
羊蹄山の南麓に位置する真狩村は、農業を基幹産業として発展してきた豊かな農村。演歌歌手の細川たかしさんの出身地としても知られており、真狩川河川公園に佇む「歌う細川たかし記念像」は、知る人ぞ知る観光スポットです。
見通しのいい場所から晴れた日に羊蹄山を眺めると、神々しくて美しくて、思わず言葉を失うほど。この恵まれた環境の中に、オールシーズンキャンプができる『焚き火キャンプ場』をオープンさせたのが株式会社ルーツ・オブ・北海道の代表取締役である山口雅嗣さんです。
このキャンプ場、普通のそれとは少し違います。ひとつは、夏も冬も関係なく、年中焚き火キャンプができること。もうひとつは、キャンプ道具がすべて用意されていて、手ぶらでキャンプに行けることです。
なぜこのようなコンセプトのキャンプ場を作ったのか? 山口さんにお話を伺いました。
夏の晴れた日には、こんなに羊蹄山が綺麗に見られます。
チャンス到来。勢い半分で、キャンプ場を開設
山口さんは、生まれも育ちも札幌市。20代前半の頃からアウトドアが好きで、よく釣りやスノーボードをするためにこのあたりまで通っていたと言います。
「その時から、いつか羊蹄山の麓で仕事や生活をしたいな...とぼんやり思い始めました。当時はプランも何もありませんでしたが、ちょうど3年くらい前に『何か始めよう』と思い立って、場所を探し始めたんです。そうしたら、ちょうど羊蹄山がよく見える土地が売りに出されていたので、すぐに購入。『大好きなキャンプ場をやろう!』と思い立ちました」
こちらがキャンプ場を立ち上げた山口さん。
キャンプ場がやりたくてコツコツ貯金をして...という計画的なものではなく「チャンスが来たからやっちゃえ!」という、ある種勢いのようなものの方が強かったそう。その行動力に驚くばかりですが、大変だったのはその後...。
「友達2人を呼び込んで自分たちで場所を作り始めたのですが、すぐに後悔しましたよ。買ったはいいけど、土地は荒れていてひどいものだった。土木、建設の知識もないまま、草刈機を2台買ってボーボーの草を刈るところからのスタートです。それから林の木を切って開墾し始めたのですが、木って意外なほどに重い。運ぶための道具も持っていなかったので、2人がかりで持って運んで...とやっていたら、1日にせいぜい4〜5本しか切れないんです。草刈機も、1日使って20畳程度進めばいいほう。ぬかるみもあるし、体も痛くなるし...やめればよかったって、何度も思いましたね」
今の立派なキャンプ場に整備するまでは本当に大変だったと思います・・・。
そんな中、助けてくれたのは地元・真狩村の人たち。連日汗まみれになって働く山口さんたちを見て「若いのが何かアホなことやってるわ」(山口さん談)と、手伝ってくれるようになったのだとか。重機を無料で貸してくれたり、砂利を安く入れてくれたり、土地を使えるようにするための知識を教えてくれたりと、随分とお世話になったのだそうです。
「結局1年以上かかってしまいましたが、2017年の4月に始めて、皆さんのおかげで翌年の7月にオープンすることができました」
キャンプの大変そうなイメージを払拭したかった
焚き火キャンプ場の特徴のひとつが「手ぶらでキャンプ」。アウトドア好きの山口さんが、そこに行き着いた理由は何だったのでしょうか。
「キャンプって、例えばご家族で行くとなると一大イベントです。まず、準備が大変。バーベキューのための肉や野菜も用意しなければならないし、長い時間運転してようやく現地に着いても、休む間もなくテントを張らなければいけないし...。しかも、久しぶりに張ろうとすると時間がかかるんですよ。そうこうしているうちに、テントが建つ頃にはもう薄暗くなっていることも珍しくない。お子さま連れだと、途中で『お腹すいた!』という声が聞こえるかもしれません。だからできるだけそういった負担を減らし、純粋にキャンプの楽しいところだけを提供したいと思ったんです」
キャンプ場に着いたらすでにテントが建っていて、バーベキューのセットも揃っている。まずは運転おつかれさま! と、ビールをプシュッ...なんて夢のようです。
こんな素敵なキャンプ空間を手ぶらで楽しめます。
「キャンプ場では珍しい、本格的なカフェバースペースも作りました。アルコールメニューも豊富です。お子さんが寝静まったあと、一杯飲みに来られるご夫婦も多いですね。朝はホットサンドを提供することもできます。手ぶらでキャンプ場に来て、バーベキューを楽しんでテントに泊まって、朝もゆっくり起きてごはんを食べて、片付けもしないで帰るというラクさ。オープンしてから、おかげさまで週末はほぼ予約でいっぱいです」
冬の北海道でテント...って大丈夫?
