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北海道で暮らす人・暮らし方
札幌市

愛犬と共に。「犬の車椅子」の物語20190603

この記事は2019年6月3日に公開した情報です。

愛犬と共に。「犬の車椅子」の物語

ある日、いつものバタバタの編集部に1本のメールが。「犬の車椅子をつくっている方の取材に興味はありませんか?」と。

「あります!めちゃくちゃあります!」

ご本人からの連絡ではなかったのですが、偶然にも取材することが決まった、札幌で犬の車椅子を作りつづける男性のお話が今回のテーマ。なぜ犬の車椅子をつくっているのか、その人物はどんな人なのか。自然豊かで一軒家の多い北海道では、たくさんの犬や猫が身近な暮らしをしているのに、障がいを持ったペットのケアについて、どうして身近ではないのか。多くの方に支援いただきたいストーリーをお届けします。

取材は思わぬ方向にも展開。意外や意外、ものづくりが好きな人や、30~40代の方が共感できるマニアックなお話しも飛び出しますので、多くの方に読んでもらい、世の中にこんな人がいるんだ!こんな製品があるんだ!って知ってもらえたら嬉しいです。

物語の舞台は、北海道札幌市。東区の閑静な住宅街にある、小さなスペースに様々な工作機械がつめこまれた工房。金属を削る独特な音がでる作業の手をとめ、ようこそようこそと笑顔で出迎えてくれた男性が、今回のお話しを聞かせてくれた男性、有限会社ONE OFF PRO(ワン・オフ・プロ)の代表取締役である高木 浩行さんです。

実は高木さんは片耳が聞こえません。また職人にとって大事な利き手である右手にもしびれが残っている状態。トラックがぶつかってきた交通事故の後遺症と闘っていましたが、取材陣がそれを聞いたのは取材も最後の方になってから。障がいを持っていることなど全く見せない軽快なトークと優しさに、これまでの人生がつまっているような気がします。

高木さんのこれまで

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まず、本題である「犬の車椅子」のお話しの前に、これまでの高木さんについてお話しを聞きました。

「もともとは祖父の代までさかのぼるのですが、機械をつくる仕事をしてたのが原点です。それを父が引き受けて、大学向けの実験用機械や食品会社なんかのファクトリーオートメーションの機械を製作していました。その両方の背中を見ていて、子どもながらに『絶対にこんな機械作りの仕事はしない!』って思っていたんです。金属の切りくずは刺さるし、火傷はするし、油まみれにもなるしって。それで高校を卒業してすぐに就職しました」

高木さんが大学進学を選ばなかったのは、勉強が嫌いだったから!と笑います。そして、学歴じゃなくてキャリアを積んでいけば認められる業界を探した結果、スーパーマーケットの販売職で就職する道を選びます。今、担っている仕事とは全く関係のない...むしろ真逆とも言える業界で社会人デビューでした。

そんな販売職を始めた高木さんでしたが、なぜ今のお仕事に至ったのかも聞いてみます。

「6年くらい務めて、スーパーバイヤーのポジションも担っていました。スーパー業界も時代の波で大変ななか、働いていた会社ではやりきった感もあり、これ以上、上を目指していける環境ではなくなったと感じて退職。とりあえずオヤジの仕事は相変わらずやってみたいとは思わなかったけど、手伝ってみようか、ヒマだし(笑)。みたいな感じで機械製作の現場に関わるようになったんです。ちょうど24歳のころでした」

取材陣が感じ取った高木さんのウエルカムな雰囲気や物腰が、接客業を通じて得た物なんだということがわかった瞬間でもありました。

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「そうしたら、なんかモノ作りが楽しくなっちゃって(笑)」と高木さん。

あんなに敬遠していた機械と向き合う仕事ですが、やってみたことで開眼します。でもこうも説明されました。「30代になって、オヤジから経営を引き継ぎましたが、実は、オヤジは私に譲った今もこの仕事を続けていくことには難色を示しているんですよね。手伝いだしてから20年以上たった今も私の様子を見てるんですよ(笑)。でも理由はわかってるんです。製造業は厳しい業界だし、怪我をした瞬間に終わるような世界。実際にそういう人もたくさん見てきているしね」

