ぶどう畑の横に構えるフルーツ・シャトーよいち
かつて朝の連続テレビ小説「マッサン」の舞台としても注目を集めた北海道余市町。ワインはもちろん、フルーツをはじめ、海が近いことで漁業も盛んなこのまち。
札幌から車で1時間程のところにある余市の近隣には、小樽や積丹といった観光名所もあり、北海道のドライブコースとしても立ち寄られる場所の1つ。
民家の中に自然と存在しているぶどう畑を横目に、「フルーツ・シャトーよいち」というなんとも可愛らしい名前の特別養護老人ホームにお邪魔しました。
福祉の道へ進むきっかけをくれた場所
案内してくれたのは、ここで働く相談員の吉崎春恵さん。勤続13年目のベテランです。吉崎さんはもともと札幌育ち。小学生時代は小樽で過ごしていたこともあり、余市の存在は身近に感じていたそうです。
広々とした施設内。奥では皆さんが昼ドラに夢中
その後、札幌の大学で人文学を学んでいた吉崎さんは「経験してみたい」という挑戦心により福祉の実習を受けることに。その実習先が、フルーツ・シャトーよいちでした。
この時、福祉の道へ進むきっかけとなった出来事があったと言います。
「ある時、耳の遠い方が共有スペースで歌を歌っていたんです。それを聞いたまわりの方が『あの人歌うまいね』って。耳の遠い方だったので、私が間に入って会話をサポートしたんです。『歌うまいねって言われてますよ』と伝えた時の、その方の嬉しそうな顔は忘れられなくて・・・」。
その後も吉崎さんを通して会話が繰り広げられ、誰かの役に立てるこの職業の魅力を知り、福祉の道へ進むことを決意。
そして、就活のタイミングで運良く実習先だったこの施設の求人を目にし、「今」があります。
余市での生活がスタート
就職後、改めてこの余市というまちを見てみると、自然に溢れた心地の良いところだということに気がついたという吉崎さん。毎朝ぶどう畑の横を通りながら出勤。札幌では考えられない通勤路に、最初の頃はそれがとても新鮮だったそう。
余市は札幌からも近いので、お休みの日は札幌まで行き、友人に会ったり買い物をしたり、余市では図書館に行ってみたり、写真が好きな吉崎さんは、余市川の裾を歩いてはカメラに収めているようです。
仕事もプライベートも両立できる環境
「相談員」として働いている吉崎さんのお仕事は、基本的に入居者さんの受け入れ窓口業務。お部屋の空き状況等を見ながらの調整や、入居前の最初の面談を担当します。
だからこそ、入居者さんのお名前や情報は最初に頭に入ってしまうのだとか。入居者の数は100名を越えていますが、施設内を案内してくれた際にすれ違う入居者さんとお名前を呼び合う姿が印象的でした。
廊下ですれ違ったとある女性の入居者の方とはこんなエピソードも。
「ちょうど先日、あの方と恋愛話で盛り上がっていたんです(笑)。昔の恋愛話を聞いて、なんだか切なくて涙を流しそうになりました」
自分より長い時間を生きてきた時間があるからこそ、重みのあるお話も聞ける現場です。
入居者・家族・職員、そして地域の繋がり
吉崎さんいわく余市の人々は「素朴で良い人。フレンドリーな人たちばかり」
夏を迎える頃、フルーツ・シャトーよいちでは夏祭りを開催。
365日の内の、とある1日。そして、2時間程度の夏祭りです。しかし、この2時間のために「みんなの喜ぶ笑顔が見たい!」と職員たちは本気です。
写真からも伝わるように、入居者の方はもちろん家族や近隣の子どもたちが集結。たくさんの人が遊びに来てくれ、地域との触れ合い、交流が生まれています。
こちらは流しそうめん中。大人気のため人がたくさん!
