「この白いもちみたいなのはなんだ?〇見大福?」
そう思われた方もいるのではないでしょうか?
実はこれは、もちでもアイスでもなく...かまぼこなんです!しかも、魚の「すり身」ではなく、「白子」を練ってつくられたかまぼこ。白子は北海道では「たつ(たち)」とよぶことから、通称「たつかま」とよばれる、北海道の隠れた名産品です。道産子の方でも「初めて聞いた!」という方も少なくないのではないでしょうか?
それもそのはず、たつかまは「幻のかまぼこ」ともよばれ、11〜2月の冬限定で販売される入手困難な一品です。期間限定といわれるとほしくなってしまうのが人の性。くらしごとチームもその例に漏れず、道内でも数少ないたつかまを作っている商店がある岩内町へ、人を呼び寄せるたつかまの魅力を探りにいきました。
レア商品続々!?店内から溢れる魅力
岩内町は、北海道の西海岸にある積丹半島西側の付け根に位置し、豊かな自然と美味しい海の幸が魅力の港町です。かつてはニシン漁で栄え、昭和期からはスケトウダラ漁でにぎわいました。また、岩内町には「〇〇発祥の地」の言葉がたくさんあるのをご存じでしょうか?アスパラガスや、水力発電、野生ホップも実は岩内町が発祥なんです!そして今回伺う商店も、道内で初めてたつかまを店舗として作り始めた発祥の地。そのお店がこちら、「ヤマシメイチ尾崎商店」。
岩内町のシンボル「岩内岳」の麓にあり、近年「日本海を眺めながら深雪パウダースノーを滑走できる」と話題を集める「IWANAI RESORT」から車で15分という好アクセス。アクティビティついでに寄ってみては?
創業1950年の老舗商店で、当初からたつかまを作り続けています。店内には他にも、カスベ(エイのこと)のひれや、くじらの脂身など、通常スーパーには並ばない激レア商品がたくさん!他にも、ほっけのすり身やアンコウの共和えなどお総菜も作って販売しています。おじゃましたのは12月頭でしたが、夏場でも鮮魚やお総菜を求めて買いにくる方が多くいらっしゃるそう。
これだけでも、他のコンビニ・スーパーとはひと味もふた味も違う品揃えですが、中でも一際目をひくのが、袋に赤字で「たつのかまぼこ」と書かれた商品。
ついに本日の、お目当て登場です。
袋の中には白く丸々としたたつかまが3個。
大きさはテニスボールより一回り小さいくらい。白子を仕入れた当日に製造されます。鮮度命の食べ物なので消費期限は5日間。お早めに!
たつかま販売シーズン真っ只中のお忙しい時期なので、早速お話を、、!と意気込んで店長のもとへ行くと、「話はあとでゆっくり聞くから、まずは食べてって〜!色々食べ方があるから。今日仕入れて作ったものだから新鮮だよ」と快く受け入れてくださるのみならず、たつかま料理をふるまってくださることに。出迎えてくれたのが店長の尾崎 修さんです。
こちらがヤマシメイチ尾崎商店 店長の尾崎 修さん
このままお話を伺いたい気持ちもありながら、あれよあれよと色んな種類のたつかま料理が目の前に並べられていきます。我慢できません。ごめんなさい!お言葉に甘えてお先にいただきます!
最初にいただいたのが、たつかまの刺身。スライスされたたつかまをそのままわさび醤油でいただきます。
...!
なんということでしょう。箸で持つともちもちしていますが、噛むとこりこりと歯ごたえが変わる新食感。
癖になりそう。味も適度に塩味がきいていて、白子のクリーミーな風味も感じられます。美味しすぎる...。
実際にいただいた、たつかまの刺身。箸が止まりません。作りたてほやほやで鮮度抜群!
尾崎さんお気に入りのメニューを聞くと「好きなのはやっぱり刺身かな。あとはお味噌汁に入れるのも美味しいよ」と教えてくれました。白子の食感や味が苦手な人でも、「たつかまなら大丈夫、むしろ好き!」と言ってくれるお客さんもいるそうです。夕食の1メニューとしても、日本酒などのお酒のお供としても、とても相性がよさそうです。他にも、天ぷらやフライ、おでんに入れるなど様々。最近ではアヒージョにして食べる方法もあるのだとか。自分の好きな料理で楽しめるのもたつかまの魅力の一つなんですね。
たつかまのバター焼き
たつかまの味噌汁
たつかまを無心でほおばるくらしごとチーム一同。そろそろ本題に戻らないとですね。とっても美味しかったです。ごちそうさまでした!
