ハワイから北海道へ移住〜He moved to Hokkaido from Hawaii〜
5月のある日、初夏の兆しが見え始めた十勝エリアに足を踏み込んだくらしごと取材陣。農業王国としても知られ、広大な土地を持ち、今私たちの目の前には美しい緑と眩しいくらいの青空が広がっています。夏が来るぞと言わんばかりのこの気候に、どこかワクワクした気持ちを抱えながら車を走らせ、向かった先は更別村。人口約3,000人のまちです。
初めて目にする更別村の風景。しかし、そこは決して想像していた「村」ではなく、アスファルトで綺麗に整備された立派なまちでした。
今回の取材対象者である、「サムエルくん」と呼ばれる24才の人物に会うべく、帯広から無料の高速道路を1時間ほど走らせ着いた先は彼のご自宅。玄関先で、「はじめまして」と笑顔で私たちを迎え入れてくれた彼こそが、澤田希望さん。通称サムエルくんです。
彼は今、個人で会社を立ち上げ、更別村、浦幌町、豊頃町をメインにカメラの仕事を始め、映像づくりなど幅広い活動をしています。
サムエルくんの生まれはアメリカ。幼少期はハワイやサイパンに住んでいた経験もあります。お父様は韓国系アメリカ人で、ハワイの大学に進学した際、留学で来ていたお母様(純日本人)と出会い、その後サムエルくんが生まれました。英語名は「サムエル・ノゾミ・リー(Samuel Nozomi Lee)」。来日した時にお母様の旧姓とミドルネームを合わせて澤田希望という日本名も取得しましたが、仲間内からはサムエルくんと呼ばれることの方が多いのだとか。
ハワイから日本へ。そしてその後、北海道の富良野・帯広・札内・浦幌などを転々とし今に至ります。しかしこの移動に関しては、決してご両親のお仕事の関係での転勤ではないそうで...
サムエルくんが撮影したご両親の素敵な一枚。
「両親には遊牧民的なところがあって、様々な場所で生活を体験したいと移り住んで行っただけなんです(笑)」とサムエルくんは笑います。お父様のお仕事は、語学系やIT系の自営業。活動拠点を変えながら、その土地その土地で事業を営んできたそうです。
また、彼の面白い経歴の1つとして小学校5年生の頃から学校には通学しない、ホームスクリーング(自宅学習)を始めたことも挙げられますが、この話はまた後で取っておきましょう。
笑顔の裏に秘められたハングリー精神
〜He has a great ambition behind the smile〜
ニコニコ笑顔で、優しいオーラを身にまとったサムエルくん。十勝芽室町のハーブ農園さんでつくられたハーブティーを淹れながら、私たちに笑顔で対応してくれる姿に、自然とサムエルワールドに引き込まれていくようです。
心が安まるハーブティーの香りに包まれながらの取材がスタート。早速ですが、サムエルくんの手元に置かれている商売道具でもあるカメラについて聞いてみましょう。
「カメラを始めたきっかけは中学〜高校生くらいの時に、父が使っていたカメラを勝手に使い始めてみたのがきっかけでした」。決して貸してもらっていたわけではなく、僕が勝手に使っていただけ、とクスクス笑います。
最初は風景を撮る楽しさに魅了されていったそうですが、次第に人の自然な笑顔を写し出すことが楽しくなっていき、写真の技術を極めていきました。そしてその「好き」という趣味のひとつを仕事にしたサムエルくん、24才。
「よく、若いのに起業なんてすごいね、と声をかけてもらうこともありますが、僕にとってはそれが普通のことだったんです」。
足が不自由なお父様は、自営業をしていたからこそ家族との時間を多く持っていました。そんな姿をずっと身近で見てきたからこそ、企業に就職するのではなく、自らが事業を起こすということは自然と「当たり前」となっていました。それだけではなく、教育方針も面白いのです。
「僕、今まで1回もアルバイトとかしたことないんです。というか、親の『させたくない』という強い意向があって。お金は自分で創り出すんだー!というハングリー精神を持てという教育を受けて育ちました(笑)」。
その教育もあってか、若干17才でもともと持っていた英語という語学力を活かし、海外からの輸入品をネットショップで販売してお小遣いを稼ぎ始めたそう。
「でもこれ、買ってくれた相手が見えないんですよね。なんだかそこにやり甲斐を見いだせなくなってしまった自分がいたんです」。
趣味を、仕事に
〜Work as a hobby〜
そこで、趣味のひとつでもあった写真を仕事にしようと思い立ちました。
その道を選んだ結果、たくさんの人と出会うことが出来たと話しますが、もちろん最初は不安もありました。
「これを仕事にしようと思った時、最初の3年くらいは仕事ないんだろうな〜なんて思っていました。でも今では色んな紹介もあって、仕事をもらって、忙しくなってきたところなんです」。
色々なところから声がかかり、経験を着実に踏んでいきました。
写真の仕事といっても様々ですが、例えば結婚式で流れる最後のエンドロール。「あれって、カメラマンが式当日に撮影した写真をすぐにまとめて流しているんですが、カメラの仕事を始めた当初は、『カット数が足りないよ!』なんて言われて焦ったことも(笑)。でも、その緊張感や達成感を、そしてエンドロールを見て盛り上がってるお客さんをその場で見ることが出来るのは楽しいです」。
