北海道の道央圏にある空知エリア。札幌にもほどよく近い場所です。その中核都市ともいえる岩見沢市と三笠市に、すごい建設会社があるよ!との情報をキャッチし、取材にうかがいました。
何がすごいのか、どうしてこれほど業界やお客様の声から評判がいいのか、それを紐解いていきます。
取材におじゃました際に、スタッフのみなさんに大変ご協力をいただき、たくさんの社員のみなさんの笑顔と仕事の雰囲気も併せて公開させていただきます。
大工の技術が何よりの要(かなめ)。大工を雇い、育てる理由。
武部建設は昭和21年の創業で、造材業(木を伐採し丸太を生産する)と製材業(丸太を挽いて柱や板に加工する)から始まりました。
その後建設業へと移行していきますが、木へのこだわりは一貫して持ち続け、主に道産材や国産材をつかった木造住宅を手がけています。
そんな武部建設がまず大切にしていることは、「大工を育てること」です。
「武部建設としてきちんとものづくりをして、特徴ある建物をつくっていきたい。そのためには現場の大工の高い技術力がとても大切なんです」
そう話してくれたのは、代表取締役社長の武部豊樹さん。
武部建設には大工職のスタッフが18名いて、住宅から非住宅に至るまで、全ての物件を自社の大工が手がけています。実はこれはとても珍しいこと。
現在の建築業界では、設計士は正社員として雇われても、大工は外注に頼ることがほとんどで、社員採用されることは少ないのが現実。なぜなら、お客様の依頼で仕事の量が左右される建築業界では、業務量を一定に調整することが難しく、技能職である大工を雇うことは会社の経営的なリスクになるからです。
しかし武部さんはこの建築業界の構造自体を変えたいと考え、自社で大工を雇い、育て、技術を向上させることにも力を入れています。
「現在の木造建築は、住宅から高層ビルまでとても幅広く、大工の仕事は多岐に渡ります。ひとつ一つの仕事に臨機応変に適応できる大工は、大工技能の基本中の基本である墨付けと手刻みができなきゃいけない。それができる大工をうちは育てているんです」
墨付けは、大工が加工する木材に墨で印を入れること。手刻みとは、ノコギリやノミ、カンナなどの道具を使って大工が手作業で木材を加工すること。木の特性を理解し、適材適所につかえる知識と経験があってこその技術です。
これらの技術は、世界遺産の法隆寺を見てもわかるように、1000年以上前から確立されている日本の伝統技術だと武部さんは言います。
「精度の高い加工をするための技術体系が、日本にははるか昔から確立されている。この伝統的な技術でものづくりができる大工は、頭で理解するだけじゃだめ。『身につける』んです」
現在の木造建築の90%以上が、あらかじめ工場の機械で木材を加工しておくプレカットで建てられている中で、墨付け・手刻みができる大工は少なくなっています。
しかし武部建設では3年間の見習い期間を設けて、しっかりとこの技術体系を受け継いでいこうとしているのです。
「大事なのは大工が現場で自分で判断できること。特に日本の伝統的な在来軸組工法の改修現場では、マニュアル通りにいかないことがほとんど。ここにはこれが必要なんじゃないか、これだと壁内結露を起こしてしまうんじゃないか、自分で考えて現場で自己判断できる大工を育てています。そのために3年間の見習い期間で、現場でのOJTを何回も何回も繰り返す。とにかく反復して、自分で考えさせるようにしています」
武部さんは大工を育てるために、さまざまな取り組みを行ってきましたが、その経験や実体験を通じて「見習大工心得」というのを掲げて育成を進めています。ただ家を建てるための工法を学ぶということではなく、日本古来から伝わる伝統の美や技を習得していくための姿勢を身につけられるように、そして人としての成長のことも考えています。
「修行」や「見習」と聞くと、現代の人には少しネガティブに捉えてしまうこともあるかもしれません。しかし、私たちが「まだまだ修行中です」と話す見習大工のみなさんの表情をみると、辛くキツイ環境に耐えているという印象は全く持ちません。むしろ笑顔で楽しそうに、自らの仕事に誇りや学ぶことの喜びを感じているという雰囲気。教える側にも「教えすぎない」「見守る」「育つための環境と機会をつくる」という3箇条があり、その双方の心得が上手くかみ合っているように見えました。
詳しくはホームページにも書かれており、その想いはきっとこれから大工になってみたいという人たちにも伝わる内容になっていると思いますので、そちらもご覧下さい。
こうして育て上げられた腕の良い大工がいるからこそ、武部建設は新築だけではなく、耐震や省エネの改修工事、古民家再生も得意としています。