人を喜ばせることが元来好きな性格の高木さんは、どこか和やかにお話しされますが、冷静に考えると本当に難しい決断だったのではないかと想像します。お父さんの気持ちもよくわかります。それにご自身も交通事故という「自分の仕事人生が終わったかもしれない」という事実にも直面しているのも忘れてはいけません。

機械製造業が自分の仕事になってから

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経営を引き継いでからは、お父さんにも手伝ってもらいながら会社をまわしていく日々が続きます。ところが順風満々ではなかったそう。

「オヤジからお客さんもちゃんと引き継いだはずなのに、やっぱり少しずつお客さんがこぼれていってしまって、今まで通りにはいかないことを痛感しました」

機械製品を取り巻く環境は急速に変わっていったという背景もあったかもしれませんが、社員が少ない零細企業や1人親方の機械製品の製作会社や金属加工会社が世の中からどれだけ消えていったかは、業界に精通していない人であっても容易に想像できるかと思います。そこで高木さんは思いつきます。

「どうせ今まで通りやってもダメなら、自分が好きなことを事業に取り入れよう!ってなったんですよね。それで金属加工の技術を活かして、自動車・オートバイ・自転車のカスタムパーツ作りをすることが、事業の主軸になったんです」

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今は車やバイクが趣味で、自分なりにカスタマイズしてます!という若い方は減りましたが、このお話しで熱く語れる方々はおそらく30代後半~50代が中心ではないでしょうか。いわゆる走り屋世代です。

高木さんも、車もバイクもチャリンコも!というメカモノ大好きヤンチャ世代。好きなだけでなく、自らが培った「金属の加工」という技術を活かして、世の中のコダワリを持った熱い世代の「カスタムパーツ」の製作が、自らのヤリガイとなったのです。

「だからかわからないんですけど、ウチにいらっしゃるお客さんは『濃いお客さん』が多いんですよね(笑)。そして私もそういうお客さんが大好きなんです(笑)」

自身のことを多趣味で何にでも興味持っちゃうタイプと表現されていましたが、それが功を奏してか、様々な分野にも派生していきます。

「オリジナルのワッペンとかTシャツとかの製作にも手を出したりして、じゃ、デザインも自分で...って感じになんでも自分でやっちゃうんですよね。ラジコンとかガンプラも大好きで、未だに子ども時代からあんまり変わってないっていうか...(笑)。でもプラモデルなんかでは、足の関節の作り方はこうやってるのか~フムフムって、カラーリングとかも参考にさせてもらったりしてるんですよね。だから作る物はガンダムっぽい雰囲気がでちゃったりするのかな(笑)」

こうやって「金属加工技術」と「自分がやりたいこと」の組み合わせが、高木さんの仕事の原点になっていったのです。

「癒やし担当社員」の入社

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そんな経緯で仕事をしてきた高木さん。「犬の車椅子」を製造し、今やそれが本業とも言えるようになるキッカケとなるワンちゃんの登場です。フレンチブルドックの「りゅうくん」です。

周りの人があまり飼っていなくて、こだわって犬種を絞ったとおっしゃる高木さんでしたが、本当のことはこう語ります。

「当時、経営を引き継いだ矢先で、行き詰まるようなこともたくさんあって、誰かに癒やして欲しい!!って思ったんですよね。話相手になる社員もいないし(笑)」。りゅうくんがやってきたのは、高木さんが33歳のことでした。その後は、りゅうくんのことを「自分の息子」と表現された高木さん。癒やされる以上の絆が二人に生まれていくのです。

りゅうくんの異変は、高木家にやってきてから2年後に訪れました。

動物病院にかかってみると、重度なヘルニアと診断されると共に「手術しても治らない可能性が高い」と宣告されてしまいます。既に後ろ足を引きずりがちで、地面と擦れたところは化膿し、まともに歩くことすらできなくなってきます。もし自分の小さなお子さんが「もう歩くことも難しいし、手術しても治らない」と言われたら、「そうですか」「それが運命」とあきらめられるでしょうか。もちろん高木さんはあきらめません。

