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馬と自然と、まちへの想い。3人の大滝移住物語。20180801

この記事は2018年8月1日に公開した情報です。

馬と自然と、まちへの想い。3人の大滝移住物語。

かつて北海道の南西部に位置していた大滝村。平成7年の合併特例法に始まり、世は「平成の大合併」の時代、伊達市との合併協議を進め、平成18年3月に伊達市に編入されました。壮瞥町を間に挟むため、飛地での合併となり、大滝村区域は伊達市の地域自治区「伊達市大滝区」と名前を代えました。

この大滝にある「大滝わらしべ園」、大滝・浦河・札幌と3つの地域で事業を展開している「社会福祉法人 わらしべ会」が運営する障がい者支援施設です。大滝の自然を活かした乗馬療育や農作業といった活動を通して、障がい者の支援を行っています。そして、この施設で働く職員の内、なんと半数が道外からの移住者。施設長/平岡理恵さん、朝岡晃一さん、菅沼克浩さんの3人も道外からこの地へ移住してきた職員です。この3人が今回の主人公。取材を進めるにつれ、ひも解かれていった大滝への強い想いを綴った物語です。

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おおらかな土地を求めて辿り着いた北海道。

平岡さんは埼玉県のご出身。大学生でアメリカに短期留学した際に受けたカルチャーショックが胸に残り、大学卒業後には東京で就職するも、今度はカナダにワーキングホリデーとして渡りました。

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「東京で働いていた時は、毎日ぎゅうぎゅうの満員電車に揺られて、もう嫌だ!って思ったんですよね。それで、3年間お金を貯めて、カナダに渡りました。昼間は飲食店で働き、夜は趣味でやっていたアイスホッケーに明け暮れていました」。

1年後、日本に戻ってからは、アルバイトなどで色々なお仕事をしていましたが、なかなか自分が本当にやりたい仕事という充実感を得られることはなかったそうです。そんな時、大学時代に障がい児教育を専攻していたこともあり、地元埼玉の障がい児施設で期間限定の産休代替え職員として就職します。この時「あっ、やっぱりこういう仕事だな」という自分の中での充実感が生まれたといいます。ただ、こうした生活の中でも、おおらかなカナダの生活を思い出すことがあり、日本でもそうした土地で働きたいと思うようになっていきました。そして、旅行で何度も訪れたことがあった北海道を次のステージに選びます。

otaki34.JPG自然に囲まれた大滝わらしべ園。

最初に選んだのは、月形町にある障がい者の支援施設。旅行では何度も訪れていたため、いざ北海道で暮らしてみても、大きな戸惑いは感じなかったそうです。新しい仕事で忙しくしている中でも、仕事帰りの田んぼ道、そこに訪れる白鳥などを眺めていると「北海道にきたなー!」と憧れの土地に来た喜びを感じたといいます。

「ただ、この時期はちょうど障がい者の施設に関する制度改正の過渡期に重なったこともあり、待遇面で折り合わないという不満もありました。そんな時、昔から乗馬療育で知っていた大阪のわらしべ会が北海道にも法人を立ち上げていることを知ったんです。そして、浦河にある『浦河わらしべ園』で正職員を募集していたので、すぐに応募書類を送りました」。

こうして、社会福祉法人 わらしべ会での平岡さんの道がスタートします。最初の浦河で3年、大滝で3年、札幌で3年と経験を積んだ後、改めて大滝に戻り、現在は施設長としてご活躍されています。

otaki24.JPG利用者さんと記念撮影!

大滝に導いたのは「馬」でした。

続いてお話を伺うのは、愛知県ご出身の朝岡さんと、静岡県ご出身の菅沼さん。お二人はわらしべ会の代名詞ともいえる乗馬療育、そして「馬」に惹かれ、この大滝に訪れます。
まずは朝岡さんにお話を聞きました。

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「子どもの頃から馬が好きで、将来は競争馬の厩務員になりたいと思っていました。高校を卒業したら厩務員になるために牧場で働こうと思っていたんですが、親の『大学までは行って欲しい』という要望に押し切られまして・・・馬術部のある熊本県の大学に進学しました」。

大学を卒業後は、本格的に厩務員を目指し競争馬の育成牧場に勤めたり、乗馬インストラクターを目指し乗馬クラブに勤めたりと、馬とともに人生を歩んでいきます。ただ、実際に厩務員や乗馬インストラクターの職を通して感じたのは「スキルやレベルの向上が常についてまわる仕事」ということだったといいます。

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「馬が好きで好きで、とにかく馬に関わって生きてきたのですが、いざその職についた時、違和感が生じたのは確かです。スキルやレベル、テクニックといった向上も、もちろん大事だと分かっていたのですが、そこを追い求めることは、どうやら私には合っていなかったんですね。ただ、馬と接することが大好きという気持ちだけは揺らぐことはなく、馬と関わる次の道を模索し始めました」。

こうして、新しい道を探すなかで出会ったのが、当時浦河にあった、わらしべ会が運営する日本乗馬療育インストラクター養成学校でした。(平成18年閉校)働きながら乗馬療育を学ぶという方法もなかった訳ではないですが、一度仕事から離れて将来何をやりたいのか考えたいという気持ちもあり、入学を決意します。

otaki27.JPG取材中も馬に優しく接する朝岡さんが印象的でした。

「養成学校で、ほぼ初めて障がい者の方とのふれ合いを経験したのですが、壁を感じることもなく、障がい者の方が楽しそうにしている姿を見ると、こちらまで楽しい気持ちが生まれることで、よりこの分野の興味を深めていきましたね」。

