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深川市

ささやかな幸せを大切にする、地方都市の生き方。20181022

ささやかな幸せを大切にする、地方都市の生き方。

JR深川駅から徒歩2〜3分。商店街の一角にある「洋菓子工房 年輪舎」の窓から中をのぞくと、年季の入ったオーブンの前で額に汗を浮かべてお菓子の生地を焼く男性の姿が見えました。気になってドアを開けると、「いらっしゃいませ」とすてきな笑顔の女性。今回は、深川市でバウムクーヘンを中心においしいケーキや焼き菓子を届けている佐藤良平さんと奥様の薫子さんご夫婦にお話をうかがいました。

胸の内で膨らんだ、「北海道でお菓子屋さん」の思い。

厨房のほうに目をやると、良平さんはバウムクーヘンの生地づくりに忙しく立ち働いています。なかなかお話しするのが難しそうな雰囲気なので、まずは薫子さんにインタビュー。聞けば、ご出身は大阪府なのだそうです。

「実は母の出身地がここ深川。子どものころには祖母の家によく里帰りに連れて来てもらっていたんです。幼いながらに大阪と違って空気がひんやりおいしく、自然がたっぷりなところに心をひかれて北海道が大好きになりました」

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そんな薫子さんのご実家は、親類を中心に大阪府豊中市で「欧風洋菓子フレンド」を営んでいました。彼女は小さなころからお菓子づくりの現場をそばで見てきてあこがれを抱いていましたが、一度はホームページを制作する会社に就職。2006年に、当時システムエンジニアとして会社勤めだった良平さんと結婚し、夫の転職に伴ってしばらくは札幌に暮らしていました。そんな日々の生活の中でも、胸の奥底では「大好きな北海道の田舎でお菓子屋さんをやってみたい」という思いは灯り続け、いつしか大きな夢として膨らんでいったのです。

nenrinsha_3.jpg「欧風洋菓子フレンド」時代から使っている番重(コンテナ)。

「夫は大の釣り好きで、獲ってきた魚を上手にさばけますから、『この器用さはお菓子づくりにも生かせそうだ』と(笑)。いずれ北海道で独立することを前提に、実家でお菓子づくりを学んでみないかと彼に相談したら、『面白そう』と意見が一致したんです。ちなみに、私はお菓子をつくるには緻密さが足りないというか...(苦笑)。だから、今も販売をメインにしています」

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より良い子育て環境と、おいしさづくりを求めて。

良平さんの生地づくりが一段落した様子だったので、インタビューのマイクを向けてみました。いわば脱サラしてまったく違う仕事にチャレンジすることに不安はなかったのでしょうか?

「もちろんありましたし、今でも自分で商売をするのは不安で一杯。だけど、それをいっちゃあ一歩を踏み出せませんからね。当初はお菓子づくりの基礎を義父から学び、一つ一つ教わったことを自分で応用して技術を高めていった形です」

nenrinsha_5.jpg現在は教える側として女性スタッフを育成中。

お母さんの出身地という縁から佐藤さん一家が深川市に移住を決めたのは2012年。大阪のお店は約半世紀も地元の方に愛されている老舗でしたが、その分だけ老朽化が進んだことに加え、東日本大震災の揺れで建物が限界に近づいたために閉店することになりました。

「2009年に第一子が生まれ、より良い子育て環境に移りたいと思ったことも大きな理由です。大阪では待機児童の数が半端ではなく、認可保育園に入園させるのはほぼ絶望的な状況。買い物に行くにも子どもを自転車に乗せなくてはならず、人が多いこともお出かけのストレスになりました」と薫子さん。

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「そろそろバウムクーヘンを焼かなきゃ」。良平さんが厨房に戻りがてら、こうもお話しします。「大阪では道産の小麦粉や乳製品を使いたくても高価すぎて手が出なかったんです。お菓子づくりの面でも、北海道ならもっとおいしく、もっと地産地消にこだわった商品が届けられると思いました」

nenrinsha_7.jpg店内にはバウムクーヘンのほか、道産素材を生かした焼き菓子もズラリ。

都会では気づけない「当たり前」が、子どもの健やかな成長を。

お二人は、半年ほどかけて移住の準備をスタート。まずは良平さんが空き店舗の物件探しを始め、自転車で深川市のマチナカをしらみつぶしに見て回ったといいます。そうして探し当てたのがもともとラーメン店だったという現在の場所。市役所や商工会に相談したところ、オーナーを紹介してくれて交渉も上手くまとまりました。

「深川市には起業支援として『空き地空き店舗活用助成』があり、店舗の改築費用の一部をサポートしてもらえたのが助かりました。考えていた予算内で十分に賄えたんですよね。市役所の方からは移住者やUターンした方のイベントにも誘ってもらえたので、お店のアピールもできましたし、知り合いが増えていくのも単純に心強かったです」