そして、焚き火キャンプ場のもうひとつの目玉は冬キャンプです。「冬にキャンプなんかして大丈夫なの?」と驚く人もいるかもしれません。大丈夫、できるんです。多少雪が積もっても大丈夫なように、少し分厚めのコットンテントを使用し、オイルヒーターを焚きながら寝袋と毛布で就寝。室内が暖かいので、テントに降り積もる雪も溶けてしまいます。すべて快適に...とはいかないかもしれませんが「真冬にテントで寝てみよう!」というワクワク感が、ある種アクティビティのようで楽しそう。
「とはいえやっぱり真冬にテントは不安...」という人には、コンテナハウスやトレーラーハウスに泊まるという選択肢もあります。こちらはほぼ家のような雰囲気で、快適さを保ちつつキャンプのいいところを堪能することが可能。
「利用される方はほぼアウトドア初心者で、キャンプをやりたいけどどうしたらいいかわからない、という方が多いです。焚き火キャンプ場なら、野外でネックになりがちなトイレも温水洗浄便座ですし、洗面台ではお湯も使えますし、電源も完備しています。キャンプへの間口を広くして、どんどんアウトドアにチャレンジする人を増やしたい、という思いがあるんです」
野外のデメリットを考えてやめてしまう人が多い中「キャンプって、楽しい!」と思ってくれる人が増えたら、アウトドア仲間も増えて嬉しいですね。
コンテナハウスから見える羊蹄山。
フレキシブルな働き方で、好きなことを仕事に
キャンプ場を始めることになってから、山口さんは札幌のご自宅と真狩を行き来するようになりました。現在は2拠点生活ですが、キャンプ場も軌道に乗ってきたため、近々真狩に拠点を移すことを考えているそうです。
「キャンプ場を開設する前は、IT関連の会社で働いていました。会社員を経て独立し、およそ10年。固定のお客さまがいらっしゃることから、現在もキャンプ場と並行してその仕事を続けています。企業内のシステムのコンサルティングやサポート業務なので、拠点を真狩に移してもパソコンと電話があれば仕事はできるんですよね。現場対応が必要な時は別の人間に任せて、私は裏方に回っているという感じです」
山口さんは真狩村地域クラウド交流会のオーガナイザーとしても活動しています。
リモートワークが主流になりつつある今日この頃、やりたいことを実現させたい人にとってはいい流れと言えます。休みは決めていないそうですが「3年くらい前から、仕事も好きなことしかやらないと決めました。だから、休まなくても楽しいんです」と、パワフルな山口さんです。
北海道の自然を丸ごと楽しめるキャンプの実現へ
今後は、ファミリー層だけでなくひとりでキャンプを楽しみたい方のためのスペースを作ったり、子どもたちにももっとキャンプの楽しさを知ってほしいという思いから、ナイフやロープワークなどのサバイバル術を学びながら行う「ブッシュクラフト」という手法をレコメンドしていったりと、展望が山ほどある山口さん。
「あとは、旅をしながらキャンプをしてもらう...というプランも計画しています。道外の方が対象なのですが、飛行機に乗って新千歳空港に着いたら、まず寄り道をしながらレンタカーで真狩まで来てもらう。焚き火キャンプ場に着いたらキャンプの用意がしてあるので、そのままバーベキューをしてテントで就寝。次の日になったらまたドライブをして、今度は提携先の神恵内村のキャンプ場にて一泊していただく。真狩では山の幸、神恵内では海の幸を楽しみながら、自然と目一杯触れ合える"旅キャン"企画です」
北海道のうまいものと自然を存分に堪能できるこの企画、道外のアウトドア好きにとってはきっと垂涎もののはず。テントのほか、今後導入されるコンテナハウスで快適に旅をしながらキャンプをしていただく...というプランも検討中です。
好きなことを仕事にした山口さん、人生を楽しんでるのが伝わってきます。
ところで「焚き火キャンプ場」というくらいですから...もちろん、焚き火もOKなんですよね?
「はい。今は焚き火台を使っていますが、ゆくゆくは直火でできるように環境を整えたいと思っています。環境破壊の問題があったり、間違ったやり方で炭だらけにしてしまったりと意外と敷居が高く、直火はNGというキャンプ場が8〜9割を占めているのですが、やり方を覚えるとすごく楽しいんですよ。そこで焚き火をしたかどうかもわからないくらいきれいに終われますから」
揺れる炎を見ながらお酒を楽しみ、仲間と語らう...。焚き火には、何時間でもそこに居られてしまう心地よさがあります。春夏秋冬、四季折々の自然と共に暮らすような生活が、焚き火キャンプ場で実現しそうです。