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稚内市

最北端への移住で叶えた生産者ライフ20180205

最北端への移住で叶えた生産者ライフ

ほぼ100%稚内市内だけで販売している地産地消の卵

日本の最北端、北海道稚内市。ロシアと最も近い場所としても知られているまちです。しかし、稚内での暮らしを想像できる方は少ないかもしれません。

実は稚内市には多くの行政機関が集まり、スーパーやコンビニを含めまちの中には多くのお店が並んでいます。住みやすさもしっかりと備えているまちなのです。

風が強く気温も低い地域、そして最北端ということで「寒そう」というイメージをお持ちの方もいるかもしれませんが、実は内陸よりは雪が少ないエリア。

そんな稚内市の中で内陸に位置し、畑の広がるのどかな地域こそが勇知(ゆうち)という場所。

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勇知の中でもさらに「上勇知」という地域には、稚内市内で定年退職された方が移住されたり、陶芸をする工房が作られたりと、のんびりと穏やかに暮らせる地域です。

その上勇知に「カヤニファーム」という養鶏場があります。

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この養鶏場で採れた卵は、ほぼ100%稚内市内で消費されているとのこと。ほとんど市外には出回らず、稚内の人々から愛される卵...。一体どんな方がこの卵を生産しているのでしょうか。今回は稚内のカヤニファームさんを取材させていただきました。

都会で消費するだけの人生、もうやめよう!

今回取材をさせていただいたのは養鶏場「カヤニファーム」代表の伊藤香織さん、そして旦那さまであり「ゆうち自然学校」代表の輝之さん。ご夫婦には可愛い二人のお子さんもいます。

kaayanifarm4.jpg香織さん(左)、輝之さん(右)ご夫婦です。

kaayanifarm11.jpgとっても仲良しなお子さんたち!

奥さまの香織さんは北海道札幌市出身。以前は環境関係のエコツーリズムなどを行うNPO法人に勤めていました。しかし自然豊かな地域へアプローチを行う仕事とは裏腹に、香織さんの札幌での生活は目まぐるしいもの。仕事を通じて旦那さんである輝之さんと知り合いご結婚されるも、この忙しすぎる都会で「消費するだけの生活」に疲れてしまったと話します。

そんな生活の中で、時折畑仕事のアルバイトに挑戦していた香織さんは土を触る楽しさを知り、「生産活動をメインとした生活をしてみたい」という気持ちが大きくなっていきました。

今の生活では、自分は直接何かを生産することはなく、お金を使って商品を買い、ただ一人の「消費者」であり続けてしまう。自分も「生産者」となって、生産と商品を循環する生活をしたい...。養鶏場であれば、小さな規模から始めることが出来ると知った香織さんは興味を持ち始めました。そんな中でたまたま出会ったのがこの稚内というまち。

kaayanifarm5.jpg笑顔で話してくれた香織さん

香織さんには、この「上勇知」という場所で養鶏場を営む友人がいました。その方は事情があって別のまちへ引っ越すということになり、タイミングよくこの場所を譲っていただいたことでカヤニファームは生まれたのです。

多くの支えで出来たミニマムな養鶏場

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今でこそ、その卵のおいしさから多くのファンが付いたカヤニファームですが、その道のりは簡単なものではありませんでした。

香織さんにとっては初めての養鶏の経験。最初は四苦八苦されたそうです。

上勇知へ移住して1年はアルバイトをしながら準備を進め、2008年にカヤニファームをスタートさせます。ちなみに、「カヤニ」というのは香織さんが北方先住民の方からお借りしている名前なんだとか。この名前には「植物の魂」という意味が込められています。この地に植物のように根付き、いつかこの土地にお返しができるように、そんな想いがこもった大切な名前です。

名前も決まり、いざ養鶏を始めようとしますが、香織さんは経験者ではありません。最初は本を読みながらヒヨコの飼育を始めたそうですが、育て始めた時期は冬。冬の場合、通常ヒヨコは室温35〜40度ほどに暖めてあげる必要がありますが、その温度管理が足りず寒さに弱いヒヨコは半分も死んでしまったのです。

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しかし、これでめげるわけにはいきません。この教訓を生かし室温管理も完璧にし、大切に大切にヒヨコを育てます。しかしなんと、今度は温度管理を徹底的に行った結果、過保護に育てすぎて体の弱い鶏に育ってしまいました。

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試行錯誤を続けた辛い時期を乗り越え、翌年からは徐々に飼育が上手くいくようになり、今では450羽ほどの鶏を飼育しています。

香織さんのこだわりのひとつは、自分の手の届く範囲で仕事をすること。ミニマムな経営をすることで、本当に自分のやりたい方向の生産を行うことができるからです。

そしてもう1つのこだわりは、ここでしか作れない卵を生産すること。

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カヤニファームの卵は平飼いの有精卵。一般的な飼料のトウモロコシではなく、お米と小麦を主食としているため黄身が白っぽいことが特徴です。

