは勘付いていたそうです。「入念に調べて、『絶対に大丈夫』と思ってから動く人」と良子さんがおっしゃるように、武薫さんは、これに前後して、「勝算」を一つずつ着実にはじいていました。

美幌を初めて訪れて、「いい町」と即決

しかしそもそも、なぜ北海道に目をつけたのでしょうか。
「どこで農業を始めるか検討した時に、本州のような台風や大雨といった天候や地震など天災のリスクを避けやすいと考えたからです。また、検討を始めたのが30代の後半。40歳前後からの就農となれば体力面を考える必要もありました。大規模営農が中心で、本州のような『手作業が多く過酷なイメージ』と違い、機械化が進んでいることもプラスの要素になりました」
「入念に調べた」武薫さんの結論でした。

bihoroyosidasann2.JPG住宅は、離農した農家さんから購入しました
同じ年の9月、2泊3日で美幌町を初めて訪れ、収穫体験や先輩農家との交流を経験し、まちの状況もリサーチした武薫さん。「まちと畑の環境がいい町。ここしかない」と自分の中で即決し、11月には研修生になるための面接を受けました。その研修先は、畑作では道内唯一となる、自治体直営の「みらい農業センター」。農業をやめる人の農地や施設、機械といった財産を、家族以外の希望者に譲る「第三者継承」に力を入れ、これまでこの制度を利用し、5件が新規就農されています。(2021年2月現在)。ビートやジャガイモなど美幌を代表する作物に加え、冬に収穫するアスパラガス「冬姫」など高付加価値の野菜の開発と普及にも力を入れています。

9月の時点で候補地として紹介されたのが、現在の自宅と畑でした。住宅は離農した方の所有で、既にまちなかへ引越していたため、しばらく農作業時の休憩場所として使われていました。築50年超ですが状態が良く、機械や畑つきの「居抜き物件」で、初期投資を抑えることができました。継承する畑では、この農家の経営を分析した結果、同様に麦類やビートなどを農協に出荷すれば、タマネギやニンジンほどの収益はかなわずとも、安定した収入につながることも分かりました。

「畑作は投資額が大きくなる反面、収益の見通しがつきやすかったのが大きかったですね。しっかりした経営をされている農家さんだったので、後を継いで8割の収穫高でもやっていけそうでした」と振り返ります。安心して新しい挑戦ができる大きな「基盤」が、美幌で武薫さんを待っていました。

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2012年4月からは、「みらい農業センター」での3年間の研修スタートに合わせ、武薫さんが先に移住しました。当初は公営住宅で暮らし、ゴールデンウイーク明けには家族5人がそろいました。この時、良子さんは初めて美幌の土を踏むことになりますが、一切反対しませんでした。「人が住んでるんだから、なんとかなるでしょうと。かなり楽観的なタイプなので」と笑顔を見せました。

会社員時代と違うのは、メリハリある暮らし

独立して1年目は順調に収穫まで進みました。2年目は、毎週末台風に見舞われるような試練の年となりましたが、共済の保険にも助けられて何とか耐え忍びました。武薫さんは「ここを乗り越えられたのであれば、この先もやっていける」と思えたそうです。

センターでの研修時のつながりから、植え付け時など、猫の手も借りたい農繁期には毎年同じヘルパーが来てくれるようになり「勝手が分かっているので、だいぶ楽になりました」と言います。トラクターの運転を手伝ってくれる知人にも恵まれ、効率が上がりました。

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「畑作三品」と呼ばれるビート・ジャガイモ・麦類は野菜と違い毎日の出荷でなく、収穫は秋に集中しています。そのため夏は防除や草取りの管理メーンになるなど、緩急のリズムが分かるようになりました。

取材した2月のような羨むような生活はごく一時期だけ。逆に、「ゆっくりと、1年間の精神力を蓄える」という大切な時期だったのです。そして、経営の考えをじっくり練ることに時間を充てています。武薫さんが「面積の大きさが所得につながる」と表現する畑作。家族が寝静まった夜、ビールを飲みながら、どれくらいの経営規模がよいかパソコンに向かって頭を悩ませ、「この作物を作ったらどうなるのか」とシミュレーションを重ねます。