「新築はある程度、予定通りに進んでいくけれど、改修はそうはいかない。うちは30年ほど前から研究機関と連携して、北海道の気候に合う省エネ技術、断熱気密工法の確立に努力してきましたが、その論理的な部分を大工が理解していないと改修はできません。古民家再生も同様で、伝統的な木組み工法ができないと、古い民家を再生させることはできません。北海道で古民家再生にも力を入れているのはうちの強み。大工の見る目や技術をちゃんと育てているからこそ自信を持ってできるんです」
武部さんは道内の先進的工務店仲間と共に北海道ビルダーズ協会を立ち上げて、業界全体での若手大工の育成や、大工の社員化を含めた雇用安定に向けた取組みを進めています。
大工の高齢化と後継者不足が深刻になっている昨今、大工の安定した働き方を確立させ、育成し技術向上を図ることは、武部さんにとっても、建築業界にとっても、差し迫った重大ミッションです。
「棟梁になれるほどの腕をもった大工を育てるのには、相当な時間がかかります。既存の職業の60%はロボットの発展に伴って新しい職業と入れ替わっていくと言われている今、これだけ時間をかけて大工を育成する意味はあるのか、という声もあります。でも、現場で状況を判断する頭脳と目、その判断を正確に反映できる手足をもった大工が必要のない木造建築の世界は、私には考えられません」
古くからの伝統を大切に受け継ぎながら、時代に沿ったアップデートを続け、先の未来も見据える。
この信念があるからこそ成り立つ確かな大工の技術と家の性能が、武部建設にしかできないものづくりを力強く支えているのです。
山も知り、守り育てる。大工だからこそできること。
元々は造材業と製材業からはじまった武部建設は、地元・北海道産の木材をつかうことも大切にしています。
武部建設は社有林も持っていて、そこから出した木材をつかうこともあります。
そしてなんと、社有林から木を伐採してくるのは武部建設の大工のみなさんなのだそう!
「社有林には大工がチェンソーを持って入ります。大工自ら伐る木を選んで、伐倒して、作業場まで運んでくる。そして自分で皮を剥き、墨を入れ、手刻みし、建物を建てる。山に木が生えている状態から関わるから、より一層その建物に『自分が建てたんだ』という責任感と愛着が湧くんです」
社有林から伐り出されたカラマツ丸太。これからワイナリーの柱になります。
山で木を伐る林業と、その木を加工する製材業、さらに加工した木をつかって建物を建てる建築業は、それぞれ川上、川中、川下とも例えられますが、同じ木を扱っていながらも各業界が専門化され、分断されているのが一般的です。
それゆえ、川上にあたる林業の人は山に生えている木の種類は分かるけど製材された木材はよく分からない、川下にあたる大工は木材だと分かるけど山に生えている木は分からない、なんてことは当たり前だったりします。
「うちの大工は川上から川下まで、全部できるようにしたいんです。山の現場も知っているから、この木がどこから来たのか、なぜこの部分につかわれるのか、ストーリーを全て説明できる。素材のストーリーを語れて、さらにそれを活かす知識と技術も持っている。この両輪が揃っているから、他の大工にはできないものづくりができるんです」
武部建設では、お客様も一緒に山に入り、自分の家でつかわれる木を伐るところから見てもらう機会もつくっています。
「お客様を『説得』するのではなく、心から『納得』してもらうことが大事だから、こうして実際に見てもらうのが一番なんです」と武部さんは言います。
私たちくらしごと編集部も、社有林から大工さんが伐り出してきた丸太(とても丁寧に皮が剥かれていてとても美しい!)や、事務所敷地内のモデル住宅、移築再生された古民家などをじっくり見せていただいたのですが、そこでは大工の確かな技術、山に向けるまなざし、建物に込める熱い思いがひしひしと感じられて、納得以上のものを得られるお客様の気持ちがよく分かりました。
ベテランの棟梁大工 岩本さん
最近は住宅だけでなく、非住宅の仕事も増えている武部建設。
特に最近道内で増えてきている木造のワイナリーを、何棟も武部建設が手がけているのだとか。
「納得できる」ストーリーのあるものづくりをしているからこそ、武部建設の建てる建物は、ワインのようなストーリーあるものとの相性も抜群なのでしょう。
女性大工の柳原さん
さらに武部さんがストーリーを語れる大工にこだわるのには、もうひとつ理由があります。
「日本の森林を永続させていくために、木に携わる川上から川中、川下の関係者で会議が開催されたりしますけど、川筋だけで話しても課題解決はできません。川がどこに流れていくかといえば、海です。海とは市場であり、木をつかうお客様です。そして海であるお客様とダイレクトに話すことができるのは、川下である工務店の我々。だからこそ、心ある川上・川中の人たちの思いをきちんとお客様に伝えて、価値をしっかり受け取ってもらうのも、川下である我々の大事な役割なんです」
川下にいる者として、高い技術力の裏付けでもってお客様に木の価値を届け、その利益を山に還元し、森林を守り育てていく。
