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新ひだか町

昆布漁を伝える、昆布漁師。20161024

この記事は2016年10月24日に公開した情報です。

昆布漁を伝える、昆布漁師。

子どもや学生に出前授業を行う山口重信さん。

ダシにして良し、食べて良し。『万能昆布』として名高い日高昆布。学名はミツイシコンブというだけあり、名産地の一つはここ新ひだか町三石地区です。日高昆布のおいしさや価値はよくわかりますが、どのように漁が行われているかは「?」な方が多いはず。そんな疑問に地元漁師の山口重信さんが答えてくれました。

若手は力ずく。ベテランはスススッ!?

山口さんは刺し網や定置網、カゴ網など多彩な漁法を駆使する漁師。1年を通してスケソウダラやカレイ、キンキにホッケなどさまざまな魚介を漁獲しています。ただし、こと7月〜10月にかけては昆布漁師に早変わり。漁船ではなく磯舟に乗って、日高昆布と格闘しています。
「昆布漁といっても、操業できるのは天気が良くて海が凪いでいる日だけ。夏場のうち20日も漁に出られれば多いほうなんですよね。朝の5時前後に三石地区の昆布組合長が天候を判断し、白旗が上がって花火がドーンと鳴ったら操業OKの合図。一斉に磯舟が出発します」

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昆布漁師はまず岩場に磯舟を寄せ、先端がL字型になっている「カギ」を使って昆布をすくい上げます。そして昆布を手に絡ませて、一気に引き抜くのだとか。聞く分には簡単な気がするけれど、やっぱりコツがあるんですよね?
「そりゃあもう。若手は力ずくで引き抜くんですが、ベテランは波の力を利用してスススッて感じ。年齢も年齢なのに何で獲れるの?みたいな(笑)。それに昆布が途中で切れると商品にならないから、慎重さも必要なんですよ」

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口が悪くて大雑把で、だけど底抜けにやさしくて。

1回30〜40分の操業で水揚げされた昆布は、砂利を敷き詰めた「干場」に運びます。ここで「陸廻り(おかまわり)」さんと呼ばれる作業員がキビキビと天日干しを始め、昆布漁師は再び海に向かうのです。

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「4〜5時間で漁が終わってからは天日干しを手伝い、午後からはカットや昆布の束を縛る作業に移ります。他にも昆布の色つやや重さ、幅など基準に添って一本一本選別したり、寝かせておいたものを完全に乾燥させたり。とにかく日高昆布って手間ひまを存分にかけてようやくできあがるものなんです」

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苦労ばかりの気の遠くなるような作業。体力も根気も必要で、晩夏には海の冷たさも骨身にこたえるといいます。決してラクとはいえない仕事をどうして続けられるの?
「自分はもともと新ひだかの山のほうの出身。土木作業員だったんですが、妻の義父が漁師だったから、結婚を機にいきなり漁に出ることになりました。最初は船酔いもキツいし、生臭いし、大丈夫かな〜と不安でしたが、昆布や魚が獲れるのって単純にオモシロイんですよね。あと、漁師って口が悪くて大雑把で、だけど底抜けにやさしくて。いい昆布の場所を惜しげもなく教えてくれたり、『バーカ』とか言いながらもロープの縛り方を手ほどきしてくれたり(笑)。そんなコミュニケーションが楽しいんです」

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ご自身でも口にした「コミュニケーション」は山口さんの得意技。昆布漁の最盛期の夏は陸廻りさんも、農家のパートさんも人手が必要。時には知り合いのミニトマト農家と「ハウスがなければ昆布漁に人手を回せるのに」「いやいや、昆布漁がなければハウスにパートさんを呼べる」と冗談交じりにいい合うと笑います。人手不足はまちの課題。けれど、山口さんのような異業種とも仲良くコミュニケーションをとれる人材がいれば、いつか生産者同士の協力関係を築き上げて解決に乗り出せるような予感がしました。

漁師の子どもでさえ父の仕事が分からない!?

山口さんはひだか漁協青年部の副会長。7年ほど前、地元の若手漁師といっしょに、子どもたちに向けた出前授業を始めたいと話し合うようになりました。
「考えてみると、漁師の子どもでさえ父親が何をやっているのか分からないんじゃないかって。で、役場の水産林務課に出前授業をやってみたいと相談したら、すぐに窓口になってバックアップしてくれたんです」

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ひだか漁協青年部は自分たちで昆布漁の様子を撮影し、不慣れな編集作業にも一生懸命向き合ってビデオを制作。手弁当の教材を携えて、町内の小学校で出前授業を開いたところ反応は上々でした。
「地域の地道な活動だった出前授業が評判を呼び、町内の高校や札幌の大学からもオファーが舞い込むようになりました」と語るのは農林水産部水産林務課主幹の新川兼一さん。学校からの問い合わせ対応や出前授業の助成に奔走しています。

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出前授業を提案した山口さんご自身はどんな手応えを感じているのでしょうか?
「昆布漁の話は子どもや学生さんの食いつきが良いんです。今は後継者を育成するとか大きなことはいえないけれど、昆布漁を身近に感じてもらい、こんな仕事があるんだってことを知ってもらうきっかけになっていると思います。とはいえ、僕ら若手が出前授業を開けるよう、休みや沖に出るタイミングを調整してくれる漁協のベテランたちのやさしさが取り組みを支えてくれているんですよね」

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ひだか漁業協同組合三石支所
住所

北海道日高郡新ひだか町三石港町47番地1

電話

0146-33-2211

URL

http://www.jf-hidaka.jp/


昆布漁を伝える、昆布漁師。

この記事は2016年9月23日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。