少しずつ、少しずつ人との出会いに触れ、そのたびにサムエルくんのファインダー越しには多くの人の笑顔が写し出されてきたことでしょう。
今まで撮影してきた写真をまとめたフォトブックを見せてくれました。
「家族との道内旅行中に、iphoneを木にぶらさげながら自分たちでウェディングフォトを撮っているカップルに遭遇したことがあります。母からの『撮ってあげたらいいんじゃない』という言葉に背中を押され、撮影したことも。ひょんな出会いをしたそのカップルとは今でも連絡を取っています」。
こちらがその時の写真。
サムエルくんが撮る写真からにじみ出る優しさ、壮大さ、美しさ...それに感動し、心を躍らせる人たちが、少しずつ増えていきました。
「今後は、自然が引き出す十勝という素晴らしいロケーションの中での撮影をもっとやっていきたい。このロケーションフォトは、まだまだ認知も低いので今後もっと発信していきたいと思っています」。
そして、今はカメラだけではなく映像など、その業務は多岐に渡っているご様子。
「映像の方では、キャプションなど文字をたくさん入れるものではなく、ストーリー性のある物語として作成し動画をつくっていきたいんですよね」とすでに十勝にある池田町の眼鏡店さんで作成したムービーを見せてくださいましたが、まさに映画の一部を切り取ったかと思うほどの出来映え。実は動画内で流れていた音楽も、自分でつくってみたと言います。
「まだ自分の色を模索中。これからもっと見つけ出していきたい」
まだまだ先を目指していくサムエルくんです。
ちょっと変わった父。その背中を見て育った息子。〜A son who had grown up with watching his unique father〜
取材はサムエルくんのご自宅で行いましたが、「この家も、全部業者も呼ばず父とリフォームしてつくったんです」と一言。
「もとは高い吹き抜けばかりだったところに自分たちの手で部屋をつくりました。うちの父って、出来ることも出来ないことも全部自分でやっちゃうんです。僕も手伝いましたが、天井つくっている時は一回落ちそうになりましたよ(笑)。そして、完成までに7年という月日を費やしました。そう、僕の青春時代はリフォームと共にあります(笑)」
もちろん最初の方でお話していたように、お父様は決して建築関係の仕事をしていたわけでもなく、携わった経験もありません。全てネットで調べ、ここまでつくりあげたお父様のことをサムエルくんは「変人なんです、僕よりも変人だし、うちくらいの変わり者はなかなかいないですよ」と無邪気に笑います。
冒頭でも少し触れた、サムエルくんのホームスクリーング(自宅学習)を紹介してくれたのもご両親。「こういうのもあるんだよ」と教えてくれて自分自身が興味を持ったのがきっかけだったと言います。
「もともとゲームとかも買ってくれない家で、遊びも自分で創造してつくっていました。そういうこともあってか、まわりの子どもたちとの価値観が違うなと感じることもあったんですよね」。
結果的にこの道に進んでよかったですか?と問うと、「この経験がなかったら今の自分はいなかったです」とニコリ。
「今の時代って、学ぶリソースが溢れているんですよね。インターネットもそう、無料で学べるところもたくさんある。だって、ハーバード大学の講義も無料で見れちゃう時代ですから」。
まだまだ日本には浸透していない、新たな学び方で様々な学びを得てきた彼は、決して家でひとりぽつんと勉強をしていわけでもなく、学校に行かないからといって人とのコミュニケーションが取れなかったわけではありません。
「父の仕事の関係で、家には常に海外から人がたくさん来ていたんです」。
これもその時の一枚。様々な国籍の人が家にやって来てはワイワイ楽しんでいるそう。
キーワードは「家族」〜The keyword is Family〜
何度かサムエルくんが口に出していた、「うちの家族は変わり者」。そして変人呼ばわりのお父様、でも...「あったかい人ですよ。いつも笑顔だし。1回父を見たらみんな忘れないと思いますよ。母は人にはあまり見せないけれど実はお笑い系の人。いつも笑わせ合っています」と優しい口調で家族について話します。
「家族で旅行にも定期的に行くんですが、本当ミステリーツアー。どこに行くのか分かりません(笑)。みんなで47都道府県を車でまわったこともあります。あ、沖縄だけは飛行機で行きましたけど(笑)」。
「ムードメーカーは家族全員です。キャラが本当に濃すぎ(笑)。みんなでボケたりつっこんだりしています」。
家族の背中を見て育ち、家族の時間をたくさん持てたことがよかったと話すサムエルくん。
彼のお話を聞いていると不思議とどんどんその魅力に引き込まれていきました。優しい瞳に、優しいオーラをまとった柔らかい雰囲気を持つ彼は、家族を始めまわりの人たちへの愛に溢れ、時にハングリー精神を持ち、好きなことを仕事にしつつ日々進化しながら十勝エリアを拠点に活躍しています。
「僕は北欧とかにも行きたいんですけどね。旅しながらの仕事にも憧れるんですけど、十勝がすごく好きだからなぁ。ここ、十勝で働けることが僕にとっての幸せなんです」。
そう満面の笑みで笑う多彩な若者が、今日も十勝から発信中です。
- 澤田希望/サムエル・ノゾミ・リー(Samuel Nozomi Lee)
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