「少しでも普通の生活ができるように、まず、犬用の車椅子が製品として世の中で売られてるのかを調べました。そうしたらあったんです!でも海外製。どう見ても大きすぎて、さらに何十万円という価格でした。あきらかにこれはダメだなって思いましたね」

これをここまで読んだみなさんなら、すぐに高木さんの行動はわかると思います。りゅうくんのための車椅子の製作に取りかりました。

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3D-CADや図面はあんまり引かない。大体頭のなかで想像して組み立てて、つくりながら理論づけていくというタイプで、いきなり製作に入ることの方が多いですねとおっしゃっていた高木さんでも、簡単ではなかった「犬の車椅子」の製作。なぜ難しかったのか...。

「これまでに関わったいろんな『金属加工』や『モノ作り』の経験はありましたけど、『犬に関する知識』はほぼゼロだったというのがあります。まずは犬の生体学書を読みまくりました。でもご想像通りで、当時はほとんどが日本語の書籍ではなくて英語。しかも専門書なので、難しい独特の英単語や時にはドイツ語も混じってきてチンプンカンプン。ちまちまと日本語に訳しながら学ぶという日々でした」

大学を進学しなかった理由が「勉強をしたくないから!」と言っていた高木さんですが、「りゅうを助けてやらないと!」という思いに駆られて、ひたすら学ぶ日々が続きました。

トライ&エラーの繰り返し

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そして試作品第1号が完成します。

「もう、ホントに最初のは自分で言うのもなんですけど、ヒドイものでした。四角くて、まさに工業製品!!みたいな(笑)。りゅうとは言葉は交わさないけど、何が好きとかイヤだとかはアイコンタクトでわかる感じにもうなっていて、『そんなのには絶対乗らんぞ!』って目でうったえてきましたね(笑)。犬って不思議なもんで、すごく正直だから、無理矢理乗せたとしてもイヤだったら黙って絶対に動かなくなるんですよね(笑)」

初号機は最悪だったものの、それ以上に最悪にはならないだろうと、少しずつ進化させた試作機作りを、りゅうくんの試乗と共に二人で進めていく共同作業が始まりました。今から12年ほど前のことです。駆体となる金属パーツの素材や部品点数によっては重すぎたり軽すぎたり、道路と接するタイヤのパーツはラジコン部品やインラインスケートのタイヤを試したり、犬と車椅子とソフトにつなぐ「ハーネス」にもこだわり、長くつけると床ずれに派生してしまうので、「革」の勉強もしたり、縫合するためのミシン作業も学んだり......問題がでるたび、それを解決するために、自分が持ち合わせていない知識や技術を身につけるという努力を地道に続けていったのです。

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そして2年もの間、試作型の製作と失敗の繰り返しを経て、高木さん、そしてりゅうくん共に、これが完成形だ!と言えるものがついにできあがりました。

完成形のバージョンは、なんと67代目でした。

一番こだわっていたハーネスも、選ばれた素材は「デニム」でした。おしゃれでもあります。そこにも苦労があったそうです。

「デニムも5枚重ねとかにすると、ミシンの針が通らないんです。でもこだわりたいしどうしようかって悩んで、あ、そうだ。ミシンを改造したらいいんだ!って気がついて、ミシンのモーターをハイトルクモーターに換装しました(笑)。なんでもできるようになった結果、製作するためにウチの会社だけで全部できるようにもなりました。本当のことを言うと、もし自分でつくれなかったら、何十万も出して海外製を買おう...って思ってたんですけどね。りゅうには内緒ですけど(笑)」

67代目にして、ようやく完成形になった車椅子をりゅうくんは装着して、普通の犬と同じように散歩......だけじゃなく、前足だけで元気に走れるようにまでなりました。

さらには驚くことが起こります。「手術しても治らない」とまで言われていたのに、車椅子と今でもまだ珍しい「犬の整体」に通い続けた結果、奇跡的にヘルニアが回復していったのです。残念ながらその後も治ったり、また発症して車椅子生活に戻ったりを6回も繰り返すことになったそうですが、それでも「回復しない」とまで言われた症状がよくなったのは奇跡としか言いようがありません。

そして誰もがいずれくるとわかっていて、想像したくないその時

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高木さんと障がいを持った犬「りゅうくん」の二人は、いろんなことを乗り越えながらも、楽しい毎日が続いていましたが、誰もが恐れるその時がやってきました。