真冬の試練と、海を越え商店に集まる人びと
尾崎さんは、生まれも育ちも岩内町で、幼い頃から商店のお手伝いをしていたそう。先代のお父さんと一緒にたつかまを作りながら手順を覚えていったのだとか。本格的に商店の業務に携わるようになったのは高校卒業後。まだお店を引き継いでから日が浅かった頃のことをお聞きしました。
「たつかまをつくるのっていつも真冬でしょ?若いときはね、たつかまに使うたつを選ぶときに手で触るから、それが冷たくて冷たくて。慣れるまで大変でした。今はなんてことないけど、たつを仕入れるのに深夜近くに起きるのも最初は慣れなかったね」
原料のスケトウダラの白子。1ケース10kgで商店に届き、獲れる日は1日に80kgの白子をたつかまに加工するのだとか!
誰よりも早く起きて、その日に届く白子の状態を見極める尾崎さん。長年続けられている中でも、今の形になるまでには様々な苦労があったようです。
商店一筋に働かれているとのことで、おいくつなのか尋ねると「88。...冗談だよ!前に取材に来た人にも昭和3年生まれって言ったらそのままメモ書かれちゃった(笑)」とそのまま本当のご年齢は聞けずじまいになりましたが、なんとも茶目っ気溢れる店長さんです。
温かな人柄の尾崎さん目当てで商店に来られるお客さんも少なくないのではないでしょうか。実際、道内限らず全国各地からお客さんがたつかまをもとめて足を運んでくるそう。
「つい最近、富山から飛行機でたつかまを買うためだけに来て、とんぼ返りで帰ってった人もいたね。札幌からタクシーでたつかまを買いに来てくれた人もいました。
あとはね、僕電話受けなかったんだけど、京都の会社の人から電話が来て『課長がたつかま食べたいって言ってて、作ってるところも見てみたいから12月24日に岩内に行きます』って。これから来てくれるんですよ」
他にも沖縄の居酒屋から注文があったり、数年前には台湾から取材を受けたことも。そして今ではなんと年間約9万個のたつかまを従業員さん6人と総出でつくりあげるのだとか。2〜3年前からネットでの予約販売もスタートさせましたがすぐ予約枠が埋まってしまう日も多いらしく、直接お店に買いに来る人も多いそうです。
実は作り方は超シンプル!他とは違うおいしさの秘訣とは?
それほどの話題を集めるたつかまですが、尾崎さんによれば作り方はいたってシンプル。使う材料もスケトウダラの白子と、塩と、でんぷんのみ!商店の奥にある作業場におじゃまして、たつかまの作り方を聞きました。まとめると下の通りです。
1.届いた白子を大鍋で茹でる
2.茹でた白子を裏ごしして、臼に移し、塩とデンプンを加えてこねる
3.ひとまとまりになったら、手で大きさを調整しながらボール状に丸めて釜に入れる
4.ゆでた後は冷水に移し氷でしめれば完成
上記3の作業風景
茹でた後、ざるに上げて冷水にひたします
たつかまはもともと家庭料理として食べられていたので、家にあるものでできる簡単な作り方になっているんですね。尾崎さん曰く、作り方も創業当初からほとんど変わらないといいます。
「たつかまの作り方はネットにも載ってるし、原料のたつを買わせてもらってる取引先の人に『たつかまの作り方を教えてほしい』って言われて1,2回店に来てもらって教えたこともあるよ。だけど『尾崎さんのたつかまみたいな味付けにはどうしてもならない』って言うんです」
作る工程も材料も他と変わらないのであれば、他と差がつく決定的な違いはいったいどこにあるのでしょう。尾崎さんに、たつかまをつくる「こだわり」を深掘りして伺いました。
「味付けの決め手は塩の割合ですね。その日によって塩加減は変わってくるんだけど、届いたときのたつの状態だったり触ったときの柔らかさを見て決めてます。そして作る上で一番難しいのは、最初に生のたつをどれくらいの時間でゆでるか。その日の気温によっても微妙に違ってくるから、そこは感覚でやってるね」
味付けは少しの加減でがらりと変わってくるといいます。塩のみのシンプルな味付けだからこそ違いが際立ってくるのでしょう。
