北海道小樽市から稚内市を海沿いに繋ぐ道路「オロロンライン」。その稚内市の手前に天塩町はあります。日本海に面していることから漁業と、栄養豊かな大地を活かした農業が盛んなまちでもあります。まちの北を流れる天塩川は日本でも4番目に長い大河で、そんな大地と川と海に支えられ天塩町は発展してきました。
2019年、この天塩町を含む留萌管内8つの地域を支える留萌振興局から「2019年中に深川留萌道が全線開通する」というニュースが飛び込んできました。この道路が開通することで、まちには一体どんな変化が起こるのでしょうか。留萌振興局の中でも一番北に位置する天塩町にお邪魔しました。
道の駅てしおのレストラン
私たちが取材に訪れたのは「道の駅てしお」のレストラン。店長の榊原 真一(さかきばらしんいち)さんにお話を伺いました。
ご存知の通り道の駅とはドライバーの方が休憩や食事などのために立ち寄ることができ、その地域の情報発信の機能も備えた施設のことです。道の駅てしおでは建物は町の所有となっており、民間のテナントとしてレストラン・お土産屋さんが入っているのだそうです。
榊原さんは天塩町の南、遠別町の出身です。ご両親はかつて遠別町で飲食店を営んでいました。高校に進学した榊原さんでしたが、勉強するよりも料理人になりたい!と高校を中退。16歳の時に単身で横浜に渡りました。
「30年前の料理の世界は今とは全然違って、すごく厳しかったですね。それでも腕を磨くために頑張っていました」
こうして修行をした榊原さんは19歳で札幌に移住。ラーメン店など飲食店やいくつかの仕事をしていました。月日が流れて2002年のこと。遠別町から天塩町に移ってお寿司屋さんを営んでいたお父さんから連絡がありました。
それが「道の駅が新しく天塩にできる。そこのレストランに入るテナントに応募した」というものでした。こうして榊原さんはオーナーであるお父さんと共に、店長として道の駅のレストランの経営を始めたのでした。
地元の人からも、観光客からも愛されるレストランに
道の駅の中にあるレストランということもあって、利用するお客さんは観光客やドライバーさんが多いそう。
「やっぱり普通の飲食店と違って、道の駅にあるレストランだとずっと途切れずにお客さんが来るんですよね。車で走ってこられるので、お客さんがうちに着いた時間がお客さんにとってご飯の時間ですから。だけど地元の常連のお客さんもいますよ。近所の方とか、港が近いから漁師さんとかね。そういうお客さんはうちを普通のレストランのひとつだと思って使ってくれています。地元の方にも食べに来ていただくのはとっても嬉しいことです」
レストランの繁忙期は7月・8月の夏の間で、普段は5人ほどのレストランのスタッフも繁忙期には8人ほどに増やして営業されているのだそうです。働いているのは地元の方で、主婦の方や若い方の勤め先といった面もあるようです。
レストランの人気メニューは天塩名物の「しじみラーメン」。しじみは天塩町の特産品のひとつで、大きく味も濃いため全国的にも有名です。そんなしじみを使ったご当地メニューを開発したいと町役場から話が持ち掛けられ、10年ほど前から提供を開始し、天塩の名物メニューとして定着しました。
もちろんお話しだけでも美味しさは伝わってくるのですが、食べてみないとわからない!ということで、「しじみラーメン」を注文。榊原さんが自ら厨房に立って、作ってくれます。その姿はまさに職人であり、厨房に立つ背中からもにじみでるプロとしてのオーラが漂ってきます。
はっ!と気がつけば、店内のテーブルには続々とお客さんが。観光の方はもちろん、お話しの通りに地元の方のようなご家族も大勢いらっしゃってきます。そして外を眺めると元気な保育園の子どもたちが先生と歩いてきます。道の駅が保育園のお散歩ルートにもなっているそうで、なんともかわいらしい光景です。
そう待つことなく、きました!「しじみラーメン」。もう香りだけでなぜだかデトックスされるような気分。ラーメンの上にはゴロゴロと贅沢にしじみが丸ごと入っています。
麺にしっかりと絡むスープにもしじみの出汁がしっかりと出ていて、まさに漁師まちのラーメン!といった味わいです。スープ自体が出汁がしっかりと効いていてしつこくないので、麺を食べ終えても「しじみ汁」としてスープも最後までいただけてしまいます。これはどんなに素敵な文章にしても伝えきれないので、人生で1度はご賞味いただきたいと思います。ここで、この雰囲気で食べるからこその味もあるんです。
そんな地元ではラーメンをはじめ、様々な形で愛されているしじみを存分楽しむことができるのが、毎年7月に鏡沼海浜公園で行われる「鏡沼しじみまつり」。お祭りを目当てに訪れたお客さんで道の駅も賑わうのだとか。また、レストランでは北寄カレーも人気で、夏の間はしじみラーメンと北寄カレーに注文が集中するほどの人気だそうです。
オロロンラインが繋ぐこれからの天塩町
榊原さんが教えてくれた絶景ポイント。幌延町の風力発電施設。写真では全然伝わらないので、ぜひご自分の目で!
「天塩町は港もあるし、酪農もあるし、宿も結構あるんです。海の方に行けば、天気の良い日には利尻富士がキレイに見えてすごく良いまちなんですよ。最近では少しずつ外国人のお客さんも増えていて、バスで東南アジアのお客さんが道の駅に立ち寄ることも多いんです」
天塩や留萌エリアの移り変わりを見て来た榊原さんに、これからの天塩町に期待することを聞いてみました。
「場所柄、どうしてもこの天塩町って稚内に行く途中の通過点という面があります。通過点としてでもいいので、寄ってもらった時に美味しいものを食べてもらって、天塩の良いところを知ってもらえればと思って、お客さんに美味しいものを提供するために日々勉強を続けています。やっぱりずっとこの地域で生活しているので、まちから人が減っているっていうのは寂しいなと感じています。だけど、深川留萌道が延伸することでオロロンラインを通る人が増えてくれたら天塩について知ってもらうタイミングも増えて、観光や移住に繋がっていくんじゃないかと期待しています。留萌管内では一番遠いけど、オロロンラインに乗って、ゆっくり海を見ながらドライブして、しじみラーメンを食べるのを目的として下さったら嬉しいですね。いろんな地域から天塩に来ていただけることを期待しています」
美味しい特産品と有名なお祭りもある天塩町。道の駅としてはどうしても目的地ではなく「ドライバーの立ち寄る通過点」としての側面は大きいようですが、その役割を充分理解して、榊原さんは、お客さんに美味しい料理を提供することで今日も天塩町の魅力を発信し続けています。
天塩町からみた利尻富士
- 道の駅 てしお レストラン 榊原さん
- 住所
北海道天塩町新開通4丁目7227-2
- 電話
01632-9-2770
定休日:11~4月は日曜日、5~10月は定休日なし
営業時間:
11〜4月/9:00~17:00
5〜10月/10:00~18:00