入学から1年が経ち、卒業を迎えた時、わらしべ会が運営する大滝わらしべ園への入社を決めます。そこから大滝での生活が始まり、奥さまとこの土地で出会い、現在は小学5年生の娘さんと3人で暮らしています。

続いて、菅沼さんにもお話を聞きました。

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「私は元々、馬に特別な感情はなかったんです。でも、20代半ばで友人から誘われ、競馬場で生で馬の走りを見たときに、すごい迫力に圧倒されたことが馬との最初の出会いです。当時、地元静岡の派遣会社で働いていたのですが、正直生活のために働いている感が強く、やりたい仕事に就いていたとはいえませんでした。そんな時、たまたま見ていたテレビで乗馬療育について取り上げていたんです。それを見た時、初めて『こういう仕事をしてみたい』という気持ちが生まれたことを覚えています」。

そこからは情報を収集する中で、朝岡さんと同じく浦河の日本乗馬療育インストラクター養成学校に出会います。そうして、チャレンジしてみようと一大決心し、入学を決めました。慣れ親しんだ地元を離れ、初めて訪れる北海道という土地、不安などはなかったのでしょうか?続けて、菅沼さんに聞いてみました。

otaki29.JPG農作業は職員にとっても楽しみの一つなんだとか。

「不安は一切なかったですね。馬といえば漠然と北海道、学ぶにはこの土地がベストなんだと勝手にイメージしていましたし、人混みもあまり得意ではないので、むしろ田舎暮らしにワクワクしていました。そして何より馬に関わる生活が楽しみでした」。

日本乗馬療育インストラクター養成学校を卒業した後は、朝岡さんと同じく、大滝わらしべ園に入社し、以降大滝で生活を送っていらっしゃいます。

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大滝ならではの、生活リズムと子育て。

こうしてそれぞれのストーリーや想いを持って、大滝に移住された3人。みなさん口を揃えて「大滝が好き」と仰います。そして、平岡さんがこう話します。

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「私は年齢を重ねてきたこともあり、大滝のゆっくりとした生活のリズムがとても心地よいです。自然もあるし、温泉もあるし。冬にはクロスカントリースキーができるのもこの自然があってこそ。そうそう、平昌での世界大会の前にはスウェーデンのチームが合宿に来たりもしてたんですよ」。

続けて、小学生のお子さまがいる朝岡さんがこう話をしてくださいました。

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「私は大滝に家を建てまして、いわば『ずっとここにいる』決断をしたんですが、その大きな理由は子どもなんですね。子どもが保育所、小学校と通っていくなかで、良い意味で大滝の地域性の狭さに惹かれました。学校の先生は生徒みんなの名前を知っていますし、親は近所の子どもの名前をもちろん知っています。そんな温かみのある人の繋がりが大滝にはあります」。

パソコン、スマホ、メール、SNS・・・などといったインターネットと何かと便利になった世の中で、実際に人と人とが顔を合わせ、会話をすること、つまりは直接的なコミュニケーションを生活の一部として育むことは、今の時代、地方というネットワークが適しているのかもしれないと感じました。

otaki33.JPG大滝には民間のアパート等はありませんが、市営住宅が充実しています。

思いを馳せる、かつての大滝村。

ただ、そんな大滝ですが、平成18年の伊達市との合併以降、かつていた人や、かつてあった施設が、伊達市の中心地へ移転する動きも少なからずあり、就労者の減少、学校へ通う子ども達の減少、ひいては大滝の人口が減少を辿っているのも事実だといいます。平岡さんがこう継ぎます。

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「私たちはここ大滝で、利用者さんも職員も楽しく幸せになれるような活動を続けていきたいと強く思っています。そのためには、この大滝の活性化が最も重要です。今、住民たちで大滝をどうにかしようと地域協議委員会を設けたりと動き出しています。大滝という、まち全体の活気を取り戻す先に、私たち大滝わらしべ園の未来も拡がっていると思っています」。

otaki36.JPG若手職員さんとの一枚。施設には20代の職員さんが多いとのことです。

大滝はカナダのレイク・カウチン町と姉妹都市ということもあり、まち全体で英会話にも力を入れています。そんなこともあり、平岡さんはWednesday's clubというグループに参加し、元中学校の英語教師だった方に英会話を習いながら、今後大滝をどのように活性化させるかなどを毎週水曜日に集まり話し合っています。

また、現在、大滝には小学校と中学校が一つずつありますが、生徒数減少の影響もあり、平成31年には小中一貫教育の義務教育学校へと形を代える予定です。小学校へ通うお子さんがいる朝岡さんの奥さまは、地域協議委員会に参加し、みなさんで大滝のまちづくりについて話し合っています。

otaki35.JPG大滝にあるコミュニティセンターと野菜などの直売所。この隣には、大滝区共同浴場ふるさとの湯があり、どなたでも無料で利用できます。

今回、取材を通して感じた、みなさんの大滝への想い。そして、まちに住む方々の活動や取り組みなど、大滝の活性化をみなさん一人ひとりが真剣に考えていらっしゃるお話はとても印象的でした。こうした人、まちの想いを少しでも多くの方に届けることできれば幸いです。

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社会福祉法人わらしべ会 大滝わらしべ園
社会福祉法人わらしべ会 大滝わらしべ園
住所

北海道伊達市大滝区大成町10番地

電話

0142-68-6344

URL

http://warashibe-hokkaido.com


馬と自然と、まちへの想い。3人の大滝移住物語。

この記事は2018年6月28日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。