大工を育てることから、山を育てるところまで、広い視野をもって仕事をしているからこそ、技術、性能、ストーリーが合わさった、武部建設にしかできない家づくりができるのでしょう。
それでは次は、実際に武部建設で成長中のフレッシュなお二人にも、お話を伺っていきます。
技術を磨くことが自信になる。若手が担う大工の未来。
まず1人目は、武部建設で大工として働く有ノ木 巧さんです。有ノ木さんは江別市出身の24歳。札幌高等技術専門学院の建築技術科で大工になるための基礎を2年間学び、武部建設に入社。現在は入社5年目になります。
小さい頃からお父さんと日曜大工をしていた有ノ木さん。ものづくりが好きで、気づけば自然と大工を志すようになっていたと言います。就職先に武部建設を選んだのも、やはり自分の手でものづくりができる環境に魅力を感じたから。
「学生時代に武部建設の会社見学をした時に、活気ある雰囲気と、プレカットではなく手刻みで建て方をしている現場に惹かれました。僕は自分の手でものをつくるのが好きなので、自分がやりたい仕事はこれだなと思って」
現在の建築現場はプレカット工法がほとんどを占め、大工の仕事はプレカットされた木材を現場で組み立てていくだけ、という現場なのは武部さんのお話しの通り。
しかし伝統工法での木造にこだわる武部建設では、墨付け・手刻みという大工の技術を、現場での経験を通してみっちり学ぶことができることが、有ノ木さんにとって大きな魅力だったのです。
「頭をつかって悩んで、それがぴったり計算通りにハマった時や、前回ミスしたところを反省して次にできるようになった時は、少しずつでも実力をつけられているのかな、と実感できる。そういうところにやりがいを感じます。もちろん楽しいことばかりではないけれど、好きなことなのでやっぱり楽しいです(笑)」
そう笑顔で話してくれた有ノ木さん。
「何回も反復し、自分で考えさせる」という武部建設の教育が、しっかりと若手の技術向上に活きているようです。
現在5年目の有ノ木さんは、3年間の見習い期間を終え、今はとにかく経験を積み上げている最中。
「第一目標は、やはり親方になることです。武部建設は特に見習い期間を長めに設けているので、人によりますが早くても7〜8年くらいは修行が必要だと思います。見習い期間を終えると、『ここは任せた』と任せられる部分も増えるので、プレッシャーも感じつつ、親方を目指して技術を磨いているところです」
すでに後輩が5人ほどいるという有ノ木さん。
「僕はかんなを研いだりする研ぎものが得意なので、その分野のことで聞かれたらなんでも答えられるようにはしています」と、頼もしい先輩ぶりです。
「たとえばこれから技術が進歩して3Dプリンターとかで家を建てるようになっても、腕のある職人は生き残れると思っています。手を使う現場で職人の技術を磨けていることは、自分の自信にもなっています」
武部社長の「大工を育てたい」という熱い思いは、若手にもしっかりと伝わっているよう。
丸1日屋外で働く大工の仕事は、体力的、気候的に厳しい面もあるけれど、それでも続けられるのは、大工の仕事が好きだから。
そう話してくれた有ノ木さんの笑顔を見ると、大工のこれからの未来がとても明るいものに感じられました。
ここでしか学べないことがある。武部建設を選んだ理由。
最後にお話を伺ったのは、事務所スタッフの遠藤 礼奈さん。神奈川県鎌倉市の出身で、現在31歳。結婚を機に北海道へ移住し、武部建設に就職して2年目になります。
山と海に囲まれた自然豊かな鎌倉市で育った遠藤さんは、小学生くらいの頃から環境問題に興味を持ち始め、北海道大学へ進学。工学部環境社会工学科で地球環境全般について学びました。そして大学卒業後は、東京で公務員として働きます。
ずっと環境分野の道を進んできた遠藤さんですが、意外にもこの役所での仕事が、建築の世界に興味をもつきっかけとなりました。
「役所では、下水道の部署に5年間勤めました。下水道管の設計や管理をしていたんですけど、そこで設計ってすごく楽しいなということに気づいて......。とはいえ下水道の設計がやりたいわけではなくて(笑)、じゃあ何の設計がしたいかなと考えた時に、自然や木が好きだから木造建築の設計がしたいなと、転職を考えるようになりました」
そうして転職を考えていた折、結婚が決まった遠藤さん。旦那様も同じ北海道大学出身だったこともあり、都会よりも自然に囲まれたところに住みたいと、2人で北海道に移住することを決めました。
北海道に戻った遠藤さんは、「いきなり建築分野に就職するのも不安だし、5年間働いてちょっと休みたいなという気持ちもあって」と、青山建築デザイン・医療事務専門学校に入学し、2年間建築を学びます。
そして専門学校を卒業後、遠藤さんが就職先として選んだのが武部建設でした。
現在も札幌市に住み続け、岩見沢市の事務所に通勤している遠藤さん。札幌市内にも建築関係の企業は数多くあるはずなのに、なぜ武部建設を選んだのでしょうか?