「めちゃくちゃ泣きましたね。私の息子でしたから......。でも最後を看取ってやることができたのがせめてもの救いでした」


このお話しも取材に伺う前から聞かないといけないことだったので知っていましたが、やはりそのお話しがでると言葉が詰まります。ペットであり、家族であり、友だちであり、子どもでもある存在。時には仕事仲間であることだってあります。心と心が通じ合っていると感じたことがある人は、「動物」というくくりだけではかたづけられないお話しです。多くの方がこのツライ経験をお持ちと思いますが、共感しかないと思います。ストレスが多く、癒やしの少なくなっている世の中で、どれだけ何も考えずに接しられる存在なのか思うと、私たち人間にとってかけがえのないパートナーなのかもしれません。


「今まで、ありがとう、りゅう」


そんな言葉しか高木さんにはありませんでした。

でももちろんこれでお話しは終わりません。二人が歩んできた道を、広げていくことにさらに力を入れ出します。自動車やバイク、自転車のカスタムパーツづくりや、今はさらにアクセサリーや時計などの小物の製作なども手がけている高木さんですが、「今は犬用車椅子の製作が本業」と言い切ります。二人のこれまでの経験は、これからの必要とされる人と犬に届けるために使われていくこととなりました。

高木さんとのご縁を取り持ってくれた東京の会社

少し休憩が必要でしょうか。心を落ち着かせるためにも。ということで、ちょっとここで、お話しが逸れますが、御礼もこめて、今回、くらしごと編集部と高木さんのご縁を取り持っていただいた会社と人のご紹介。

最初に高木さんの存在を教えてくれたのは、東京に本社を置く「株式会社それからデザイン」の広報チームの皆さん。

東京の企業さんに北海道で頑張っている方をご紹介いただくとは思っていませんでした。それからデザインさんでは、毎年「とりあえず HP エピソード大賞」というアワードを実施しているのですが、そこで高木さんがグランプリを獲ったということが元々のお話しの始まり。

当サイト「くらしごと」をご覧になり、サイトが届けたい想いをつかみ取っていただき、ぜひ高木さんの活動を多くの方に知ってもらいたい!というお話しでお問い合わせいただいたのでした。

「とりあえずHP」(https://pr.toriaez.jp/) は、自社開発クラウド型ホームページ作成ツールだそうで、「気軽につくれる、素敵なホームページ」をコンセプトに、小さな会社や個人の方でも「素敵な仕事をする人のために」自分で簡単にHPをつくるためのサービス。「くらしごと」のコンセプトにも通じるところもあり、もちろん今回ご紹介しました高木さんも「とりあえずHP」を使われています。

高木さんは「実はネットに関してはすっごい苦手なんです(笑)。だからこういったサービスはありがたいですし、サクサク扱えて、面倒くさいことを考えなくてもダイレクトに書くことに集中できるのがいいですね」とのことでした。サービスを利用してもらって終わり...ではなく、アワードといった頑張っている方を評価する制度や、使われている方をもっと知ってもらうための、それからデザインさんの動きに、くらしごと編集部も共感したというのがありました。もし、Webサイトをつくろうと考えている方がいらっしゃれば、ぜひチェックしてみてください。...ちなみに、ステマではありません。

株式会社それからデザインさんの「とりあえずHP」のサイトはこちら


りゅうくん亡き後

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さて、お話を元に戻しましょう。

りゅうくんが亡くなった後、高木さんの仲間内から、もっと犬の車椅子を広げていったら、困っている人が喜ぶんじゃない?と言われたのは自然の流れで、今後もつくり続けることを本業としました。

ここまでお話しを聞いていると、ペット業界の経済成長率を考えても、事業として成功していくイメージをみなさんも持ったはず。ところが高木さんは「実はちゃんとした事業として動かそうとした時期もあったんです。でも自分のなかで何かが違って、規格物の製品を大量につくって世の中に送り出す手法なんじゃなくて、とことんオーダーメイドにこだわろうって。たくさん製造するとなると、個数をこなすことに集中しちゃって、前に検討した海外製の車椅子と同じ事になるんじゃないかって思ったんです。なんていうか、『商品』なんじゃなくて『モノ』に変わっちゃうっていうか。そうはしたくなかったんです。そして実はたくさん売るのは簡単なことで、いろんな流通経路にのせたらいいんですよ。でもそうしてしまうと中間マージンが業者の数だけ乗ってしまって、本当に使いたい人の手に渡るときには高額になってしまうというのも懸念がありました」

