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このまちのあの企業、あの製品
帯広市

「持続可能な森林」という宝を未来へつなぐ。三井物産フォレスト20240125

「持続可能な森林」という宝を未来へつなぐ。三井物産フォレスト

異常気象による災害など、環境問題に対して真剣に考える機会が増えました。森づくりに関わる林業は、二酸化炭素削減に大きな役割を果たす意義のある仕事として、若い人たちからも関心を集めています。今回、取材でおじゃまさせてもらったのは三井物産フォレスト株式会社の帯広山林事務所が管轄する森。三井物産フォレストは、三井物産の関係会社として、全国各地にある「三井物産の森」を管理しています。森の仕事場を見せていただきながら、所長に会社の概要などを教えていただき、さらに現場で頑張っている若手社員2人に林業を志した理由や仕事の面白さなどを伺いました。

林業再生と森林保全を両立させ、持続可能な森林づくりを実現

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まずは、三井物産フォレストがどのような会社なのかを同社北海道事業本部第二事業部帯広山林事務所の所長・齋藤昌史さんに伺いました。

「『三井物産の森』の管理は、2004年から三井物産フォレストが管理委託を受けています」

全国各地にある「三井物産の森」の中には、1世紀前から管理され、造林を続けている場所もあるそうです。

「北海道内は、十勝・池田町、本別町の十弗(とおふつ)、厚真町・むかわ町の似湾(にわん)、平取町の沙流(さる)の3カ所が旧三井物産が1911年に取得した森林として記録が残っています。管理がはじまってから110年以上になりますね。造林が始まったのはもう少しあとかもしれませんが、今は50年、60年経った木々を伐採して、それらを木質バイオマスや木製品に使って、また木を植えて...と循環型の林業を実践しています。受け継いだ森を未来へつなぐための持続可能な森林づくりですね」

* 法的には、旧三井物産と現在の三井物産には継続性はなく、まったく別個の企業体です。

森が持つ多様な機能を守り、適切に管理しながら、新しい価値創造も行うことで「持続可能な森林」を実現させている同社。脱炭素社会の実現はもちろん、経済的にも持続可能な森林経営を進めていくため、公益的機能を重視した森づくり、カーボンクレジットの取り扱い、多様な森林資源の活用を行っています。

カーボンクレジットとは、二酸化炭素の排出削減量を企業間で売買可能にする取り組みで、同社は「三井物産の森」が二酸化炭素を吸収することで発生するクレジット(国で発行しているJクレジット)の販売も行っています。

「持続可能な森林づくりのため、現場のわれわれは、人工林の木々を伐って、植えて、育ててという営みを50年、60年のサイクルで計画的に行っています。また、森林全体の成長量の範囲内で木を伐採することによって持続性を維持。ゾーニングといって、収穫するところと保護するところを区分けすることが、公益的な森林づくりになっているのかなと思います。林業再生と森林保全の両立ですね。そして、自分たちが持続可能な森林の管理をきちんとしていることを証明するため、森林認証も取得しています」

森林認証とは、持続可能な森林の利用と保護を図るために第三者機関が評価、認証する制度。同社が管理する「三井物産の森」は、SGEC(日本で発足した制度で2016年からは国際的な森林認証であるPEFCと相互承認)、FSC®(責任ある森林管理を推進する国際的な非営利組織)による認証を取得しています。

「総合商社ならではの森林管理の形を模索しながら、今の森林経営ができ上がってきていると思います。これからも所有者である三井物産と連携をしながら、未来に豊かな森を残すため、自分たちだからこそできる森の新しい価値を築いていくことが大事かなと思っています」

カラマツが多い十勝の森。フィールドワークを大事にしたい

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齋藤所長はもともと静岡県の三島市出身。高校まで三島で過ごし、大学で林業を学び、同社の前身である三井物産林業に入社したそう。初任地は平取町で、その後東京、平取と転勤を経て、今年から帯広へ。


「就職してからはほとんど北海道ですが、平取が結構長くて、地元の野球チームに入っていたこともあり、友達もたくさんいて楽しく過ごしていました。帯広はまだ来たばかりなので、これから十勝での暮らしをいろいろ楽しめたらと思います」

同社が管理している十勝エリアの森林は、カラマツ林が多くあるそうで、「カラマツをうまく循環させていけたらいいなと考えています」と齋藤所長。「そうだ、せっかくなので石井山林を案内します。十勝でも一、二を争うくらい太くて立派なカラマツがあるんです」とニッコリ。管理職になってから事務所での仕事が増えたそうですが、できれば「いつも山の様子を見に行きたいタイプなんです。現場を見ないと分からないことが多いですから」と話し、本当に森が好きなのだなというのが伝わってきます。

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齋藤所長が案内してくれた「石井山林」は、2011年に新たに「三井物産の森」に加わった山林ですが、歴史はとても長く、北海道にある「三井物産の森」のカラマツ人工林の中では最古の1926年植栽のカラマツの大木があります。

「石井山林」は前所有者の石井氏が自然と調和した森林施業を実践してつくりあげた多様性に富んだ貴重な森林で、同社もその管理方針を引き継いでいます。

針葉樹と広葉樹が混ざりあった森林は生物多様性に富んでおり、「とても珍しく貴重な山林として、林業関係者も見学に訪れるくらいなんですよ」と齋藤所長が教えてくれました。

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スケールが大きく、すぐに正解は出ない。でもそれが面白さでもある