エサももちろん地元産のものにこだわり、当初から宗谷産のサケを使っていました。最近は自分で粉砕した餌に、宗谷産の昆布を混ぜているそうです。次は宗谷産のホタテの貝殻をエサに使いたいと思っているのだとか。カヤニファームの卵はこれからも進化していきそうです。

農場をベースとした自然体験

一方、旦那さまの輝之さんは栃木県の出身。子どもたちへの教育業を志していましたが、神戸で違う仕事に就き、会社員として働いていました。しかし「教育に携わりたい!」という気持ちをどうしても捨てきれず、脱サラをしてフリーで野外教育の講師となったのです。

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輝之さんが北海道へやってきたのは1999年、北海道黒松内町での自然学校に携わったことがきっかけでした。その自然学校で勤務しながら子どもを対象とした野外教育の授業をしている際に奥さまの香織さんと出会い、ご結婚。その頃には「独立したい」という気持ちがあったのですが、稚内に移住が決まったことで再びフリーランスの道へと突き進みます。

移住してからしばらくはフリーで活動をしていましたが、カヤニファームが落ち着いてきた2010年に転機が訪れます。

それは、内閣府で実施していた起業支援事業として認められたことでした。その支援を受けて輝之さんは「ゆうち自然学校」を設立。子どもを対象とした自然体験を実施するこの学校は、稚内市内にとどまらず宗谷管内から多くの子どもたちが参加しに来てくれています。

 kaayanifarm2.JPG大自然の中を駆け回る楽しさを伝えます

輝之さんはこの「カヤニファーム」という農場がベースにあることで、お互いの仕事を助け合えることに魅力を感じました。また色々な場所を転々として教えていくよりも、ベースとなる場があることは目指している自然体験を叶えられると気づいたそうです。

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「ゆうち自然学校」で行っているのは基本的には「野あそび」。子どもたちが自然と一緒に育っていくという環境作りを目指しています。このような自然体験ができる場はまだこの宗谷管内には少なく、輝之さんはもっとこの豊かな自然を生かし、多くの子どもたちに体験をしてほしいと思っているそうです。

また、輝之さんはこうも言います。
「今まではとにかく没頭してやってきた感じがします。しかしせっかくこのカヤニファームという環境があるのだから、今後はもっと養鶏場とリンクした自然体験ができるようになっていけたらと考えています」。

楽しく暮らしていくことに意味がある

朝夕1回ずつエサやり・採卵をし、週に2〜3回の配達も自分たちで行うため、家族全員で旅行に行ったりするということも難しい。

しかし香織さんは「養鶏をやっていて辛いと思ったことはないですね」と話します。

香織さんはカヤニファームの卵のファンが増えるうちに気が付きました。
「地元の人は、地元で生産したものをやっぱり使いたいものなんだ、カヤニファームの強みは、直接配達も自分たちで行ってこその、生産者の顔が見えることなんだ」と。

そして稚内の人々から愛されている卵を、もっと多くの方に届けたいと新しい鶏舎を立てるためにクラウドファンディングに挑戦し、多くの支援が集まりました。

kaayanifarm8.jpgクラウドファンディングで建てたプレハブの鶏舎です

そんな稚内での暮らしについて香織さんはこのように語ってくれました。

「この上勇知は、移住者に対して優しいまちなんです。移住者が多いっていうのもありますが、排他的な空気が全然ありません。もちろんちょっと不便なこともあって、息子は離れた小学校にバスで通っているので放課後にみんなで遊ぶっていうことが難しいのでそれは可哀想だな...と。でも車さえあれば友達の家にも行けるし、20〜30分でスーパーにも行けますし、最近ではインターネットで買い物もできます」。

そんな伊藤さん一家からは「楽しく暮らしていくことが大事」ということを教わりました。

kaayanifarm7.jpgみんなで卵を持ってPR!

かつて稚内は、かなり活気があり遊園地まであったそうです。そんな元気に栄えていた時代が、今にうまく繋がっていないと感じた二人は「このまちのために何かできることはないだろうか」と考えるようになりました。そのきっかけは、お子さんだったと言います。

「この子たちもいつかは就職や進学でこのまちを出る日が来るかもしれないと思っています。でも、そうして大人になった後にも『この町での暮らしって何か面白かった』と思ってほしい」。

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そう話す香織さんは、いつもお子さんたちに自分の夢を語るようにしているのだとか。ここでの暮らしは夢を何個でも語れるんだ、夢って語って良いものなんだ、そう思ってほしいという想いからです。現に香織さんは、新しい鶏舎が欲しいと夢を口にし、その夢を叶えました。このように、大人自身が楽しく夢を叶えていき、このカヤニファームで楽しく暮らしていくことが、いずれ子どもたちの未来に繋がっていく。伊藤さん一家はそう信じ今日も美味しい卵を届けています。

カヤニファーム
カヤニファーム
住所

北海道稚内市上勇知原野1099-4

電話

0162-73-9900

URL

https://www.facebook.com/saihokunikurasu/


最北端への移住で叶えた生産者ライフ

この記事は2017年12月4日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。