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佐藤さん一家は深川市内の賃貸住宅に入居。懸念だった保育園についてもすんなりと入園でき、「あまりにスムーズで驚いちゃった」と薫子さんは冗談交じりに笑います。5年ほど前には第二子も授かり、二人同時に保育園に通っていた時期は、下のお子さんの保育料が無料になるサポートも受けられました。起業だけでなく、子育て世代としても深川市への移住はメリットが大きかったようです。

「それに、ちょっとクルマを走らせると、秩父別の大きな公園とか、旭川の無料屋内施設とか、子どもの遊び場がたくさんあるんです。大阪に比べると格段に人が少ないので、子どもたちは伸び伸びと楽しそうに過ごしています。このまちには用水路があって、そこに小さな生き物がいて、保育園では畑で取れたてのトマトをおやつにしてくれる...細かいことかもしれませんが、都会では気づきにくい『当たり前のこと』が、健やかな成長につながるんじゃないかと思うんです」

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これからも、小さな幸せの年輪を重ねて。

クルクルと回るバウムクーヘンの芯に鋭く目を光らせ、時折生地のタネを丁寧に重ねていく良平さん。作業の合間に許可を得て、厨房の中でお話を聞くことができました。

「洋菓子工房 年輪舎」のバウムクーヘンの生地は、北海道産の小麦粉、卵黄、牛乳、生クリーム、そしてたっぷりのバターに、丁寧に泡立てたメレンゲを混ぜてつくられています。それを一枚一枚手で焼き重ね、しっとりずっしりした食感を生み出しているのです。それにしても、ずいぶんと年季の入ったオーブンのような。

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「これは、『欧風洋菓子フレンド』時代から使っているバウムクーヘン専用の手焼きオーブン。一本一本焼くので大量生産はできませんし、技術が必要なので手間ひまはかかります。けれど、その日の気温や湿度によって生地の水分を調整しながら、焼きのタイミングも見計らえるので、均一なおいしさに仕上げられるんです。ちなみに、Lサイズのバウムクーヘンで24〜25層、1時間以上かけて焼いています」

nenrinsha_11.jpg芯の細かったバウムクーヘンが、焼き上がりにはこんなに太く!

このバウムクーヘンを主力商品に据えたのには理由があります。移住当時、深川市にはケーキ屋さんがすでにあることからビジネスが重ならないように配慮し、なおかつ目新しさからも集客が見込めると考えたとか。さらに、安定的に商品を提供して機会損失を起こさないように、手に入りやすい北海道食材を吟味しながら仕入れているといいます。う〜ん、さすがの一言です!

「ハハハ、何となくですよ(笑)。深川は田舎といわれますが、小さいながら都市の側面もあり、人と人との距離感もちょうど良いと思います。僕らのように移住者が商売を始めるケースも少なくないので、受け入れてもらいやすいところも魅力。実は移住してからは慌ただしくて大好きな釣りにも行っていなかったんですが、お客さんに誘われてからすっかり再燃しちゃって(笑)。このあたりは1時間も走ればどこでも川釣りが楽しめるポイントがありますから、趣味の面でも充実していますよ」

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通勤に渋滞がなく、運転中にふと窓の外を見れば美しい風景が広がる...そんなストレスフリーな日々の中で家族と楽しく暮らせるのが何よりの喜び。ささやかだけれど、それこそが本当の幸せだという思いが良平さんの表情から伝わってきます。

「深川に限らず地方都市は全般的に人口が減り、元気がなくなっているというのが通説。だけど、よくよく見てみると、家族やその周りのコミュニティの中でハッピーに暮らしている人はたくさんいるはずです。僕らも本当にホソボソとですが、キチンと生活できています(笑)。よくイメージされるのんびりとした田舎暮らしとは程遠く、正直なところ慌ただしい日々。でも、『子どもファースト』で幸せに過ごせるという点は大満足です。参考にはならないかもしれませんが、こんな地方都市の生き方もあるんだと知ってもらえるとうれしいですね」

nenrinsha_13.jpgカメラマンからの「最高の笑顔くださーい!」に爆笑しすぎてしまったお二人(笑)。

良平さんは謙遜しますが、いえいえ、そんなことはありません。お土産にいただいたバウムクーヘンを食べてみると、素材本来の味が感じられ、じんわりと心温まるおいしさが口中に広がっていきました。佐藤さん一家が目指しているような、地方に暮らす家族の在り方が思い浮かぶようです。店名のように「年輪」を重ね、深川でさらに幸せを紡いでいく予感まで味わえた気がしました。

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洋菓子工房 年輪舎
洋菓子工房 年輪舎
住所

北海道深川市2条8番24号

電話

0164-22-3900

URL

http://www.baum-kuchen.com/


ささやかな幸せを大切にする、地方都市の生き方。

この記事は2018年8月8日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。