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さて次に、この春入社した期待の若手2人にお話を伺うことに。まずは、女性スタッフの五十嵐詩織さんから。秋田出身の五十嵐さんは、大学進学で北海道へ来たそう。

「野生動物に興味があって、農学系の大学で野生動物の生態などを学んでいました。そのうち、フィールドワークで山の中に入ることが増え、次第に森林に興味を持つように。大学院の修士課程を経て、三井物産フォレストに入社しました」

「山のことを知るには、まずは現場を見ることが大事」という齋藤所長の方針で、入社してからほぼ毎日現場に出ているという五十嵐さん。

「一番近くても帯広の事務所から車で約1時間。遠いところだと釧路のほうまで行くので、2時間近く運転します。しかも普段運転する車ではなく、大きな四輪駆動車で山道を進むので、今でもちょっと緊張します」と話します。

五十嵐さんが担当している仕事は、現場の作業の進捗や補助金申請する現場がきちんと行われているかなどの確認、森林内の木の数を調べる標準地調査、測量など。

「もともと林業系の学校で学んできたわけではないので、現場に出ても専門用語など分からないことだらけ。最初は用語を覚えるのに必死でした」と笑います。それでも、ハキハキした受け答えから充実している感じが伝わってきます。

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「そこに伐り出した木があるのですが...」と、木が積み重なっているところを指す五十嵐さん。
「これを『椪(はい)』と呼びます。これらをトラックで運ぶ際にどれくらいの量があるかという情報が必要になるため、はいの木の太さや長さを記録する『山受(やまうけ)』という仕事も担当しています」と説明。

取材班に分かりやすく話してくれる様子から、最初は分からなかったという専門用語もすでにマスターしているように見受けられます。

十勝といえば、モール温泉。車に風呂道具を積んでいるという五十嵐さん、仕事終わりにお気に入りの温泉へ寄ってリフレッシュするそう。また、十勝は地元の秋田に似ている雰囲気があって気に入っているとも話します。

仕事の魅力について尋ねると、「50年、60年先に目を向けて、木を植え、森を育てていくというのはスケールが大きくて、面白いなと思います。ただ、将来こうなるだろうという予測はできますが、すぐに結果を見ることができないので、正解が分からないのもこの仕事ならではの面白さの一つなのかなと感じています」という回答が。そして、「将来的には自分が学んできた森の生態や生物多様性のことを現場で生かせるようになりたいと思っています」と意気込みも語ってくれました。

自然が好きで林業の道へ。技術を向上させ、森林づくりに役立てたい

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五十嵐さんの次は、同じくこの春に入社した若松翔さんに登場してもらいました。若松さんは枝幸町出身。高校卒業後、旭川にある道立北の森づくり専門学院(北森カレッジ)へ進み、卒業後三井物産フォレストに入社しました。


「高校時代、進路に悩んでいたとき、ずっと陸上をやっていたこともあって、体を動かす仕事に就きたいと考えていました。ちょうど高校の企業説明会で、林業の話を聞いてから林業に興味を持ちました。自然も好きだし、体も動かすし、林業は自分に向いているような気がして、林業について学びたいと考えていたら、学校の先生から北森カレッジを紹介してもらって、入学することにしました」

若松さんが北森カレッジへ入学すると同時に家族も枝幸から旭川へ移住。若松さんは家族と暮らしながら、北森カレッジで林業の基礎をしっかり学びました。技術的なことはもちろん、業界の成り立ちや仕組みなども学んだそう。

「就職先の候補には森林組合もありましたが、自分は造林をやっている企業、植えるところからはじめて、育てて伐るところまで一貫して行うところで働きたいと思いました。それで、インターンシップで2回お世話になった三井物産フォレストが、仕事内容も待遇面も自分の希望に合っていたので入社を決めました」

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若松さんの仕事は、苗木を植え、生育させるために木の周りの下草を刈る作業、 育った木の伐採など。機械に乗って木を運ぶこともあれば、チェーンソーで伐倒するなど、さまざまな作業を日々行います。苗木の植え付け作業は筋肉痛になって思っていた以上にきつかったと笑い、一方で、好きな作業はチェーンソーの伐倒と話します。キレイに倒れたときがすごく嬉しいのだそう。

「北森カレッジでひと通り基礎を学んできたので、現場に出てもわりとすんなりと作業に参加できたと思います。とはいえ、使っている機械が違うなど、分からないことももちろんあって...。でも、先輩たちがやさしく教えてくれるので特に不安はありません」

現在、旭川の家族と離れ、初めての一人暮らしをしている若松さん。慣れない家事に悪戦苦闘していると言うものの、「仕事も充実しているし、休みの日もカラオケに行くなど、楽しんでいます」と十勝での暮らしを満喫しているようです。

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これからの目標を尋ねると、「技術面をもっと向上させたいです。先輩たちが教えてくれることをしっかり取り入れながら、どんどん現場で経験を積んで、仕事を覚えていきたいです。早く一人前の作業者になって、効率良く仕事をこなし、会社に貢献できるようになりたいですね」と最後に語ってくれました。

未来へ続く「持続可能な森林」を目指し、それぞれの技術で活躍する三井物産フォレストの仲間たち。彼らがいま取り組む仕事はこの先50年後、100年後へとつながっていくのです。

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三井物産フォレスト株式会社 北海道事業本部 第二事業部 帯広山林事務所
住所

北海道帯広市東4条南12丁目20番


「持続可能な森林」という宝を未来へつなぐ。三井物産フォレスト

この記事は2023年10月12日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。