また、新規就農でベテランのような経験や勘もないからこそ、日進月歩の技術や機械には、投資をしていく必要があります。取材時に倉庫で見かけた、農薬散布などに使う噴霧器はGPS付きでした。「素人だからこそ、最新鋭のものに計画的に投資していきます」。入念な準備を怠らない武薫さんらしさでもあります。

bihoroyosidasann12.JPG家の目の前に広がる雪景色
会社員時代はメリハリある生活は送りづらく、休日でも会社からの電話を受け、店舗で何かあれば駆け付けるという、「休みでも休んでる感覚がない」日々。美幌に移住する前は、さいたま市の賃貸のマンション暮らしで、都市部での生活とあって、家賃や駐車場代が重い負担でした。さらに、今後は単身赴任手当など福利厚生が手薄になる可能性もあり、「家族を養っていく上で、厳しい時期が来るのでは」という不安もよぎりました。

美幌で就農して7年目の今を、都会暮らしの以前と比べてもらいました。
「自分が『休み』と言ったら休めます。自分が経営しているので、誰かに文句を言われるわけではないですから」と白い歯をのぞかせます。
経営も安定しだし、暮らしも自分たちらしいスタイルが見えつつあります。気になる生活費ですが、住宅は購入したため、毎月の家賃はありません。そして、町からのリフォーム工事(トイレ・風呂)や、浄化槽設置などへの手厚い補助もあり、挑戦をサポートしてもらえました。もちろん駐車場代もかかりません。主暖房の薪ストーブの燃料は、畑の周りに生えている木を使います。プロパンガスは高めですが、水は営農用水を使うので、市街地より割安とのこと。

bihoroyosidasann5.JPG家のまわりの高台からは、どこまでも見晴らしの良い景色が広がります

衣食住に不安がない。「次に引き継ぎたい」農業

武薫さんは、起伏のある絶景を見ながら作業していると、「北海道で仕事してるなー」と感じるといいます。集落のてっぺんでは、畑と山と空がつながっているような景色に出会えます。遠くには、屈斜路湖方面にある藻琴山や、知床方面の斜里岳の美しい山容が。夏は網走湖の水上花火、秋には眼下に雲海が広がります。阿寒湖や屈斜路湖、冬の流氷見学などは日帰り圏内。本州の北海道好きからすると、これまた垂涎ものです。

「移住して良かったこと」をあらためて聞くと、武薫さんは家族との時間や規則正しい生活、食べ物に困らないことを挙げてくれました。

衣食住への不安がない―。当たり前のようで、なんて贅沢で幸せな響きなのだろうと、取材班は感じ入りました。3人のお子さんはのびのびと育ち、騒音問題とは無縁の環境で、冬は雪山でひたすら遊ぶなど楽しんでいます。絵が好きなご長女は移住後「風景を描きたい」といっそうのめり込み、美術工芸系の高校への進学が決まりました。(何と取材日の前日に合格通知が!)

bihoroyosidasann15.JPG長女さんの力作。その他にもお子さんたちの作品がたくさん飾ってあります
良子さんは初めて美幌に来た時、「思っていたより都会でした。中心部にはスーパーもドラッグストアもあるし、これだったら全然暮らしていける」と感じたほど。これといった不便は感じていないようです。いつかやりたいことを聞くと、「自分で作った小麦で自家製のパンを焼いてみたいです」と教えてくれました。

良子さんにとっては、「衣」「食」「住」に加えて、「癒」も重要です。これまでマンション暮らしでできなかった猫との生活が、ここで初めて叶いました。奇遇にも7軒ある同じ集落の農家でも猫を飼っているところが多く、「ネコ友」ばかり。
「『うちに吉田くんところの猫来てるぞ』と電話が来るほどです。いま飼っている『ハニー』は近くの酪農家から譲ってもらったもので、納屋に棲みついた野良もいるんですよ」
吉田家では就農して以来、作物がネズミにかじられたことはないそうです。

bihoroyosidasann13.JPG「ハニー」もじっとインタビューを見守っていました
猫も杓子も、伸びやかな暮らしを楽しんでいる吉田さんご家族。2021年春から中学生になるご長男は、農作業の手伝いをした時に「案外ぼくこういうの好きかもしれん」と言ったそうです。最近でも、良子さんに「もしも農家になるとしたら高校はどこに行ったらいい?」と尋ねてきたのだとか。

「せっかく移住してここの畑を作らせてもらっているので、できれば自分の代で終わらないで、次に引き継げる態勢ができれば」と願う武薫さん。思い浮かべる継承の形は、「第三者」とは限らないようです。

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移住 生活費シミュレーション 北海道美幌町

北海道美幌町に移住したら今の生活費はどうかわるの?
どのくらいの生活費がかかるのか、シミュレーターをつかって計算してみよう!

美幌町 吉田さんご家族


【北海道へ移住 生活費のお話】vol.06 美幌町

この記事は2021年2月16日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。