介護以外のこうしたイベントにも力を入れることが出来るのことは、ここでの「やりがい」や「楽しさ」の1つかもしれませんね。
またもう1つ、入居者の方はもちろん、職員も楽しみにしている「蕎麦打ちイベント」。
蕎麦が打てるようになったという入居者のご家族が、この施設にいる方々に食べてもらいたいと蕎麦打ちのイベントを開始。
蕎麦打ちイベントをメインで企画している金澤さん
食べた人たちからの「美味しい」という言葉が何よりも嬉しく、職員の方々もたくさん食べて行ってくれるそうです。「入居者以上に、職員の方が蕎麦を楽しみにしてるんじゃないか」なんて声も。
同じくメインで蕎麦打ちイベントを運営している石田さん
入居者の家族であるお二人に「フルーツ・シャトーよいちってどんなところですか?」と尋ねてみるとこんな返答が返ってきました。
「すれ違う職員の方々が気持ち良く挨拶してくれる風通しの良さ、そして良い意味で自由な空気感がある。そのおかげで、家族同士も気づけば仲良くなっていることが多いです」
仲良く3人で。「吉崎さんは頼りにしている」とお二人も話していました
お二人と吉崎さんとの関係性を見ても、取材中にすれ違うご家族の方たちを見ても、本当に皆さんが仲良く、取材陣さえも心地良さを感じていました。
誰かの人生というドラマを支える仕事
皆さんは、介護のお仕事に対してどんなイメージをお持ちでしょうか。
「大変な仕事なんだろうな・・・」
「介護ってキツいよね・・・」
そんな声も少なからず聞こえるこの業界。それについて、吉崎さんはこう語ります。
「介護は『人の生活』に触れる仕事です。部分的に見たら、『大変そう』と思うかもしれないけれど、それは介護の一部分しか見ていないからそう思われてしまうのかもしれません。私は、『人生を支える仕事』だと思っています。これってすごく魅力的なお仕事だと思うんです」
そう目を輝かせながら話してくださった吉崎さんのまわりには、たくさんの笑顔が溢れていました。
「この仕事をしていると、皆さんストレートに『あなたがいてくれて良かった』って言ってくれるんです」
直球で感謝を伝えてくれる、それは介護の仕事に携わる人々にとって誰しもやりがいに繋がる瞬間なのではないでしょうか。
吉崎さんは、丸12年過ごしてきたフルーツ・シャトーよいちについて「色々なことに挑戦させてくれて、働きやすい職場です」と話します。
職員用のアパートがあったり、資格取得のための助成制度があったりと手厚い福利厚生も。また、女性が多いフルーツ・シャトーよいちでは現在育児休暇を取っているスタッフもいます。
こういった福利厚生の他にも、スタッフの経験のためにと研修や勉強会も豊富。
吉崎さんも全国の福祉関係者が集まる道外の研修会に参加したことがあるそうです。
「うちの施設にも持ち帰りたい発見があって、また頑張ろう!という活力にも繋がります。そして何より、行くだけで職員同士の交流が生まれるというのも嬉しいです!」と吉崎さん。
他にも、小学校に行って福祉の授業をして、車イスの動作を子どもたちに教えるという企画にもチャレンジ。
「様々な経験をさせてくれるからこそ、自信がついて、そしてやりがいにも繋がっていきました」
打ち合わせ風景
そんなフルーツ・シャトーよいち、最高齢でなんと83歳のスタッフの方が在籍!超ベテランの看護師さんです。今もバリバリ体を動かして働いています。入居者の方を始め、そのご家族にもたくさんの方々に頼られている、フルーツ・シャトーよいちに欠かせない存在と皆さん口々に話していました。
年齢を感じさせない働きっぷりの藤林さん(83)です!
余談ですが、職員は人間だけではありません。介護猫、と称して「ぶちこ」という猫も仲間の1匹。とあるお部屋でぬくぬくと過ごし、猫好きの入居者さんに大人気なんだとか。
おっと・・・目が合いましたね
余市で生きる、とは
福祉サービスの問題で余市に残りたくても家族がいる札幌へ移り住む・・・なんてこともよく聞く話。
「余市にいたいと思う人が、余市で暮らせるようにしていきたいです」と吉崎さんは語ります。
「住民から、『ここの施設が必要なんだ!』という熱意を感じることが多いです。それもあって、余市の人々に必要とされている仕事に就けていることを誇りに思います」
吉崎さんを始め、他の職員の方々もその想いは同じ。そんな余市のこの場所には、地元出身の職員以外にも吉崎さんのように札幌から就職する人もいれば、周辺小樽、倶知安から通勤する人、釧路や女満別から移住してきたスタッフ、出身が青森や新潟というスタッフも。北海道を始め、全国から「余市で働きたい」「ここの施設で働きたい」と集まってきたスタッフたちがいます。みんな「余市のために」と、この場所で、日々やりがいを感じながら働いているのです。
そんなスタッフたちが笑顔で待っている素敵な場所。困ったことが起きたら「とりあえずフルーツ・シャトーよいちに相談してみよう」そんな人たちが、きっとこれからも増え続けていくはず。余市の方々から必要とされるこの施設には、今日も愛が溢れています。
- 社会福祉法人よいち福祉会 フルーツ・シャトーよいち
- 住所
北海道余市郡 余市町黒川町19丁目1−2
- 電話
0135-22-5350