器用だけど何も大成させていない!?
廃校を活用した共同アトリエ「愛山ものづくりビレッジ」の一角。もともと職員室だった場所が、愛別町地域おこし協力隊のオフィスとして利用されています。部屋の中を覗いてみると、キレイに整えられたヒゲにハンチングハット姿のおしゃれな男性がパソコンと向き合っていました。中山省吾さん、48歳。愛別町地域おこし協力隊のメンバーです。
「僕は旭川出身。若いころはバンドブームが最高潮で、高校卒業後にプロのミュージシャンを目指そうと東京に飛び出しました。楽器屋さんでアルバイトをしながらバンドを組み、勝ち抜き戦でデビューを目指す『イカ天』というテレビ番組にも出たんですよ。今の若い人は知らないかな(笑)」
冒頭からインパクトの大きなお話。聞けば、周りの友人も次々とデビューが決まり、中山さんのバンドにも音楽事務所から声がかかったのだそうです。けれど、人気がなくなるやいなや契約を打ち切られた友人を目の当たりにしたこともあり、悩んだ末に旭川へUターンしたといいます。
「地元に戻ってからは音楽の経験を生かして音響の会社で働きました。BGMの機材セットを組んだり、お祭りのPA(音響拡声装置)オペレーションを担当したり。あとは、アメリカに行って大型バイクを買い付ける仕事もやりましたし、トラックに乗っていたこともありますし、いろんな経験をしました」
ア、アメリカ!?トラック!?中山さんは一体何者?
「自分で言うのも何なんですが、僕は器用なタイプ。大工仕事も、重機を動かして除雪するのもお手のもの。ただ、言い換えるとどれも極めていないというか、大成していないというか(笑)」
地域のおばあちゃんをバイクに乗せて買い物へ!
中山さんは人に雇われるよりも自ら道を切り開きたい起業家タイプ。運送屋さんを辞めて次の生き方を模索していた3年ほど前、移住を推進するホームページで愛別町が地域おこし協力隊を募集するという情報を見つけました。
「愛別町にはよく釣りに出かけていたので、自分にとってはなじみの深いまち。履歴書を出す前に『愛山ものづくりビレッジ』のオフィスを訪ねた時、ものづくりに向き合う人を見かけてココは面白そうだって直感が働きました。地域おこし協力隊は任期が2年(現在中山さんは3年に延長)。その間に自分の進むべき道を決め、このまちに役立つ事業を起こしてみたいという気持ちがフツフツと湧き上がってきました」
地域おこし協力隊として課せられたミッションは広報。中山さんは地元の情報を発信する地域新聞「あいTIME(タイム)」の編集やふるさと納税の返礼品の考案などに携わりました。けれど、それだけでは物足りないと、神社のお祭りで機材を運んだり、「愛山ものづくりフェス」の企画を区長に持ち込んだり、自発的にアクションを起こします。
「住民の方とはまず地域おこし協力隊として関わるものの、最終的にはやっぱり人と人とのお付き合い。最初は『よそ者』扱いだったけど、徐々に『まちの人』として見てくれるようになるのがうれしいんです。最近では地域のおばあちゃんを僕のバイクに乗せて買い物に行き、帰りにご自宅で夕飯をご馳走になったこともありましたね(笑)」
愛別に「滞在」する人を増やしたくて。
中山さんは2017年5月で地域おこし協力隊の任期を終えます。その後のプランはすでに固まっており、愛別町にカフェを開くのが夢なのだとか。看板メニューはアメリカ南部発祥の「ガンボ」というたくさんの野菜がとけ込んだスープに狙いを定めています。都会でもあまり見かけない珍しい料理で、愛別に人を呼び込もうと考えているのです。
「ガンボをベースに愛別特産のきのこや当麻のおくらなどを取り入れたオリジナルメニューを試作しているところです。役場や上川振興局の方に食べてもらったらかなり好評でした。ここ数年、愛山地区でも海外の観光客がバイクや自転車で旅する姿をよく見かけますが、周りには飲食店がありません。気軽に立ち寄ってお腹を満たすついでにまちのことを知ってもらえる場所をつくりたいんです」
いずれはカフェに加え、大雪山の登山客やスキー客が泊まれるゲストハウスをオープンさせるのが中山さんの最終目標。その中心に横たわっているのは、愛別に「滞在」する人を増やしたいという思いです。人のために、まちのためにパワフルに行動する中山さん。だから、地域の方々も協力を惜しまず、応援してくれるのだと思います。
- 愛別町地域おこし協力隊
- 住所
北海道上川郡愛別町字愛山325-1 旧愛山小学校
- 電話
01658-3-4074
- URL