「木造建築の設計がしたいという思いがあったので、がっつり木を取り扱っている会社に就職したかったんです。社有林も持っていて、ここまで木造建築にこだわっている会社は、武部建設しかないと感じました。もうここまできたら通勤のしやすさとかで妥協するのはやめて、本当に自分のやりたいことを一番に考えようと思って」
由仁町にあった古民家を移築再生した民家再生モデル住宅
武部建設では設計も現場管理も全て自社で行うため、1年目は先輩について現場に行くことも多かったそう。2年目となった最近では設計もやらせてもらえるようになりました。
「設計はもちろん、現場にも行けるのは工務店ならではかもしれません。設計だけではなく現場も知らなきゃという想いは公務員の時から持っていたので、現場の近さを感じられる環境は自分にすごく合っていますね」と笑顔で話します。
また、自然環境への関心から木や木造建築に興味を持ち始めた遠藤さんにとっては、武部建設の森林を守り育てるという姿勢にも強く惹かれているそうです。
「武部建設は道産材や国産材を優先的に使うようにしていて、脱炭素の課題にも真剣に取り組んでいます。元々は私自身もそういう環境保全の分野に興味があったので、会社が目指すビジョンには強く共感できるんです」
現在は建築士の資格取得に向けて猛勉強中の遠藤さん。日々の仕事との両立はなかなか大変そうですが、都会とは違う生活環境に満足もしているそう。
「特に雪が多い冬の通勤はとても大変ですけど(笑)、夏は景色も綺麗で気持ちがいい。現場で疲れても、帰りに車で景色が綺麗なところを通ると癒されたり。東京だとただ疲れて帰るだけでしたから、この環境を選んだのは正解だと感じます」
最後に、今後の目標についても話してくれました。
「まずは建築士の資格取得が一番ですが、木に詳しい武部建設だからこそできる設計を勉強していきたいですね。古民家再生にも携わっていきたいです。『ここでしか学べないことがある』と思って、武部建設に就職しましたから。ここで取り組んでいることはかなり特徴的で、他ではできないことばかりですし、大工さんの技術を間近で見ることもできます。木造建築に本気で取り組みたいなら、武部建設だと私は思っています」
森をつくり、技術を守り、人を育てることが、未来につながる
多目的ホール「結ホール」
武部建設の3人のお話しはいかがだったでしょうか。
「建設会社」って世の中にたくさんありますが、その1つひとつに違いがあり、想いやこだわりがあることがわかったのではないでしょうか。
技術の高い会社と聞くと、職人気質のなんだかちょっと怖そうな先輩がいて、厳しそう...と思われる方も多いかと思いますが、取材中、社員の誰にお会いしてもニコニコでとても優しく接してくれました。
「木が好き」という人は世の中にいっぱいいるのですが、家を建てる仕事に関わりたい、大工になりたいと考える子どもたちは減ってきています。自然との共生を考え、こんなこだわりや信念を持って、楽しく格好良く働く大人たちを見て、自分もそうなりたい!と思ってくれるような人が増えることを願うばかりです。
最後に、お話しはうかがえませんでしたが、武部建設を支える社員みなさんの写真ギャラリーです。何も言葉にしなくても、素敵な会社だということが、ヒシヒシと伝わりました。
札幌工業高校出身の水谷優斗さん(見習大工2年目)
佐渡の伝統文化と環境福祉の専門学校出身の佐藤聖悟さん(見習大工2年目)
岩見沢農業高校森林科学科卒の松本剛尚さん(見習大工3年目)
北海道大学森林科学科卒の柳原万智子さん(6年目の女性大工)
親方の吉野棟梁と水谷さん
各物件の統括管理をしている武部常務
- 武部建設株式会社
- 住所
北海道岩見沢市五条東18丁目31
- 電話
0126-22-2202
- URL
三笠事務所:北海道三笠市萱野219