一時期はマスコミにも騒がれて、電話がパンクしたこともあったそう。でもそれじゃ仕事にならないからって、あえて積極的に表舞台にも立とうとはしない高木さん。今も販売スタイルのほとんどが人からの紹介だそうです。インターネットを通じた販売もしているそうですが、できるだけ最初は連れてきてもらいたいというのが本音だそう。

「できれば来ていただいて、体験試乗もしてもらって、細かい採寸もしたいんですよね。ネットで販売するときも基本のSMLとかはあるんですけど、そのままでは合わないので、カスタマイズしないといけないから、かなり細かいことも聞きますよって、だから無理して買わないでくださいってお伝えしているんです。目線は売り手の立場でも飼い主さんでもなくって、利用する犬の目線なんですよね(笑)」

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高木さんの事務所にあるホワイトボードには、たくさんの個人の方の予定が、びっしり毎日はいっています。

「これは、オーダーがあった方々に、この日の何時に電話するよ!っていう予約の表なんです(笑)。製作する時間も必要なので、そのお電話も1日1本だけと決めています」と高木さん。お申し込みの電話があっても電話をする予約をするのだそうです。どんな症状なのか、体重や体格なども細かくヒアリングして、それぞれの事情にあったジャストフィットの車椅子の製作をしているのでした。

すでにその予約も2ヶ月半くらい先まで埋まっているそうで、「高木さんにつくってもらいたい」という人の多さに驚かされます。そして高木さんも「つくった責任はとことん負うのが方針なんです。だから、納品したあとも気になっちゃって、ついその後どうですか?って連絡しちゃいます。どんなに細かく計測して丁寧に製作しても、あくまでも車椅子は完全ではない道具。だからメンテナンスもずっとしていきます。中には、『亡くなりました』っていうつらいご報告もあるんですけど、『高木さんがつくってくれた車椅子のおかげで、幸せな生活がおくれました』なんて飼い主さんから泣きながら連絡がきたら、こっちも泣かずにはいられないですよね」

バリアフリーな世の中のために

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人間でもそうであるように、障がいの度合いや症状は、動物もさまざま。四肢の一部が切断された猫の義足をつくったり、交通事故などで全身麻痺になり、全く動けなくなった犬や猫も、高木さんの元でオリジナルの製品をつくってもらい、その余生を「ただ生かされているだけ」から、「今までのように」生きることができたペットもたくさんいます。

「特に全身麻痺は、常に寝ている状態から、普通の犬猫のように四足であたかも立っているような環境にもどしてあげるので、とても気をつかいます。横に寝ながら見ていた目線が突然元に戻るわけですから、体も目も混乱をを起こして、時には命の危険につながることだってありますから。でもそんな状態を乗り越えて、手足は動かなくても普通の犬や猫と同じ姿勢で同じ視点で周りを見れるだけで、これまで本当にあきらめのような遠い目をしていた子たちの目が輝くのがわかるんです。生きていこうとする気持ちが満たされるような瞬間が私は好きですね。そして飼い主さんも実は同じように、目が輝いたり、時には泣いて喜んでくださったりすることもあって。...もちろんこっちも泣いちゃいますよね(笑)」

獣医さんにもここまできたら獣医になったら?(笑)と言われるほどに高木さんはなっていました。

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他にも、将来についてもお話しが至ります。

「今考えているのは、『AI』を車椅子に組み込むこと。車椅子が必要な場合は、神経系統に問題がある場合があるので、その役目をAIのテクノロジーを使って補完できないかなって。スマホを使って内蔵したミニモーターをコントロールして、疲れた時には走行をAI制御で進めてもらうとか、犬用のヘッドセットを作って微弱な脳波を拾って動かすってことなんかもできないかを考えているんですよね。さらには動脈の計測なんかも合わせていって、医療分野もサポートするようなことにもつながっていったらと考えています」

