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利尻町

離島に都会的ビジネス感覚を持ち込んだ漁師。20170921

この記事は2017年9月21日に公開した情報です。

離島に都会的ビジネス感覚を持ち込んだ漁師。

利尻島と聞くと何を思い起こすでしょう。秀峰利尻富士や珍しい高山植物群などの観光スポットもさることながら、利尻昆布やウニなどの海産物の名を挙げた方も多いはず。食通をもうならせるこれらの海の恵みを捕り、全国へと送り届けているのが利尻の漁師たち。その一人、小坂善一さんに話を伺うことができました。

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両親の不慮の事故をきっかけにUターン。

小麦色に焼けた肌、厚い胸板に太い腕。漁師らしいがっしりした体つきだけれど、話しぶりも表情もやわらか。小坂さんはそんな人。
「生まれも育ちも利尻島です。実家は漁師でしたが、幼い時分から漁業に就く気はありませんでした」
天候に左右され、漁獲量に翻弄され、体を酷使する漁師の仕事。その仕事を継ぐより、自分に合った仕事がしたい。そんな思いから、札幌大学へ進学しました。
「大学生活で世界が広がった感じ。卒業後は経済学部で学んだノウハウを活かそうと、札幌の証券会社に就職しました。やりがいも刺激も大きな仕事でしたね」

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順風満帆なサラリーマン生活。そんな日々が三年半ほど続いたある日、思いもよらない訃報が届きます。
「両親が交通事故で亡くなってしまったんです。本当に突然のことでした」
慌ただしく過ぎていった葬儀や諸々の必要事。まもなく小坂さんが直面したのは、家業である漁業を自分で絶えさせていいのかという現実問題でした。
「漁師にならないと漁業権(漁をする権利)が消滅します。それは家業も実家も失うことを意味するんです。心底迷いましたが、やはりここは自分がやるしかないと」
大都会から故郷の利尻島へ。大きな決断を下したのは、小坂さんが26歳の時でした。

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古くからの産業だから改革の余地は無限。

小坂さんの父親が営んでいたのは、養殖のコンブ漁のほか、ウニ漁、ナマコ漁、カニやホッケの刺し網漁など。
「従業員やパートさんを雇用しながら漁業に取り組む、いわば家族経営の個人事業です」
知識も経験もゼロからのスタートのため、当初は苦労もしましたが、持ち前の負けん気を糧に、漁の腕前は日増しに向上。Uターンから一年が過ぎた頃には、ベテランと肩を並べるほどに成長します。
「夜中に出港したり、朝早く陸に戻ったり、シケ続きで長期休みになったり。時間の感覚が曖昧な漁師生活に慣れるのに苦労をしましたけどね」
その一方、小坂さんは『獲ったら獲っただけ実入りになる』という漁業の競争原理に心を奪われます。
「どうしたら効率よく漁業に取り組めるか、どうすれば売上が増えるかを考えました」

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利尻はウニ・コンブ漁が代表的。しかしその報酬だけでは有り難みが少ない。通年漁業を確立するための漁のスケジュールを組み立てたり、そのための設備や人材を確保したり。さらに水産加工を手掛けるなど、小坂さんは仕事の領域を広げていきます。
「悠久の時代から営まれていた産業だけに、挑戦できる場や現代的なビジネス感覚を活かせる機会は無限にあるんです」
つい最近も企業を設立し、利尻ブランドと自社ブランドを融合させた商品提供をスタート。小坂さんは、すでに首都圏などからのオーダーもいただいているんですと、と小さく胸を張ります。

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故郷の島で結婚、家庭も築いて。

利尻島に戻って今年で15年。その間、同じ利尻出身の奥さまと結婚。子どもも生まれました。
「もうすっかりこっちの人ですね」と笑う小坂さんですが、離島とはいえ東京から観光客がジェット旅客機で来るほどメジャーな島。社会的なインフラはもちろん、小中学校、スーパー、病院、コンビニなどの暮らしの基盤は一通りラインナップしており、不便さを感じることはほとんどないとか。
「さらに世の中はインターネット時代。島であっても情報から取り残されることはないんです」

rishiri_ryoushi_7.jpg小坂さんの奥様とお子様。

開かれた利尻の漁業に惹かれて若者たちも。

小坂さんの自宅前にある利尻昆布の加工場で働いていたのは佐藤夏惟さん。利尻の漁師を増やすべく、利尻漁協が開催した首都圏でのマッチングフェアで知り合った若者です。
「大学に通っている最中に、フェアの開催を知りました。利尻島は存在すら知らなかったけれど、都会ではできない経験をしたくて...思い切ってきちゃいました(笑)」

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他地域ではまず困難な漁業権の獲得も、利尻の場合は比較的スムーズ。加えてがんばった分の報酬を得られるのもこの島の漁業ならでは。
「今はチャレンジしてよかったと思っています。いずれは小坂さんのようなクレバーな漁師になりたいですね」
その言葉を小坂さんが継ぎます。
「自然の中で働けるだけでなく、実はさまざまな挑戦のチャンスがあるのも漁業の魅力。特に利尻や礼文のように新規参入者を歓迎している地域ならなおさらです」
自然相手のいにしえの産業から、時代とマッチした海のビジネスへ。進化する北海道の漁業を垣間見た取材でした。

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利尻島 漁師 小坂善一さん
住所

北海道利尻郡利尻町沓形字蘭泊124番地


離島に都会的ビジネス感覚を持ち込んだ漁師。

この記事は2017年8月8日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。