「うちんとこ意外とおいしいでしょ。他の所とは全然違うんですよ」
謙遜されながらも嬉しそうで、誇らしげな尾崎さん。たつかまの類をみないおいしさは、尾崎さんが長年かけて蓄積してきた「勘」や「こだわり」によって作り上げられ、人を呼び寄せる魅力となっていることがわかりました。
避けては通れない漁獲問題。入手困難で悩むのは商店も同じ
ですが、今でも尾崎さんを悩ませていることがあります。それは、ニュースでも目にすることが増えた漁獲減少です。原料のスケトウダラが年々獲れなくなってきていると。このままだと、たつかまの販売量も減らさざるを得ない状況なのだそうです。
「昔はね、延縄(はえなわ)でスケソウを獲ってたんです。スケソウを獲ってた岩内の漁船は200艘もいたんですよ。今は岩内で延縄で獲ってるのは1艘だけ。昔と比べると、獲れる量は半分以下になったね。今年は11月から漁にでてるんだけど、海が時化(しけ)ちゃってまだ2回しか出てないの。たつの入手が今困難なんです」
スケトウダラ。地域によっては「スケソウ」と呼ばれます
延縄漁とは、一本の長い縄(幹縄)に、針のついた多数の短い縄(幹縄)を一定間隔に取り付けた仕掛けで魚を獲る漁法のこと。スケトウダラの延縄漁は岩内町が発祥の地といわれています。発祥の地でありながら、現在岩内町のスケトウダラ漁船は1艘のみ...なんとも悲しいですね。
今は道内各地のスケトウダラが獲れる浜の漁師さんと連絡をとりあいながら、白子を集めているとのことで、11〜12月は白老町の虎杖浜、1月は道南の乙部町・江差町、2〜3月は羅臼町などから水揚げされるスケトウダラの白子を買っているそうです。
「おととしなんかはグッと獲れる量が減っちゃってね。漁に出れない日が多かったりで全然獲れなくて。いつもは11月から3月いっぱいまでやるんだけど、その年は2月のはじめで終わっちゃった。去年は3月10日ごろまでやれたけどね。その年になってみないとどれくらい作れるかわからないんです」
創業してから70年以上。たつかまを買う方が入手困難となっている今の状況の裏には、スケトウダラの水揚げ量が減り、原料の白子自体の入手が困難になっているという現状がありました。より多くの方にたつかまを届けられるよう、活路を見いだしながら尾崎さんは毎年のたつかま作りに挑んでいます。
たつかまの存在と味を次世代にも
最後に、今後のことについて尾崎さんに伺いました。現在、尾崎さんにはお二人の娘さんがいらっしゃいます。どちらも岩内町外で生活しているとのことで、特に跡継ぎのことは今のところ考えていないのだそう。
だけど、たつかまは続けていきたい。尾崎さんはそう言います。
「何歳まで続けたいとかはないけれど、体が動く間はやれるだけやりたいと思ってます。たいした技術じゃないんだけどさ。でも、この技術は他の人じゃ今できるひといないんだわ。『尾崎さんやめちゃったらすごく困る』ってみんなそうやって言ってくれるんだけどね」
岩内町の魅力発信のひとつとしても、尾崎商店さんは大きな役割を担っているのではないでしょうか。幻のかまぼこが本当に幻になってしまわないように、尾崎さんの次にたつかまを作りたいと手を上げてくれる人を見つける必要が今後でてくるかもしれません。尾崎さんはこう続けます。
「もし、たつかまの作り方を教えて欲しい、一緒にやりたいっていう人がいたらオッケーだよ!修行したいですっていう人がいたらぜひきてほしいですね」
こんなにお忙しい時期でも「いつでもまた来て良いよ!」と言ってくださり快くお話を聞かせてくださった尾崎さん。尾崎さんとともにたつかまの魅力を広げていってみたい、たつかまの作り方を知りたい、という方はぜひ尾崎商店にご一報を!
たつかまを食べてみたくなった方もぜひ岩内町に足を運んでみてはいかがでしょうか?
- ヤマシメイチ尾崎商店
- 住所
北海道岩内郡岩内町宮園251-8
- 電話
0135-62-0596
- URL
【営業時間】 6:30〜19:00/年中無休
(日曜日のみ6:30〜17:00)