あまり公にはできませんが、すでにその分野でも走り出しているそうです。

また、こんなことも教えてくれました。「ルアーコーシングっていう大会は知ってますか?疑似餌となるルアーを追いかけて走って、タイムや美しさとかを評価するドッグスポーツなんですけど、そんな大会にも積極的に関わっていきたいと思ってます。実はこれは、健常犬だけでなくて、障がい犬も一緒に走れる機会なんです。障がいを持った犬やその飼い主さんにもデメリットなく参加してもらえるようになったらいいなって。だから、そのための車椅子ももっと開発しなくっちゃ!(笑)」

こんな安価な値段で製作して儲けはあるのでしょうか?そして、なぜこんなにニーズがあるのに、人を雇わないのでしょうか?そんな初対面の方に聞くようなお話ではないことも突っ込んで聞いてみます。

「私のなかで犬の車椅子をつくるのは社会貢献活動に近いんです。だから儲かることはあんまり考えていないんですよね。おかげさまで他の製品で暮らしていくだけの稼ぎをいただいているありがたい状況でもありますので。そしてなぜ一人でやっているのか?でしたっけ?うーん、モノ作りが好きだから、面白いことを、とことん一人でやっていきたいっていうのが信条なんですよね。誰かに教えている時間があったらつくってたいタイプなんです(笑)」
高木さんらしい回答でした。

高木さんのこれから

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5年前の交通事故で、自らも障がい者となってしまった高木さん。生きていても死人のようだった、絶望しかなかったと表現されます。その当時は職人生命をあきらめて、会社を閉めようかとまで考えたそうですが、待ってくれているお客さんのため、そして自分の保育園に通う娘のために、そしてなによりも息子のりゅうと歩いたこれまでを活かしていくため...と製作を再開。昨年ようやくハードに働けるまでになってきたそうです。そんな出来事も、たいした苦労がなかったかのようにサラッと話されるお人柄の高木さん。もっともっとたくさんのことをお話しいただきましたが、終わらなくなってしまいそうですので、最後に高木さんにお話しをしめていただきます。

「りゅうとの出会いから犬の車椅子を製作するようになりましたけど、もともとは『自分の好きなことを仕事にしよう』ってやっていたからできたこと。工業製品をつくる仕事って、昔の私のように敬遠する人も多いかもしれないですけど、実はここには『自由な世界』があるんです。特に金属加工業はさらに自由だと思いますね。工業製品じゃないものを『工業』を利用して作るっていう発想でしょうか。マシニングセンタとか3Dプリンターとかすごい工作機械もありますけど、私は今も昔ながらの工作機械をあえて使っています。先代が借金までして買って残してくれたものを大事に使っていきたいっていうのもあるんですけど、やっぱり手作業でつくるのが好きなんですよね。古い機械を駆使してできるからっていうこだわりも持ってます。変態!って知人には言われますけど(笑)」

高木さん、そして愛犬であり息子のりゅうくん。二人が残してきたことと、これからも1つ1つ丁寧に生まれてくる車椅子は、絶望や苦しみ、悲しみに直面した方々の、大きな支えになっていくことでしょう。たったひとりで毎日黙々と作業している高木さん。障がいを持っている人(動物)も、そうでない人(動物)も、分け隔てなく楽しく暮らせる毎日をつくるために今日も金属を削り、削りくずで手を痛めながら、火傷もしながら、油にまみれています。

高木さんのお話しを聞いてから、背中ごしに見えた金属を削る火花は、花火のようにキレイでした。

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(有)ONE OFF PRO(ワン・オフ・プロ)
(有)ONE OFF PRO(ワン・オフ・プロ)
住所

北海道札幌市東区北38条東6丁目2-15

電話

011-752-2635

URL

https://www.sanpo-yoshi.jp

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E-mail:takagi@one-off-pro.com

※作業中の場合は電話にでられないことがあります。また、本文記事にも記載しております通り、お一人で製作されているため、納期などのご希望に添えないこともありますので、お問い合わせの際はご配慮いただきご連絡いただけましたら幸いです。


愛犬と共に。「犬の車椅子」の物語

この記事は2019年4月3日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。